2 / 21
2、魔法剣士の追放 2
しおりを挟む
「あぁぁぁ……ぁぁぁあああ!!!」
大の男の絶叫が謁見室に響き渡った。大勢の魔法使いの魔封じにも抵抗を示し、一向に魔封じが完了しない事に痺れを切らしたエルリーナが魔法使い達の魔封じに補助を加えたのだ。必死に抵抗していたシショールに無慈悲にもトドメを刺したのである。
フッと消える金の魔力とドサリと頽れ倒れる体躯。シショールの魔力封じが完了した。
「捨て去れ!」
威厳ある王の声が室内に響き渡る。これでシショールの行くべきところは決まってしまった………
スイリロット国北側に広がる荒れ果てた大地ランカントは、奥へと行くほどその地が呪われでもしているかの様に大地が朽ちて行く。石と砂と乾いた風…枯れ枝でもあればいい方で、到底生物など生きて行けない地となって行く。その為その地の果てを未だかつて誰も見た事がない不可侵の地ともなってしまっている。そんなランカントへと質素な馬車が数名の騎士に守られて奥へと進んでいった。その後ろから数台の豪奢な馬車が後を続く。
「変わりないか!?」
「はい。目は覚めている様ですが、おとなしいもんですよ。」
質素な馬車の中には重罪人が収容されていて、まさに今日追放刑を執行されようとランカントの地に入ってきたのだ。
「油断はするなよ?なんと言っても国を売ろうとしてきた奴だ。何を言ってくるかわかったもんではない!」
この護送を担当する指揮官らしき者は馬車の中の人物をかなり危険視している。魔封じがされているとは言え、剣の腕は鈍っては居ないだろう。腕や足の腱を切ってしまっているのならばまだしも、ここに乗っている男はどうやら五体満足の様なのだ。警戒するに越した事はないのである。
「はっ!」
忠実な騎士達は指揮官の言葉を守り、男の口車には乗らないとばかりに気を引き締めた。
「…………解除………」
カチリ………
足元で小さな音がして、望んだ結果をもたらしてくれたことをシショールは知る。粗末な立て付けの悪い馬車の中、不自由な身体で身を起こす事さえ一苦労した。両手両足の腱は無事だが、やっとのことで身を起こしても案の定魔力の発動が一切できないでいる。まるで身体の奥の奥に硬い岩盤でも押し込まれたかの様に、ガッチリと魔力を抑える封印がかかってしまっていた。しかしだからといって、このままでは確実に逃げる前に元の仲間達に殺されるだろう。彼らは外国から賞金首となっているシショールの死を望んでおり、今日まさに実行しようとしているのだから。
「……くそっ……!」
魔力を封じられていようとも、生まれ持ったスキルは生きていた。これだけであっても手足が十分に動くのならば生存率は上がるだろう。
どうしてこうなった?何をどこで間違えたならば恋人と仲間達に裏切られ、命を狙われなければならなくなるのだろうか。
今の自分にある物は、生まれ持ったスキルと身につけている真新しく仕立てた衣類に、ダンジョンの最下層から持ち帰った護身用に持ってきていた細かい装飾がされたタガー一本のみだ。剣士であるのに王城に上がる際に愛刀は取り上げられてしまっている。たったこれだけで、人も動物も植物も虫も生きていけないランカントへと追放されるのだ。
絶対に生きていけるはずが無い…そんな状況下でもシショールは生きる為にもがいている。
どうあっても、このまま他者が望む様な最後を遂げてやるなんて胸糞が悪すぎる。今もシショールの腹の奥底では自分の魔力が燻り、外に出たいともがいているのに……だから、自分ももがく事にした…自然であろうが、殺されるのであろうが、自分の命が尽きるまでもがき続けようと……
「出ろ!!!」
ガタンと乱暴に馬車が止められる。乾燥した空気に変わってきたと思ったら、どうやらランカントの奥へと入って来ていたらしい。
乱暴に扉が開けられ、横柄な騎士が顎をしゃくってシショールに早く外に出ろと指し示す。
「フ………」
苦笑しか出てこない…転がされ、手足にはガッチリと枷が付けられていてそんなに早くは動けないのに。降りようとしたところで腕を引っ張られ、シショールは乾いた大地へ転がることとなった。
「ウプ……」
乾いて舞い上がる土煙は口の中で嫌な味を広げて、乾いた喉に追い打ちをかけてくれる。
「さあ、偉大なる魔法剣士よ!其方に告げられたのはこの広大なランカントへの追放だ!心して王からの拝命を受けよ!」
拝命……?都合のいい…厄介払いだろう…?
