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95、再訪問 2
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先日来た時より、明らかに騎士やら見回りの自警団の人々が増えていて、ウリートは何の心配もなく遺跡の道を辿る。乾いた土の匂いの中に、食器やら盆やら、コップや壺やら釜戸…素材も色々で、荒削りながらも装飾が施してある物もあり過去の空想に耽ってしまいそうな品々が、通路の脇に丁寧に並べてある。どれも綺麗に保たれており、この遺跡の発掘を担って来た人々がどれだけ心血注いで力を入れていたのかが偲ばれた。そこから少し降っていけば、食器類が出土したエリアにロープが張り巡らされている。ここにはまだこれから発掘予定があるのだそうで中には入れない。
一つ一つのエリアを見学していると見知った騎士達は会釈をしてくれる。ウリートはそれに軽く答えながら、更に階段を降って行けば目の前には壁が聳え立つ。どうやら居住区域に入って来た様だ。煉瓦の壁にポッカリと切り取られた様な窓や、入り口が次々に見えてくる。当時の人々はここで生活をしていた。窓から除けば、非常に狭いと思われる空間が一つの部屋の様だ。
このエリアには見学者は多くはない。殆どの人々は、価値のある装飾が施されている様な、素晴らしい出土品を見たい様である。アクロース侯爵家とエーベ公爵家での生活しか知らないウリートにとってはその反対で、大昔の庶民の生活空間であっただろう居住区域は大いに魅力的だった。
「凄い…」
貴族の屋敷と比べると、本当にこんな所で生活出来るものかどうか疑問しかないのだが、小さな家の中に部屋があり、水瓶があり、釜戸がある。人が住んでいないだけでちゃんとその形跡が残っているのだから。古語を学んでいて良かった。この景色を見ながら、発掘された書物を読んだらどんな気分になるだろう?
色々と空想を膨らませながら、ウリートは居住区域を練り歩いて来て、その中でも一際綺麗に残されていた一軒の住居の前で止まりながらじっくりと中を眺めていた。その住居にはロープは張って居ない。入り口も通路から入り安い様な作りになっていた様で、室内がよく見えた。室内は土気色の土の色だが、当時はどうだったのだろうか?
本日の担当指揮官は室内には入らない様にと言っていたのは崩れやすいから?見たところ、煉瓦はしっかりと積み上げられている住居で、そっと触ってもビクともしない位頑丈に作られている様子。
少しだけ、入っては駄目だろうか?
ムクムクと湧いてくる好奇心に勝てそうもなく、この区間にいる係官にもう一度確認を取ろうとウリートはキョロキョロと人を探す。チラホラ人影はあるのだが、上の方と比べると格段にこの辺りは人気がないから、戻って聞いて来た方が早いかもしれない。
「中に入りますか?」
そんな時に、親切にもウリートに声をかけてくれた人物がいる。
「はい!あの、入らない様にと言われていたのですが、少しだけでも駄目でしょうか?」
まるで子供の我儘みたいだ…少しだけなんて、紳士としての矜持はどこへやら、と恥ずかしく感じるものだが、折角の機会であるから堪能していきたい。
「なるほど!折角こられたのでしょうし、見るだけなんて勿体無いですものね?」
声をかけてくれた人物は、なんとも人懐こい印象の笑顔をウリートに向けてくる。
「失礼ですが、どちらの方でしょうか?」
係官はウリートにそう聞いてきた。この係官には今日初めて会う。なのでウリートの顔は知らないのだろう。
「失礼しました。アクロース侯爵家の者です。」
「え!?アクロース侯爵家…第3騎士団長様から?」
今日の訪問を聞いて居なかったのだろうか?係官は物凄く驚いている。
「はい…あの、お恥ずかしながら、中に入りたいなど、我儘を言いまして…」
ウリートの訪問を伝えられて居ないのならば係官が戸惑うのも頷ける。なので迷惑がかからない様に一旦引いた方がいいのかもしれない。
「いや、いやいや!貴方の我儘では無いのでしょう?ふ~~ん?あの団長様がねぇ?わざわざ、ここへ?」
「あの…?」
キョトンとしてしまったウリートは一度テントに戻ると告げたいのだが、係官は一人でブツブツと呟きながら考え込んでしまっている。
「あの、ご迷惑ならば一度、出直して来ましょうか?」
「は?迷惑なんてとんでもないっす!それより、貴方みたいな上品な人もいるんですねえ?団長様はどこに隠していたんだか…」
「ええと?」
ウリートには全く話が見えない。
「あ、すんません!お待たせしちゃって!丁度今待機している方が居るんですよ!さ、案内しますからこちらにどうぞ?団長様の傘下の方なら変な相手を紹介できませんからね?あの人も今日は運が良かったな~こんな美人の相手ができるなんて!」
ニコニコと訳のわからない事を話し続ける係官に、こっちです、と案内されるがままにウリートは付いていく。住居の入り口は目の前だったのだが、中に入るには特別な手続きが必要なのだろうか…?
