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44 お見合いパーティー 3

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 ザワザワザワ………

 明らかに会場全体の空気の色が変わった……
目の前にいるαの男もΩの女も、ピタリと動かなくなるくらいビックリしているようで、剛毅は満足げにフフン!と顎を少し上げる。

「今、なんと仰いました?」

 ざわつく人達の中をかき分けてまりの友人と言っていた詩織が近寄って来た。

「ん?天翔グループの上の人と知り合いって言ったの。この人があまりにも実家のことで上からマウントとるからさぁ。」

「まぁ!それは申し訳ないことを!大切なお客様に失礼をいたしました。私まりさんの友人でもありますが本日のパーティーの主催をしている者です。これ以上の失礼があっては天翔総帥にも申し訳が立ちませんからどうぞ、こちらにいらして下さい。少しですがお詫びをさせて下さいませ。」

 綺麗なΩに謝られて尚、なんらかのお詫びまであると言う。悪い気はしない。ただのβではなくてΩだ。嫌なαにマウントを取られはしたものの、Ωの誘いは願ったり叶ったりだ。

「ね?まりちゃんもそれでいい?」

「うん。翔さんも剛毅さんも何があったの?誘っちゃったの私だし、返ってごめんなさい…」

 詩織に連れられて別室に案内されながら、まりは二人に謝る。

「あぁいいって!まりちゃんが悪いわけじゃ無いんだし…」

「そうだよ!αの中にもあんな奴もいるんだな?嫌味なやつ…」
 
「申し訳ありません。私達の親はどこかしかの天翔グループの傘下企業で働いているんです。だから総帥に近しい方の不興を買いたくはありません。お二方はどなたとお知り合いなのでしょう?私の方からもお詫びをお伝えしなければ…」

「え?いいって!詩織ちゃんが謝ってくれただろ?なぁ?剛毅?優しいΩによくして貰っちゃったらもうどうでも良くなるよな?」
 
「あ?うん?まぁね?でも俺たちも出会いを求めてきたからなぁ、もう少しΩの子達と話したかったな…」   

「そう言う訳には行きません…大人の社会にも面倒くさいお付き合いがあって、私達にも降りかかってきてしまってますから…」

「もしかしたら、詩織ちゃん…怒られる…?」

 恐る恐るまりが聞く。

「……時と場合によるかな………」

「お父さん達も怒られちゃうの?」

「大切なお客様を蔑ろにしたとあればそうなるわね……」

「やだ……どうしよう……」

 詩織もまりも不安そうに、眉を潜めてまりはオロオロと落ち着きない。

「大丈夫だって!」

 翔がまりの肩を抱く…俯いてしまった詩織の腰に剛毅が手を回す。

「俺達だってそんなに怒ってないから、天翔のあの人だってこんなことじゃ怒らないだろ?なぁ翔!」

「それは謝ってみないとなんとも言えません。」

 詩織が答える。

「いやいやそんな事ないって!俺達その人に会って話した事もあるんだから…優しそうな人だったから!」

「本当に大丈夫ですか?」

 まりは上目使いに翔を見上げて、その表情には不安が消えない。四人と護衛が入ったのはごく普通の控え室。室内は狭く勿論互いの香りを身近に感じる事もできる距離。直ぐ近くに護衛はいるが、主人が望む時ならば勿論動かない。

 Ωの香りに擽られて誘われないαはいない…二人とも発情期では無いが、αの興味を引くには充分すぎる。

「うん。大丈夫。なんなら今連絡する事もできるし、ここでちゃんと言うよ。」

 Ωを慰めると言う形でΩの存在にのめり込んでくるαの男達……経験の浅い者程誘惑には抗え無いだろう。

「本当ですか?その人に騙されたりしてませんか?」

 そっと翔の腕に手を置いて心配そうにまりは首を傾げる。

「優しいな、まりちゃん…大丈夫。不安だったらその人に会ってみる?その人かなり年上だけどΩ。」

 ピクリと、しなかっただろうか…まりは内心冷汗が出ている。俯いて肯くような様子のまりを翔は抱き寄せてはよしよしとする様に背を何度も撫でている。

「天翔総帥に近しいΩの方?」

 詩織の質問には剛毅が得意そうに肯いている。その手はもう遠慮もなく両手が詩織の背中に回されていた。

「そう、総帥に一番近いって言ったら詩織ちゃん分かる?」

 わざとらしく顔を寄せて詩織の耳元でそぅっと囁く様に剛毅は言った。
 ピクリと詩織は身悶えする。

「何人か、お顔は浮かびますけれど…」

「へぇ!やっぱり分かるんだ。傘下グループって言うのも嘘じゃ無いんだな。」

 スルリと剛毅の手が詩織の背を伝って上へと上がる。ビクッと詩織の背がしなる。

「……何度か、お顔を、拝見した事がありますから…」
 
 俯いたままのまりの事は翔が両腕に抱きしめていた。
 
「じゃあ、見たり聞いたりしても、もう驚かないだろう?俺たちがさ言ってる知り合いって言うのは…………」

 剛毅がグッと身体を抱き寄せては、詩織の耳に唇を当てながらその名を呟く…

「……っ」

 上がりそうになる声を噛みしめながら、驚くほど外れていなかった者の名前を詩織は脳裏に焼き付けることになった…
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