[完]腐違い貴婦人会に出席したら、今何故か騎士団長の妻をしてます…

小葉石

文字の大きさ
上 下
101 / 135

102、触れてはいけない者 2

しおりを挟む
「はぁ……ヒュンダルン……」

 パナイム商団の若様と言われている男の首元には、先程からヒュンダルンの愛刀の切っ先が当てられたままで、男は言い訳も十分に出来ないまま、ただガタガタと震える事しかできなくなってしまった。

 そんなヒュンダルンの肩をアランドがポンと叩く。

「ここは、私が引き受けよう!」

 場にそぐわない様ないい笑顔でアランドはそう宣言した。

「………」

「なに、ヒュンダルンには業腹だとは思うのだがね?これでもは私の女の家の者だ。始末はこちらで付けさせでもらえるかな?」

 アランドの女…来る者拒まずなアランドではあるが、子供を作る事についてはちゃんとなのか、考えている事があるものと思われて、子ども一人一人に教育もしっかりと施しているらしくいい加減な扱いはしていないらしい。それなのにその家の者がこの体たらくでは、アランドの顔に泥を塗りまくる行為でしかない。

「俺には関係ないだろう?」

 アランドが引き受けるのをヒュンダルンは良しとしたくない。信頼する友の提案とも言えど、直ぐに溜飲を下げよ、と言うのには無理があるだろう。

「分かっている、ヒュンダルン…私も同じ気持ちだからな。ただ、そこの者はまだパナイム商団の後継者候補だ。貴族家にも幅を利かせている家だけあって、制裁を加えるわけにはいかないし、外聞と言うものもある。先ずは、パナイム商団の家長にお会いしなければならないな。」

「ち…父、に?」
 
「当たり前だろう?ここまでのことをしたのだ。になるかも知れない格上の家の面々を確認もしないとは。アクロース侯爵家とはかなり軽く扱われる家らしい。」

「そ…その様なことは……」

 ただでさえ貴族家を商家が馬鹿になどしたら、それも高位貴族の侯爵家を…………それは、一族郎党全ての事業を潰されてこの世で生きていけなくなると思っても過言ではないほどの影響力を持つ。そうなれば、家長が取る手段はただ一つ。火の粉が全体に飛び火する前に、火の元を完全に断とうとするはずである。火の元を完全に鎮火できるならば、パナイム商団後継様候補であるこの男を、バッサリと切り捨てるくらいの決断を容易くするのが家長なのだから。

「だからヒュンダルン、ウリーを頼む……」

 少しだけアランドの顔も苦しそうであった。状態を確認出来なくて意識がないことだけしかわからないが、マリエッテが騒いでいないので滅多な事にはなっていないだろう。酷い目に遭わされたのだから、早く安心させてやりたい。

「……………」

 ヒュンダルンは無言で愛刀を鞘に収めた。

「感謝する…!」

 アランドの言葉と共に、騎士達が男を確保した。彼はこのままパナイム商団に連れて行かれて地獄行きの通達を受けることだろう。もう一度だけヒュンダルンはギッと男を睨みつけて、踵を返しウリートの元に急いで駆けつけた。

若様ヒュンダルン……!!」

 駆けつけてくるヒュンダルンにマリエッテは今にも泣きそうであった。オロオロと展開を伺っていたマリエッテの膝の上にウリートは寝かされていて、外傷は無さそうだが、やはり意識がまだ戻らないらしい。

「ウリー!?ウリー!」

 そっと頬に手を当ててみれば火照った頬は熱を持った時の様に熱く、しっとりと汗で湿っている。

「粉末状の媚薬を使われたかと思われます。」

 マリエッテと共に側で控えてくれていた騎士が短くそう告げた。

「そうか…」

 ヒュンダルンはそっと自分の騎士服のマントをウリートにかけ、壊れ物を扱う様に抱き上げる。

「屋敷へ戻る。城にそう伝えよ!」

 部下に言い置いてマリエッテと共に足速に遺跡を後にした。

 きっと怒りで腑が沸騰しているのではないかと危惧していたが、流石そこは騎士団長だ。終始落ち着いついた対応でウリートを屋敷に運び医官を呼びつけ診察をさせた。だがその間ずっと、ヒュンダルンは苦しく、泣き出してしまいそうな表情を隠しもせずに、ウリートの側を離れようとはしなかった。

「今、流行りのヤツですね?」
 
 ロレール医官に言わせると、あの男が持っていた粉の正体は、只今上流階級の貴人方の間で流行っている粉末状の媚薬なのだそうだ。吸入するから経口摂取よりも早く作用が出るらしくその上熱から覚めるのも早いのだそう。だから手っ取り早く楽しみたいと言う、あんな逢瀬に使われるそうだ。

 エーベ公爵邸に帰って暫く経つと、ウリートもロレール医官の言った通りに落ち着きを取り戻した。

 目が覚めれば、ここは遺跡でもなく、あの馬車をの中でもなく、いつもの懐かしい…大好きなヒュンのシトラスが香るヒュンの部屋……

「ヒュン……」

 つい、口から溢れでた…

 あんな事になると分かっていたら、絶対にあそこへは行かなかったのに…ヒュン以外の者に触られて、ただただ、嫌で、悲しかったし、ヒュンが恋しかった…

「ヒュン……!」

 うわ言の様にウリートはヒュンダルンを呼ぶ。












しおりを挟む
感想 95

あなたにおすすめの小説

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)

かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。 はい? 自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが? しかも、男なんですが? BL初挑戦! ヌルイです。 王子目線追加しました。 沢山の方に読んでいただき、感謝します!! 6月3日、BL部門日間1位になりました。 ありがとうございます!!!

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。 10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。 義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。 アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。 義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が… 義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。 そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

処理中です...