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103、触れてはいけない者 3
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「ここにいる…!」
ヒュンダルンは直ぐにベッドに駆け寄って来た。何か飲み物を準備してしようとしていたらしいのだが、そのグラスを放り出して駆け寄って来た。そしてウリートの側で跪いて、大きな両手で頬をそっと包んでくれる。
「…痛む所は?身体に、違和感は無いか?」
こんな時、ウリートよりも酷い表情をして、自分が泣きそうになっている事にきっとヒュンダルンはまだ気がついていない。
先に、絶対に死ねないって心に決めたばかりなのに…またこんなにも心配させてしまった…
「ヒュン…」
ウリートが広げた両手に応える様に、ヒュンダルンは、ベッド上で寝ているウリートをしっかりと抱きしめる。
「痛むところも、違和感もありません…」
身体は問題無いみたいだ。ただ、喉の違和感はまだ残ってる。
「そうか……」
抱きしめながら、グリグリと頭と頬を擦り付けてくるヒュンダルンの頭をウリートは撫で続ける。
「僕、どうなったんでしょうか?」
途中から意識がぼんやりとしていて、よく覚えていない。
「忘れていい…」
「そんなはずないでしょう?」
あの場にいたパナイム商団の若様という嫌な男はどうなって、誰があそこから助け出してくれたの?
「ふぅ……」
ヒュンダルンはため息を一つ吐いて、ウリートの瞳をじっと見つめてきた。
「話したら、一つ願いを叶えてくれるか?」
「ん…と。事の顛末を僕がヒュンから聞いたらって事ですよね?」
「あぁ…」
酷く真剣な顔つきで、そんなことを言ってくるから、少しだけ身構えてしまう。
「う…少し、怖いですけど…でも、どうなったかは知りたいです……」
そう応えると苦笑とも言える微笑みを浮かべてヒュンダルンは話し出す。
ウリートを娼夫か何かと間違えて遊ぼうとしていたのは、パナイム商団と言う国内屈指の商団の一つの長男だと言う。これがまた遊び人で、本家にも寄り付かない様な放蕩息子なのだそうだ。
遺跡の裏のあの場所は人目につかない絶好の逢引ポイントとしてその道の人々にはかなり有名らしい。今日もそこで、誰か相手を探している様な者と少し遊ぼうと思って待機していたのだそうだ。そこへ、何故だかウリートがアクロース家から派遣されてきた娼夫という事になって、パナイム商団の馬車の中に連れ込まれた。
ウリートが馬車に連れ込まれている間に、マリエッテが迅速に動き騎士を引き連れて捜索してくれていた。そしてパナイム商団の馬車で気を失っているウリートを発見後、ヒュンダルンとアランド、騎士達が到着した。
パナイム商団長男は、アランドと共に今は商団に連行されている。そこで商団主である父親から勘当を言い渡される事だろう。
「勘当…ですか?」
ウリートはどこも怪我をしていなかったのだが…?
「それでもだ…お前の肌に、傷一つでも付けられていたのなら、あの時アランドが止めても、問答無用で俺は奴を切り捨てていた…」
ヒュンダルンの瞳が剣呑な光を灯す。ウリートには、少し怖く感じる光だ。
でも、これも愛するヒュンだから………
ウリートはそっと、ヒュンダルンの頬を撫でて先を促す。
切り捨てて、地の塵にでも換えてやりたかったのは山々だが、パナイム商団とアクロース侯爵家には深いつながりがある。
「………我が家ですか?」
初耳である。
「詳しくは後でアランドに聞いてくれ?」
撫でてくれたウリートの手にヒュンダルンはキスを落としながら、先を続ける。
アランドとは切ってきれない関係から、パナイム商団の長男の処遇についてはアランドが買って出てくれたのだ。後は親である商団主が息子の行く末を決めていく事だろうが、高位貴族を貶める形となってしまった今回の件については生優しい結果にはならないだろう。
「あの人、僕の事をアクロース家の使い走りか何かだと思っていたみたいで、僕の存在を知らなかったのでは無いですか?」
そんな事は、言い訳にもならない。アランドは以前、パナイム商団主宛にアクロース侯爵家の家族画を送っているからだ。もし、長男が自分の勤めを果たしていたならば、フラフラと遊びまわらなければ、当主からの通達もしっかりと受け取れていたのだろうに…自分の欲を優先し、次期当主として自分を律して来なかった者の付けが回ってきただけの事。
こんな時は貴族であっても厳しい決断を迫られるものである。
「さあ、ウリート…俺は知っている事は全て話したぞ?」
今後の事はこれからこちらに伝わってくるはずだ。
ヒュンダルンの話は終わった。今度はウリートが一つ、ヒュンダルンの望みを叶える番だ。
「マリエッテにも、お礼を言わなくては…」
これから望みを叶えようとしている筈なのに、ヒュンダルンは苦しそうな顔をしているから、ウリートも少し胸が痛む。
ヒュンの望みを叶える事で、心配も不安も解消できるのだろうか…
「マリエッテは、後でもいい。」
そう言えば、ここにマリエッテはいない。いつもの彼女ならばきっと側を離れないだろうと思っていたのだけれど…
「ヒュンの、望みって…?」
苦しそうなヒュンダルンが、今にも泣きそうに甘えたから、ウリートはキュッとヒュンダルンを抱きしめた。
「ウリー…お前を、失おうとした時の、あの苦しみを、また味わうかと思った……」
自分の努力も、力も、知識も、地位も、財力も全てをもってしても取り返しのつかない…あんな恐ろしい程の喪失感を、また体験するのかと、ヒュウダルンは悶々とその恐怖に耐えていたのだ。
「ウリー…お前は、俺のものだ…誰が、何と言おうと…!もう、誰かが、お前に触れるのを許したくは無い…!」
「ええ、僕は、貴方のものですよ?ヒュン……貴方の望みは?」
「……ウリーが、欲しい…!」
苦しみ揺れる瞳の奥に、ヒュンダルンの正直な欲望が見え隠れする。
「それは、駄目です、ヒュン……だって、それは僕の望みでもあるんですから…」
貴方だけの望では無いでしょう?
ヒュンダルンの首に回した両腕に力を込めて、ウリートはヒュンダルンを引き寄せる。チュッと軽く互いの唇を触れさせて、ウリートはうっとりとするくらい、柔らかい笑顔でヒュンダルンに微笑みかけた。
「僕の方こそ、貴方に全部上げたいんです…拒否なく、全部ですよ?」
ウリートが上目遣いに見上げる表情が余りにも色っぽくて、思わずヒュンダルンの喉が鳴る…
ヒュンダルンは直ぐにベッドに駆け寄って来た。何か飲み物を準備してしようとしていたらしいのだが、そのグラスを放り出して駆け寄って来た。そしてウリートの側で跪いて、大きな両手で頬をそっと包んでくれる。
「…痛む所は?身体に、違和感は無いか?」
こんな時、ウリートよりも酷い表情をして、自分が泣きそうになっている事にきっとヒュンダルンはまだ気がついていない。
先に、絶対に死ねないって心に決めたばかりなのに…またこんなにも心配させてしまった…
「ヒュン…」
ウリートが広げた両手に応える様に、ヒュンダルンは、ベッド上で寝ているウリートをしっかりと抱きしめる。
「痛むところも、違和感もありません…」
身体は問題無いみたいだ。ただ、喉の違和感はまだ残ってる。
「そうか……」
抱きしめながら、グリグリと頭と頬を擦り付けてくるヒュンダルンの頭をウリートは撫で続ける。
「僕、どうなったんでしょうか?」
途中から意識がぼんやりとしていて、よく覚えていない。
「忘れていい…」
「そんなはずないでしょう?」
あの場にいたパナイム商団の若様という嫌な男はどうなって、誰があそこから助け出してくれたの?
「ふぅ……」
ヒュンダルンはため息を一つ吐いて、ウリートの瞳をじっと見つめてきた。
「話したら、一つ願いを叶えてくれるか?」
「ん…と。事の顛末を僕がヒュンから聞いたらって事ですよね?」
「あぁ…」
酷く真剣な顔つきで、そんなことを言ってくるから、少しだけ身構えてしまう。
「う…少し、怖いですけど…でも、どうなったかは知りたいです……」
そう応えると苦笑とも言える微笑みを浮かべてヒュンダルンは話し出す。
ウリートを娼夫か何かと間違えて遊ぼうとしていたのは、パナイム商団と言う国内屈指の商団の一つの長男だと言う。これがまた遊び人で、本家にも寄り付かない様な放蕩息子なのだそうだ。
遺跡の裏のあの場所は人目につかない絶好の逢引ポイントとしてその道の人々にはかなり有名らしい。今日もそこで、誰か相手を探している様な者と少し遊ぼうと思って待機していたのだそうだ。そこへ、何故だかウリートがアクロース家から派遣されてきた娼夫という事になって、パナイム商団の馬車の中に連れ込まれた。
ウリートが馬車に連れ込まれている間に、マリエッテが迅速に動き騎士を引き連れて捜索してくれていた。そしてパナイム商団の馬車で気を失っているウリートを発見後、ヒュンダルンとアランド、騎士達が到着した。
パナイム商団長男は、アランドと共に今は商団に連行されている。そこで商団主である父親から勘当を言い渡される事だろう。
「勘当…ですか?」
ウリートはどこも怪我をしていなかったのだが…?
「それでもだ…お前の肌に、傷一つでも付けられていたのなら、あの時アランドが止めても、問答無用で俺は奴を切り捨てていた…」
ヒュンダルンの瞳が剣呑な光を灯す。ウリートには、少し怖く感じる光だ。
でも、これも愛するヒュンだから………
ウリートはそっと、ヒュンダルンの頬を撫でて先を促す。
切り捨てて、地の塵にでも換えてやりたかったのは山々だが、パナイム商団とアクロース侯爵家には深いつながりがある。
「………我が家ですか?」
初耳である。
「詳しくは後でアランドに聞いてくれ?」
撫でてくれたウリートの手にヒュンダルンはキスを落としながら、先を続ける。
アランドとは切ってきれない関係から、パナイム商団の長男の処遇についてはアランドが買って出てくれたのだ。後は親である商団主が息子の行く末を決めていく事だろうが、高位貴族を貶める形となってしまった今回の件については生優しい結果にはならないだろう。
「あの人、僕の事をアクロース家の使い走りか何かだと思っていたみたいで、僕の存在を知らなかったのでは無いですか?」
そんな事は、言い訳にもならない。アランドは以前、パナイム商団主宛にアクロース侯爵家の家族画を送っているからだ。もし、長男が自分の勤めを果たしていたならば、フラフラと遊びまわらなければ、当主からの通達もしっかりと受け取れていたのだろうに…自分の欲を優先し、次期当主として自分を律して来なかった者の付けが回ってきただけの事。
こんな時は貴族であっても厳しい決断を迫られるものである。
「さあ、ウリート…俺は知っている事は全て話したぞ?」
今後の事はこれからこちらに伝わってくるはずだ。
ヒュンダルンの話は終わった。今度はウリートが一つ、ヒュンダルンの望みを叶える番だ。
「マリエッテにも、お礼を言わなくては…」
これから望みを叶えようとしている筈なのに、ヒュンダルンは苦しそうな顔をしているから、ウリートも少し胸が痛む。
ヒュンの望みを叶える事で、心配も不安も解消できるのだろうか…
「マリエッテは、後でもいい。」
そう言えば、ここにマリエッテはいない。いつもの彼女ならばきっと側を離れないだろうと思っていたのだけれど…
「ヒュンの、望みって…?」
苦しそうなヒュンダルンが、今にも泣きそうに甘えたから、ウリートはキュッとヒュンダルンを抱きしめた。
「ウリー…お前を、失おうとした時の、あの苦しみを、また味わうかと思った……」
自分の努力も、力も、知識も、地位も、財力も全てをもってしても取り返しのつかない…あんな恐ろしい程の喪失感を、また体験するのかと、ヒュウダルンは悶々とその恐怖に耐えていたのだ。
「ウリー…お前は、俺のものだ…誰が、何と言おうと…!もう、誰かが、お前に触れるのを許したくは無い…!」
「ええ、僕は、貴方のものですよ?ヒュン……貴方の望みは?」
「……ウリーが、欲しい…!」
苦しみ揺れる瞳の奥に、ヒュンダルンの正直な欲望が見え隠れする。
「それは、駄目です、ヒュン……だって、それは僕の望みでもあるんですから…」
貴方だけの望では無いでしょう?
ヒュンダルンの首に回した両腕に力を込めて、ウリートはヒュンダルンを引き寄せる。チュッと軽く互いの唇を触れさせて、ウリートはうっとりとするくらい、柔らかい笑顔でヒュンダルンに微笑みかけた。
「僕の方こそ、貴方に全部上げたいんです…拒否なく、全部ですよ?」
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