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76、証
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証が欲しい…ウリートを疑っているのではなくて、お互いがお互いのものであるという、誰に対しても示せる物を…
「まぁ、なんて情熱的なのかしら…!」
エーベ公爵邸に呼ばれたアルントット宝飾店店長カレン・ローギーは感嘆の声を上げる。早朝急遽入った仕事の呼び出しは、高位貴族のエーベ公爵家…それだけで上客であり、大いに期待できる商談となると思っていたら、なんと婚約記念品を作りたいと言う事だった。
目の前に座るエーベ公爵家出身の噂に聞く有名な独身騎士筆頭、ゴーリッシュ騎士団長様とお相手のこれがまた見目麗しい令息で…ゴーリッシュ騎士団長の方が積極的に商品を見せて欲しいと熱の入れようだ。それも、一緒に身に付けられる物で互いの存在が相手に一目で分かる物、との指示付きで…
カレンは社交界への出入りが多いアルントット宝飾店ならではの顔の広さで、見目麗しい貴族の令嬢、令息達と対面し、ある程度は把握しているつもりであった。けれどもカレンの記憶にはゴーリッシュ騎士団長の隣に座る者の顔に覚えが無いのである。接客商売なので人の顔を覚えるのは得意だ。それなのに、見たことがない。
まさか、平民?
いや、それは無いだろう。ゴーリッシュ騎士団長の隣に大人しく姿勢良く座り、少し緊張しているのか時折恥ずかしそうに俯きながら、こちらの商品説明を聞いている男性。所作も申し分ない程に洗練されていて何処からどう見ても育ちが良い、良い家の令息で間違えはない。
「互いの色は勿論入れたいのだが、私は剣を握るから、指輪で無い物が欲しいのだが…」
ゴーリッシュ騎士団長様は騎士であられますものね!
「はい。当店での売れ筋からではございますが、同棲同士の方々には、ブレスレット、イヤーカフ、カブスボタンにタイピンなど、人目につきにくい物としてネックレスなどを所望する方が多う御座います。」
中にはマニアックな商品をお求めになる方々もおられますが、さて…
「ネックレスはパスだ。」
で、ございますね。
「ヒュン、ブレスレットもお邪魔になるのでは?」
お相手様は控え目ながらもはっきりと意見を言っている。良い関係が築けている様でございますね。
「では、お邪魔になり難く、常に身につけていられる物……こちら、イヤーカフは如何でしょうか?取り外しできますが、もちろん簡単に外れる物ではございません。取れない様にピアスにする事もできますし、形態はご自由にお選びいただけます。デザインですと、お互いの特徴あるお色の石を嵌め込むのが主流でしょうか?」
「石ならば決めてある。デザインは…もっと大きく嵌め込めるか?」
嵌め込む、と言うのは石のことでございますね?可愛らしく石を載せるのではなくて、ゴーリッシュ騎士団長様はガッツリと大きく、躊躇なく石を使えと仰られているのですね?それでいて、重くならない様に、石を薄く強度を保ちながら加工するのはかなりの技術が要りますが、アルントット宝飾店の名誉にかけて、職人には頑張っていただきましょう!
「ええ!ご安心下さいませ!我が店お抱えの職人達の腕は確かで御座いますから!」
「では、このデザインに、これを付けて…もっと細くて…あぁこれが良い。余り長すぎない様に…ウリーこれで良いか?何か他に好きなものがあれば…」
「あの、私も、頼んでも良いでしょうか?」
勿論、どうぞ!
「何をご用意しましょうか?」
「剣の柄に、石を入れる事は出来ますか?」
「ウリー……」
何という、良客でしょうか…ウリー様…きっとこちらは愛称でございましょうから私は呼ばない方がいいでしょうね。
「勿論にございます!お名前を彫ることもできますよ?」
「石に?」
「はい。勿論です。騎士の方は時に命懸けの任務になりましょう?武運を込めて言葉を刻む人もいるのですよ。」
「あ、では!」
ウリートは立ち上がって、何やらメモを書き込んでカレンのところに持って来た。
「これを、お願いできますか?」
「ウリート・アクロース様…アクロース侯爵家のお方だったのですね?」
ウリーのメモを確認したカレンは少し目を見開いて驚く。渡されたメモの中にはウリートが刻んで欲しい言葉と名前が書かれていた。
「私は、ヒュンと同じ所に立てないでしょうから…せめて…」
いつも、自分もヒュンダルンを護りたい…そんな願いを込めた物を戦闘時や戦場では一番身近に置くだろう、剣に刻んでおきたいと思った。迷惑だった…?
