魔力の降る地に、魔力を封じられた魔法剣士が捨てられました

小葉石

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12、魔吸虫

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「おわぁぁぁ!!」

 窓から入ってくる日差しに今日も素晴らしい天気になると確信して、朝の準備をしていたサザンカの耳にシショールの物凄い悲鳴が聞こえてきた。

「シショールさん!?」

 急いで外に出てみると、丘の上の方からシショールが転がり落ちてくるのが見える。

「シショールさん!!」

 いつもどこにも隙がなくてまだまだ気を張っている様なところがあるシショールなのに、受け身どころでは無い転がり方をしているので何かあったのではないかと推測する。

「何?」

 シショールの手にはタガーが抜かれており、転がりながらも何度か何かに向かってタガーを振りかぶっているのだ。

「何がいるの?」

 ここはフーの結界内である。魔獣や魔物はこちらから呼び込まないと入っては来れないはずなのに…

(魔吸虫……)

 隣にいたフーガ答えた。

「魔吸…虫……?」

 魔力を持つ者の血液を好んで吸血する魔物で、吸血時には物凄い激痛が走る。

 ゾクリ…サザンカの背中に寒気が走り、身体が動かなくなってしまった。

「中に入れ!!」
 
 転がりながらも体勢を立て直し、シショールは小屋からでできたサザンカに出てくるなと指示を飛ばしてきた。

「なんで…が…?」


 結界外ならばまだわかるのに…


(サザンカ、中に入りなさい。あの者の荷が重い様ならば私が駆除する。)

 
 それでも、駄目だ………


 魔吸虫だとて魔力がある。結界を破りここまで来たのであれば、小屋の中にいようともどこに居ても同じ事…


 は、………


「何してる!!入れ!!」

 シショールの本気の檄が飛んできて、サザンカはハッと我に帰った。シショールは目の前で魔吸虫の一匹をタガーで一刀両断にしたところだ。

「お前がいると、集中できない!!」 

 直接戦闘しているシショールだから分かることがあった。この魔吸虫達はシショールを。明らかに小屋にいるサザンカへの距離を詰めようとしているのだ。シショールの身体のあちこちには、戦闘で出来た細かい傷ができていたが、魔吸虫に噛まれた跡はない。魔力を封じられる前ならば、手の一振りで焼き払えたものなのに、情けなくもまたもや砂まみれになりながらの戦闘であった。

(サザンカ!!)

 まだ動こうとしないサザンカにフーが再度室内に入れと声をかけてきた。

 魔吸虫と戦っているシショールが魔吸虫に襲われている様に見えたのだが、襲われる前にシショールは着実に一匹ずつ倒していく。窓から外を覗くサザンカの目には、不可解な光景が映った。魔吸虫に襲われてできたと思われたシショールの傷がそうではない事が分かったからだ。時折、シショールは自分の腕をタガーで切り付けて新しい傷を作っている。そうする事で魔吸虫を自分の方に引き寄せているようなのだ。

「シショールさん…!」
 

 何故、自分の腕を?


(奴らは魔力を有する者の血液に寄ってくるのです。いくらかシショール殿の血の中に魔力の残滓を感じているのでしょう。)

 だから、魔吸虫達はシショールの新しい血液に吸い寄せられていく。その戦い方は見ていてハラハラするしかないものだ。傷つかない様にする為に戦うのだろうに、シショールは自分を犠牲にしかしないから…
 駆除し終えた時にはシショールの腕はタガーによる切り傷だらけになってしまっていた。

