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41 決意 3
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「まり、松花…今日の午後、父さんに話して来る…」
護衛と接触した者達を割り出し、話を聞き出した金曜の午後光生は父が今日出社している社の受付に来ていた。
「父に、面会を。」
「これは、いらっしゃいませ…お待ち下さい。直ぐに社長にお伝えしますので…!」
突然会社の受け付けに現れた次期総帥の光生に受付嬢達は騒然となる。まだ学生の身ではありながら光生も光大の采配でいくつかの事業のプロジェクトに参加させてもらっているし、何度か関連会社にも足を運んでいる。その為受け付けにいる社員はほとんど光生の顔を見知っている者達ばかりだ。ざわりと社の一階ロビーにはざわめきが走る。光生の顔を見知った役職者達が走って光生の元に来て挨拶しだした。
「これは!光生さん!どうされました?今日はどこかで会議でも入ってましたか?」
いかにも重役と言われたらぴったりと当てはまりそうな少し小太りした男が声をかけて小走りで近寄って来る。周りにいた人が避けて譲るくらいだから役職は上の方の者だろう。
「これは大前専務。お久しぶりです。今日はプライベートなんですが父が手が開く時間を教えてもらえないでしょうか?」
「プライベートでわざわざこちらに?」
「ええ、電話ではなく直接話したかったものですから、皆さんのお邪魔をしてしまいますが。」
「ご自宅ではなくこちらに来られるほどだ。お急ぎだったのでしょう?」
大前専務は受付社員に手をあげると、自分の携帯を取り出し、直接光大が持っている社内携帯に連絡している様だった。流石に役職者ともなると判断力もあるし機転も効く。
「お疲れ様です。大前ですが、今一階ロビーに光生さんがいらっしゃってます。これから社長室に上がってもらいますが宜しいでしょうか?」
大前専務の肯きは社長光大の許可が下りたと言う事だ。大前専務は何やら光大と話し続けながら、片手をエレベーターの方へ向けて光生を促す。光生は大前専務と他社員に頭を下げてその場を後にした。
「どうした?連絡も無く来るとは。驚いたね。」
今の今まで何かの書類に目を通していたのだろう。秘書が書類の束を腕に抱えて一度社長室から離れていく。
「すみません、父さん。忙しいのは分かっていたんですが、どうしても直接言いたくて…」
「そして、急いでいる、か?」
「そうですね。」
「どこまで報告を受けてます?」
「優季からかい?」
社長室の重厚な机の前に進み出た光生は静かに肯く。
「あれは余計なことは言わないけどね。まぁ、犯人を見つけたくらいか?」
ふ…父も余計なことは言わないタイプ、ならばもう少し詳しく聞いているはず…
「その人達をある場所に招待したいと思っているのですが…案内人は家のまりで。」
光生の言葉に少し光大が驚いた顔をする。
「まりちゃんを使うのかい?ほぉ……?αは自分の物を手放さない傾向にあるんだがね?」
複数という犯人の人数も光大は聞いている様だ。
「ええ、そうでしょうね。実際ものすごく嫌です。」
あからさまに嫌な顔になる光生。他人の前ならばこんな顔を見せないが、光大は父親でその気易さが光生はまだまだ子供だと光大に思わせている。可愛いところがあると光大も思ってはいるが顔には出さない。
「嫌なのに、羽織君のためならやるんだろう?お前も、まりちゃんも、きっと松花ちゃんもだな?」
「えぇ、やるでしょうね。」
それも喜んで、だからたちが悪い。揃いも揃って自分まで犠牲になるかも知れない選択肢を選びそうなのばかり揃っているので実は光生は気が気ではない。αならやるな、と命令するだけでいいのだが自分の気持ちだけで彼女達を縛りたくはない光生。だからこの道を選び取ってしまった自分の義務としてこの気持ちも負っていく覚悟だ。
「ふふっいい目になって来たな…自分の思い通りにならない事の方が実際は多いさ、な?光生?それでも俺達には守るべき者がいる。」
「だから、ここに来ました。」
「いいだろう。で?私は何をすればいいのかな?」
しゃんと背を伸ばし堂々とはっきりと父親に告げた内容は、さらに父光大を驚かす。
「はぁぁ…本気かね?」
「冗談でこそ、こんな事はしないでしょう?」
頭を抱え込んでしまいそうな父を上から見下ろす形で見つめている光生。その瞳には迷いは無くて自分の気持ちには上手く区切りをつけて来たのが良くわかった。
「そこまでする必要がある相手なんだろうね?」
「………おそらくは…」
光大の言う相手、とは犯人達を焚き尽けて誘導したであろう者のことを言っている。
「良いだろう…!書こう。」
逡巡した父が、真新しい紙を用意し光生が言う内容のままに書き連ねて行った…
護衛と接触した者達を割り出し、話を聞き出した金曜の午後光生は父が今日出社している社の受付に来ていた。
「父に、面会を。」
「これは、いらっしゃいませ…お待ち下さい。直ぐに社長にお伝えしますので…!」
突然会社の受け付けに現れた次期総帥の光生に受付嬢達は騒然となる。まだ学生の身ではありながら光生も光大の采配でいくつかの事業のプロジェクトに参加させてもらっているし、何度か関連会社にも足を運んでいる。その為受け付けにいる社員はほとんど光生の顔を見知っている者達ばかりだ。ざわりと社の一階ロビーにはざわめきが走る。光生の顔を見知った役職者達が走って光生の元に来て挨拶しだした。
「これは!光生さん!どうされました?今日はどこかで会議でも入ってましたか?」
いかにも重役と言われたらぴったりと当てはまりそうな少し小太りした男が声をかけて小走りで近寄って来る。周りにいた人が避けて譲るくらいだから役職は上の方の者だろう。
「これは大前専務。お久しぶりです。今日はプライベートなんですが父が手が開く時間を教えてもらえないでしょうか?」
「プライベートでわざわざこちらに?」
「ええ、電話ではなく直接話したかったものですから、皆さんのお邪魔をしてしまいますが。」
「ご自宅ではなくこちらに来られるほどだ。お急ぎだったのでしょう?」
大前専務は受付社員に手をあげると、自分の携帯を取り出し、直接光大が持っている社内携帯に連絡している様だった。流石に役職者ともなると判断力もあるし機転も効く。
「お疲れ様です。大前ですが、今一階ロビーに光生さんがいらっしゃってます。これから社長室に上がってもらいますが宜しいでしょうか?」
大前専務の肯きは社長光大の許可が下りたと言う事だ。大前専務は何やら光大と話し続けながら、片手をエレベーターの方へ向けて光生を促す。光生は大前専務と他社員に頭を下げてその場を後にした。
「どうした?連絡も無く来るとは。驚いたね。」
今の今まで何かの書類に目を通していたのだろう。秘書が書類の束を腕に抱えて一度社長室から離れていく。
「すみません、父さん。忙しいのは分かっていたんですが、どうしても直接言いたくて…」
「そして、急いでいる、か?」
「そうですね。」
「どこまで報告を受けてます?」
「優季からかい?」
社長室の重厚な机の前に進み出た光生は静かに肯く。
「あれは余計なことは言わないけどね。まぁ、犯人を見つけたくらいか?」
ふ…父も余計なことは言わないタイプ、ならばもう少し詳しく聞いているはず…
「その人達をある場所に招待したいと思っているのですが…案内人は家のまりで。」
光生の言葉に少し光大が驚いた顔をする。
「まりちゃんを使うのかい?ほぉ……?αは自分の物を手放さない傾向にあるんだがね?」
複数という犯人の人数も光大は聞いている様だ。
「ええ、そうでしょうね。実際ものすごく嫌です。」
あからさまに嫌な顔になる光生。他人の前ならばこんな顔を見せないが、光大は父親でその気易さが光生はまだまだ子供だと光大に思わせている。可愛いところがあると光大も思ってはいるが顔には出さない。
「嫌なのに、羽織君のためならやるんだろう?お前も、まりちゃんも、きっと松花ちゃんもだな?」
「えぇ、やるでしょうね。」
それも喜んで、だからたちが悪い。揃いも揃って自分まで犠牲になるかも知れない選択肢を選びそうなのばかり揃っているので実は光生は気が気ではない。αならやるな、と命令するだけでいいのだが自分の気持ちだけで彼女達を縛りたくはない光生。だからこの道を選び取ってしまった自分の義務としてこの気持ちも負っていく覚悟だ。
「ふふっいい目になって来たな…自分の思い通りにならない事の方が実際は多いさ、な?光生?それでも俺達には守るべき者がいる。」
「だから、ここに来ました。」
「いいだろう。で?私は何をすればいいのかな?」
しゃんと背を伸ばし堂々とはっきりと父親に告げた内容は、さらに父光大を驚かす。
「はぁぁ…本気かね?」
「冗談でこそ、こんな事はしないでしょう?」
頭を抱え込んでしまいそうな父を上から見下ろす形で見つめている光生。その瞳には迷いは無くて自分の気持ちには上手く区切りをつけて来たのが良くわかった。
「そこまでする必要がある相手なんだろうね?」
「………おそらくは…」
光大の言う相手、とは犯人達を焚き尽けて誘導したであろう者のことを言っている。
「良いだろう…!書こう。」
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