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64、嫉妬 4
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「ウリート、今日はこのままお暇しよう…」
「けれど…まだエーベ公爵ご夫妻にご挨拶もしていません。」
アーシル王太子殿下の執務室からの退出後、ヒュンダルンは有無を言わせずウリートの手を引いて馬車止めの方へと向かって行く。
「あの人達ならエーベ公爵邸に戻ってくるだろうから、その時に言えばいい。」
王城ではエーベ公爵夫妻とアクロース侯爵夫妻の親交を深めるべく席が用意されているはずだが、必ずしもそこに出席する必要は無いのだ。
「その内エーベの方で大きな夜会を開くつもりでいるらしいからな。そこでも会えるだろう。」
「…!…夜会があるのですか?」
少しだけ、沈んでいた気持ちが上を向く。
「ん?父達はそのつもりの様であったが、嫌ならば止めるか?」
「いえいえ、僕にその権限はありませんよ、ヒュンダルン様!あの、僕は夜会には出た事がないので…」
そして恥ずかしながら、ダンスもできない…
「だが、その様子だと興味はあるのだろう?」
「………」
医官からは少しづつ色々行ってもいいと言われている…ので、興味が無い、と言ったらウソになる。
「ならば、出てみるといい。体調次第だがな…ま、これはあるとしてもまだ随分と先の話だ。今は……なぜ泣いていたんだ?」
「………」
できる事ならば、忘れていてほしい…泣いた理由?それは自分が一番わからないのに………
「…分かった…言いたく無いのならば無理には聞かない…マリエッテ!」
いつの間にか馬車止めまできていた様で、待機していたマリエッテにヒュンダルンは声をかけた。
「お戻りですか?…ウリート様、どうなさいました?」
マリエッテも直ぐにウリートの異変を感じ取ったらしく、急いで駆け寄ってきてくれた。
「ご体調が?」
額に手を当てたり首を触ったり、ヒュンダルンと同じ様にマリエッテもウリートを気遣わしげに色々と聞いてくる。
「ん、大丈夫…」
実際のところ、心境はまだ晴れていないけれども、体調は本当に悪くは無い。
「そう…でございますか?」
「マリエッテ、言付けをしてくるからウリートを見ておいてくれ。」
「わかりました。さ、ウリート様…」
マリエッテは優しくウリートを馬車に乗せ、隣に座って背中をさすってくれた。
「ウリート様、国王陛下より何か耐えられない様なことでも……」
社交慣れしていないウリートなのだ。貴族の社交には口出しできないマリエッテではあるが、そんなウリートの事が心配でならない。
「違うよ、マリエッテ…陛下は優しい対応をして下さったし…」
「では、城にいる方達のどなたから?」
自分の主人が心無い態度で接せられたというのならば…いくら相手が貴族であろうとも、マリエッテだとて黙っていられる自信はない。折角体力もついてきて、毎日楽しそうに過ごしている主人の心を折ろうなどとは……どんな伝手を使ってでも復讐してしまいたくもなるというものだ。
マリエッテの声が硬い。普段態度を殆ど変えず侍女の鏡の様なマリエッテだけれども、こんな時のマリエッテは少しだけ、怖い……本気で怒られる時の状況だ。
「違うよ誰のせいでもなくて……ただ、きっと、僕の問題だから…」
そう、自分の問題だ。ヒュンダルン様の婚約者を見かけて、ひどく動揺しているなんて………友人としては最低な行為ではないだろうか?
「ウリート様……」
「僕……友人、失格かも知れない………」
初めて友人と名乗り出てくれた人の幸せも祈れないなんて…自分は友人と言ってもらえて、物凄く嬉しかったのに……なのに…こんなに最低な人間だから、罰としてこんなに弱い身体を与えられたんだ…
ウリートは今までの療養生活が当然のことだったんだ、とストンと納得してしまった。
ポロポロポロポロ…大きな涙がこぼれ落ちてくる。
「ウリート様!」
マリエッテが鬼気迫る顔をしている。こんな顔、ヒュンダルン様にもさせてしまうのだろうか……
「もう……もう、友人なんて、言えないかもしれない……」
たまらなく、マリエッテに心の内を吐露する。
「友人?友人とはゴーリッシュ騎士団長様のことですか?何か、何をされたのです!?」
必死の形相のマリエッテ、幼い頃からいつも一緒にいてくれて、今、物凄く心配してくれてる…
「ううん…何も言われてないし、されてない…違うの…違うんだよ、僕が……………素直に、祝ってあげられそうになくて……嫌な、人間なんだ…」
家から、出なければ良かった…………
「祝ってって…?何方の、何を?」
当たり前のことに、マリエッテは状況が掴めないでいる。
「ヒュンダルン様の……ご婚約……」
言葉にしてみて、再度胸にドシンと響く…
嫌なんだ…ヒュンダルン様が誰かと婚約してしまうのが…
「はぁ!?ヒュンダルン様が何方と婚約したと言うのです!?ウリート様がおられるのに!?」
「それはおかしいよ、マリエッテ…僕は友人だし…見たんだよ…ご令嬢と楽しそうにお話している所…きっと、あの方が…」