恐る恐るヒュンを見上げれば、優しそうに目を細めて少し微笑んで下さっていて…
喜んでいて下さるんだ……
そんな雰囲気がジンワリと心を熱くしてくれる。そんなヒュンダルンにウリートは満面の笑顔で照れ臭そうに笑って答えた。
「まぁ、なんて情熱的なのかしら…!」
エーベ公爵邸に呼ばれたアルントット宝飾店店長カレン・ローギーは感嘆の声を上げる。早朝急遽入った仕事の呼び出しは、高位貴族のエーベ公爵家…それだけで上客であり、大いに期待できる商談となると思っていたら、なんと婚約記念品を作りたいと言う事だった。
目の前に座るエーベ公爵家出身の噂に聞く有名な独身騎士筆頭、ゴーリッシュ騎士団長様とお相手のこれがまた見目麗しい令息で…ゴーリッシュ騎士団長の方が積極的に商品を見せて欲しいと熱の入れようだ。それも、一緒に身に付けられる物で互いの存在が相手に一目で分かる物、との指示付きで…
カレンは社交界への出入りが多いアルントット宝飾店ならではの顔の広さで、見目麗しい貴族の令嬢、令息達と対面し、ある程度は把握しているつもりであった。けれどもカレンの記憶にはゴーリッシュ騎士団長の隣に座る者の顔に覚えが無いのである。接客商売なので人の顔を覚えるのは得意だ。それなのに、見たことがない。
まさか、平民?
いや、それは無いだろう。ゴーリッシュ騎士団長の隣に大人しく姿勢良く座り、少し緊張しているのか時折恥ずかしそうに俯きながら、こちらの商品説明を聞いている男性。所作も申し分ない程に洗練されていて何処からどう見ても育ちが良い、良い家の令息で間違えはない。
「互いの色は勿論入れたいのだが、私は剣を握るから、指輪で無い物が欲しいのだが…」
ゴーリッシュ騎士団長様は騎士であられますものね!
「はい。当店での売れ筋からではございますが、同棲同士の方々には、ブレスレット、イヤーカフ、カブスボタンにタイピンなど、人目につきにくい物としてネックレスなどを所望する方が多う御座います。」
中にはマニアックな商品をお求めになる方々もおられますが、さて…
「ネックレスはパスだ。」
で、ございますね。
「ヒュン、ブレスレットもお邪魔になるのでは?」
お相手様は控え目ながらもはっきりと意見を言っている。良い関係が築けている様でございますね。
「では、お邪魔になり難く、常に身につけていられる物……こちら、イヤーカフは如何でしょうか?取り外しできますが、もちろん簡単に外れる物ではございません。取れない様にピアスにする事もできますし、形態はご自由にお選びいただけます。デザインですと、お互いの特徴あるお色の石を嵌め込むのが主流でしょうか?」
「石ならば決めてある。デザインは…もっと大きく嵌め込めるか?」
嵌め込む、と言うのは石のことでございますね?可愛らしく石を載せるのではなくて、ゴーリッシュ騎士団長様はガッツリと大きく、躊躇なく石を使えと仰られているのですね?それでいて、重くならない様に、石を薄く強度を保ちながら加工するのはかなりの技術が要りますが、アルントット宝飾店の名誉にかけて、職人には頑張っていただきましょう!
「ええ!ご安心下さいませ!我が店お抱えの職人達の腕は確かで御座いますから!」
「では、このデザインに、これを付けて…もっと細くて…あぁこれが良い。余り長すぎない様に…ウリーこれで良いか?何か他に好きなものがあれば…」
「あの、私も、頼んでも良いでしょうか?」
勿論、どうぞ!
「何をご用意しましょうか?」
「剣の柄に、石を入れる事は出来ますか?」
「ウリー……」
何という、良客でしょうか…ウリー様…きっとこちらは愛称でございましょうから私は呼ばない方がいいでしょうね。
「勿論にございます!お名前を彫ることもできますよ?」
「石に?」
「はい。勿論です。騎士の方は時に命懸けの任務になりましょう?武運を込めて言葉を刻む人もいるのですよ。」
「あ、では!」
ウリートは立ち上がって、何やらメモを書き込んでカレンのところに持って来た。
「これを、お願いできますか?」
「ウリート・アクロース様…アクロース侯爵家のお方だったのですね?」
ウリーのメモを確認したカレンは少し目を見開いて驚く。渡されたメモの中にはウリートが刻んで欲しい言葉と名前が書かれていた。
「私は、ヒュンと同じ所に立てないでしょうから…せめて…」
いつも、自分もヒュンダルンを護りたい…そんな願いを込めた物を戦闘時や戦場では一番身近に置くだろう、剣に刻んでおきたいと思った。迷惑だった…?
恐る恐るヒュンを見上げれば、優しそうに目を細めて少し微笑んで下さっていて…
喜んでいて下さるんだ……
そんな雰囲気がジンワリと心を熱くしてくれる。そんなヒュンダルンにウリートは満面の笑顔で照れ臭そうに笑って答えた。
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