上 下
1 / 21

1、魔法剣士の追放 1

しおりを挟む
 

 何を、誰を信じて良いのか…誰を恨み誰に復讐したら良いのか、それさえも分からないまま、考えも纏まらないうちに、荒廃地ランカントの奥へとシショールは放り出された………








「魔法剣士シショールよ…我がスイリロット国最強の魔法剣士の其方と言えど、国家転覆を目論む者を最早ここ国内には置いておけぬ。其方には大きな功績がいくつもある。だから、これ追放で許してやろう。」


 何を?どの口で許すというのか?


 威厳溢れる宣言の下には、ほくそ笑む国王の顔が垣間見えた……そしてその言葉を合図に、王城に待機していたであろう魔法使い達はシショールに一斉に魔力封じをかけてくる。いくら歴戦に勝利を並べてきた強者であっても、それは決して一人で手にしてきたわけではない。勇猛果敢な仲間があってこそ、シショールをスイリロット最強の魔法剣士として位置付けたのだから。国内にいる腕の立つ魔法使いが雁首並べてシショールの不意をつけば、シショールとてそれを防ぎきれはしなかった。

「ぐぅ……どうして…!?」

 ギッと赤く燃えるきつい眼差しを投げつけたその先には、今の今まで仲間だと思っていたパーティーの面々が、王の前に傅いた姿勢を崩そうともせずに静かに膝をついている。

 燃え盛る赤い瞳は魔力持ちの証。濃ければ濃いほど豊富な魔力を内に秘めているとされて、シショールも幼い頃から修行に明け暮れる日々であった。それもこれも自分の国を守れる、誇り高い魔法剣士になりたいがため、努力を惜しまず研鑽してきたのに…今、その燃えるような瞳に映るのは澄ました顔の仲間達だ。言われなき罪を問われ、魔力を不当に封印されようとしている。それなのに仲間で者達は目線すら上げずに動きもしない。

「なぜ…だ!?」

 シショールの瞳が困惑から猜疑へとその色を変えていく。

「何故、と言うのならば先程王が説明くださっただろう?」

 真っ白な制服の上に今日のこの日の為にあつらえた輝くような白い甲冑を身につけた聖騎士アレンが、夜会に行けば数多の令嬢達にため息の嵐を起こさせてしまう、優しい美声を震わせもせずにそう言い切った。

「国家転覆など……周辺国家に響き渡る貴方の名声には相応しくはありませんね?」

 神殿の神官長の位を拝命したばかりで真新しい神官衣に身を包んだ神官長オゼルスもスイリロット国王と聖騎士アレンの言葉を継いで行く。

「アレン……?オゼルス……!!どう言うつもりだ!?」

 バチバチバチバチ………!!

 魔法使い達の魔封術は佳境に入り、シショールの体の周囲には金色の火の粉が舞い散るが如くにキラキラと輝き出した。

「エルリーナ……!?エルリーナは!?」

 必死にシショールは魔封じに抗いながら身体を捻り、神官長オゼルスの後ろに控えているだろう魔法使いエルリーナに顔を向けた。エルリーナは眉根を寄せて、かつてはシショールに送っていた熱のこもった視線を、氷よりも冷たく冷ややな温度に変えて向けてくる。

「勝手にエルリーナの名前を呼んでもらっては困るぞ?反逆者よ!」

 シショール達が控えていた後ろから凛とした声がかかった。

 立派な体躯に蜂蜜色の長髪を綺麗に整えた琥珀の瞳の持ち主。それはこの王城で、いやこの国中でこの者を知らないものはいないだろうと言われるほど、貴族にも国民にも圧倒的に支持されている王太子ハベルトである。

「反逆者では、ない!」

 シショールはあらんかぎりの声を上げる。

「ふん!自分の罪をも認められんとは…情けない……」

 王太子ハベルトはそう吐き捨てると、当然そうするべきだと言うように跪くエルリーナに向かって手を差し伸べる。エルリーナも何の抵抗もなくハベルトの手に自分の手を預け立たせてもらう。

「エルリーナ………?」

 シショールの目の前では信じられない事が起こっている。

「分からん男だな?我が愛しの婚約者の名前を気安く呼ぶなと言っているだろう?」


 婚約者………?婚約者だと…!?


