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49 帰宅

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「おっかえりなさい~~~~!!」

 さっき病室で久しぶりに会ったと思う、まりが家に入るなり羽織にギュウッと抱きついてきた。





 空先生から退院の連絡があった日の午前中には光生を始めまりに松花も一緒に病院にまで来てくれて…

「退院って…?もう良いの?」

 何も詳細を聞いていない羽織は突然の退院宣言に戸惑ってもいる様で…

「ん……もう終わった…」
 
 詳しく話そうとしない光君にそっと抱きしめられてしまった。

「はお君体調は…?」

 まりも気を遣ってくれてて、荷物なんかを手早く纏めてくれる。

「痛そうね…」
 
 手伝っている松花の目に羽織の傷痕が入っている様だ。

「ううん。もう痛くない。」

 明るく笑って言って見せたけど、松花ちゃんにも抱きしめられてしまった。

「後で、ゆっくり聞かせなさいよ?本当に心配してたんだからね?」

 小さい頃から一緒だからか、まりちゃんと松花ちゃんは同じ嫁と言うよりは同士とか親友とかに近いから…きっとこれからもなんでも話し合うと思う…光君にさえ言いにくい事も言ってきた仲だしね…

「うん…ごめんね?心配かけた…」

 横からまりも抱きついてくる。

「もう、はお君が元気だからいいの!これからはちゃんと大事にしないといけないんだからね?」

「うん……うん、ありがとう。」

 皆んなに抱きつかれてからの退院だったのに、家に帰ってまた抱きつかれたんだ。お帰りって言ってもらえて、やっと帰って来た実感がした。

「お帰り…羽織…」

 後ろから光君にもまた、抱きしめられた。今日はハグ率が高い……

「羽織、後で父さんと馬堀さんがここに来る。それまでゆっくりしてて。何か食べたい物あるか?」

「え?馬堀さんも?」

 普段は合わないけど何回かは挨拶した事くらいならある、面識がある程度の人だけど?

「そう。ちゃんとした謝罪と決定事項を伝えに来てくれる。」

 まりちゃんも松花ちゃんもそれを知っていた様で二人ともうんうんと肯いてて…その後はフワフワなクッションが置いてある座り心地がいいソファーに押し込められてしまった。ブランケットをかけられて、まりが入れてくれた温かいココア……一口飲めばやっと落ち着いた気がする…

「ふぅ……」

 皆んなで少しお喋りをして…しばらくしたら光大と馬堀が来訪した。

 皆んなが挨拶をして着座したところで、光大の丁寧な謝罪から今回の顛末についての説明があった。



 今回の羽織の事件の裏で手を引いていたのは、光大の妻、光生の母であるかなでである。羽織を天翔家から追い出す為に、防犯カメラの切れるあの日に校内にαの男達を誘導した。護衛が離れる様に羽矢三兄弟の一人景を理事室に呼び出して、羽矢兄弟に気がある生徒を利用して薙を、最後の一人を離れさせる為に常に彼らの行動を監視していた者に校舎外に出た宗に声をかけさせ時間稼ぎをさせた。
 
 話を聞く羽織の表情が暗く険しくなってくる。あの日の事はもう、思い出したくもない事だ。優しく落ち着いた声で淡々と話す光大と、そっと羽織の手を握り締めてしっかりと支えようとしてくる光生に励まされる様に、羽織はその後の話を聞く。

 お見合いパーティーを利用してまりが撮って来た証拠の録音音声からαの三人がかなでと繋がっている事が判明し、かなでの自供もあって三人の犯行が裏付けられた。この三人は性特性矯正施設への長期入所が決定した。刃物も使っているし列記とした犯罪行為だが、主犯を公にしない代わりに前科をつけずに矯正施設への入所で止まるように手を回した。
 かなでに対しては行った事が公になればかなでが受け持つ事業のみならず天翔グループにも多大な損害が出る事は想像に容易く、警察に被害届を出すよりはかなでを事業・社交の場から身を引かせ、光生に継がせていく手筈を整えた。そしてこれはかなでの事に留まらず、妻であるかなでの気持ちを知る事もできず、ここに至るまで止める事も出来なかった光大の責任として、光大もその責を負い一線から身を引く決意をした。かなでのみを切り捨てる事も可能だが、これからかなでは一人で山奥にある療養施設へと身を置くことになる。αとしてΩのかなでと番ったのだから光大はかなでを切り捨て天翔から切り離す事はしないだろう。これからかなでが光大に振り向いてもらえるかはわからないが、αの立場からは切り捨てる事はしない、これが光大の決定であって、これらの事を踏まえて羽織の意見を求めて来た。

 罪に問われないとしても、実質すべての権利を奪われるも同然のかなでにそれでいいのかと羽織の方が光生に目を向ける。

「いい…父さんはもっと罪を重くしてもいい位だと言ってたんだ。けど、これ以上になると俺達の仕事や生活にも関わってくる。被害を受けた上に余計な外野からいらん事を詮索されたくはないだろう?羽織はどう?」

 これでいい…光君が、そう言った。なら、それに従うのがαの番のΩだし、何の疑問もない。僕達の、僕の望みはαの夫である、光君と一緒にいられる事、それだけだよ…

「光君の決定に従います。」

 握られた手をギュッと握り返してはっきりとそう言った。

「いい目だ…不満も疑問も無いね?羽織君。寛大な判断に心から感謝するよ…」

 光大がもう一度深く頭を下げ、この件は幕を閉じた……
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