[本編完結]死を選ぶ程運命から逃げた先に

小葉石

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 夢を見る。

 いつも同じってわけじゃない、だけど見る内容はみんな同じで、一言で言えば胸糞だけがただただ悪くて…目が覚めた後は決まって眠れなくなる……



「楓!ねぇって、楓!!」

 学校からの帰り道、いつものように蒼梧とぶらぶら帰っていると、声と同時に背中にバンっと一発叩かれた。

「いって……みそぇ、おまえな……」


(顔を見なくても声でわかるさ。双子の片割れ妹だからな。)


「さっきから声かけてるんだよ?なのにぼ~~っとしちゃってさぁ…!」

「あ?仕方ねぇだろ?ねみぃんだって…」


(とっとと帰って寝たいんだよ。)


「もう、パパとママから!早く帰ってくるから外食しようって!どうせ楓メール見てないでしょ?」

「あ…?」

 言われてみれば今日は一度も携帯に触ってさえいないかもしれない。

「ほら、やっぱりだ!私が追いかけてこなくちゃ楓今晩ご飯なかったんだからね?」

「いや、あるだろう。家に帰れば残り物でも何でもさ。なんならチャーハンくらい作れるぞ?」

 周りの家も同じようなもので我が家も共働きである。だから小さい頃からみそえと一緒に色々と身につけて来たつもりではある。

「だーめ!もう予約しちゃったんだって!あ、蒼梧もくる?増やしてもらおうか?」

 最早幼馴染というよりも至極近しい親戚のような関係なので、小さい頃から蒼梧の家とは当たり前のような家族同士の付き合いだ。

「いーや、やめとく。俺、みきん家行くわ。」

 相変わらずにヘラヘラした奴だ。ヒラヒラと手を振ってそのまま女友達の家に直行ですか?

「…蒼梧、相変わらずだね~…楓は?」

「あ?」

「ほら!楓だって髪上げちゃえばきっといい男なんだから、なんで隠すかなぁ?」

 グイグイと遠慮もなく人の髪を後ろへ撫でつけてくるみそえを鬱陶しそうに片手で抑える。

「で?店どこ?」

「ん~~もう!ほら、新しくできたイタリアン!」

 街と呼べるほど大きくなったこの地域。学校も病院も大型マンションだってある。昔ながらの住民はみんな神社の守りのおかげだって信じてやまない。こんな地域にいるんだから抜け出さない限り、従わなくてはいけなくなる事もあるんだ…

「おぅ…」

「ほら、早く早く!お腹減ったぁ~~~」

 急かされるだけ急かされながら両親の待つレストランへと歩いて行った。



「いらっしゃいませ~!フェリーチェへようこそ!!」

「……明る……」

 新装開店で真新しいヨーロピアン調のレストラン。一歩入れば明るい店員の声が飛んでくる。どの店員も笑顔で接客態度は満点のアットホームな感じの店だ。

「うゎ…明るいねぇ。」

 店員は勿論のこと、開店当初というだけあってか飾れている花々の色とりどりさも相まって明るさも満点のレストランだ。

「2名様ですか?」

 ニコニコの店員が話しかけてくる。

「…いえ、待ち合わせを…」

「あ!ここ!ここよ!楓ちゃん、みーちゃん!」

 こちらが最後まで伝える前に、両親の方がこっちを見つけて来た。

 
(恥ずかしい………)


「…なぁ、それ止めろよ…」


(この歳になっても楓ちゃんはヤバい…)


「あら、良いじゃない?いくつになっても子供は子供!ほら、お座りなさいな!」

 親というものは自分の店でもないんだろうに席を進めてくる。

「さ、どれにする?」

 母とみそえはさっそくメニューチェックだ。

「お疲れさん…」

 のんびりとお冷やを飲みながら父が言う。

「おぅ。」

 男連中はおすすめコースの中から肉料理、女連中はまだ迷い中。こんな時、どうしてこんなに悩むのか少し不思議ではある。食べたい物食べれば良いのにってさ。

「いらっしゃいませ。フェリーチェへようこそ。ご注文はお決まりですか?」

 低い男の店員の声がして、後もう少しと告げようとしてお、と声が詰まった。

「……え?山手君…?」

 そこにいたのは教室で分かれた同級生山手だった。雰囲気が違うのは、メガネを外して髪を少し後ろに整えて…と少し男っぷりが上がっているからだろう。

「あ、やっぱり宝利君だった。似ているからそうかな、とは思ったんだけど…」

 教室ではおどおどしている様な草食系の山手が笑顔で接客している。

「うわ、レアキャラ発見…」

「え、だあれ?」

 話している俺達に気が付いたのかみそえも話に入って来た。

「ほら、俺と、同じクラスの山手君。」

「ん~~と……もしかして、途中入学してきた子?」

「あ、そうです……よろしく…」

 
(やっぱり女子と話す時は少し声が小さくなってんの。)
 

 山手は大学までエスカレーター式の俺達の私立校に途中入学して来た珍しいパターンのやつ。かなり勉強はできるらしいけど、苦学生と聞いた事もある。
 

「ここでバイト?」

「実は、ここ、遠縁の店なんだ。だから優先的にバイト入れてもらってる。」

「ふ~~ん。苦学生って本当だったんだな?」

 私立なんで、それもエスカレーター式の学校だから学費だってそれなりに高い。自分でいかばかりか稼いで生活費に当てようって結構凄いことをしている奴だ。

「まぁ、ね。それで、お母さん達メニュー悩んでる様でしたら、こちらの欲張りセットいかがです?」

 期間限定のセットの内容が選べる内容で、それなりのお値段は張る。


 この日は山手が売り込み上手だということも良くわかった日だった。












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