50 / 135
51、アランドの本心 2
しおりを挟む
「セージュ!」
ドアが開くと、懐かしい自分よりも大きく育った弟の姿が飛び込んでくる。
「あぁ……」
短く返事をした低い声はまだ若いけれどもすっかりと大人の男の声だ。
「いらっしゃい。今、マリエッテがお菓子を用意してくれるよ?」
いつもならば一目散にウリートとのところに来てはベタベタと引っ付いているセージュなのだ。が、今日はどうしたものか様子が違って見える。
「セージュ、座ったら?」
神妙な顔をしたセージュがウリートの所に近付いてきてはそっと頬に触れて来た。
「…元気か?」
いらっしゃいって、ここはウリーの家じゃ無い…
「うん?体調はいいよ?どうしたの?」
座らないの?
コテンと首を傾げるウリートはいつもと変わらない。いや、アクロース侯爵家にいる頃よりも少しだが確かに肉付きが良くなったようにも感じる。そして顔色も悪くはない。ウリートが好きそうな本まで持ってセージュを迎えるくらいには自由もある。
では…
「何か、嫌なことでもされているのか?」
人に言えない様な何かをされたり言われたり、そんな事にはなっていないか?
セージュはそれを確かめたかった。かの令嬢が心配しているような事になってはいないかと…ゴーリッシュ騎士団長がウリートを独り占めする為に、何か口に出せない様な事でウリートを縛り付けているのじゃ無いかと…
「え………?嫌な事…?」
ウリートは一瞬キョトンとした顔をする。
それでは、嫌な事など無いのだな?何か脅されたり、弱みを握られているわけでも無いのだな?そうか、ならばいい…緊張していたであろう、強張った顔に笑顔を貼り付けようとして、セージュの動きが止まる。
ウリートはキョトンとしたのも束の間、次の瞬間には顔を真っ赤に染め上げていたのだから。
「何が…あった?」
セージュは自分の顔から血の気が引いて行くのを感じる。もし、ゴーリッシュ騎士団長が無体を強いてウリートにこんな顔をさせているのならば、ウリートを何かで脅してここに留めているのならば、いくらエーベ公爵邸であろうともゴーリッシュ騎士団長をこの場で切り捨ててしまいかねない。それほど、この一瞬でセージュの頭には血が昇ってしまった。
「え…何が?……大した事、無いよ?」
そう、大したことでは無い。けれども口に出して言うことでも無い様に思う。
「言え!言ってくれ!ウリー!何で脅されているんだ!?」
セージュはガッとウリートの両肩を掴んで、まるで食いつく様に聞いてくる。
「セー…ジュ?どうしたの…?何か勘違いをしていないか?」
セージュの頬に手を当てて、ウリートは聞き返す。
「じゃあ、何でも無いならば何で家に帰って来ない?ウリーがここに止まる理由なんてないだろう?」
「………うん………そうだね…」
さっきウリートも考えていたその理由。体調は戻ったのだ。はっきり言ってエーベ公爵家にお世話になる理由はない。社交に出る為の練習とヒュンダルンの悩み解決を前面に押し出したとしても、公爵邸に留まらなくてもいいはずで……
「そうなんだよ…!だからもう帰ろう、ウリー…!」
ウリートを見下ろすセージュの瞳が幼い頃の彼と重なる。体調を崩して寝込んでいるウリートの所へ不安を一杯抱えて、辿々しく付き添ったあの小さなセージュ…
可愛かったな……
ウリートの体調を鑑みて、すぐにアランドに部屋から出されていたけれども、部屋から出て行く時の縋り付くようなセージュの、揺れる瞳は今でも忘れる事ができない思い出だ。
「実は、先生をしていて…」
「は?先生?」
何の話かと思ったら、拍子抜けも良いところだ!
「何を教えているって?手に持っていた古語か?」
「それは…ちょっと…」
言える様なものではない、かも…
「一体何だと言うんだ!?」
マリエッテはここにはいない…じゃあ、いいか?
チョイチョイと手招きして、セージュの耳にこそっと事実を話した。
「は……?なんだ、それ?」
ウリートの話が本当ならば、ゴーリッシュ騎士団長は教育係が担当する下の世話をウリートにさせていると言う事になる。どこの貴族家にもその様な教育担当者はいるにはいるが決して身分の高くない者達だ。その様な者の代わりに……?
「何だ、それ!!」
馬鹿にするにも程があるだろう!信じられない!ウリートが外にも出て行くことができない様な身体の弱さがあるからと言って、まさか、その為に飼い殺しにしようとしているんじゃないだろうな!?
「セージュ!?」
セージュの怒りは凄まじかった。一方的にヒュンダルンを責め立てて、どれだけ不条理な事をされているか、いい加減に気付けとウリートに諭すのだ。
「やっぱり、このままじゃダメだ。うちに帰ろう!」
ウリートを食い物の様に扱うゴーリッシュ騎士団長にはもう、任せておけない。
ギュッとウリートの手を掴んだセージュにはもう迷いはない。
「セージュ!!」
ウリートを連れて帰る。アクロース侯爵家へ!ゴーリッシュ騎士団長が何と言おうと、団長にそれを止めるだけの権利は無い!
