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116、ゴーリッシュ侯爵領 3
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ゴーリッシュ侯爵領は、何というか、領民がというか、領民も、というかかなりエネルギッシュな気質を持つものだと思わさざるをえない………
すっかりとヒュンダルンの逞しい肩に身を預けて深い眠りについていたウリートではあるが、時折聞こえてくる外の喧騒で目が覚める。
「なに……?」
屋敷にいては聞くことのできない大勢の人々の声…叫び声?……争う声……?…喧嘩…?叫び声は叫び声でも争う声ではなさそう…?
「起きたか?」
低いヒュンダルンの優しい声が直ぐ横で聞こえて来てウリートはホッと息をつく。
「ヒュン…この騒ぎは?」
「ん?」
かなりの喧騒なのにヒュンダルンは全くと言って良いほど気にしていないらしい。それよりも、ウリートが寒くない様にと肩に掛け物をかけ直している。
「ああ、領民達が騒いでいるのだ。」
「騒いでいる?」
何か問題でも?
状況がわからないウリートは短いヒュンダルンの説明に納得はできなかった様だ。
「ご安心くださいませウリート様。外にいる人々は若様とウリート様のお迎えをしているのです。」
寝起きのウリートの為に休憩地で仕入れて置いた新鮮な果物を差し出しながらマリエッテが説明を付け加えてくれた。
「そうだ。ここの連中はお祭り騒ぎが好きでな…静かに帰って来たかったんだが、見つかってしまったな…」
やれやれと顔を顰めるヒュンダルンではあるが、領主となる身であるならばここに集まっている民は護るべき民で……
「良いのですか?あの歓声に答えてなくて?」
喧嘩の様な喧騒にも聞こえている外の声が、歓声なのかどうかいまいちウリートには自信がないのだが、次期領主としたならば顔くらいは見せてやるものでは?
「ああ、やめておいた方がいいぞウリー。奴らつけあがるからな。俺が顔を出したらここぞとばかりに腕に自信がある者が襲いかかってこんとも限らない。」
「……え………?」
領地民が領主それも次期領主に襲いかかることなんてあって良い事?そんな事をしたら不敬罪か何かで………
「フ…違うよウリー…」
ククク……
寝起きで寝ぼけた顔が驚きでなお呆けている…そんなウリートの表情が面白かったのか、ヒュンダルンは肩を震わせながら笑いを堪える。
「ここの者達は、腕に自信を持つものが多い。」
「ウリート様もお聴きになったことがございましょう?ゴーリッシュ領からの騎士の出が多いと。」
「うん…」
ゴーリッシュ侯爵領は優秀な騎士を多く出す領地で有名だ。国境の肥沃なゴーリッシュ領は他国からの略奪者が領民と争おうする事も多く、領民の若者達は王国や領地の騎士に立候補しこの地を守ろうとする者が多いのだそう。
日々研鑽を怠る事なからず、がこの地の教育の基礎でもある。これのためか上を目指そうとする向上心ある若者が多く、名のある騎士と聞くや飛び掛からん勢いで手合わせを求めてくる。そしてヒュンダルンはオークツ国でも最強と謳われる第一騎士団の団長を務めているのだ。合間みえられる機会があるのならば我先にと手合わせをという突撃を仕掛けられることくらい火を見るよりは明らかだ。
「……愛されて、おいでですね?」
何というか、他にピッタリな言葉が見つからない。身分の差を物ともせずに貴族に、そして領主と嬉々として渡り合おうとする領民達からは、これでもかと慕われているのだろうヒュンダルンの姿が浮かんできてはウリートの心を擽る。領民に慕われる頼もしい次期領主が自分の伴侶なのだから自分の事の様に嬉しくも感じる。
「…だからウリー?俺を甘やかすなと言っているだろう?俺の有り様を全て受け止めて認めてしまったら、俺は国1番の勝手気ままなお気軽亭主になってしまう…」
呆れてた様な、けれども優しさ満載の笑顔をウリートに向けて、ヒュンダルンはウリートに小さく呟く。
「良いですよ?」
ニッコリとウリートは満足そうに微笑んで満面の笑顔を向けてきた。
「……ウリー…」
「僕はヒュンがヒュンであればいいんです。お心のままにいてください。」
どんな時でも、ヒュンの思うままに…
「……ここが……馬車じゃなかったらな………」
「ヒュン、何です?」
口元を押さえてボソリと呟いたヒュンダルンが何と言ったのか聞き返そうとしたのだが、グイッと引き寄せられてウリートはそれもできなくなる。スッポリとヒュンダルンの腕の中に包まれてその熱と香りに満たされれば、これ以上無い安心感とフワフワ高揚してくる気持ちでウリートは一杯になってしまう。
ニコニコ、ニコニコ言葉は無いけれども笑顔を絶やさないマリエッテに見守られ、領民の歓声を浴びつつゴーリッシュ侯爵邸へと馬車は進んでいった。
すっかりとヒュンダルンの逞しい肩に身を預けて深い眠りについていたウリートではあるが、時折聞こえてくる外の喧騒で目が覚める。
「なに……?」
屋敷にいては聞くことのできない大勢の人々の声…叫び声?……争う声……?…喧嘩…?叫び声は叫び声でも争う声ではなさそう…?