「もう!無茶をして!いけませんよ、こんな戦い方……」

 助けてもらったのだからお礼を先に述べるのが筋であろうが、サザンカの中では心配が勝ってしまって、お小言になってしまった。

「悪いが…今はこんな戦い方しかできない…それでも、何で魔吸虫が………?」

 幸いな事にシショールの手の傷は全て浅く軽い。だから傷口を綺麗に洗うだけで血も止まっている。

「……………シショールさん……」

「ん?」

 傷の手当てが終われば、サザンカが真剣な顔でシショールの前に座り直した。

「どうして、魔法を封じられているのか聞いても?」

 サザンカはシショールを見つめて、単刀直入にシショールに質問をぶつけてきた。
 
 人には聞かれたくないこともあるだろうに、と思う心は無いのかと、逆にシショールがサザンカに聞きたいくらい、歯に絹着せぬ素直な質問だ。

「俺は、お前のが苦手でな……」

 真剣そのもののサザンカにシショールも姿勢を正す。

「私の、瞳?」
 
 サザンカの瞳は淡いピンクの優しい色だ。でも、シショールにはもう二度と見たくない色でもある。

「……俺は、冒険者だった……」

 手当の終わった腕をさすりながらシショールはポツポツと語り出す。

 幼い頃の記憶は鮮明に残っているわけではない。けれども、シショールに親がいなかった事だけはよく覚えている。孤児院で育ち、そこらにいる孤児と同じ様に貧しい暮らしの中、時々世話を焼きにくるお節介な冒険者達から字を学び、生きる知恵を学んだ。幸いな事に、シショールの魔力量は桁外れに多く、当時の冒険者の面々を驚かせ続けていた。シショールの力を逸早く見抜いた者達はシショールを引き取り、ギルドの中で鍛えながら育て上げたのだ。特に頼る者もなかったシショールだ。言われるがままに出てくる自分の魔力にも驚いたが、ただの孤児が冒険者への道が約束されている様な運命に歓喜し、必死になって魔力操作を学び剣を鍛えた。そんな少年の頃にその力を見出され、パーティに誘われてはダンジョンへと潜る生活が続いていき、気がつけば国内最強の魔法剣士ともてはやされてその名声は国内に留まらず、国外にも響いていく事になった。

「知りませんでした……」

「………そうでは無いかと思っていた。」

 別に知られていないからと言って拗ねる程傲慢でも名声にこだわっているわけではないから気にもしなかったが。シショールが名前を名乗った時の反応があまりにも何もなさすぎて、逆に新鮮さを感じたものだ。

 有名になればなるほど、高難度の依頼が飛び込んでくる。けれども冒険者にとってこれはチャンスでもあるのだ。自分の力を思う存分周囲に認めさせ、運が良ければ一気に出世も夢ではない。シショールもそうであった。竜退治を難なくこなしたシショールは、魔侯爵家の娘と恋仲になった。国王から爵位を叙爵されれば身分違いの愛する者との結婚も許されたのだから。孤児の身からしては夢のような出来事ではなかったか…

「そうだ………夢…だったんだろうな……」

 ポツリと呟くシショールの瞳はスッと澱んで暗くなる。何もかもが夢…裏切られて、自分の取り柄でもあった唯一の魔力も封じられ、愛する者と仲間に死を望まれるほど憎まれる…夢であった方がずっと良い。
 
「………解きましょうか?封印。」

 サザンカから目を逸らし、暗い感情に沈もうとしていた所にとんでもない言葉が聞こえてきた。

「……は?」

 解く……何を?  

「ですから、封印を解きましょう!」

 淡いピンクの瞳は冗談を言っているようには聞こえない。そして、今までないほどサザンカは真剣に力強くシショールを見つめてくる。

「………無理だ……」

 そう、無理だ……エルリーナの実家である魔侯爵家は、積み重ねられた魔力に対する膨大な知識と経験のもとに周辺国家の有力な魔法使い達でさえも越えることはできない確固たる権威を今だに誇っている。その侯爵家次期当主の一人とも言われるエルリーナがこの術に手を加え、発動させたのだから。

「私なら、できるんです……」
  
 やっぱり、シショールが関わってきたのは……サザンカが思っていだ通りのことだ。だから、サザンカは意を結した。シショールは魔力を封じられるような悪事を働いたわけではない。害悪なのははその周囲の者達だった。










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