一つ一つのエリアを見学していると見知った騎士達は会釈をしてくれる。ウリートはそれに軽く答えながら、更に階段を降って行けば目の前には壁が聳え立つ。どうやら居住区域に入って来た様だ。煉瓦の壁にポッカリと切り取られた様な窓や、入り口が次々に見えてくる。当時の人々はここで生活をしていた。窓から除けば、非常に狭いと思われる空間が一つの部屋の様だ。
このエリアには見学者は多くはない。殆どの人々は、価値のある装飾が施されている様な、素晴らしい出土品を見たい様である。アクロース侯爵家とエーベ公爵家での生活しか知らないウリートにとってはその反対で、大昔の庶民の生活空間であっただろう居住区域は大いに魅力的だった。
「凄い…」
貴族の屋敷と比べると、本当にこんな所で生活出来るものかどうか疑問しかないのだが、小さな家の中に部屋があり、水瓶があり、釜戸がある。人が住んでいないだけでちゃんとその形跡が残っているのだから。古語を学んでいて良かった。この景色を見ながら、発掘された書物を読んだらどんな気分になるだろう?
色々と空想を膨らませながら、ウリートは居住区域を練り歩いて来て、その中でも一際綺麗に残されていた一軒の住居の前で止まりながらじっくりと中を眺めていた。その住居にはロープは張って居ない。入り口も通路から入り安い様な作りになっていた様で、室内がよく見えた。室内は土気色の土の色だが、当時はどうだったのだろうか?
本日の担当指揮官は室内には入らない様にと言っていたのは崩れやすいから?見たところ、煉瓦はしっかりと積み上げられている住居で、そっと触ってもビクともしない位頑丈に作られている様子。
少しだけ、入っては駄目だろうか?
ムクムクと湧いてくる好奇心に勝てそうもなく、この区間にいる係官にもう一度確認を取ろうとウリートはキョロキョロと人を探す。チラホラ人影はあるのだが、上の方と比べると格段にこの辺りは人気がないから、戻って聞いて来た方が早いかもしれない。
「中に入りますか?」
そんな時に、親切にもウリートに声をかけてくれた人物がいる。
「はい!あの、入らない様にと言われていたのですが、少しだけでも駄目でしょうか?」
まるで子供の我儘みたいだ…少しだけなんて、紳士としての矜持はどこへやら、と恥ずかしく感じるものだが、折角の機会であるから堪能していきたい。
「なるほど!折角こられたのでしょうし、見るだけなんて勿体無いですものね?」
声をかけてくれた人物は、なんとも人懐こい印象の笑顔をウリートに向けてくる。
「失礼ですが、どちらの方でしょうか?」
係官はウリートにそう聞いてきた。この係官には今日初めて会う。なのでウリートの顔は知らないのだろう。
「失礼しました。アクロース侯爵家の者です。」
「え!?アクロース侯爵家…第3騎士団長様から?」
今日の訪問を聞いて居なかったのだろうか?係官は物凄く驚いている。
「はい…あの、お恥ずかしながら、中に入りたいなど、我儘を言いまして…」
ウリートの訪問を伝えられて居ないのならば係官が戸惑うのも頷ける。なので迷惑がかからない様に一旦引いた方がいいのかもしれない。
「いや、いやいや!貴方の我儘では無いのでしょう?ふ~~ん?あの団長様がねぇ?わざわざ、ここへ?」
「あの…?」
キョトンとしてしまったウリートは一度テントに戻ると告げたいのだが、係官は一人でブツブツと呟きながら考え込んでしまっている。
「あの、ご迷惑ならば一度、出直して来ましょうか?」
「は?迷惑なんてとんでもないっす!それより、貴方みたいな上品な人もいるんですねえ?団長様はどこに隠していたんだか…」
「ええと?」
ウリートには全く話が見えない。
「あ、すんません!お待たせしちゃって!丁度今待機している方が居るんですよ!さ、案内しますからこちらにどうぞ?団長様の傘下の方なら変な相手を紹介できませんからね?あの人も今日は運が良かったな~こんな美人の相手ができるなんて!」
ニコニコと訳のわからない事を話し続ける係官に、こっちです、と案内されるがままにウリートは付いていく。住居の入り口は目の前だったのだが、中に入るには特別な手続きが必要なのだろうか…?
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