[完]腐違い貴婦人会に出席したら、今何故か騎士団長の妻をしてます…

小葉石

文字の大きさ
上 下
98 / 135

99、マリエッテの逆鱗 3

しおりを挟む
 マリエッテを先導する騎士達は下へ下へと降っていく。それに伴いどんどん人気は失せていく。係官の姿はあるし、見学者と思しき者の姿もあるのだが、見学者としての様相が階上にいる者達と明らかに違って来ていた。

「この、近辺は、逢引が多いのですか?」

 走りながらマリエッテは騎士に問う。

「ええ、以前からその様に利用している方々もいるにはいる様ですが、その、一時を共にする事自体、貴族の中で嫌厭されている訳ではありませんから…」

 だから特にそれに対する取り締まりや、罰則などは全くないと言う事なのだ。当人同士が了承しているのならばお好きにどうぞ、と貞操観念は軽く吹き飛んで行ってしまうらしい。

 以前やんごとなき方々が、人知れず一時の享楽を求めて人気の無い所で逢瀬を重ねるお遊びが流行した事があった。その話は勿論アクロース侯爵家にいる使用人達にも伝わるし、一般情報として持っておく必要もあったのだが、ウリートには全く関係ない事であった。自分の身体がどうなる事やもわからない日々であったのに、一時の遊びもないだろう。それよりも純粋なウリートにとってそんな遊びなど百害あって一里無し…そう思ってこの様な情報は敢えて伝えて来なかったのに…それが仇になってしまうとは!
 
「どの様に、待ち合わせるのです?」

「両者間で申し合わせておくようですが、何方でも良い、と言う方は、ある、合図をするのです。」

「どの、ような?」  

 走りながらでは息が上がる…

「この遺跡ででしたら、家の中を何度も覗き込む様にしていますと、担当の者が声をかける様ですよ?」

「担当って!?」

 まさかの現地担当者までいたとは…!

「地元民の、平民の様です。後腐れがないためとか何とか…あ!彼ではないですかね?」

 居住区域に差し掛かると更に人影は少なくなる。なのに担当の係官はその場で待機を命令されているためか、通路の開けた所で簡易椅子に腰掛けて座っていた。この区域にはこの者しか係官は居なそうなので、先程ウリートと話をしていたのはこの者に間違えはないだろう。マリエッテは周囲を歩き回り、この区域と彼の側にウリートの姿がない事を確認する。

「この先は?」

「ほぼ何もありませんよ?見学に的する様なものはもうここで終わりですから。」

「そこのお前!」

 マリエッテは、いきなり係官を呼びつけた。

「な、何すか!?」

 いきなり取り乱した何処かの家の侍女と思われる女と、騎士が走り込んできては怒鳴りつけられたのだから、何が起こったのかと男は訝しんだ。

「ウリート様をどこへお連れした!?」

「は?ウリート様?」

 誰だ、それ?と係官の表情が語っている。

「先程ここに来られた、黒髪で青い瞳の非常に美しい方だ!どこへお連れした!?」

 食い付かんばかりのマリエッテの迫力に男はタジタジとなる。

「え……あ、え~と、たしかアクロース家からって…」

「その方だ!吐け!!」

 ガッとマリエッテは男の胸ぐらを掴んでは揺すり始めた。

「ちょ!ちょっと、待って下さいよ!侯爵家から若様に派遣されて来た子でしょう?」

「………は?………派遣だと?…」

 マリエッテの声が信じられないほど低くなった。

「あの方は!誰が何と言おうとも、アクロース侯爵家のご子息様であられるのに!それを、それを………!」

 マリエッテは怒りのあまり次の言葉が出てこない。

 この男は、あろう事かウリート様をどこぞのボンボンの一時の遊びに付き合わせる、娼夫だと勘違いした………!

 ギリギリと男の首を締め出しそうなマリエッテは同道して来た騎士達に止められる。

「おい!シュードよ!その方をどこに案内したんだ!?」

 騎士の一人はこの男の名を知っていたらしい。暴れるマリエッテを抑えながら、男に振り向き早く吐けと急かす。

 本人同意であれば、貴族間のお遊びで通る事だろうが、その者のお付きの侍女がここまで取り乱していると言うのならば、ここに来た目的が一時の遊びではないのは確かである。そうなると、何か間違えがあった場合、その責めはここにいる者達にも降りかかってくるだろう。

「な、どう言う事っすか!?第3騎士団長様がパナイム商団の若様宛に送って寄越した者とばかり………」

「そんな事、ある訳ないでしょう!何故アランド様が!大切なウリート様を売るような事をすると思うのか!!」

 鬼の様に怒りを顕にしたマリエッテは抑えていた騎士の腕を、逆に捻り上げながら更に続ける。

「どこに、案内したか、今すぐ吐け!!」

「ひぃ!…こ、ここから、真っ直ぐ行った所に、ば、馬車が止まってますから…!」

「馬車の中か?」

「そう、そうです!!」

 視線で人を殺める者の視線とは今のマリエッテのものを言うのかもしれない。シュードと言う男を一瞥するとマリエッテは一目散に馬車の方へと向かう。

「私は報告に!!」

 騎士の一人は指揮官への報告のために取って返していった。












しおりを挟む
感想 95

あなたにおすすめの小説

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】売れ残りのΩですが隠していた××をαの上司に見られてから妙に優しくされててつらい。

天城
BL
ディランは売れ残りのΩだ。貴族のΩは十代には嫁入り先が決まるが、儚さの欠片もない逞しい身体のせいか完全に婚期を逃していた。 しかもディランの身体には秘密がある。陥没乳首なのである。恥ずかしくて大浴場にもいけないディランは、結婚は諦めていた。 しかしαの上司である騎士団長のエリオットに事故で陥没乳首を見られてから、彼はとても優しく接してくれる。始めは気まずかったものの、穏やかで壮年の色気たっぷりのエリオットの声を聞いていると、落ち着かないようなむずがゆいような、不思議な感じがするのだった。 【攻】騎士団長のα・巨体でマッチョの美形(黒髪黒目の40代)×【受】売れ残りΩ副団長・細マッチョ(陥没乳首の30代・銀髪紫目・無自覚美形)色事に慣れない陥没乳首Ωを、あの手この手で囲い込み、執拗な乳首フェラで籠絡させる独占欲つよつよαによる捕獲作戦。全3話+番外2話

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

処理中です...