「ランカントが最後とは…あの竜の群れを叩き潰した時を思い出すな?シショール?」
豪奢な馬車から降りてきたのは聖騎士アレン、神官長オゼルスだ。エミーリアはいないらしい………二人共自分の得意の得物を持ち、いつでも戦闘態勢に入れる様にと抜かりない。王城で宣言していた通りに、シショールの首を報奨金目当てに差し出すつもりであるらしい。
「これより、反逆者シショールは王命によりランカントへと追放とする!!」
国王の命はここに成った。今から後、シショールは追放と言う王国からの守りがなくなる。
「さて、護衛騎士の諸君、勤めご苦労様。」
シャリ…………心地よいアレンの愛刀を抜く抜剣の音と共に、風を切る風圧を読み切って、シショールは先ずはアレンの先制を読み切り躱してみせた。
「は…!ちょこまかと……!」
先程のスキルが役に立った。アレンの攻撃と共に足の枷が外れてシショールは身を躱せたのだから。それでもシショールの意表をついた抵抗は、得物を追い詰めようとする聖騎士アレンにとってほんのスパイスの如くにしか感じなかったのだろう。普段であれば聖騎士アレンは爽やかで整った表情を崩そうともせずに人々に接する、非常に人当たりの良い聖騎士面なのだが、それがすっかりと歪んで醜悪な笑みに顔を歪めている事にも気がつかないほど興奮しきっているのだから。
「アレン。早く終わらせましょう?ここは埃っぽくていけません…」
神官長の錫杖を前に構えて神官長オゼルスは眉根を寄せる。風と共に常に砂埃が舞い上がるランカントの地は、神力溢れる神官長にはお気に召さなかったらしい。降りかかる砂埃を嫌そうに叩き落としながらチロリとシショールに視線を向ける。慈悲深く人心に寄り添う慈愛溢れた神官は今、どこにいるのだろう…?
「アレン……オゼルス………これが、答えか?」
王城で賞金首の話を聞いた時、シショールはもしかしたらを考えた。自分の魔力が封じられてしまった事は仕方がない。が、ただ弁明も聞いてもらえず、一方的な刑の執行を致し方なしと諦めてしまうほどの非道なことをした覚えは一切ないのだから。それを仲間達は良く知っていたはずなのだから…………
だが…………
聖騎士アレンと神官長オゼルスは本気であった。本気でシショールの首を取ろうとしてきている。生死をかけた戦闘の場で何度も肌で感じて来た殺気が言葉よりも雄弁に真実をシショールに伝えてくる。
「言わなくも、分かるだろう?」
剣を構え直すアレンと、錫杖をシショールに向けてくるオゼルスの姿で視界が一杯になる。
やばい………!!
神官長オゼルスが、シショールの動きを止めに拘束を掛けてきた。このままでは足を動かすことも出来ずに次なるアレンの攻撃をただ呆然と待つ事になる。
「…させるか……」
一か八か、アレンの剣がシショールに触れる直前に、シショールは転移魔法を発動させていた。シショールに掛けられていた魔封じ直後から、微かに漏れ出る魔力のカケラを集めに集めて溜め込んできた、なけなしの魔力を全て使って…
行き先はこの地よりも出来るだけ離れた所…細かい場所指定などできる余力は残っていない。ここから離れたところであれば最早どこでも良い位の気持ちでシショールはその場から消え失せた………
「ちっ!!どこに行った!?」
完全にその首を取ったと勝利を確信していた聖騎士アレンにとって、予想外の出来事である。シショールが一撃目を避けたところまでは難なく受け入れたのに、まさか、まだ転移出来る余力があったなどとは読み違いもいいところであった。
「調べています!」
イライラと周囲を見回すアレンの隣では錫杖を額につけて意識を集中しているであろうオゼルスが、グッと眉間を寄せてシショールの気配を探っている。
「……国内への転移ではありません…」
シショールの魔力の残滓を読めるオゼルスは、僅かにこの地に残る微かな気配を辿って行けば、そこはここよりも先、ランカントの奥へと続いて行っている。
「この地の、先です…」
オゼルスが指し示すのは、砂埃で視界が霞むランカントの奥であった。
