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55、貴婦人の囀り ⑥
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「今が、チャンスなのですわ。分かりますね?マリエッテ……」
「はい。」
王城に繋がる馬車置き場に、居ても不自然では無い令嬢にそれに従う侍女の姿がある。王城からお暇するのか、はたまたこれから場内に用があって何やら打ち合わせでもしているのか……王城で何か催される時には良く見る風景だ。その令嬢の手荷物をマリエッテは恭しく受け取っていた。
本日は、先日国王に呼び出されたヒュンダルンとウリートに付き従いマリエッテも登城した。けれどもマリエッテの身分では城内に入る事叶わず、城付きの侍女から声が掛かるまで馬車置き場で待機なのである。なのでこの機を見逃さなかった。
何しろゴーリッシュ騎士団長ときたら、自他共に認める独身主義者の様な男で、おいそれと城の中で令嬢自らが呼び止める事が難しい。ならば騎士団本部まで行けば良いのだが、先日ある令嬢が来所した折には、その令嬢がゴーリッシュ騎士団長の婚約者かとの噂が飛び交い騎士団内部が大いに盛り上がってしまったと聞いている。ゴーリッシュ騎士団長達を取り巻く人々に勘違いさせたいわけではないのだからこの様な理由から騎士団本部へと個人で押し掛けることは避けたいところなのだ。エーベ公爵邸に伺うと言う手もあるが、ゴーリッシュ騎士団長よりもウリートの方が邸で過ごす時間が長い。そして今マリエッテが持っているこれはウリートではなくゴーリッシュ騎士団長に渡しておきたい物である。エーベ公爵家に送ったとして、普段交流が無い令嬢からの贈り物など、中を改められる事もあるかも知れない。そうしたらば送り主の意図を変に勘ぐられてしまいそうでもある。であるから今日が絶好のチャンスであった。ゴーリッシュ騎士団長やウリートに合わずして彼らを支える同士に接触し、必要な物を渡せるのだから。
高貴な令嬢から大きめの小物入れを受け取ったマリエッテは令嬢がその場を去るまで礼儀として頭を下げる。
「頼みましてよ?マリエッテ…私も後程首尾は確認いたしますわ。ですからそれらをゴーリッシュ騎士団長に内密にお渡しくださいませね?」
「心得ました……」
「うふふふ…結果が楽しみですこと。それらは一度に使うも良し。小出しに使うも良い物とお聞きしていますわ。あの方の采配一つでも、貴方の見極めによって判断されても良いわ。」
「御心のままに……」
きっと中にはここで開けて改めるには憚れる様な物が入っているのだろう。マリエッテにもそれらの心得はあるので、改めようとも思わないのだが…
「ねぇ、マリエッテ…全てを信じきって委ねる者の美しさと言ったら何とも言えないでしょうね?あ、私、少し強引なお相手というのも好きですけど、あの方はどちらだと思う?」
キラキラと輝く金の髪を本日は綺麗に編み込んでハーフアップにお団子で髪をまとめた令嬢は夢現の様に語り出す。
「はい。ヘタレ……いえ、何かを慮って居られるのか、随分慎重なご様子です。」
「まぁ!ヘタレ…!いえ、慎重派ですのね?よろしいでしょう!では、そんな方にも使い易い物をお持ちしなくては…!」
「まあ、なんてお優しい…」
「お二人のためですもの。私達だってお側で見守っていたいのですけれど、現実がそれを許しては下さらないわ。」
「左様にございます。」
「でも、諦めては行けませんわ。私達には素晴らしい協力者と互いの信念を同じくする同士が沢山いるのですもの…!」
「はい、左様です!」
「良いこと、マリエッテ!お二人のお幸せそうなお顔を見るまでは私達は決して諦めませんのよ?何かありましたら今回の様に直ぐに知らせるのです。特に邪魔なさる様な方が居たならば、高位貴族を相手取ると心得させておきなさい。よろしくて?」
「お心強いお言葉ですわ。心してお二人に仕えて参ります。」
「そうです。マリエッテ!貴方が仕えるのはあらゆる可能性を秘めたあのお二人ですのよ?心躍りますわ…ねぇ、そうでしょう?」
「はい。しかし、我が主人ながらウリート様は鈍感すぎるのでございます。そこが可愛らしくてゴーリッシュ騎士団長様も楽しまれているのではないかと危惧もしているのですけれども、いかんせん、焦ったいのでございます。」
「うふふ、その気持ち良くわかりますわ。早く押し倒せとでも言いたいのでしょうけれども、それをグッと耐えてこそ味があるとも申せましょう。ゴーリッシュ騎士団長には何らかのお考えが無いとも言えませんもの。赤獅子と言われたお方がただのヘタレで終わるとも思えないのです。だから我らは空気の様な存在となり、そんな彼らの周りを巡り行くのです。」
「それも一つの楽しみ方であると?」
「主人の幸せがその向こうにあるのならば、それはそれでよろしくは無くて?」
なるほど…主人、ウリート様の幸せが1番…ならばゴーリッシュ騎士団長様、頼みましたよ!
