43 / 135
44、招かざる客人 2
しおりを挟む
「誤解なさらないでね?アクロース侯爵子息様…きっとゴーリッシュ騎士団長も兄上様のことを思って良かれとしていることでしょう。」
「閉じ込めておいてですか?」
「まあ、まだ体調が整っていないだけだとも思いますわ。閉じ込めているわけではないと思いますのよ?ただ……」
セージュはそれでも納得がいかない。ウリートは家に帰れないほどの体調では無いからだ。アメリアの言いたい事もよく分かった。分かった上で、ゴーリッシュ騎士団長がしている事が殊更理解できないものとなった。ウリートの体調が良くなれば今までの様に実家で過ごせばいいだけのこと。書庫の前で倒れてしまった時には緊急性があって致し方なくそうしたに過ぎないのだろうから。
「ただ、私が解せないのは、まるでゴーリッシュ騎士団長が独り占めをしている様に見えて、そこが頂けませんわね。」
「ウリーは物ではありませんよ?」
「わかっていますわ。けれど、その才能もさる事ながら、あれだけ素敵な兄上様ですもの。皆様の目に留まって大切に大切に扱われても良いだろうと思ってますの。誰かが独り占めなんてしたら、きっと寂しい思いをする者が出てきてしまうわ。その事に気がついた兄上様はお心をお傷めになるのではなくて?そう思いませんこと?」
だから、アメリアは囲い込まれている様な今の状況は貴方も好ましく思えないだろうと、そう言いたいのだろうか。
ウリー…帰ってこないのは、何か脅されでもしているのか?
会いに行けば嬉しそうにニコニコと近付いて来て、時にはセージュの頭を撫でてくる。それは実家にいた時と全く変わりようが無い笑顔だから気が付かなかっただけだろうか?ゴーリッシュ騎士団長もあの笑顔を手放したくなくて……?
何かを抑えられているとしたら?アランド兄上はゴーリッシュ騎士団長の昔からの友人だ。それに何か弱みがあったとしても顔にも出さずに飄々として躱していく。それどころか隙を見つけて相手を切り崩しにかかる。アランド兄上とはそういう男だ。だからアランド兄上を脅しに使っても無駄である事は付き合いが長い分よく理解していると思う。それにあの2人の関係は騎士団訓練生の中から見ていても、決して悪いものではない。程よい距離を保ちつつ、互いの信頼も厚く、良好な友好関係を築けている様に見えるのだ。だとしたら、実家?だが、エーベ公爵家とは対立する家柄ではない。もうエーベ公爵家を出ているゴーリッシュ騎士団長が家を巻き込んだそんな暴挙に出るとは考えにくい。ならば………俺か………?
自分の身を立てる事も成人前のセージュにはまだ無理がある。将来はアランドと同じく騎士志望で騎士養成所に入って勉強中でもある。そしてウリートを囲っているのは、騎士団団長…セージュの騎士職を左右する事など朝飯前とも思われた。正騎士から外すと言われれば……ウリートはセージュを守ろうとして…?
まさか、俺の、為に…?
ギリギリとセージュの握りしめている手が鳴った。
「アクロース侯爵子息様…思い詰めてはいけませんわ。思い出してくださいませ。書庫の妖精はどの様な人物でして?決して自分の為に誰かがいがみ合う様な事をお望みにはならないんじゃないかしら?それよりも、皆様が仲良く、笑顔で過ごされる事をお望みでは?」
アメリアは直接ウリートと合間見えた事はない。けれど少し垣間見たウリートの風貌や所作からも、噂に聞く人柄と実際の本人像はかけ離れた物ではないだろうと推測できる。世間知らずで、身内に甘く、無理をしてでも自分を貫き通す芯の強さも持ち合わせている…そしてあの外見に、あどけない所作とくれば、惹かれる者は多いだろう。身内への甘さからもきっと争い事はことごとく避けようとする性質だ。
だから、皆様で可愛がって差し上げるべきなのですわ……
「ね?貴方様もそう思いますでしょう?」
気がつけば、フォロークス侯爵家の馬車はアクロース侯爵家敷地のすぐ側で停まった。
「私、病弱で薄幸の様に見える兄上様が皆様と仲良くしているところが見たいんですの。ね?アクロース侯爵子息様、兄上様を幸せにして差し上げて?」
別れの挨拶にとんでもなく失礼な事を言い放たれた。
ウリーを幸せにしてあげてだと?そんな事を赤の他人に言われる筋合いなんてない。ウリーは自分の家族だ。幼い頃から自分の具合が悪いのに、それを押してでも笑って、人の頭を撫でてくる様な家族思いの優しい兄だ。そんな兄が誰よりも幸せになって欲しいと願って来たのは他の誰でもない、家族達だ。他人等に言われてなるものか…!
