[本編完結]死を選ぶ程運命から逃げた先に

小葉石

文字の大きさ
上 下
1 / 46

1

しおりを挟む
 ガタッ……ン…

「はっ……」

 自分の身体の揺れで机を揺らし、その音で目が覚める。寝ぼけた頭で周りを見渡せば、今は昼休みでここはガヤガヤと賑やかな教室の自分の席で、見慣れたいつもの景色だった。

「お~~楓、どしたー?」

 間が伸びたような声をかけてきたのは、同じ私立高校に通う俺の幼馴染の桐矢蒼梧(きりやそうご)。こいつはゲームをしながら目線も上げずに声だけかけてくる。

「…夢、見てた……」

 何だよ、いつもの夢……学校ではほとんど見ないんだけどな……

「なに~昨日寝てねぇの?」

「ん~~あんまり…」

「何?エロゲ?」

「…アホか……」


 大学までエスカレーター式の私立高校2年になる宝利楓矢(ほうりふうや)には悩みがある。成績とか、友情とか、恋愛関係とかのこの年頃特有の青春まっしぐらな健全な悩みでは無い。


(女に関わるものなんて今は胸糞悪くて見たくも無い…)


「アホはないっしょ~?楓だって彼女の1人や2人欲しいだろ?」

 
(嫌、お前の感覚がおかしいんだよ。何だよ、1人や2人って……)

 蒼梧はちょっと女関係で感覚がバグってる奴だ。家は由緒正しき伝統ある神社だっていうのに、本人は見た目も行いもチャラチャラしてる。小さい頃から知っているこっちにとっては、こんな見た目でも気の良い奴なのはよく知ってるんだが、それでも街中で連れ歩く女の子達がいつも違うとか、特定の彼女を作らないとかそんなの聞くと普通の恋愛って何?ってなる。
 所詮は彼女いた事なしだから、俺が知らないのも無理ないんだけど。

「いらねぇ…」

 不貞腐れた様にまたうつ伏せて惰眠を貪ろうとする俺にまだ言い足りないのか今日はしつこい。

「楓も顔は良いんだからな。本気になれば直ぐにでも彼女できるだろうにさ…」

「だから、いらんって……」

 本気で要らない…だからと言って男が好きなわけじゃ無い。ただ、女を今は見たくないだけだ。

「また、夢見が悪かった?」

「……ん……」

 蒼梧にちゃんと話したことすら無いことだが、時折俺は不眠になる。時期とかきっかけとかは定まってないから対処のしようもないんだけど、ある夢を見て夜眠れなくなるからだ。

「パピーに相談する?」

「要らんって……」

 パピーってのは蒼梧の父親で現在の神主。相談事ならさあ御座れって人でいろんな方面の方々から信頼を受けているらしい…が………

 俺は苦手だ…神主してる蒼梧の親父、本当にいい人の一言に尽きる。人の悩み相談を請け負うのだって時には自分の気持ちもキツくなるだろうに、いつもニコニコと相談者の話し相手になってきた人。
 同じくチャラチャラ見える蒼梧も意外と面倒見が良くてお人好し。本人達の中身を知ったら苦手だと言う人の方が居ないんじゃないかと思う位いい人達。

 でも、俺が苦手なのはその人間性じゃない。なんて言うのか、自分達を取り巻いている環境とか、シチュエーションとか偶然とか?俺がいる現在の状況が良くない気がする。
  
 正確にいえば最悪ではない、かな。だって俺は紫の瞳を持って産まれて来たけど、女じゃないって所は一番の幸運だから……






 この地方には古い古い地元に伝わる習わしがある。紫の瞳を持って産まれた女児は神主の嫁に捧げ出す事………

 昔からこの地を守り、栄えさせて来た神社に供物を捧げるのは当たり前のことだったのかもしれない。今日までその神社は残り、その風習も今に残り伝えられているのだからあながち悪いものでなかったのかもしれない。
 その習わしの中心にどっぷりと浸かっていて離れたくても、逃れたくても出来ない様な者達でない限りきっとそれは有難い風習だったんだろう。

 神社と密接な関係を持つ家、宝利家はその筆頭にいる様なものだ。代々昔からこの地に住み、神社を裏で支える家の一つだった。

 神社を支える家となるべく起こる事象、紫の瞳を持つ女児が多く産まれたからだ…


 昔からの風習が現代でどこまで通じるのか知らないが昔の習わしに習ってしまうと、今世で紫の瞳を持って産まれた楓矢が次期神主蒼梧の嫁候補対象になる事になる。


(だから、俺、心から男でよかったわ。いい奴だけど、こんなチャラチャラした奴の嫁になんて絶対になりたくない。浮気も遊びもしまくりだろうしな~あーヤダヤダ……
あ、とするとこいつの元にはみそえ双子の妹が嫁ぐ事になる?それはそれで嫌だぞ、おい……)


「……の、宝利君…?…あの、大丈夫?」

「……?」

 うつ伏せたまま惰眠を貪っている所へ遠慮がちな低い声。

「あの、もしかして具合悪い?」

 ガタイも身長も羨ましいほどに整って、ついでに顔も良いというクラスメートの山手とうきが心配そうに屈んで覗き込んできてた…

「あ?」

「えーと…次現国でしょ?宿題ノート提出する様に言われてるから…」

 山手は俺が体調不良なのかと少しだけ心配そうな目線をメガネ越しに寄越してくる。

「あー大丈夫。単に寝不足なだけだから…」

 差し出すノートを受け取りながらポソリと山手は聞いてくる。

「エロゲ?」

「ふはは…!」

 隣で聞いていた蒼梧がここぞとばかりに笑い出す。

「だから、ちげーって…」

 ただでさえも寝不足とその他の疲労で怠いのに、これ以上付き合ってなんかいられない………









しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

カランコエの咲く所で

mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。 しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。 次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。 それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。 だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。 そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

処理中です...