「起きたか?」
低いヒュンダルンの優しい声が直ぐ横で聞こえて来てウリートはホッと息をつく。
「ヒュン…この騒ぎは?」
「ん?」
かなりの喧騒なのにヒュンダルンは全くと言って良いほど気にしていないらしい。それよりも、ウリートが寒くない様にと肩に掛け物をかけ直している。
「ああ、領民達が騒いでいるのだ。」
「騒いでいる?」
何か問題でも?
状況がわからないウリートは短いヒュンダルンの説明に納得はできなかった様だ。
「ご安心くださいませウリート様。外にいる人々は若様とウリート様のお迎えをしているのです。」
寝起きのウリートの為に休憩地で仕入れて置いた新鮮な果物を差し出しながらマリエッテが説明を付け加えてくれた。
「そうだ。ここの連中はお祭り騒ぎが好きでな…静かに帰って来たかったんだが、見つかってしまったな…」
やれやれと顔を顰めるヒュンダルンではあるが、領主となる身であるならばここに集まっている民は護るべき民で……
「良いのですか?あの歓声に答えてなくて?」
喧嘩の様な喧騒にも聞こえている外の声が、歓声なのかどうかいまいちウリートには自信がないのだが、次期領主としたならば顔くらいは見せてやるものでは?
「ああ、やめておいた方がいいぞウリー。奴らつけあがるからな。俺が顔を出したらここぞとばかりに腕に自信がある者が襲いかかってこんとも限らない。」
「……え………?」
領地民が領主それも次期領主に襲いかかることなんてあって良い事?そんな事をしたら不敬罪か何かで………
「フ…違うよウリー…」
ククク……
寝起きで寝ぼけた顔が驚きでなお呆けている…そんなウリートの表情が面白かったのか、ヒュンダルンは肩を震わせながら笑いを堪える。
「ここの者達は、腕に自信を持つものが多い。」
「ウリート様もお聴きになったことがございましょう?ゴーリッシュ領からの騎士の出が多いと。」
「うん…」
ゴーリッシュ侯爵領は優秀な騎士を多く出す領地で有名だ。国境の肥沃なゴーリッシュ領は他国からの略奪者が領民と争おうする事も多く、領民の若者達は王国や領地の騎士に立候補しこの地を守ろうとする者が多いのだそう。
日々研鑽を怠る事なからず、がこの地の教育の基礎でもある。これのためか上を目指そうとする向上心ある若者が多く、名のある騎士と聞くや飛び掛からん勢いで手合わせを求めてくる。そしてヒュンダルンはオークツ国でも最強と謳われる第一騎士団の団長を務めているのだ。合間みえられる機会があるのならば我先にと手合わせをという突撃を仕掛けられることくらい火を見るよりは明らかだ。
「……愛されて、おいでですね?」
何というか、他にピッタリな言葉が見つからない。身分の差を物ともせずに貴族に、そして領主と嬉々として渡り合おうとする領民達からは、これでもかと慕われているのだろうヒュンダルンの姿が浮かんできてはウリートの心を擽る。領民に慕われる頼もしい次期領主が自分の伴侶なのだから自分の事の様に嬉しくも感じる。
「…だからウリー?俺を甘やかすなと言っているだろう?俺の有り様を全て受け止めて認めてしまったら、俺は国1番の勝手気ままなお気軽亭主になってしまう…」
呆れてた様な、けれども優しさ満載の笑顔をウリートに向けて、ヒュンダルンはウリートに小さく呟く。
「良いですよ?」
ニッコリとウリートは満足そうに微笑んで満面の笑顔を向けてきた。
「……ウリー…」
「僕はヒュンがヒュンであればいいんです。お心のままにいてください。」
どんな時でも、ヒュンの思うままに…
「……ここが……馬車じゃなかったらな………」
「ヒュン、何です?」
口元を押さえてボソリと呟いたヒュンダルンが何と言ったのか聞き返そうとしたのだが、グイッと引き寄せられてウリートはそれもできなくなる。スッポリとヒュンダルンの腕の中に包まれてその熱と香りに満たされれば、これ以上無い安心感とフワフワ高揚してくる気持ちでウリートは一杯になってしまう。
ニコニコ、ニコニコ言葉は無いけれども笑顔を絶やさないマリエッテに見守られ、領民の歓声を浴びつつゴーリッシュ侯爵邸へと馬車は進んでいった。
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