「お気遣い、感謝いたします。フォロークス侯爵令嬢。ウリーの事ならば誰よりも考えておりますので、お気になさらず…」
それだけ言ってセージュは直ぐ様その場を後にした。
「閉じ込めておいてですか?」
「まあ、まだ体調が整っていないだけだとも思いますわ。閉じ込めているわけではないと思いますのよ?ただ……」
セージュはそれでも納得がいかない。ウリートは家に帰れないほどの体調では無いからだ。アメリアの言いたい事もよく分かった。分かった上で、ゴーリッシュ騎士団長がしている事が殊更理解できないものとなった。ウリートの体調が良くなれば今までの様に実家で過ごせばいいだけのこと。書庫の前で倒れてしまった時には緊急性があって致し方なくそうしたに過ぎないのだろうから。
「ただ、私が解せないのは、まるでゴーリッシュ騎士団長が独り占めをしている様に見えて、そこが頂けませんわね。」
「ウリーは物ではありませんよ?」
「わかっていますわ。けれど、その才能もさる事ながら、あれだけ素敵な兄上様ですもの。皆様の目に留まって大切に大切に扱われても良いだろうと思ってますの。誰かが独り占めなんてしたら、きっと寂しい思いをする者が出てきてしまうわ。その事に気がついた兄上様はお心をお傷めになるのではなくて?そう思いませんこと?」
だから、アメリアは囲い込まれている様な今の状況は貴方も好ましく思えないだろうと、そう言いたいのだろうか。
ウリー…帰ってこないのは、何か脅されでもしているのか?
会いに行けば嬉しそうにニコニコと近付いて来て、時にはセージュの頭を撫でてくる。それは実家にいた時と全く変わりようが無い笑顔だから気が付かなかっただけだろうか?ゴーリッシュ騎士団長もあの笑顔を手放したくなくて……?
何かを抑えられているとしたら?アランド兄上はゴーリッシュ騎士団長の昔からの友人だ。それに何か弱みがあったとしても顔にも出さずに飄々として躱していく。それどころか隙を見つけて相手を切り崩しにかかる。アランド兄上とはそういう男だ。だからアランド兄上を脅しに使っても無駄である事は付き合いが長い分よく理解していると思う。それにあの2人の関係は騎士団訓練生の中から見ていても、決して悪いものではない。程よい距離を保ちつつ、互いの信頼も厚く、良好な友好関係を築けている様に見えるのだ。だとしたら、実家?だが、エーベ公爵家とは対立する家柄ではない。もうエーベ公爵家を出ているゴーリッシュ騎士団長が家を巻き込んだそんな暴挙に出るとは考えにくい。ならば………俺か………?
自分の身を立てる事も成人前のセージュにはまだ無理がある。将来はアランドと同じく騎士志望で騎士養成所に入って勉強中でもある。そしてウリートを囲っているのは、騎士団団長…セージュの騎士職を左右する事など朝飯前とも思われた。正騎士から外すと言われれば……ウリートはセージュを守ろうとして…?
まさか、俺の、為に…?
ギリギリとセージュの握りしめている手が鳴った。
「アクロース侯爵子息様…思い詰めてはいけませんわ。思い出してくださいませ。書庫の妖精はどの様な人物でして?決して自分の為に誰かがいがみ合う様な事をお望みにはならないんじゃないかしら?それよりも、皆様が仲良く、笑顔で過ごされる事をお望みでは?」
アメリアは直接ウリートと合間見えた事はない。けれど少し垣間見たウリートの風貌や所作からも、噂に聞く人柄と実際の本人像はかけ離れた物ではないだろうと推測できる。世間知らずで、身内に甘く、無理をしてでも自分を貫き通す芯の強さも持ち合わせている…そしてあの外見に、あどけない所作とくれば、惹かれる者は多いだろう。身内への甘さからもきっと争い事はことごとく避けようとする性質だ。
だから、皆様で可愛がって差し上げるべきなのですわ……
「ね?貴方様もそう思いますでしょう?」
気がつけば、フォロークス侯爵家の馬車はアクロース侯爵家敷地のすぐ側で停まった。
「私、病弱で薄幸の様に見える兄上様が皆様と仲良くしているところが見たいんですの。ね?アクロース侯爵子息様、兄上様を幸せにして差し上げて?」
別れの挨拶にとんでもなく失礼な事を言い放たれた。
ウリーを幸せにしてあげてだと?そんな事を赤の他人に言われる筋合いなんてない。ウリーは自分の家族だ。幼い頃から自分の具合が悪いのに、それを押してでも笑って、人の頭を撫でてくる様な家族思いの優しい兄だ。そんな兄が誰よりも幸せになって欲しいと願って来たのは他の誰でもない、家族達だ。他人等に言われてなるものか…!
「お気遣い、感謝いたします。フォロークス侯爵令嬢。ウリーの事ならば誰よりも考えておりますので、お気になさらず…」
それだけ言ってセージュは直ぐ様その場を後にした。
1,235
お気に入りに追加
2,561
あなたにおすすめの小説
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
王命で第二王子と婚姻だそうです(王子目線追加)
かのこkanoko
BL
第二王子と婚姻せよ。
はい?
自分、末端貴族の冴えない魔法使いですが?
しかも、男なんですが?
BL初挑戦!
ヌルイです。
王子目線追加しました。
沢山の方に読んでいただき、感謝します!!
6月3日、BL部門日間1位になりました。
ありがとうございます!!!
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
αからΩになった俺が幸せを掴むまで
なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。
10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。
義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。
アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。
義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が…
義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。
そんな海里が本当の幸せを掴むまで…
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる