[完]腐違い貴婦人会に出席したら、今何故か騎士団長の妻をしてます…

小葉石

文字の大きさ
上 下
36 / 135

37、家庭教師の練習 2

しおりを挟む
 朝食後にヒュンダルンは城へと出仕する。それからウリートは軽く散歩をし、勉強、昼食、午睡にそしてまた勉強。アクロース侯爵家にいた頃とあまり変わらない生活が送れている様になってやっとこの状況のおかしさに気がつき始めた。

「マリエッテ…」

「はい、なんでございましょう。」

 エーベ公爵家なのに当たり前のようにマリエッテもいてくれて…

「僕、いつまでここにいて良いのだろうか?」

 ウリートは貴族と言えども他家の者だ。来訪当初は緊急性のある治療目的ということで周囲も納得するだろう。が、今は?ここで産まれたヒュンダルンの友人と言うこと以外にはエーベ公爵家に接点はない。長らくお世話になった身で今更こんな事を言っても遅いのではないかとも思うのだが、エーベ公爵家の使用人達が変に受け取ってはいないかとても心配になってきてしまう。

「その事でしたらヒュンダルン様の方にお聞きになった方がお早いと思いますよ?」

 エーベ公爵家の使用人達には非常に好意的で親切にしてもらっている。それが表だけのものだとしても感謝しきれないほど良くしてもらった。だから変な噂を立てられるのも嫌だし、誤解はされたくはない。何しろ大切な友人ヒュンダルンの実家なのだから。




「ああ、言ってなかったな?」

 ウリートは出仕帰りのヒュンダルンを出迎える。ヒュンダルンの髪は少しだけ乱れていて、今日の任務はそんなにも激務だったのか…疲れているだろうにこんな質問をして申し訳なくてウリートは小さくなる。

「ウリートが言っていただろう?自立したいと。」

「ええ、そうです。」

「だからこれもその一環のつもりだ。実家に帰っては社会も何もないだろう?ここならば療養もできるが実家ではない。少しだけ狭い社会だが公爵家でも学べるものもあるだろう。」

 ヒュンダルンは社交界に出るのと同じくこのエーベ公爵家をも利用してよし、と言いたいらしい。

「そこまで、ご厄介になるのは…」

 どうしても気が引けてしまう…

「俺がやりたくてやっているのだ、だから気にするな。ところでウリート先生?」

「せ、先生?」

「なんだ?違うのか?家庭教師になりたいんだろう?」

「え、えぇ…そうですけれど…僕はヒュンダルン様の家庭教師ではありませんよ?」

 友人ですけど………

「どうかな?俺の知らない事をウリートは知っているかもしれん。」

「…?…何でしょうか?それは…」

「さてね?まずは食事だ。話は俺の部屋でいいか?」

「はい……?」

 ヒュンダルンの希望で今日の晩餐はヒュンダルンの部屋となる。濃紺に統一された色彩の部屋、所々朱と金が差し色に使われた非常に落ち着いた部屋だった。甘くないシトラスの香りで胸がスッとする。
 
 いつもと違う雰囲気になんだか落ち着かない気もするが、ヒュンダルンの笑顔は変わらずいつもの様に優しい。

「さて、ウリート。」

 食後のお茶を片していたウリートを、ヒュンダルンは自分が座っているソファーから手招きをする。

「何でしょう?」

 いつもの様に勉強の為の本を持ちウリートはヒュンダルンの隣に腰掛けた。先程ヒュンダルンは何かについて教えを請いたいと言う雰囲気であった。

「博識のウリートならばきっと知っているのだろうな?」

「はい、知っているものならばお教えできます。」

 その為に勉強に励んできたのだから…でも何だか今日のヒュンダルンは少しだけ雰囲気が違う?優しい笑顔は変わらないのに、なんだろう……?

 視線が逃げるなと言っているみたいに感じる…

「では聞こうか。ウリートは閨教育はできるか?」

「…………?」

 はい…?一瞬聞き間違えかとも思った…

「分からなかったか?単刀直入に言えば子作りだ。」

「…………!?」

 聞き違いではなかった。

「ね…や、教育?」

「何を驚いている?貴族の子息、子女に教育を施すんだ。当然それは避けられないだろう?」

「は…い………」

 ウリートは徐々に顔が熱くなるのがわかる…

「知っている、事はあります……」

「ふむ。流石だな…!アクロース侯爵家は教育に手抜かりはないのだな。」

「…………いえ…直接、享受されたわけではありません…」

「教えてもらったのだろう?」

 赤みを増していく頬を左右にフルフルと振ってウリートは否定を示す。

「身体の関係で、僕に子を残せる可能性はなかったのでしょうね。だから閨教育は受けてません。けれど、どんな事でも知ろうとしてましたから、アクロース侯爵家にあった指南書は読みました。」

 だから、知識としては知っている。

「なるほど…だが、それでは不十分だ。貴族の子息、子女は結婚適齢期前には指南を受ける。これは確実に子孫を残す為の手引きで重要な勤めだからだ。」

「心得ております。」

「と、なるとだな…その指南役、指導役なんかを務める側に、ウリートがなると言う事だろう…?」

「……!?」

 これには流石に驚きが隠せない。つい、手に持つ本をギュッと抱え込んでしまった。
 


















しおりを挟む
感想 95

あなたにおすすめの小説

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。 10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。 義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。 アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。 義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が… 義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。 そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

非力な守護騎士は幻想料理で聖獣様をお支えします

muku
BL
聖なる山に住む聖獣のもとへ守護騎士として送られた、伯爵令息イリス。 非力で成人しているのに子供にしか見えないイリスは、前世の記憶と山の幻想的な食材を使い、食事を拒む聖獣セフィドリーフに料理を作ることに。 両親に疎まれて居場所がないながらも、健気に生きるイリスにセフィドリーフは心動かされ始めていた。 そして人間嫌いのセフィドリーフには隠された過去があることに、イリスは気づいていく。 非力な青年×人間嫌いの人外の、料理と癒しの物語。 ※全年齢向け作品です。

処理中です...