「はい。」
王城に繋がる馬車置き場に、居ても不自然では無い令嬢にそれに従う侍女の姿がある。王城からお暇するのか、はたまたこれから場内に用があって何やら打ち合わせでもしているのか……王城で何か催される時には良く見る風景だ。その令嬢の手荷物をマリエッテは恭しく受け取っていた。
本日は、先日国王に呼び出されたヒュンダルンとウリートに付き従いマリエッテも登城した。けれどもマリエッテの身分では城内に入る事叶わず、城付きの侍女から声が掛かるまで馬車置き場で待機なのである。なのでこの機を見逃さなかった。
何しろゴーリッシュ騎士団長ときたら、自他共に認める独身主義者の様な男で、おいそれと城の中で令嬢自らが呼び止める事が難しい。ならば騎士団本部まで行けば良いのだが、先日ある令嬢が来所した折には、その令嬢がゴーリッシュ騎士団長の婚約者かとの噂が飛び交い騎士団内部が大いに盛り上がってしまったと聞いている。ゴーリッシュ騎士団長達を取り巻く人々に勘違いさせたいわけではないのだからこの様な理由から騎士団本部へと個人で押し掛けることは避けたいところなのだ。エーベ公爵邸に伺うと言う手もあるが、ゴーリッシュ騎士団長よりもウリートの方が邸で過ごす時間が長い。そして今マリエッテが持っているこれはウリートではなくゴーリッシュ騎士団長に渡しておきたい物である。エーベ公爵家に送ったとして、普段交流が無い令嬢からの贈り物など、中を改められる事もあるかも知れない。そうしたらば送り主の意図を変に勘ぐられてしまいそうでもある。であるから今日が絶好のチャンスであった。ゴーリッシュ騎士団長やウリートに合わずして彼らを支える同士に接触し、必要な物を渡せるのだから。
高貴な令嬢から大きめの小物入れを受け取ったマリエッテは令嬢がその場を去るまで礼儀として頭を下げる。
「頼みましてよ?マリエッテ…私も後程首尾は確認いたしますわ。ですからそれらをゴーリッシュ騎士団長に内密にお渡しくださいませね?」
「心得ました……」
「うふふふ…結果が楽しみですこと。それらは一度に使うも良し。小出しに使うも良い物とお聞きしていますわ。あの方の采配一つでも、貴方の見極めによって判断されても良いわ。」
「御心のままに……」
きっと中にはここで開けて改めるには憚れる様な物が入っているのだろう。マリエッテにもそれらの心得はあるので、改めようとも思わないのだが…
「ねぇ、マリエッテ…全てを信じきって委ねる者の美しさと言ったら何とも言えないでしょうね?あ、私、少し強引なお相手というのも好きですけど、あの方はどちらだと思う?」
キラキラと輝く金の髪を本日は綺麗に編み込んでハーフアップにお団子で髪をまとめた令嬢は夢現の様に語り出す。
「はい。ヘタレ……いえ、何かを慮って居られるのか、随分慎重なご様子です。」
「まぁ!ヘタレ…!いえ、慎重派ですのね?よろしいでしょう!では、そんな方にも使い易い物をお持ちしなくては…!」
「まあ、なんてお優しい…」
「お二人のためですもの。私達だってお側で見守っていたいのですけれど、現実がそれを許しては下さらないわ。」
「左様にございます。」
「でも、諦めては行けませんわ。私達には素晴らしい協力者と互いの信念を同じくする同士が沢山いるのですもの…!」
「はい、左様です!」
「良いこと、マリエッテ!お二人のお幸せそうなお顔を見るまでは私達は決して諦めませんのよ?何かありましたら今回の様に直ぐに知らせるのです。特に邪魔なさる様な方が居たならば、高位貴族を相手取ると心得させておきなさい。よろしくて?」
「お心強いお言葉ですわ。心してお二人に仕えて参ります。」
「そうです。マリエッテ!貴方が仕えるのはあらゆる可能性を秘めたあのお二人ですのよ?心躍りますわ…ねぇ、そうでしょう?」
「はい。しかし、我が主人ながらウリート様は鈍感すぎるのでございます。そこが可愛らしくてゴーリッシュ騎士団長様も楽しまれているのではないかと危惧もしているのですけれども、いかんせん、焦ったいのでございます。」
「うふふ、その気持ち良くわかりますわ。早く押し倒せとでも言いたいのでしょうけれども、それをグッと耐えてこそ味があるとも申せましょう。ゴーリッシュ騎士団長には何らかのお考えが無いとも言えませんもの。赤獅子と言われたお方がただのヘタレで終わるとも思えないのです。だから我らは空気の様な存在となり、そんな彼らの周りを巡り行くのです。」
「それも一つの楽しみ方であると?」
「主人の幸せがその向こうにあるのならば、それはそれでよろしくは無くて?」
なるほど…主人、ウリート様の幸せが1番…ならばゴーリッシュ騎士団長様、頼みましたよ!
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