「このまま追える距離か?」
「いえ、かなり離れていますね…行けたとしても本日の装備では…」
ここにはシショールの追放の為に来た護衛騎士達の簡素な馬車と、アレンとオゼルス達が乗ってきた豪奢な馬車しかない。遠征できる様な食糧も野営できる準備もしていないのだ。そして目標は死の大地ランカントの奥ときている。この軽装備では自分達もランカントの餌食となってしまう恐れがあった。シショールを追いかけて確実に仕留めようとするのならば一度王都に戻って改めて準備をする必要があるだろう。それも時間との問題で、シショールの魔力は風前の灯火の様な微々たるもの。転移直後であるから今は追えたが、時間と共にそれも難しくなってくる。
「くそっ!!」
聖騎士の姿からはかけ離れたアレンの悪態が周囲に響く。
「落ち着いてくださいアレン。物は考えようですよ?コンディション万全であっても私達がこのまま進むのは危険な様に、それはシショールにとってもです。今は私達の手を脱れましたが、彼には最早この地に抗う術は無いはずです。行き着く所は餓えか渇きか、魔物の餌でしょう。」
ランカントにも竜は住み着く。そしてそれよりも奥には冒険者達によって魔物も目撃確認しているのだから。
「そうであっだとしても!この手で、あの首を持ち帰りかったのだ!」
「仕方のない人ですね……けれども今日はこちらには分はありません。この地に返り討ちにされるでしょうね。」
「分かっている!」
納得している顔ではないアレンは手に持つ愛刀を荒々しく鞘に収める。
「仕方ありません。一度帰りましょう。皆様に報告しなければ…」
希代の最強魔法剣士シショールの行方がわからない。それを証明する事ができなければ、かつての仲間可愛さに聖騎士アレンと神官長オゼルスが謀を企んだと邪推されても足らない。
「幸いな事に、護衛騎士達がおりましたね?この場の記憶は保護しましたけれど、彼らも良い証言者となってくれると思いますよ?」
荒れる聖騎士アレンを馬車へと促し一行は王都へと帰還して行く。
大の男の絶叫が謁見室に響き渡った。大勢の魔法使いの魔封じにも抵抗を示し、一向に魔封じが完了しない事に痺れを切らしたエルリーナが魔法使い達の魔封じに補助を加えたのだ。必死に抵抗していたシショールに無慈悲にもトドメを刺したのである。
フッと消える金の魔力とドサリと頽れ倒れる体躯。シショールの魔力封じが完了した。
「捨て去れ!」
威厳ある王の声が室内に響き渡る。これでシショールの行くべきところは決まってしまった………
スイリロット国北側に広がる荒れ果てた大地ランカントは、奥へと行くほどその地が呪われでもしているかの様に大地が朽ちて行く。石と砂と乾いた風…枯れ枝でもあればいい方で、到底生物など生きて行けない地となって行く。その為その地の果てを未だかつて誰も見た事がない不可侵の地ともなってしまっている。そんなランカントへと質素な馬車が数名の騎士に守られて奥へと進んでいった。その後ろから数台の豪奢な馬車が後を続く。
「変わりないか!?」
「はい。目は覚めている様ですが、おとなしいもんですよ。」
質素な馬車の中には重罪人が収容されていて、まさに今日追放刑を執行されようとランカントの地に入ってきたのだ。
「油断はするなよ?なんと言っても国を売ろうとしてきた奴だ。何を言ってくるかわかったもんではない!」
この護送を担当する指揮官らしき者は馬車の中の人物をかなり危険視している。魔封じがされているとは言え、剣の腕は鈍っては居ないだろう。腕や足の腱を切ってしまっているのならばまだしも、ここに乗っている男はどうやら五体満足の様なのだ。警戒するに越した事はないのである。
「はっ!」
忠実な騎士達は指揮官の言葉を守り、男の口車には乗らないとばかりに気を引き締めた。
「…………解除………」
カチリ………