「何を…エルリーナは…!」

 
 の婚約者だった!!


 バチバチバチバチバチ!!!

「ぐぅぅぅぅっ!!」

 シショールが全てを言い終わる前に、魔封じが完了していく。身体の奥底にある魔力の根源を強制的に他者の魔力と魔術の鎖で埋め込まれて行く不快感に歯を食いしばって耐えるしかなかった。

「私、反逆者と懇意にしているなどと思われても困るわ。」

「大丈夫だ。我が花嫁よ…紫の魔法使いは其方のみ…私が守ろう。」

 エルリーナは紫の魔法使いの一族と言われている。豊富な魔力量とその知識においてはその他の魔法使いの追随を許さず、今日までその魔侯爵の地位を守ってきた家系の出であった。その家の者の特徴としては紫の髪質を必ず持つと言う。
 そのエルリーナはパーティーを組んでいたシショールと公認の恋人同士であったはず……今日この王城で、シショールはこれまでの功績を讃えられ叙爵される予定であった。その後は二人で準備してきたエルリーナとの婚姻が待っていたのに…
 それなのに、今シショールの目の前でエルリーナは仲睦まじく王太子ハベルトに肩を抱かれ、エルリーナもまたまんざらではなくそのハベルトにしなだれかかっているではないか。

「あぐうぅぅぅぅぅっ…な、んで……!」


 何故……ここに来て、こんな裏切りを…!


 シショールは必死にエルリーナに手を伸ばす…けれども、ハベルトに嫌な顔をされスッとエルリーナの身体はハベルトの後ろへと隠されてしまう。

「我が花嫁を、大罪者の目に触れさせたくはない!お前達!早く術を完成させないか!」

「「「はっ!!」」」

 ここにいる魔法使い達は王太子ハベルトの命とあれば必死に応えようとする忠実な臣下達だ。

「くっ…ぅ…うぅぅ………ぁ…ぐっ…!」

 スイリロット国王城の広い謁見室には、魔封じ完成間近の術音と苦しそうに抗おうとするシショールの呻き声が引き続き響き渡る。

「まだ、終わりませんの?」

 もう飽きたと言わんばかりのエルリーナの声は、シショールの名前を優しく呼んでくれた、あの優しく愛しい声と同じ響きで混乱を極めた。何が現実で、何が偽りだったのか……耐え難い苦しみの中からもうそれらの見分けはつかない。

「王陛下…シショールは反逆の大罪を犯しましてございます。そして、渡り歩いた諸国諸々より賞金首となってその命狙われてございます。」

「ほう?」

 聖騎士アレンは信じられない事を告げてくる。

「どの国もシショールの首を所望しておりますれば、追放された暁には我らにもその権利を頂いても?」


 賞金…首…?


「穏やかではないの。シショールよ?」

 ニヤついた嫌らしい笑みを向け、王は聖騎士アレンに向かってこう言った。

「神殿に使える聖騎士ともあろう者が、報奨金を何とする?」

「それはもちろん。シショールによって荒らされました国中の貧しい者達の地域の復興に当てたく……」

「ふむ…」


 荒らされた…!?いつ、俺が、荒らした!?俺達は、スイリロット周辺で暴れている竜退治に赴いたんだ!荒らしたのではない!!

