[完]腐違い貴婦人会に出席したら、今何故か騎士団長の妻をしてます…

小葉石

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90、初遺跡 1

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 王都付近に掘り出された遺跡は広大な畑地の一画を全て潰してしまう形で掘り出された。以前そこにあった畑の代わりの地を用意し、農民達の憂いなき様にと取り図り、そしてそこから貴重な文化遺産が発掘されたとなれば、出土当時はかなりの混乱を極めたそうだ。現在はその遺跡周辺は柵が張られて常に騎士団と民衆から出された自警団によって定期的に警備されている。それでも時折狡猾な窃盗団が現れるとか… 

 なのでヒュンダルンはかなりの警戒をしてウリートをここに連れて来ている。普段ならばいない様な騎士団の華やかな小隊が古めかしい埃っぽい遺跡に来ているとなれば、何があったのかと見物客も増えるというもの…で周囲はいつも以上の賑わいを見せている。
  
「ウリーここに。」

 この遺跡には各国の高位貴族も視察に来るので、遺跡には調査員用の簡易テント群と、貴族用のテントが分けて張ってある。その中の真ん中にヒュンダルンはウリートをエスコートする。

「ヒュンまで来る必要は無かったのでは?」 
 
 だって、ヒュンダルンは騎士団長。仕事はきっと山の様にあるはずで…

「何をいう…これも仕事の一環だ。ここの警備をアランドと検討し直そうかと考えていてな。その為の視察でもある。」

 城外の警備の担当はアランド率いる第3騎士団だ。そのせいか、王城で見かける第3騎士団の制服をここでもチラチラと見かけるのだ。他は、平民だろうか?衣装はバラバラだが、皆んな腕に黄色の布を巻き付けている。

 ウリートはヒュンダルンに連れてこられたテントで座って待つ様に言われる。ヒュンダルンは今日の動きの流れと警備についてここの担当者と話してくるのだそうで、そのままテントを後にし、外にいる者と何やら話し出す。

 ヒュンの、働いている所、初めて見た……

 王城に行けば騎士服姿のヒュンダルンを見ることはできる。けれども誰かと打ち合わせしたり、業務を遂行している所をマジマジと見たことはない。

 その姿には……少し、いや、かなり、目を惹いてしまう…要は、ヒュンが格好良い……

 真剣な表情で書類を見ながら担当者だろう者達とあれこれ話をしている横顔や、顎に手を当てて何やら考えあぐねている姿やら、次から次に来る報告者一人一人をそれが当然の様に黙々とさばいていく姿勢が……

「こら、ウリー……!」

 コツン…と優しく、頭に拳を乗せられてウリートはハッと其方を振り向く。

「…兄様……」

 やれやれ、と言いたそうな苦笑を浮かべてアランドが隣に立っていた。どうやらこのテントの違う入り口から入って来た様なのだが、ウリートは全く気が付かなかった。

「そうだ。お前の大切な兄様だよ?全く寂しいな…婚約したらウリーの目にはヒュンダルンしか入っていないみたいなんだからな。」

 クスクス、クスクス…寂しいと言いつつ、アランドは楽しそうに笑っている。

 そうでした…ここは、第3騎士団担当で、警備の話があるのならば勿論その第3騎士団長であるアランドがいて当然な場所だった…

「ヒュンしか、目に入らない訳ではありません!……だって!初めて、見たので……それで………」

「ん?ヒュンダルンの働く姿を?」

「はい……」

「ふ~~ん?それで、見惚れていたのか?」

「み、見惚れてって………そんな、でした?」

 ウリートは今更ながらに朱に染めた顔を歪めて困惑顔だ。

「それはもう……これでもかって言うくらいには目で追っていたよ?」

 アランドはスルリとウリートの頭を撫でると、右の耳に光るイヤーカフにそっと触れた。

 ウリートの右耳に光るイヤーカフはヒュンダルンの独占欲の現れだ。それによくもまぁ、イヤーカフがよく見える様にと事あるごとに髪型まで整えているとヒュンダルンの独占欲を裏付ける噂が聞こえて来ている。今日も今日とて、見ようと思わなくても目に入るのだから。

「うん、良く似合っている。」

「あ、これですか?」

 アランドが何を指してそう言ったのかウリートにも分かったのだろう。パッとウリートの頬に赤みが増して、ウリートは一気に嬉しそうな顔をする。

「そう。良かったね、ウリー…彼は誠実だから、きっとウリーを大切にしてくれる。それと…あんまり、やきもち焼きでないと良いけどね。」

 ニッコリ笑顔で祝福の言葉をくれるアランドは意味深な言葉も一緒にくれた。

「やきもち……」

 ウリートはイヤーカフは絶対に外すなと念を押されている。それは自分にヒュンダルン以外の者が触れない様に。でもこれはウリートだって同じ事。誰にも触れてほしくない…ヒュンダルンが誰かに…見られる事さえ嫌かも知れない…

 じゃなくて、嫌だ……!

「こ~ら、ウリー…そんな可愛い顔をするなと言っているんだよ?先程もそうだが、誰かに何かを悟らせる様な表情を貴族ならば容易くするものではない。」

「兄様……」

「ウリーは公爵家直下の家と婚姻を結ぶんだ。ウリーを誰かに利用されたくはないからな。だから隙は作らない事だ。」
 
 揶揄う様な口調の中に、アランドの優しさと心配が垣間見える。

「兄様……わかりました。貴族としての矜持を守ります。」
 



  













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