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18、追跡 3
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「全て、探査できる者を…!魔吸虫をもう一度確認なさい!」
一瞬でなんて…そんな芸当ができる者さえ限られてくるのに…
「お嬢様…もう、数度確認してからのご報告にございます。」
そうであった。魔侯爵家を陰で支えている執事や使用人達は、それは優秀な者達ばかりで、魔吸虫が滅ぼし尽くされたと言う結論に至るまでに、探査は勿論の事、できる限りの方法で確認してきたのだろう。その上での報告なのだから信用があるのだ。
「そう……そう…ね…そうだったわ…」
しかし、明らかに異常事態である。まさか、あれが攻撃魔法を会得していたとして、そしてそれも信じられないほどの高度な性能で……
「考えたくはないわね……」
「……もう、今夜はお休みくださいませ…お身体に障りますから……」
忠実な執事は一番に主人に尽くそうと動いてくれる。
「分かったわ……でも、必ず、あれを、探し出してちょうだい!」
この件を踏まえて、今決意したことがある。必ず、必ず…あれを屠り去らねばならない……野放しにしては魔侯爵家は潰されるだろう……
「お父様に、出ていただかなくては……」
極上の柔らかさを誇る寝具に身を包みながら、エルリーナは独りごちる。
魔侯爵家現当主、リカルド・バルトミューは名実ともにまだ魔侯爵家一の魔法使いなのだから…
楽しい時間を夜更けまで楽しもうとしていた王太子は一人つまらなそうに自室で書類に目を通す。大切な宝の様な婚約者エルリーナが実家に帰ってしまったから、少々機嫌もよろしくない。今手元にあるのは下々の者達から上がって来ている執務に対する報告書だ。どれもこれも細々と注釈まで認めてある。実に色気のないものばかりだ。
ふぅ…と短くため息が出る。この部屋でバベルトが王太子として過ごす時間はため息ばかりであった。周囲の者達からは王太子の持つ高い能力を誉めそやされ、部下達も心から尽くしてくれてはいるが、そんな人々に埋もれて過ごす間に、自分が分からなくなってしまって不快極まりないのだ。だから王太子バベルトは、バベルトを欲する人間が欲しいと思うようになった。地位や容姿や権力ではなく、本当の自分を見てくれる人間…それは、今まで王宮では会ったこともない人種であった。
エルリーナだ…エルリーナだった。
魔侯爵家の長女であり、時には類い稀な才能を持つ冒険者でもある。紫の艶やかな髪と淡いピンクの魅力ある瞳に女性らしい豊満な肉体もさることながら、一人の成人としても冒険者としても自立しており令嬢である事に甘んぜず、男に守って貰おうと言う姿勢も一切見せる事はない。時には可愛らしく甘えてきてくれもするのだが……エルリーナは自分に必要な物は自分で見定め決定し、それを正確に行う行動力も備えていて、時にはそれが冷たい態度だと勘違いしそうにもなるが、そこもまたエルリーナの魅力なのだ。
先程までこの腕にしなだれかかっていた柔らかい肉体がもう恋しい…凛とした媚びないピンクの瞳に躊躇なく真正面から見つめられたい。そうする事でバベルト自身を包み隠さず受け入れられていると思えるからだ。
「エル………」
そっと愛しい女の名前を呼ぶなど、以前ならば女々しい事だと嘲笑の的であっただろうに、自分が呼ぶ側の者になろうとは……
エルリーナに触れていた自分の手指にそっと口付ける。そうする事によってエルリーナにも触れている様な気持ちにさせるから。
「殿下………」
うっとりと、エルリーナの面影に浸っているところに、無粋な声がかかった。
「…………なんだ…」
浮上した王太子の気分が一気に突き落とされる。
「お寛ぎの所、申し訳ございません。ですが…」
声をかけて来たこの者は隠密に行動することを得意とする。城内ならばどこでも活動が許されている特別な影の存在だ。
「何があった?」
出しゃばらない事が影の者達の矜持でもある。が、その者が直接ここに来た。
「地下牢から……消えましてございます…」
「……罪人でも逃げたか?」
そんなつまらない事で?それならば担当の者に言いつければ良い事だ。けれどもこの者達の対象となる様な物は……
「剣士の剣が、一刀、消えましてございます…」
地下牢は大罪人が収監される。時には人だけではなく、呪いがかかった物などの曰く付きの物も収められている。その中の剣であって影が見張る様な曰く付き……
「それは………」
ヤツが生きている他ならぬ証拠でしかない。
「お考えの通りかと……」
歴代最強の魔法剣士………確実に封印を施し、ランカントに追放したはずであった。そして、それは死を目前と待つだけだったはずだ。それなのに……?
「ふ…ふふふ…ふふ…まだ、生きていると言うのか!?魔物並みのしぶとさだな?我が妃となるエルリーナが諦められなかったか?残念だったな?エルはもう既に私の者…!死者に付け入る隙など微塵も見せぬわ!騎士団長を呼べ!!」
どれだけ未練があればあの死の大地で生き残れるのか…大した者ではないか死に損ないめ!!
その夜、緊急に騎士団長達を初め、魔法師団長、魔侯爵、神殿から大神官に市井に在する冒険者統括ギルド長は王城に招集された。大罪人の魔法剣士シショールの生存を危惧して、大々的にランカントの捜索を開始するために……
一瞬でなんて…そんな芸当ができる者さえ限られてくるのに…
「お嬢様…もう、数度確認してからのご報告にございます。」
そうであった。魔侯爵家を陰で支えている執事や使用人達は、それは優秀な者達ばかりで、魔吸虫が滅ぼし尽くされたと言う結論に至るまでに、探査は勿論の事、できる限りの方法で確認してきたのだろう。その上での報告なのだから信用があるのだ。
「そう……そう…ね…そうだったわ…」
しかし、明らかに異常事態である。まさか、あれが攻撃魔法を会得していたとして、そしてそれも信じられないほどの高度な性能で……
「考えたくはないわね……」
「……もう、今夜はお休みくださいませ…お身体に障りますから……」
忠実な執事は一番に主人に尽くそうと動いてくれる。
「分かったわ……でも、必ず、あれを、探し出してちょうだい!」
この件を踏まえて、今決意したことがある。必ず、必ず…あれを屠り去らねばならない……野放しにしては魔侯爵家は潰されるだろう……
「お父様に、出ていただかなくては……」
極上の柔らかさを誇る寝具に身を包みながら、エルリーナは独りごちる。
魔侯爵家現当主、リカルド・バルトミューは名実ともにまだ魔侯爵家一の魔法使いなのだから…
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ふぅ…と短くため息が出る。この部屋でバベルトが王太子として過ごす時間はため息ばかりであった。周囲の者達からは王太子の持つ高い能力を誉めそやされ、部下達も心から尽くしてくれてはいるが、そんな人々に埋もれて過ごす間に、自分が分からなくなってしまって不快極まりないのだ。だから王太子バベルトは、バベルトを欲する人間が欲しいと思うようになった。地位や容姿や権力ではなく、本当の自分を見てくれる人間…それは、今まで王宮では会ったこともない人種であった。
エルリーナだ…エルリーナだった。
魔侯爵家の長女であり、時には類い稀な才能を持つ冒険者でもある。紫の艶やかな髪と淡いピンクの魅力ある瞳に女性らしい豊満な肉体もさることながら、一人の成人としても冒険者としても自立しており令嬢である事に甘んぜず、男に守って貰おうと言う姿勢も一切見せる事はない。時には可愛らしく甘えてきてくれもするのだが……エルリーナは自分に必要な物は自分で見定め決定し、それを正確に行う行動力も備えていて、時にはそれが冷たい態度だと勘違いしそうにもなるが、そこもまたエルリーナの魅力なのだ。
先程までこの腕にしなだれかかっていた柔らかい肉体がもう恋しい…凛とした媚びないピンクの瞳に躊躇なく真正面から見つめられたい。そうする事でバベルト自身を包み隠さず受け入れられていると思えるからだ。
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そっと愛しい女の名前を呼ぶなど、以前ならば女々しい事だと嘲笑の的であっただろうに、自分が呼ぶ側の者になろうとは……
エルリーナに触れていた自分の手指にそっと口付ける。そうする事によってエルリーナにも触れている様な気持ちにさせるから。
「殿下………」
うっとりと、エルリーナの面影に浸っているところに、無粋な声がかかった。
「…………なんだ…」
浮上した王太子の気分が一気に突き落とされる。
「お寛ぎの所、申し訳ございません。ですが…」
声をかけて来たこの者は隠密に行動することを得意とする。城内ならばどこでも活動が許されている特別な影の存在だ。
「何があった?」
出しゃばらない事が影の者達の矜持でもある。が、その者が直接ここに来た。
「地下牢から……消えましてございます…」
「……罪人でも逃げたか?」
そんなつまらない事で?それならば担当の者に言いつければ良い事だ。けれどもこの者達の対象となる様な物は……
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「それは………」
ヤツが生きている他ならぬ証拠でしかない。
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