ヒュンダルン様の婚約者だ……
「けれど…まだエーベ公爵ご夫妻にご挨拶もしていません。」
アーシル王太子殿下の執務室からの退出後、ヒュンダルンは有無を言わせずウリートの手を引いて馬車止めの方へと向かって行く。
「あの人達ならエーベ公爵邸に戻ってくるだろうから、その時に言えばいい。」
王城ではエーベ公爵夫妻とアクロース侯爵夫妻の親交を深めるべく席が用意されているはずだが、必ずしもそこに出席する必要は無いのだ。
「その内エーベの方で大きな夜会を開くつもりでいるらしいからな。そこでも会えるだろう。」
「…!…夜会があるのですか?」
少しだけ、沈んでいた気持ちが上を向く。
「ん?父達はそのつもりの様であったが、嫌ならば止めるか?」
「いえいえ、僕にその権限はありませんよ、ヒュンダルン様!あの、僕は夜会には出た事がないので…」
そして恥ずかしながら、ダンスもできない…
「だが、その様子だと興味はあるのだろう?」
「………」
医官からは少しづつ色々行ってもいいと言われている…ので、興味が無い、と言ったらウソになる。
「ならば、出てみるといい。体調次第だがな…ま、これはあるとしてもまだ随分と先の話だ。今は……なぜ泣いていたんだ?」
「………」
できる事ならば、忘れていてほしい…泣いた理由?それは自分が一番わからないのに………
「…分かった…言いたく無いのならば無理には聞かない…マリエッテ!」
いつの間にか馬車止めまできていた様で、待機していたマリエッテにヒュンダルンは声をかけた。
「お戻りですか?…ウリート様、どうなさいました?」
マリエッテも直ぐにウリートの異変を感じ取ったらしく、急いで駆け寄ってきてくれた。
「ご体調が?」
額に手を当てたり首を触ったり、ヒュンダルンと同じ様にマリエッテもウリートを気遣わしげに色々と聞いてくる。
「ん、大丈夫…」
実際のところ、心境はまだ晴れていないけれども、体調は本当に悪くは無い。
「そう…でございますか?」
「マリエッテ、言付けをしてくるからウリートを見ておいてくれ。」
「わかりました。さ、ウリート様…」
マリエッテは優しくウリートを馬車に乗せ、隣に座って背中をさすってくれた。
「ウリート様、国王陛下より何か耐えられない様なことでも……」
社交慣れしていないウリートなのだ。貴族の社交には口出しできないマリエッテではあるが、そんなウリートの事が心配でならない。
「違うよ、マリエッテ…陛下は優しい対応をして下さったし…」
「では、城にいる方達のどなたから?」
自分の主人が心無い態度で接せられたというのならば…いくら相手が貴族であろうとも、マリエッテだとて黙っていられる自信はない。折角体力もついてきて、毎日楽しそうに過ごしている主人の心を折ろうなどとは……どんな伝手を使ってでも復讐してしまいたくもなるというものだ。
マリエッテの声が硬い。普段態度を殆ど変えず侍女の鏡の様なマリエッテだけれども、こんな時のマリエッテは少しだけ、怖い……本気で怒られる時の状況だ。
「違うよ誰のせいでもなくて……ただ、きっと、僕の問題だから…」
そう、自分の問題だ。ヒュンダルン様の婚約者を見かけて、ひどく動揺しているなんて………友人としては最低な行為ではないだろうか?
「ウリート様……」
「僕……友人、失格かも知れない………」
初めて友人と名乗り出てくれた人の幸せも祈れないなんて…自分は友人と言ってもらえて、物凄く嬉しかったのに……なのに…こんなに最低な人間だから、罰としてこんなに弱い身体を与えられたんだ…
ウリートは今までの療養生活が当然のことだったんだ、とストンと納得してしまった。
ポロポロポロポロ…大きな涙がこぼれ落ちてくる。
「ウリート様!」
マリエッテが鬼気迫る顔をしている。こんな顔、ヒュンダルン様にもさせてしまうのだろうか……
「もう……もう、友人なんて、言えないかもしれない……」
たまらなく、マリエッテに心の内を吐露する。
「友人?友人とはゴーリッシュ騎士団長様のことですか?何か、何をされたのです!?」
必死の形相のマリエッテ、幼い頃からいつも一緒にいてくれて、今、物凄く心配してくれてる…
「ううん…何も言われてないし、されてない…違うの…違うんだよ、僕が……………素直に、祝ってあげられそうになくて……嫌な、人間なんだ…」
家から、出なければ良かった…………
「祝ってって…?何方の、何を?」
当たり前のことに、マリエッテは状況が掴めないでいる。
「ヒュンダルン様の……ご婚約……」
言葉にしてみて、再度胸にドシンと響く…
嫌なんだ…ヒュンダルン様が誰かと婚約してしまうのが…
「はぁ!?ヒュンダルン様が何方と婚約したと言うのです!?ウリート様がおられるのに!?」
「それはおかしいよ、マリエッテ…僕は友人だし…見たんだよ…ご令嬢と楽しそうにお話している所…きっと、あの方が…」
ヒュンダルン様の婚約者だ……
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