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12 嫁達

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「お嫁に来たからにはしっかりとした赤ちゃんを産んでもらいますよ。」

 この家に来た幼いあの日。初めて光生のお母さんから聞いた台詞はこのとおり。

 お嫁さん……?頭の中にハテナがいっぱいのこの部屋の子供達。

「あぁ、かなで。まだこの子達分かってないんじゃ無いかな?」

 大きな部屋の中央にあるしっかりとした椅子に座っている凄く優しそうな人がニッコリと笑いかけながら話しかけてくれた。

 この人良い匂い……もっと近くに寄って匂いを嗅ぎたい…きっと他の子も同じだ。顔まで赤くしてる子もいるし、皆んなモジモジして落ち着かない。

「あら、分かって居なくても、貴方の事はよく分かるみたいですよ?光大さん?」

 かなでさんは光大さんの隣に立って居て、チロリと視線を隣に座る光大さんに送ってた。

「ん~~見た事ないかな?真っ白なウエディングドレスを来た花嫁さん。」

「あ!花嫁さん!?知ってる!親戚のおねぇちゃんがなったの!」

 可愛らしいサラサラの髪の子が嬉しそうに話し出す。

 花嫁さん?花嫁さんって女の子だよね?僕、男だよ?更にハテナが加わって盛大に首を傾げた羽織。

「僕、男だよ?」

 男の子にしては線の柔らかそうな声の高い羽織。女の子としても十分通じるくらいの愛くるしさはある。羽織の言葉に椅子に座っている光大さんから視線を移さなかった子達が羽織を見つめた。

「本当だ。男の子だね?」

「うん……」

 初めてみんなの顔を見たけど、どの子も優しそうな雰囲気があってちょっと落ち着いた。

「ふふふ…見た目はね?皆んなお母さんになれる人って知っているだろう?」

「女の人!」

「あと、Ωの人!」

 性特性の周知の為にα、β、Ω性に対する国を上げての啓発活動が盛んに行われている昨今、幼稚園に入るか入らないか位の子供からでもこれくらいの答えを得る事が出来るくらいには周知されている。

「僕…Ωだ……」

 そう言えば、風邪をひいてもいないのに時々病院に行く。時々薬も飲んでたんだった。

「あ、私もだ。」

「皆んなも同じ薬飲んでるの?」

 次から次へとこの部屋にいる子供達は自分の性特性を思い出す。生まれ間も無い時からΩ性が判断できる子供達は、発情期こそ年相応に現れるが、α性を興奮させ発情状態にする誘引ホルモンを微々たる量だが出し続けてしまう特性もある。その子らに合わせて、数日から一月に一度は微量の抑制剤を飲む事でそのホルモンを抑えることができる為、彼らにとってはいつもの馴染みの薬だ。

「そう、皆んなΩだね?Ωの人は男の子でもお母さんになるんだよ。」

 ニッコリと笑うその光大さんは、やっぱり良い匂いで…

「家にもねαの息子がいるんだ。」
 
 ピクと何故か反応してしまう。ずっとこの部屋で光大さんの匂いを嗅いでいたからかもしれないけど…

「君達はその子のお嫁さんなんだ。」

 びっくりした。

 「プロポーズされてないよ?結婚してくださいって言われないと結婚できないんでしょ?」

 年相応のおしゃまな子が知っている知識を口にする。

「そうだね…でも君達はきっとその子が好きになる。きっとね。今からここに来るから会ってごらん。」

 光大さんが言ってた子が部屋に入ってくれば、光大さんの匂いに混じってその子の匂いも漂ってきた……

「いい匂い……」

 きっと気に留めずにポツリと呟いたつもりだった。

「貴方達はあの子に仕えるΩですからね?」
 
 かなでさんがじっとこっちを見てそう言ったけど、光大さんの目より優しいとは感じなかった。それよりも、少し嫌そうな顔をしていたのはなんでだろう?ってずっと思っていたんだ…

「あの子はね、こうきって言うんだよ。光生この子達は君のお嫁さんになる子達だよ。君はこの子達を大事に守らなくてはいけないからね?」

「お嫁さん?」

 光生、というαの子もお嫁さんが何か良く分かっていないみたいで、一緒だなってホッとした。

「そう、この子がまりちゃん、松花ちゃん、羽織君だよ。仲良くね?」

 こっちをじっと見つめていた光生君はパァッと顔を輝かせて凄く喜んでくれた。なんだか光生君の匂いも花が咲いたみたいに感じるから不思議…

「今日からここに住むからね。光生、分からない事があったり、困っている子達がいたら必ず助けてあげるんだよ?」

 光大さんが光生君の目をじっと見つめていい諭す。

 黒く深い色の瞳をパチクリさせながら光生君は光大さんを見つめ返して、すかさず飛び跳ねる勢いで喜んでいた。

 けれど、光生の喜ぶ姿と反対に子供達の表情には不安が募る。案の定他の子も同じで家に帰ることができない事にショックを受け、何日も泣いていた。心配した両親が数日泊まり込んでくれたけど、これ以上近くに居たら尚離れられなくなると言ってどの家族も一旦帰ってしまったから。

 羽織がフラリと光生に近寄って遊び出すまで、その後数日大きな母屋には子供達の泣き声が響いていた…
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