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96、再訪問 3
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係官が案内してくれたのは、どう見ても遺跡の裏なのだろう、寂れた場所だ。発掘途中の土が剥き出しになっているところもあり、まだ大々的に手をつけていない場所の様だ。この周囲にのみ木製の塀が建てられており、見張りだろう係官が一名、扉がない出入り口の付近に立っている。塀の向こう側は裏道だろうか…数輌の馬車が停められている所を見ると、馬車の待機場の様にも見えた。
「おう、お疲れ様!もう来ておられるか?」
「ああ、先程。」
係官同士、気心が知れているのだろう。気安く手を上げて一言二言言葉を交わしている。
「その人は?」
係官の後ろについて来ていたウリートに気がついた様だ。
「あぁ、今日の希望者だよ!」
「へぇ!こんな人がか!?こんな所にくる様な人には見えねぇな?」
「…えっと?」
なんだろうか、ただ住居の中に入りたかったんだけれど…
「アクロース家からだって。」
「ほ~気の利いたことするな!パナイム商団の若様が来てるからか?団長様も気に掛けてるんだろうよ!」
パナイム商団…?どこかの商団名の様だが残念ながら聞いた事がない。
「よし!さ、行こうか?旦那様が中で待っておられるからな!」
「あの!どなたがです?」
「あ?もしかして、あんた、初めてか?」
「…はい?…ここでしたら初めて来ましたけど……?」
「あ~そっか!じゃ、分からないよな?ここは、こういう感じなんだよ。いつもの所じゃなくて悪いがちょっとこっち来て?待っておられる若様ってのも、ま、優しい人だからさ!」
「はぁ?」
住居が見たいと言ったら、こんな裏に連れられて来たウリートは更に誰かに会わなくてはならない様だ。係官が指差すのは停車してある馬車の中の一つ。なるほど商団の持ち物だけあって、貴族の馬車の様に優雅さは無いが作りがしっかりとしている大がらな馬車だ。
「あの、何方がおられるのです?私は誰かと面会をする予定は無かったのですけれど…」
「ん~、行けばわかるんじゃないかなぁ?何しろ有名な方だからな?良いか?初めてってんなら言われた通りにご機嫌を取るんだぞ?」
「はい?」
だから何方の?と聞きたかったのだが既に係官は馬車のドアをノックしていた。
「入れ。」
中から若い男の声がしたのだが、ウリートが知っている者ではなかった。
「いつもご贔屓に!若様、おつれしましたぜ!」
「ふ~ん?今日はどんなのだ?」
「なんと!アクロース家の推薦らしいですぜ!」
「アクロース侯爵家の若君が!?」
「はい!若様の姉君の事もあるでしょうし、気に掛けておられるのでは?」
「まさか……アクロース家の若君が…?そんな事をする玉か?」
「いや、分かりませんけどね?けれど、かなりの上玉ですよ!」
「ま……本当か!?どれ?」
少しだけ馬車の中から外を除けば、スラっとした姿勢のかなり見目良い細身の青年が立っていた。
「……うん…良いな…あれにする!!」
「でしょうね?いつもの物は使います?」
なら、置いていきますよ?係官は制服の内ポケットから小さな小袋を渡して来た。
「ふ…用意がいいな。でも、どうかな?興が乗ってくれればそのままの彼が見たいかも…」
「どちらでも、若様のお好きな様に!では、こちらに呼びますから。」
ウリートは係官に馬車の中に招かれるためにエスコートまでされたのだが、やはり何かがおかしいのだ。
「やあ!どうぞ!美しい方!狭い馬車の中で申し訳ありませんが、それも一興でしょう?」
係官に乗せられた馬車の中には、やはり若い男が一人…茶髪に、澄んだ青い瞳が印象的で、係官と同じく笑顔は人懐こくウリートに対して全く警戒していない様子が良くわかった。逆にウリートとしてはこんなにも歓迎してもらう要素がない。会うと言っても約束していた訳ではないし、目の前の男は全くの初見の人物だ。
「あの!申し訳ありませんが、何故私はここに呼ばれたのでしょうか?本日は遺跡の見学に来ていまして、何方かとこの様に会う予定では…」
「おや?連れない方だ…アクロース侯爵家からお越しなのでしょう?」
「はい、そうです。」
「なら、僕の所で間違えないですよ?ぼくの姉はアクロース侯爵家の若君と懇意にさせてもらっているのですから。」
目の前の男は小綺麗な貴族の様な衣装で身を包んでいるが、貴族ではないから社交界には出られないだろうし、もし何某か貴族家との付き合いがあるとしても、社交をしてこなかったウリートにわかるはずがない。商団の跡取りだとしたら仕事上の付き合いになるのだろうか。
ならば、この男が言っているアクロース侯爵家の若君というのはきっとアランド兄様の事だ。
「もしかして、アランド兄上のお知り合いでしょうか?」
「兄上?貴方にそんな風に呼ばせているのか、あの方は…」
やれやれ、と男は途端に呆れた顔になる。
「やっぱり節操が無いな……なんだって、どこが良くて、姉は彼の方と…」
何やらブツブツと呟き出した。