足元で小さな音がして、望んだ結果をもたらしてくれたことをシショールは知る。粗末な立て付けの悪い馬車の中、不自由な身体で身を起こす事さえ一苦労した。両手両足の腱は無事だが、やっとのことで身を起こしても案の定魔力の発動が一切できないでいる。まるで身体の奥の奥に硬い岩盤でも押し込まれたかの様に、ガッチリと魔力を抑える封印がかかってしまっていた。しかしだからといって、このままでは確実に逃げる前に元の仲間達に殺されるだろう。彼らは外国から賞金首となっているシショールの死を望んでおり、今日まさに実行しようとしているのだから。
「……くそっ……!」
魔力を封じられていようとも、生まれ持ったスキルは生きていた。これだけであっても手足が十分に動くのならば生存率は上がるだろう。
どうしてこうなった?何をどこで間違えたならば恋人と仲間達に裏切られ、命を狙われなければならなくなるのだろうか。
今の自分にある物は、生まれ持ったスキルと身につけている真新しく仕立てた衣類に、ダンジョンの最下層から持ち帰った護身用に持ってきていた細かい装飾がされたタガー一本のみだ。剣士であるのに王城に上がる際に愛刀は取り上げられてしまっている。たったこれだけで、人も動物も植物も虫も生きていけないランカントへと追放されるのだ。
絶対に生きていけるはずが無い…そんな状況下でもシショールは生きる為にもがいている。
どうあっても、このまま他者が望む様な最後を遂げてやるなんて胸糞が悪すぎる。今もシショールの腹の奥底では自分の魔力が燻り、外に出たいともがいているのに……だから、自分ももがく事にした…自然であろうが、殺されるのであろうが、自分の命が尽きるまでもがき続けようと……
「出ろ!!!」
ガタンと乱暴に馬車が止められる。乾燥した空気に変わってきたと思ったら、どうやらランカントの奥へと入って来ていたらしい。
乱暴に扉が開けられ、横柄な騎士が顎をしゃくってシショールに早く外に出ろと指し示す。
「フ………」
苦笑しか出てこない…転がされ、手足にはガッチリと枷が付けられていてそんなに早くは動けないのに。降りようとしたところで腕を引っ張られ、シショールは乾いた大地へ転がることとなった。
「ウプ……」
乾いて舞い上がる土煙は口の中で嫌な味を広げて、乾いた喉に追い打ちをかけてくれる。
「さあ、偉大なる魔法剣士よ!其方に告げられたのはこの広大なランカントへの追放だ!心して王からの拝命を受けよ!」
拝命……?都合のいい…厄介払いだろう…?
「ランカントが最後とは…あの竜の群れを叩き潰した時を思い出すな?シショール?」
豪奢な馬車から降りてきたのは聖騎士アレン、神官長オゼルスだ。エミーリアはいないらしい………二人共自分の得意の得物を持ち、いつでも戦闘態勢に入れる様にと抜かりない。王城で宣言していた通りに、シショールの首を報奨金目当てに差し出すつもりであるらしい。
「これより、反逆者シショールは王命によりランカントへと追放とする!!」
国王の命はここに成った。今から後、シショールは追放と言う王国からの守りがなくなる。
「さて、護衛騎士の諸君、勤めご苦労様。」
シャリ…………心地よいアレンの愛刀を抜く抜剣の音と共に、風を切る風圧を読み切って、シショールは先ずはアレンの先制を読み切り躱してみせた。
「は…!ちょこまかと……!」
先程のスキルが役に立った。アレンの攻撃と共に足の枷が外れてシショールは身を躱せたのだから。それでもシショールの意表をついた抵抗は、得物を追い詰めようとする聖騎士アレンにとってほんのスパイスの如くにしか感じなかったのだろう。普段であれば聖騎士アレンは爽やかで整った表情を崩そうともせずに人々に接する、非常に人当たりの良い聖騎士面なのだが、それがすっかりと歪んで醜悪な笑みに顔を歪めている事にも気がつかないほど興奮しきっているのだから。
「アレン。早く終わらせましょう?ここは埃っぽくていけません…」
神官長の錫杖を前に構えて神官長オゼルスは眉根を寄せる。風と共に常に砂埃が舞い上がるランカントの地は、神力溢れる神官長にはお気に召さなかったらしい。降りかかる砂埃を嫌そうに叩き落としながらチロリとシショールに視線を向ける。慈悲深く人心に寄り添う慈愛溢れた神官は今、どこにいるのだろう…?
