[完]腐違い貴婦人会に出席したら、今何故か騎士団長の妻をしてます…

小葉石

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44、招かざる客人 2

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「誤解なさらないでね?アクロース侯爵子息様…きっとゴーリッシュ騎士団長も兄上様のことを思って良かれとしていることでしょう。」

「閉じ込めておいてですか?」

「まあ、まだ体調が整っていないだけだとも思いますわ。閉じ込めているわけではないと思いますのよ?ただ……」

 セージュはそれでも納得がいかない。ウリートは家に帰れないほどの体調では無いからだ。アメリアの言いたい事もよく分かった。分かった上で、ゴーリッシュ騎士団長がしている事が殊更理解できないものとなった。ウリートの体調が良くなれば今までの様に実家アクロース家で過ごせばいいだけのこと。書庫の前で倒れてしまった時には緊急性があって致し方なくそうしたに過ぎないのだろうから。

「ただ、私が解せないのは、まるでゴーリッシュ騎士団長が独り占めをしている様に見えて、そこが頂けませんわね。」

「ウリーは物ではありませんよ?」

「わかっていますわ。けれど、その才能もさる事ながら、あれだけ素敵な兄上様ですもの。皆様の目に留まって大切に大切に扱われても良いだろうと思ってますの。誰かが独り占めなんてしたら、きっと寂しい思いをする者が出てきてしまうわ。その事に気がついた兄上様はお心をお傷めになるのではなくて?そう思いませんこと?」
 
 だから、アメリアは囲い込まれている様な今の状況は貴方も好ましく思えないだろうと、そう言いたいのだろうか。

 

 
 ウリー…帰ってこないのは、何か脅されでもしているのか?

 会いに行けば嬉しそうにニコニコと近付いて来て、時にはセージュの頭を撫でてくる。それは実家にいた時と全く変わりようが無い笑顔だから気が付かなかっただけだろうか?ゴーリッシュ騎士団長もあの笑顔を手放したくなくて……?
 
 何かを抑えられているとしたら?アランド兄上はゴーリッシュ騎士団長の昔からの友人だ。それに何か弱みがあったとしても顔にも出さずに飄々として躱していく。それどころか隙を見つけて相手を切り崩しにかかる。アランド兄上とはそういう男だ。だからアランド兄上を脅しに使っても無駄である事は付き合いが長い分よく理解していると思う。それにあの2人の関係は騎士団訓練生の中から見ていても、決して悪いものではない。程よい距離を保ちつつ、互いの信頼も厚く、良好な友好関係を築けている様に見えるのだ。だとしたら、実家アクロース侯爵家?だが、エーベ公爵家とは対立する家柄ではない。もうエーベ公爵家を出ているゴーリッシュ騎士団長が家を巻き込んだそんな暴挙に出るとは考えにくい。ならば………か………?

 自分の身を立てる事も成人前のセージュにはまだ無理がある。将来はアランドと同じく騎士志望で騎士養成所に入って勉強中でもある。そしてウリートを囲っているのは、騎士団団長…セージュの騎士職を左右する事など朝飯前とも思われた。正騎士から外すと言われれば……ウリートはセージュを守ろうとして…?

 まさか、俺の、為に…?

 ギリギリとセージュの握りしめている手が鳴った。

「アクロース侯爵子息様…思い詰めてはいけませんわ。思い出してくださいませ。書庫の妖精はどの様な人物でして?決して自分の為に誰かがいがみ合う様な事をお望みにはならないんじゃないかしら?それよりも、皆様が仲良く、笑顔で過ごされる事をお望みでは?」

 アメリアは直接ウリートと合間見えた事はない。けれど少し垣間見たウリートの風貌や所作からも、噂に聞く人柄と実際の本人像はかけ離れた物ではないだろうと推測できる。世間知らずで、身内に甘く、無理をしてでも自分を貫き通す芯の強さも持ち合わせている…そしてあの外見に、あどけない所作とくれば、惹かれる者は多いだろう。身内への甘さからもきっと争い事はことごとく避けようとする性質だ。

 だから、皆様で可愛がって差し上げるべきなのですわ……

「ね?貴方様もそう思いますでしょう?」

 気がつけば、フォロークス侯爵家の馬車はアクロース侯爵家敷地のすぐ側で停まった。

「私、病弱で薄幸の様に見える兄上様が皆様としているところが見たいんですの。ね?アクロース侯爵子息様、兄上様を幸せにして差し上げて?」

 別れの挨拶にとんでもなく失礼な事を言い放たれた。

 ウリーを幸せにしてあげてだと?そんな事を赤の他人に言われる筋合いなんてない。ウリーは自分の家族だ。幼い頃から自分の具合が悪いのに、それを押してでも笑って、人の頭を撫でてくる様な家族思いの優しい兄だ。そんな兄が誰よりも幸せになって欲しいと願って来たのは他の誰でもない、家族達アクロース家の人間だ。他人等に言われてなるものか…!

「お気遣い、感謝いたします。フォロークス侯爵令嬢。ウリーの事ならば誰よりも考えておりますので、お気になさらず…」

 それだけ言ってセージュは直ぐ様その場を後にした。













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