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37、家庭教師の練習 2
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朝食後にヒュンダルンは城へと出仕する。それからウリートは軽く散歩をし、勉強、昼食、午睡にそしてまた勉強。アクロース侯爵家にいた頃とあまり変わらない生活が送れている様になってやっとこの状況のおかしさに気がつき始めた。
「マリエッテ…」
「はい、なんでございましょう。」
エーベ公爵家なのに当たり前のようにマリエッテもいてくれて…
「僕、いつまでここにいて良いのだろうか?」
ウリートは貴族と言えども他家の者だ。来訪当初は緊急性のある治療目的ということで周囲も納得するだろう。が、今は?ここで産まれたヒュンダルンの友人と言うこと以外にはエーベ公爵家に接点はない。長らくお世話になった身で今更こんな事を言っても遅いのではないかとも思うのだが、エーベ公爵家の使用人達が変に受け取ってはいないかとても心配になってきてしまう。
「その事でしたらヒュンダルン様の方にお聞きになった方がお早いと思いますよ?」
エーベ公爵家の使用人達には非常に好意的で親切にしてもらっている。それが表だけのものだとしても感謝しきれないほど良くしてもらった。だから変な噂を立てられるのも嫌だし、誤解はされたくはない。何しろ大切な友人ヒュンダルンの実家なのだから。
「ああ、言ってなかったな?」
ウリートは出仕帰りのヒュンダルンを出迎える。ヒュンダルンの髪は少しだけ乱れていて、今日の任務はそんなにも激務だったのか…疲れているだろうにこんな質問をして申し訳なくてウリートは小さくなる。
「ウリートが言っていただろう?自立したいと。」
「ええ、そうです。」
「だからこれもその一環のつもりだ。実家に帰っては社会も何もないだろう?ここならば療養もできるが実家ではない。少しだけ狭い社会だが公爵家でも学べるものもあるだろう。」
ヒュンダルンは社交界に出るのと同じくこのエーベ公爵家をも利用してよし、と言いたいらしい。
「そこまで、ご厄介になるのは…」
どうしても気が引けてしまう…
「俺がやりたくてやっているのだ、だから気にするな。ところでウリート先生?」
「せ、先生?」
「なんだ?違うのか?家庭教師になりたいんだろう?」
「え、えぇ…そうですけれど…僕はヒュンダルン様の家庭教師ではありませんよ?」
友人ですけど………
「どうかな?俺の知らない事をウリートは知っているかもしれん。」
「…?…何でしょうか?それは…」
「さてね?まずは食事だ。話は俺の部屋でいいか?」
「はい……?」
ヒュンダルンの希望で今日の晩餐はヒュンダルンの部屋となる。濃紺に統一された色彩の部屋、所々朱と金が差し色に使われた非常に落ち着いた部屋だった。甘くないシトラスの香りで胸がスッとする。
いつもと違う雰囲気になんだか落ち着かない気もするが、ヒュンダルンの笑顔は変わらずいつもの様に優しい。
「さて、ウリート。」
食後のお茶を片していたウリートを、ヒュンダルンは自分が座っているソファーから手招きをする。
「何でしょう?」
いつもの様に勉強の為の本を持ちウリートはヒュンダルンの隣に腰掛けた。先程ヒュンダルンは何かについて教えを請いたいと言う雰囲気であった。
「博識のウリートならばきっと知っているのだろうな?」
「はい、知っているものならばお教えできます。」
その為に勉強に励んできたのだから…でも何だか今日のヒュンダルンは少しだけ雰囲気が違う?優しい笑顔は変わらないのに、なんだろう……?
視線が逃げるなと言っているみたいに感じる…
「では聞こうか。ウリートは閨教育はできるか?」
「…………?」
はい…?一瞬聞き間違えかとも思った…
「分からなかったか?単刀直入に言えば子作りだ。」
「…………!?」
聞き違いではなかった。
「ね…や、教育?」
「何を驚いている?貴族の子息、子女に教育を施すんだ。当然それは避けられないだろう?」
「は…い………」
ウリートは徐々に顔が熱くなるのがわかる…
「知っている、事はあります……」
「ふむ。流石だな…!アクロース侯爵家は教育に手抜かりはないのだな。」
「…………いえ…直接、享受されたわけではありません…」
「教えてもらったのだろう?」
赤みを増していく頬を左右にフルフルと振ってウリートは否定を示す。
「身体の関係で、僕に子を残せる可能性はなかったのでしょうね。だから閨教育は受けてません。けれど、どんな事でも知ろうとしてましたから、アクロース侯爵家にあった指南書は読みました。」
だから、知識としては知っている。
「なるほど…だが、それでは不十分だ。貴族の子息、子女は結婚適齢期前には指南を受ける。これは確実に子孫を残す為の手引きで重要な勤めだからだ。」
「心得ております。」
「と、なるとだな…その指南役、指導役なんかを務める側に、ウリートがなると言う事だろう…?」
「……!?」
これには流石に驚きが隠せない。つい、手に持つ本をギュッと抱え込んでしまった。
「マリエッテ…」
「はい、なんでございましょう。」
エーベ公爵家なのに当たり前のようにマリエッテもいてくれて…
「僕、いつまでここにいて良いのだろうか?」
ウリートは貴族と言えども他家の者だ。来訪当初は緊急性のある治療目的ということで周囲も納得するだろう。が、今は?ここで産まれたヒュンダルンの友人と言うこと以外にはエーベ公爵家に接点はない。長らくお世話になった身で今更こんな事を言っても遅いのではないかとも思うのだが、エーベ公爵家の使用人達が変に受け取ってはいないかとても心配になってきてしまう。
「その事でしたらヒュンダルン様の方にお聞きになった方がお早いと思いますよ?」
エーベ公爵家の使用人達には非常に好意的で親切にしてもらっている。それが表だけのものだとしても感謝しきれないほど良くしてもらった。だから変な噂を立てられるのも嫌だし、誤解はされたくはない。何しろ大切な友人ヒュンダルンの実家なのだから。
「ああ、言ってなかったな?」
ウリートは出仕帰りのヒュンダルンを出迎える。ヒュンダルンの髪は少しだけ乱れていて、今日の任務はそんなにも激務だったのか…疲れているだろうにこんな質問をして申し訳なくてウリートは小さくなる。
「ウリートが言っていただろう?自立したいと。」
「ええ、そうです。」
「だからこれもその一環のつもりだ。実家に帰っては社会も何もないだろう?ここならば療養もできるが実家ではない。少しだけ狭い社会だが公爵家でも学べるものもあるだろう。」
ヒュンダルンは社交界に出るのと同じくこのエーベ公爵家をも利用してよし、と言いたいらしい。
「そこまで、ご厄介になるのは…」
どうしても気が引けてしまう…
「俺がやりたくてやっているのだ、だから気にするな。ところでウリート先生?」
「せ、先生?」
「なんだ?違うのか?家庭教師になりたいんだろう?」
「え、えぇ…そうですけれど…僕はヒュンダルン様の家庭教師ではありませんよ?」
友人ですけど………
「どうかな?俺の知らない事をウリートは知っているかもしれん。」
「…?…何でしょうか?それは…」
「さてね?まずは食事だ。話は俺の部屋でいいか?」
「はい……?」
ヒュンダルンの希望で今日の晩餐はヒュンダルンの部屋となる。濃紺に統一された色彩の部屋、所々朱と金が差し色に使われた非常に落ち着いた部屋だった。甘くないシトラスの香りで胸がスッとする。
いつもと違う雰囲気になんだか落ち着かない気もするが、ヒュンダルンの笑顔は変わらずいつもの様に優しい。
「さて、ウリート。」
食後のお茶を片していたウリートを、ヒュンダルンは自分が座っているソファーから手招きをする。
「何でしょう?」
いつもの様に勉強の為の本を持ちウリートはヒュンダルンの隣に腰掛けた。先程ヒュンダルンは何かについて教えを請いたいと言う雰囲気であった。
「博識のウリートならばきっと知っているのだろうな?」
「はい、知っているものならばお教えできます。」
その為に勉強に励んできたのだから…でも何だか今日のヒュンダルンは少しだけ雰囲気が違う?優しい笑顔は変わらないのに、なんだろう……?
視線が逃げるなと言っているみたいに感じる…
「では聞こうか。ウリートは閨教育はできるか?」
「…………?」
はい…?一瞬聞き間違えかとも思った…
「分からなかったか?単刀直入に言えば子作りだ。」
「…………!?」
聞き違いではなかった。
「ね…や、教育?」
「何を驚いている?貴族の子息、子女に教育を施すんだ。当然それは避けられないだろう?」
「は…い………」
ウリートは徐々に顔が熱くなるのがわかる…
「知っている、事はあります……」
「ふむ。流石だな…!アクロース侯爵家は教育に手抜かりはないのだな。」
「…………いえ…直接、享受されたわけではありません…」
「教えてもらったのだろう?」
赤みを増していく頬を左右にフルフルと振ってウリートは否定を示す。
「身体の関係で、僕に子を残せる可能性はなかったのでしょうね。だから閨教育は受けてません。けれど、どんな事でも知ろうとしてましたから、アクロース侯爵家にあった指南書は読みました。」
だから、知識としては知っている。
「なるほど…だが、それでは不十分だ。貴族の子息、子女は結婚適齢期前には指南を受ける。これは確実に子孫を残す為の手引きで重要な勤めだからだ。」
「心得ております。」
「と、なるとだな…その指南役、指導役なんかを務める側に、ウリートがなると言う事だろう…?」
「……!?」
これには流石に驚きが隠せない。つい、手に持つ本をギュッと抱え込んでしまった。
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