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51、アランドの本心 2
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「セージュ!」
ドアが開くと、懐かしい自分よりも大きく育った弟の姿が飛び込んでくる。
「あぁ……」
短く返事をした低い声はまだ若いけれどもすっかりと大人の男の声だ。
「いらっしゃい。今、マリエッテがお菓子を用意してくれるよ?」
いつもならば一目散にウリートとのところに来てはベタベタと引っ付いているセージュなのだ。が、今日はどうしたものか様子が違って見える。
「セージュ、座ったら?」
神妙な顔をしたセージュがウリートの所に近付いてきてはそっと頬に触れて来た。
「…元気か?」
いらっしゃいって、ここはウリーの家じゃ無い…
「うん?体調はいいよ?どうしたの?」
座らないの?
コテンと首を傾げるウリートはいつもと変わらない。いや、アクロース侯爵家にいる頃よりも少しだが確かに肉付きが良くなったようにも感じる。そして顔色も悪くはない。ウリートが好きそうな本まで持ってセージュを迎えるくらいには自由もある。
では…
「何か、嫌なことでもされているのか?」
人に言えない様な何かをされたり言われたり、そんな事にはなっていないか?
セージュはそれを確かめたかった。かの令嬢が心配しているような事になってはいないかと…ゴーリッシュ騎士団長がウリートを独り占めする為に、何か口に出せない様な事でウリートを縛り付けているのじゃ無いかと…
「え………?嫌な事…?」
ウリートは一瞬キョトンとした顔をする。
それでは、嫌な事など無いのだな?何か脅されたり、弱みを握られているわけでも無いのだな?そうか、ならばいい…緊張していたであろう、強張った顔に笑顔を貼り付けようとして、セージュの動きが止まる。
ウリートはキョトンとしたのも束の間、次の瞬間には顔を真っ赤に染め上げていたのだから。
「何が…あった?」
セージュは自分の顔から血の気が引いて行くのを感じる。もし、ゴーリッシュ騎士団長が無体を強いてウリートにこんな顔をさせているのならば、ウリートを何かで脅してここに留めているのならば、いくらエーベ公爵邸であろうともゴーリッシュ騎士団長をこの場で切り捨ててしまいかねない。それほど、この一瞬でセージュの頭には血が昇ってしまった。
「え…何が?……大した事、無いよ?」
そう、大したことでは無い。けれども口に出して言うことでも無い様に思う。
「言え!言ってくれ!ウリー!何で脅されているんだ!?」
セージュはガッとウリートの両肩を掴んで、まるで食いつく様に聞いてくる。
「セー…ジュ?どうしたの…?何か勘違いをしていないか?」
セージュの頬に手を当てて、ウリートは聞き返す。
「じゃあ、何でも無いならば何で家に帰って来ない?ウリーがここに止まる理由なんてないだろう?」
「………うん………そうだね…」
さっきウリートも考えていたその理由。体調は戻ったのだ。はっきり言ってエーベ公爵家にお世話になる理由はない。社交に出る為の練習とヒュンダルンの悩み解決を前面に押し出したとしても、公爵邸に留まらなくてもいいはずで……
「そうなんだよ…!だからもう帰ろう、ウリー…!」
ウリートを見下ろすセージュの瞳が幼い頃の彼と重なる。体調を崩して寝込んでいるウリートの所へ不安を一杯抱えて、辿々しく付き添ったあの小さなセージュ…
可愛かったな……
ウリートの体調を鑑みて、すぐにアランドに部屋から出されていたけれども、部屋から出て行く時の縋り付くようなセージュの、揺れる瞳は今でも忘れる事ができない思い出だ。
「実は、先生をしていて…」
「は?先生?」
何の話かと思ったら、拍子抜けも良いところだ!
「何を教えているって?手に持っていた古語か?」
「それは…ちょっと…」
言える様なものではない、かも…
「一体何だと言うんだ!?」
マリエッテはここにはいない…じゃあ、いいか?
チョイチョイと手招きして、セージュの耳にこそっと事実を話した。
「は……?なんだ、それ?」
ウリートの話が本当ならば、ゴーリッシュ騎士団長は教育係が担当する下の世話をウリートにさせていると言う事になる。どこの貴族家にもその様な教育担当者はいるにはいるが決して身分の高くない者達だ。その様な者の代わりに……?
「何だ、それ!!」
馬鹿にするにも程があるだろう!信じられない!ウリートが外にも出て行くことができない様な身体の弱さがあるからと言って、まさか、その為に飼い殺しにしようとしているんじゃないだろうな!?
「セージュ!?」
セージュの怒りは凄まじかった。一方的にヒュンダルンを責め立てて、どれだけ不条理な事をされているか、いい加減に気付けとウリートに諭すのだ。
「やっぱり、このままじゃダメだ。うちに帰ろう!」
ウリートを食い物の様に扱うゴーリッシュ騎士団長にはもう、任せておけない。
ギュッとウリートの手を掴んだセージュにはもう迷いはない。
「セージュ!!」
ウリートを連れて帰る。アクロース侯爵家へ!ゴーリッシュ騎士団長が何と言おうと、団長にそれを止めるだけの権利は無い!
ドアが開くと、懐かしい自分よりも大きく育った弟の姿が飛び込んでくる。
「あぁ……」
短く返事をした低い声はまだ若いけれどもすっかりと大人の男の声だ。
「いらっしゃい。今、マリエッテがお菓子を用意してくれるよ?」
いつもならば一目散にウリートとのところに来てはベタベタと引っ付いているセージュなのだ。が、今日はどうしたものか様子が違って見える。
「セージュ、座ったら?」
神妙な顔をしたセージュがウリートの所に近付いてきてはそっと頬に触れて来た。
「…元気か?」
いらっしゃいって、ここはウリーの家じゃ無い…
「うん?体調はいいよ?どうしたの?」
座らないの?
コテンと首を傾げるウリートはいつもと変わらない。いや、アクロース侯爵家にいる頃よりも少しだが確かに肉付きが良くなったようにも感じる。そして顔色も悪くはない。ウリートが好きそうな本まで持ってセージュを迎えるくらいには自由もある。
では…
「何か、嫌なことでもされているのか?」
人に言えない様な何かをされたり言われたり、そんな事にはなっていないか?
セージュはそれを確かめたかった。かの令嬢が心配しているような事になってはいないかと…ゴーリッシュ騎士団長がウリートを独り占めする為に、何か口に出せない様な事でウリートを縛り付けているのじゃ無いかと…
「え………?嫌な事…?」
ウリートは一瞬キョトンとした顔をする。
それでは、嫌な事など無いのだな?何か脅されたり、弱みを握られているわけでも無いのだな?そうか、ならばいい…緊張していたであろう、強張った顔に笑顔を貼り付けようとして、セージュの動きが止まる。
ウリートはキョトンとしたのも束の間、次の瞬間には顔を真っ赤に染め上げていたのだから。
「何が…あった?」
セージュは自分の顔から血の気が引いて行くのを感じる。もし、ゴーリッシュ騎士団長が無体を強いてウリートにこんな顔をさせているのならば、ウリートを何かで脅してここに留めているのならば、いくらエーベ公爵邸であろうともゴーリッシュ騎士団長をこの場で切り捨ててしまいかねない。それほど、この一瞬でセージュの頭には血が昇ってしまった。
「え…何が?……大した事、無いよ?」
そう、大したことでは無い。けれども口に出して言うことでも無い様に思う。
「言え!言ってくれ!ウリー!何で脅されているんだ!?」
セージュはガッとウリートの両肩を掴んで、まるで食いつく様に聞いてくる。
「セー…ジュ?どうしたの…?何か勘違いをしていないか?」
セージュの頬に手を当てて、ウリートは聞き返す。
「じゃあ、何でも無いならば何で家に帰って来ない?ウリーがここに止まる理由なんてないだろう?」
「………うん………そうだね…」
さっきウリートも考えていたその理由。体調は戻ったのだ。はっきり言ってエーベ公爵家にお世話になる理由はない。社交に出る為の練習とヒュンダルンの悩み解決を前面に押し出したとしても、公爵邸に留まらなくてもいいはずで……
「そうなんだよ…!だからもう帰ろう、ウリー…!」
ウリートを見下ろすセージュの瞳が幼い頃の彼と重なる。体調を崩して寝込んでいるウリートの所へ不安を一杯抱えて、辿々しく付き添ったあの小さなセージュ…
可愛かったな……
ウリートの体調を鑑みて、すぐにアランドに部屋から出されていたけれども、部屋から出て行く時の縋り付くようなセージュの、揺れる瞳は今でも忘れる事ができない思い出だ。
「実は、先生をしていて…」
「は?先生?」
何の話かと思ったら、拍子抜けも良いところだ!
「何を教えているって?手に持っていた古語か?」
「それは…ちょっと…」
言える様なものではない、かも…
「一体何だと言うんだ!?」
マリエッテはここにはいない…じゃあ、いいか?
チョイチョイと手招きして、セージュの耳にこそっと事実を話した。
「は……?なんだ、それ?」
ウリートの話が本当ならば、ゴーリッシュ騎士団長は教育係が担当する下の世話をウリートにさせていると言う事になる。どこの貴族家にもその様な教育担当者はいるにはいるが決して身分の高くない者達だ。その様な者の代わりに……?
「何だ、それ!!」
馬鹿にするにも程があるだろう!信じられない!ウリートが外にも出て行くことができない様な身体の弱さがあるからと言って、まさか、その為に飼い殺しにしようとしているんじゃないだろうな!?
「セージュ!?」
セージュの怒りは凄まじかった。一方的にヒュンダルンを責め立てて、どれだけ不条理な事をされているか、いい加減に気付けとウリートに諭すのだ。
「やっぱり、このままじゃダメだ。うちに帰ろう!」
ウリートを食い物の様に扱うゴーリッシュ騎士団長にはもう、任せておけない。
ギュッとウリートの手を掴んだセージュにはもう迷いはない。
「セージュ!!」
ウリートを連れて帰る。アクロース侯爵家へ!ゴーリッシュ騎士団長が何と言おうと、団長にそれを止めるだけの権利は無い!
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