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14、封印解除 2

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「お前は……」
  
 やはり、この魔力の色を知っている……薄らと目を開けたシショールの眼にも見慣れた、でももう見れないと思っていた魔力の残滓が見て取れてしまった……

「………ごめんなさい…もう、少しですから……」
  
 申し訳なさそうに、サザンカは眉を顰める。絶対にサザンカが引け目をとる様な事はしていないのだ。それが分かっているから、シショールにはなお心苦しい…
 
 腹の底に染み渡ったサザンカの魔力がゆっくりと封印をほぐして行くのが分かった。スルスルと解かれる封印の魔法がシショールの中から霧の様に霧散して行く。と同時に、懐かしい魔力が腹の底から溢れ出してくるのを感じる……!

「…凄いですね?」

 溢れ出る魔力はシショールのもの。しばらく封印されていたからか、しばしコントロールがつかないほどだ。

「それほどでも無い。」

 本当にそうだと思ったのだ。魔力が戻れば周囲の魔力探知も可能になる。ともすれば一番近くのサザンカの魔力も読み取れる様になったのだから。サザンカの内からも凄まじいほど感じ取れるのは、見知った魔力の気配だ。

「戻ったか………」

 解いてもらえればなんともあっけないものであった。身構えていたのに少しの苦痛を感じる事なくガチガチだった封印の形跡は微塵もない。サザンカは素晴らしい腕の持ち主だ。

「…………」

 シショールは試しにとばかりに自分の掌に意識を集中させる。すると、容易くうねる様な力強い魔力が溢れてくるのだ。封印されていた時にはどの様に魔力を出せばいいのかわからなくなっていたというのに…

 シショールの掌の中の魔力の塊は、シュッと上空に光の球のように飛び立つと、頭上で四方に散って行く。そしてオアシスの結界外のランカントの砂地へと吸い込まれていった。

「こんなものか?」

 シショールが狙った物は、ランカントの地に隠れ住んでいる魔吸虫達だ。放っておけば奴らはまた今日の様にを襲ってくるのだろう。

「あ……」

 サザンカにも分かった様だ。シショールが魔吸虫を一瞬にして殲滅してしまった事を。

「なんで奴らを潰さない?」

 身体に馴染む魔力を確認しながら、シショールはサザンカに質問を投げる。

「……………彼らは、見張りの様な、物ですから……」

「…実家と、関わりがあるのか?」

 けれどもおかしな事である。エルリーナからは血のつながったがいるなど聞いたことがない。こんな結果になったのだから、エルリーナがシショールに本当の事を話しているかどうかも怪しいのだが……

「……私は、ずっと……自由になりたかったのです……」

「自由?今、ここで好きにやってるだろう?」

 このオアシスはどう考えてもサザンカのテリトリーだ。世にも珍しい精霊まで味方につけて、こんな辺境の地でも何不自由なく暮らしていけているのに、自由?

「ふふ…ここでの、事ではありません…聞いてくれます?」

 シショールも自分の恥ずかしい情けない過去を晒したのだ。こんな所に一人で住んでをいるサザンカにとっても何か理由があるのは理解できている。

「おれが聞いてもいい話か?」

(誰が聞いても、胸糞悪い話しだ…)

「フー……」

 フーは二人の邪魔をしようとしているわけではなさそうなのだが、要所要所にこうして口を挟んでくる。

「シショールさんも話してくれたでしょ?」

(だからといって、サザンカが話さなければならないという理由にはならないわ。)

「分かってる…」

「聞こう。話したいんだろ?話すだけでも気持ちは軽くなるものだ。」

 フー以外に人が居ないここでは、誰もサザンカの話を聞く者なんていなかっただろうから。封印を解いてもらった例にこれはあまりにも安すぎるが、話ぐらいならばいくらでも聞こうとシショールはサザンカに向き直る。

 私は、産まれて来てはいけなかったんです…衝撃的なサザンカの発言から過去は振り返られる…

 
 バルトミュー家は誰もが知る魔法名門の家系であった。その家の血を濃く引く者達は皆紫の髪色を持ち、それがその家の象徴とまでされているくらい周知されている事実でもあった。しかし、サザンカの髪の色は青銀色だ。美しい青に銀色が混じりキラキラと目に眩しい程に綺麗な髪質ではあるが、バルトミュー家においては異質であった。その為、産まれ落ちたその瞬間に、サザンカは者として扱われたのだ。フーに言わせれば、侯爵はサザンカを確認すると、当時使われていない倉庫に投げ入れておけと命じたそうだ。産まれたばかりの赤ん坊を、母から取り上げては赤子は生きていけないだろう。それを知りつつ実の父親はそう家臣に命じたのだと言う。家長から見放されれば誰も手を貸す事などできはしない。手助けすればそれは侯爵である主人に背き、その家に反旗を翻した謀反人である。実の母親でさえ、子は死んだ者として諦めたのだそうだ。
 しかしフーに言わせれば裏切ったのはバルトミュー家の者達だと言う。その昔
、フーと契約したバルトミュー家の始祖とはある約束をしている。精霊の血を濃く受け継ぐ者を当家の主人とする様に、と。始祖がフーと契約した際、フーは自分の魂の一部を契約者に差し出しているのだ。人間が持つ魔力とフーの精霊力…これを受け継ぐべき者を守る様に…その為にフーはこの家を守って来ていたと言っても過言ではない。小汚い倉庫に投げ入れられた赤子は、見事にフーの精霊力を受け継いでいた。本来ならばこの赤子こそが、バルトミュー家の正式な後継者となるべきであったのに、外見を重視する者達の目は曇り、本来赤子が持っている力を見定めることさえできはしなかったのだ。

 捨てられた赤子には、名前さえ付けられなかった…死んだ者として放り出したのだ。数日放置すれば確実に小さな命は消えるのだから、名前など必要としなかったのだろう。けれどもこれを良しとしなかったのが、フーである。精霊は契約者との契約を破る事はできない。いくら人間に裏切られようとも、精霊自ら見捨てる事はできなかった。だから今でも精霊は人との契約を嫌厭しているのかもしれない。

 フーも赤子を見捨てられなかった…小さな命を守り、乳を運び、暖をとり、病から守って育てたのはフーであった。名も無い小さな赤子に、困難に打ち勝つ様にとサザンカと名付けたのはフーであった。何年も何年も、バルトミュー侯爵さえサザンカの存在を忘れ去った頃、小屋で子供の声がすると侯爵家ではある騒ぎになった。
 当時の侯爵家には、姉であるエルリーナがいるのみだ。親族家の子供達は大勢いるが、小屋で過ごす小さな子供などいるはずがなかった。その後、騒ぎを聞きつけたバルトミュー侯爵は小屋で大きくなったサザンカを見つけることになる。これには一同驚きを隠せなかった様だが、常にフーがそばにいたことによって、サザンカが生かされていたことに納得するしかなかったのだろう。
 驚くべきはサザンカが生きていた事のみでは無い。その子が持つ魔力の多さにその場にいた者達は何も言えなくなった。フーが守っていたのならばこの者を消す事はできないと理解した侯爵はサザンカが生きていることには納得したが、サザンカが世に出ることには許可しなかった。であるから社交も教育も、家族との交流も全て断ってその倉庫にいる事だけ、許したのだ。
 だから、サザンカに教育を施したのも、知識を授けたのも、全てフーが請け負った。基本、契約している当主には逆らえないが、バルトミュー侯爵は既に精霊との契約を反故にしようとしていたのだからその拘束力は弱まるばかり。なので思う存分フーはサザンカの世話をした。持って産まれた魔力の才と、精霊の力…メキメキと実力を表すサザンカを当時一番面白く思わなかったのは、実の姉であるエルリーナだったのだろう。サザンカは次期魔侯爵候補と謳われているエルリーナの力を凌駕する程の底力を持っていた。それをまだ自分を律する事の出来ないエルリーナが感じ取ってしまったのが更なる不幸を呼んでいく…
 
 


          














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