「アレン……オゼルス………これが、答えか?」
王城で賞金首の話を聞いた時、シショールはもしかしたらを考えた。自分の魔力が封じられてしまった事は仕方がない。が、ただ弁明も聞いてもらえず、一方的な刑の執行を致し方なしと諦めてしまうほどの非道なことをした覚えは一切ないのだから。それを仲間達は良く知っていたはずなのだから…………
だが…………
聖騎士アレンと神官長オゼルスは本気であった。本気でシショールの首を取ろうとしてきている。生死をかけた戦闘の場で何度も肌で感じて来た殺気が言葉よりも雄弁に真実をシショールに伝えてくる。
「言わなくも、分かるだろう?」
剣を構え直すアレンと、錫杖をシショールに向けてくるオゼルスの姿で視界が一杯になる。
やばい………!!
神官長オゼルスが、シショールの動きを止めに拘束を掛けてきた。このままでは足を動かすことも出来ずに次なるアレンの攻撃をただ呆然と待つ事になる。
「…させるか……」
一か八か、アレンの剣がシショールに触れる直前に、シショールは転移魔法を発動させていた。シショールに掛けられていた魔封じ直後から、微かに漏れ出る魔力のカケラを集めに集めて溜め込んできた、なけなしの魔力を全て使って…
行き先はこの地よりも出来るだけ離れた所…細かい場所指定などできる余力は残っていない。ここから離れたところであれば最早どこでも良い位の気持ちでシショールはその場から消え失せた………
「ちっ!!どこに行った!?」
完全にその首を取ったと勝利を確信していた聖騎士アレンにとって、予想外の出来事である。シショールが一撃目を避けたところまでは難なく受け入れたのに、まさか、まだ転移出来る余力があったなどとは読み違いもいいところであった。
「調べています!」
イライラと周囲を見回すアレンの隣では錫杖を額につけて意識を集中しているであろうオゼルスが、グッと眉間を寄せてシショールの気配を探っている。
「……国内への転移ではありません…」
シショールの魔力の残滓を読めるオゼルスは、僅かにこの地に残る微かな気配を辿って行けば、そこはここよりも先、ランカントの奥へと続いて行っている。
「この地の、先です…」
オゼルスが指し示すのは、砂埃で視界が霞むランカントの奥であった。
「このまま追える距離か?」
「いえ、かなり離れていますね…行けたとしても本日の装備では…」
ここにはシショールの追放の為に来た護衛騎士達の簡素な馬車と、アレンとオゼルス達が乗ってきた豪奢な馬車しかない。遠征できる様な食糧も野営できる準備もしていないのだ。そして目標は死の大地ランカントの奥ときている。この軽装備では自分達もランカントの餌食となってしまう恐れがあった。シショールを追いかけて確実に仕留めようとするのならば一度王都に戻って改めて準備をする必要があるだろう。それも時間との問題で、シショールの魔力は風前の灯火の様な微々たるもの。転移直後であるから今は追えたが、時間と共にそれも難しくなってくる。
「くそっ!!」
聖騎士の姿からはかけ離れたアレンの悪態が周囲に響く。
「落ち着いてくださいアレン。物は考えようですよ?コンディション万全であっても私達がこのまま進むのは危険な様に、それはシショールにとってもです。今は私達の手を脱れましたが、彼には最早この地に抗う術は無いはずです。行き着く所は餓えか渇きか、魔物の餌でしょう。」
ランカントにも竜は住み着く。そしてそれよりも奥には冒険者達によって魔物も目撃確認しているのだから。
「そうであっだとしても!この手で、あの首を持ち帰りかったのだ!」
「仕方のない人ですね……けれども今日はこちらには分はありません。この地に返り討ちにされるでしょうね。」
「分かっている!」
納得している顔ではないアレンは手に持つ愛刀を荒々しく鞘に収める。
「仕方ありません。一度帰りましょう。皆様に報告しなければ…」
希代の最強魔法剣士シショールの行方がわからない。それを証明する事ができなければ、かつての仲間可愛さに聖騎士アレンと神官長オゼルスが謀を企んだと邪推されても足らない。
「幸いな事に、護衛騎士達がおりましたね?この場の記憶は保護しましたけれど、彼らも良い証言者となってくれると思いますよ?」
荒れる聖騎士アレンを馬車へと促し一行は王都へと帰還して行く。
11
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します
月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚
ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。
しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。
なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!
このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。
なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。
自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!
本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。
しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。
本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。
本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。
思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!
ざまぁフラグなんて知りません!
これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。
・本来の主人公は荷物持ち
・主人公は追放する側の勇者に転生
・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です
・パーティー追放ものの逆側の話
※カクヨム、ハーメルンにて掲載
転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】
雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。
そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!
気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?
するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。
だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──
でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる