[完]腐違い貴婦人会に出席したら、今何故か騎士団長の妻をしてます…

小葉石

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105、叶えた想い 2

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「ウリーおはよう……」
  
 少し掠れた低い声…僕の大好きな声が、シトラスの香りと共に、耳元で囁きかけてくる…

 でも……目が、開かない……ヒュンが誰かと話しているのは分かるのだけど、身体が、動かない…どう、したんだっけ?

「お目覚めですか?」

 マリエッテだ…

 朝の陽射しと言うには強すぎる明るさに、朝はとっくに過ぎてしまっていると分かった。けれどもこんな時間まで起きられないなんて、また熱でも出した?

「ウリート様?寝ぼけておられます?」

 ボゥッとする頭のままマリエッテを見た。いつもの様に侍女のお仕着せで心配そうに立っている彼女の眼が、赤い…

 泣いてたの?

「…マリエッテ…?」

 うわ……僕、ひっどい声だ……これは、嫌でも心配させてしまう。

「ごめん、泣いてた?」

「いいえ、ご心配には及びません。これは武者喜びの名残ですから……そんな事より、喉が乾いておいででしょう?こちらに果実水といつもの栄養ドリンクがありますわ。お好きな桃味にしておりますから。」

 起きられますか?いつもと変わらない仕草でマリエッテはウリートの介助をしてくれる。

 けど、マリエッテ…武者喜びって何?そんな言葉あっただろうか?

「お身体、辛く無いですか?」

 気遣わしげなマリエッテの言葉通り、身体が物凄くだるい………マリエッテの手を借りて、やっと座ることが出来た。

 特に、下半身が……

「今日は一日ゆっくりとお休みくださいと、若様から言付かっておりますよ。」

 甲斐甲斐しくベットの上に朝食の準備をしてくれるマリエッテの言葉に、ヒュンが出てきた。

「そうだ……ヒュン、は?」

 そう言えば……昨日………
 
 ボゥッとした頭が急に目醒めて、昨日のあれこれを思い出し、一気に顔が熱くなった…

 それなのに、ヒュンがいない………

「先程まで、ずっっっとウリート様のお側に居られたのですよ?どうしても外せない用事のために今は外出中ですが、直ぐに戻ってこられます。」

「そ、そう?」

 まるで、拗ねている子どもみたいだ。あれだけ一緒に過ごしたのに、今ここにヒュンが居ないだけで、物凄くモヤモヤする…

「まずは、お喜び申し上げます。ウリート様。結婚式はまだですが、真のご夫婦となられました事、このマリエッテは、心からのお祝いを申し上げます。」

 いつもしない様な貴人に対する正式な礼をして、マリエッテは祝辞を述べた。

「…マリエッテ……」

 くすぐったい…いつもの事だけれども、常に側にいる者に全てを知られる事は、心強いのとくすぐったいのと…これは、自分の望んだ結果だけれども……

「ありがとう…」

 くすぐったいけれども、恥ずかしいのより、正しくは叫び出したいほどの喜びが勝っているな…

 照れ臭そうに、マリエッテにウリートは微笑みを返す。

「あぁぁ………貴方様のお側に付き従ったあの日から……こんな日を迎える事が出来るなんて…どれだけ、どれだけ……………!」

 マリエッはその場に蹲って泣き出してしまう。

「ま、マリエッテ…!泣かないでよ
!」
 
 幼い頃から側にいすぎて、一番近くで何度も死にそうになっているウリートを見てきた彼女ならではで、感極まってしまって主人の前だと言うのに耐えられなかった様だ。

「マリエッテ……」

 そんな姿を見せられたら、ウリートだって胸が詰まってしまう。
 
「………申し訳ありませんでした!さ、お食事の続きをいたしましょう。その後は湯浴みですね。そして若様がお帰りになるまで、ゆっくり過ごしましょうね?」

 なんだか変にしんみりとしながら、ウリートは食事を済ませ、マリエッテが用意してくれた、香油をたっぷりと使った湯に入る。マリエッテが念入りに身体も解してくれて、今起きたばかりだと言うのに、もう一度睡魔に飲み込まれそうになる。

「宜しいですよ?お休みになって下さいませ。若様がお戻りになりましたらお声をおかけしますから…」

 お腹もいっぱいで、身体も解して貰って随分と楽になった。思いも遂げて、もう思い残すことなんて何も無いと、そんな風に思える程に胸がいっぱいだ。

「マリエッテ…どんな風に、返したら良い?」

「何をです?」

「一番強く思っていた事が、叶ったんだ…何を返したらいいんだろう?」

 こんなに幸せに満たされるなんて思わなかったんだ。あげるって差し出した方がこんなに満足してしまって良いんだろうか?

「ウリート様…何も、返すなんて事お考えにならないで下さいませ。若様はきっといつも幸せそうにお笑いになるウリート様が見たいのです。きっと、それだけですわ。私もです。貴方様の幸せな姿が見たいのです。だから、もっと、もっと!幸せになって頂かなければ!」
 
 何か、返事がしたいのに…グッと込み上げてくるもので視界が霞む…

 だからただ、頷いてすぐに掛け物を被ってしまった。嫌な態度だっただろうに、マリエッテはいつもの様に優しくベッドを整えて、そっと側を離れていく。




























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