 
 血を吐くかとも思われる苦痛の中で、シショールは心の中で叫び続ける。

 スイリロット国周囲には広大な土地と自然が広がっている。北に行けば不毛の大地ランカント、東西には手付かずの森を含む広大な森林が、南に行けば大湖が広がる。東西南は他国へと繋がる街道と航路ができているが、北は不毛の大地ランカントである。どこを取っても自然豊かなこの大地にはその特性を生かした竜達が大昔から住み着いている。その数を増やせば国民にまで被害が及ぶ為、数年に一度大々的に竜討伐隊が組まれるのだが、近年その成果は芳しくなく竜の個体数が増える一方であった。こんな時ただ気儘にパーティーを組みダンジョンで細々と日銭を稼ぐ様な冒険者達にはもってこいのチャンスであった。
 ある程度ダンジョン攻略で名を上げていたシショールも、高位貴族を含むこの度のパーティーに魔法剣士として抜擢されて、スイリロット国周辺に住み着く竜討伐に力を入れできたのだ。ここにいる聖騎士アレン、神官オゼルス、魔法使いエルリーナもこのパーティーのメンバーだ。
 竜の討伐は熾烈を極めた。それぞれが違う特性を持つ竜が入り乱れて生息しているのだから相当の経験と実力が無ければ誰であっても塵の様に燃やされて行く…周辺諸国から出向いてきた冒険者や実力者達、騎士団達が紙屑の様に裂かれ投げ捨てられて行くのを横目で見る。そんな生死をかけた戦いの日々がやっと終わったばかりだと言うのに……孤児上がりのシショールに取ってはこの討伐で国に認められ、これからは愛する伴侶と共に安らいだ日々を送れるだろうと心から信じていた………

「それならば、我が国を出てからにするが良い。この国にいる間はその者には追放しか言い渡してはおらぬからな。」

「「御意にございます。」」

 聖騎士アレンと神官長オゼルスは声を揃えてそう答えた。


 裏切り者!?裏切り者…!!裏切り者はお前達じゃないか!?


 有らん限りの魔力を持って、シショールは魔封じに抵抗する。キラキラと夢の様に光る金の魔力が謁見室に満ちて行った…














しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

【第2部完結】勇者参上!!~究極奥義を取得した俺は来た技全部跳ね返す!究極術式?十字剣?最強魔王?全部まとめてかかってこいや!!~

Bonzaebon
ファンタジー
『ヤツは泥だらけになっても、傷だらけになろうとも立ち上がる。』  元居た流派の宗家に命を狙われ、激戦の末、究極奥義を完成させ、大武会を制した勇者ロア。彼は強敵達との戦いを経て名実ともに強くなった。  「今度は……みんなに恩返しをしていく番だ!」  仲間がいてくれたから成長できた。だからこそ、仲間のみんなの力になりたい。そう思った彼は旅を続ける。俺だけじゃない、みんなもそれぞれ問題を抱えている。勇者ならそれを手助けしなきゃいけない。 『それはいつか、あなたの勇気に火を灯す……。』

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア
ファンタジー
お料理や世話焼きおかんなお姫様シャルロット✖️超箱入り?な深窓のイケメン王子様グレース✖️溺愛わんこ系オオカミの精霊クロウ(時々チワワ)の魔法と精霊とグルメファンタジー プリンが大好きな白ウサギの獣人美少年護衛騎士キャロル、自分のレストランを持つことを夢見る公爵令息ユハなど、[美味しいゴハン]を通してココロが繋がる、ハートウォーミング♫ストーリーです☆ エブリスタでも掲載中 https://estar.jp/novels/25573975

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

補助魔法しか使えない魔法使い、自らに補助魔法をかけて物理で戦い抜く

burazu
ファンタジー
冒険者に憧れる魔法使いのニラダは補助魔法しか使えず、どこのパーティーからも加入を断られていた、しかたなくソロ活動をしている中、モンスターとの戦いで自らに補助魔法をかける事でとんでもない力を発揮する。 最低限の身の守りの為に鍛えていた肉体が補助魔法によりとんでもなくなることを知ったニラダは剣、槍、弓を身につけ戦いの幅を広げる事を試みる。 更に攻撃魔法しか使えない天然魔法少女や、治癒魔法しか使えないヒーラー、更には対盗賊専門の盗賊と力を合わせてパーティーを組んでいき、前衛を一手に引き受ける。 「みんなは俺が守る、俺のこの力でこのパーティーを誰もが認める最強パーティーにしてみせる」 様々なクエストを乗り越え、彼らに待ち受けているものとは? ※この作品は小説家になろう、エブリスタ、カクヨム、ノベルアッププラスでも公開しています。

処理中です...