アランドと知り合いなのならば安心だろう…少しだけ気が張っていたウリートはフッと肩の力を抜く。
「へぇ……?最初から美しい方だとは思いましたけど、柔らかな表情はまた格別ですね?」
そう言いながら、ウリートに手を伸ばしてきた男の行動に、ウリートはビックリして一瞬身動きが取れなくなってしまう。
「おう、お疲れ様!もう来ておられるか?」
「ああ、先程。」
係官同士、気心が知れているのだろう。気安く手を上げて一言二言言葉を交わしている。
「その人は?」
係官の後ろについて来ていたウリートに気がついた様だ。
「あぁ、今日の希望者だよ!」
「へぇ!こんな人がか!?こんな所にくる様な人には見えねぇな?」
「…えっと?」
なんだろうか、ただ住居の中に入りたかったんだけれど…
「アクロース家からだって。」
「ほ~気の利いたことするな!パナイム商団の若様が来てるからか?団長様も気に掛けてるんだろうよ!」
パナイム商団…?どこかの商団名の様だが残念ながら聞いた事がない。
「よし!さ、行こうか?旦那様が中で待っておられるからな!」
「あの!どなたがです?」
「あ?もしかして、あんた、初めてか?」
「…はい?…ここでしたら初めて来ましたけど……?」
「あ~そっか!じゃ、分からないよな?ここは、こういう感じなんだよ。いつもの所じゃなくて悪いがちょっとこっち来て?待っておられる若様ってのも、ま、優しい人だからさ!」
「はぁ?」
住居が見たいと言ったら、こんな裏に連れられて来たウリートは更に誰かに会わなくてはならない様だ。係官が指差すのは停車してある馬車の中の一つ。なるほど商団の持ち物だけあって、貴族の馬車の様に優雅さは無いが作りがしっかりとしている大がらな馬車だ。
「あの、何方がおられるのです?私は誰かと面会をする予定は無かったのですけれど…」
「ん~、行けばわかるんじゃないかなぁ?何しろ有名な方だからな?良いか?初めてってんなら言われた通りにご機嫌を取るんだぞ?」
「はい?」
だから何方の?と聞きたかったのだが既に係官は馬車のドアをノックしていた。
「入れ。」
中から若い男の声がしたのだが、ウリートが知っている者ではなかった。
「いつもご贔屓に!若様、おつれしましたぜ!」
「ふ~ん?今日はどんなのだ?」
「なんと!アクロース家の推薦らしいですぜ!」
「アクロース侯爵家の若君が!?」
「はい!若様の姉君の事もあるでしょうし、気に掛けておられるのでは?」
「まさか……アクロース家の若君が…?そんな事をする玉か?」
「いや、分かりませんけどね?けれど、かなりの上玉ですよ!」
「ま……本当か!?どれ?」
少しだけ馬車の中から外を除けば、スラっとした姿勢のかなり見目良い細身の青年が立っていた。
「……うん…良いな…あれにする!!」
「でしょうね?いつもの物は使います?」
なら、置いていきますよ?係官は制服の内ポケットから小さな小袋を渡して来た。
「ふ…用意がいいな。でも、どうかな?興が乗ってくれればそのままの彼が見たいかも…」
「どちらでも、若様のお好きな様に!では、こちらに呼びますから。」
ウリートは係官に馬車の中に招かれるためにエスコートまでされたのだが、やはり何かがおかしいのだ。
「やあ!どうぞ!美しい方!狭い馬車の中で申し訳ありませんが、それも一興でしょう?」
係官に乗せられた馬車の中には、やはり若い男が一人…茶髪に、澄んだ青い瞳が印象的で、係官と同じく笑顔は人懐こくウリートに対して全く警戒していない様子が良くわかった。逆にウリートとしてはこんなにも歓迎してもらう要素がない。会うと言っても約束していた訳ではないし、目の前の男は全くの初見の人物だ。
「あの!申し訳ありませんが、何故私はここに呼ばれたのでしょうか?本日は遺跡の見学に来ていまして、何方かとこの様に会う予定では…」
「おや?連れない方だ…アクロース侯爵家からお越しなのでしょう?」
「はい、そうです。」
「なら、僕の所で間違えないですよ?ぼくの姉はアクロース侯爵家の若君と懇意にさせてもらっているのですから。」
目の前の男は小綺麗な貴族の様な衣装で身を包んでいるが、貴族ではないから社交界には出られないだろうし、もし何某か貴族家との付き合いがあるとしても、社交をしてこなかったウリートにわかるはずがない。商団の跡取りだとしたら仕事上の付き合いになるのだろうか。
ならば、この男が言っているアクロース侯爵家の若君というのはきっとアランド兄様の事だ。
「もしかして、アランド兄上のお知り合いでしょうか?」
「兄上?貴方にそんな風に呼ばせているのか、あの方は…」
やれやれ、と男は途端に呆れた顔になる。
「やっぱり節操が無いな……なんだって、どこが良くて、姉は彼の方と…」
何やらブツブツと呟き出した。
アランドと知り合いなのならば安心だろう…少しだけ気が張っていたウリートはフッと肩の力を抜く。
「へぇ……?最初から美しい方だとは思いましたけど、柔らかな表情はまた格別ですね?」
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