ドアが開くと、懐かしい自分よりも大きく育った弟の姿が飛び込んでくる。
「あぁ……」
短く返事をした低い声はまだ若いけれどもすっかりと大人の男の声だ。
「いらっしゃい。今、マリエッテがお菓子を用意してくれるよ?」
いつもならば一目散にウリートとのところに来てはベタベタと引っ付いているセージュなのだ。が、今日はどうしたものか様子が違って見える。
「セージュ、座ったら?」
神妙な顔をしたセージュがウリートの所に近付いてきてはそっと頬に触れて来た。
「…元気か?」
いらっしゃいって、ここはウリーの家じゃ無い…
「うん?体調はいいよ?どうしたの?」
座らないの?
コテンと首を傾げるウリートはいつもと変わらない。いや、アクロース侯爵家にいる頃よりも少しだが確かに肉付きが良くなったようにも感じる。そして顔色も悪くはない。ウリートが好きそうな本まで持ってセージュを迎えるくらいには自由もある。
では…
「何か、嫌なことでもされているのか?」
人に言えない様な何かをされたり言われたり、そんな事にはなっていないか?
セージュはそれを確かめたかった。かの令嬢が心配しているような事になってはいないかと…ゴーリッシュ騎士団長がウリートを独り占めする為に、何か口に出せない様な事でウリートを縛り付けているのじゃ無いかと…
「え………?嫌な事…?」
ウリートは一瞬キョトンとした顔をする。
それでは、嫌な事など無いのだな?何か脅されたり、弱みを握られているわけでも無いのだな?そうか、ならばいい…緊張していたであろう、強張った顔に笑顔を貼り付けようとして、セージュの動きが止まる。
ウリートはキョトンとしたのも束の間、次の瞬間には顔を真っ赤に染め上げていたのだから。
「何が…あった?」
セージュは自分の顔から血の気が引いて行くのを感じる。もし、ゴーリッシュ騎士団長が無体を強いてウリートにこんな顔をさせているのならば、ウリートを何かで脅してここに留めているのならば、いくらエーベ公爵邸であろうともゴーリッシュ騎士団長をこの場で切り捨ててしまいかねない。それほど、この一瞬でセージュの頭には血が昇ってしまった。
「え…何が?……大した事、無いよ?」
そう、大したことでは無い。けれども口に出して言うことでも無い様に思う。
「言え!言ってくれ!ウリー!何で脅されているんだ!?」
セージュはガッとウリートの両肩を掴んで、まるで食いつく様に聞いてくる。
「セー…ジュ?どうしたの…?何か勘違いをしていないか?」
セージュの頬に手を当てて、ウリートは聞き返す。
「じゃあ、何でも無いならば何で家に帰って来ない?ウリーがここに止まる理由なんてないだろう?」
「………うん………そうだね…」
さっきウリートも考えていたその理由。体調は戻ったのだ。はっきり言ってエーベ公爵家にお世話になる理由はない。社交に出る為の練習とヒュンダルンの悩み解決を前面に押し出したとしても、公爵邸に留まらなくてもいいはずで……
「そうなんだよ…!だからもう帰ろう、ウリー…!」
ウリートを見下ろすセージュの瞳が幼い頃の彼と重なる。体調を崩して寝込んでいるウリートの所へ不安を一杯抱えて、辿々しく付き添ったあの小さなセージュ…
可愛かったな……
ウリートの体調を鑑みて、すぐにアランドに部屋から出されていたけれども、部屋から出て行く時の縋り付くようなセージュの、揺れる瞳は今でも忘れる事ができない思い出だ。
「実は、先生をしていて…」
「は?先生?」
何の話かと思ったら、拍子抜けも良いところだ!
「何を教えているって?手に持っていた古語か?」
「それは…ちょっと…」
言える様なものではない、かも…
「一体何だと言うんだ!?」
マリエッテはここにはいない…じゃあ、いいか?
チョイチョイと手招きして、セージュの耳にこそっと事実を話した。
「は……?なんだ、それ?」
ウリートの話が本当ならば、ゴーリッシュ騎士団長は教育係が担当する下の世話をウリートにさせていると言う事になる。どこの貴族家にもその様な教育担当者はいるにはいるが決して身分の高くない者達だ。その様な者の代わりに……?
「何だ、それ!!」
馬鹿にするにも程があるだろう!信じられない!ウリートが外にも出て行くことができない様な身体の弱さがあるからと言って、まさか、その為に飼い殺しにしようとしているんじゃないだろうな!?
「セージュ!?」
セージュの怒りは凄まじかった。一方的にヒュンダルンを責め立てて、どれだけ不条理な事をされているか、いい加減に気付けとウリートに諭すのだ。
「やっぱり、このままじゃダメだ。うちに帰ろう!」
ウリートを食い物の様に扱うゴーリッシュ騎士団長にはもう、任せておけない。
ギュッとウリートの手を掴んだセージュにはもう迷いはない。
「セージュ!!」
ウリートを連れて帰る。アクロース侯爵家へ!ゴーリッシュ騎士団長が何と言おうと、団長にそれを止めるだけの権利は無い!
1,217
お気に入りに追加
2,561
あなたにおすすめの小説
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる