[完]腐違い貴婦人会に出席したら、今何故か騎士団長の妻をしてます…

小葉石

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35、貴婦人の囀り ④

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 晴天広がる王城の空の下…城内大訓練場にて定例の騎士模擬戦が開かれる。この日ばかりは一般の参列者も見学に入る事ができる為、大勢の者達が大訓練場にと集まる。その中でも色とりどりの日傘を差し、会場客席に花を添えている貴族の貴婦人達の姿は目を引くものがあった。

「あぁ…残念ですわ…」

 若草色の日傘を差し、ほぅ、と切なげにため息を吐いてスザンナ・イリット男爵令嬢は眼下に見える屈強な騎士達へと素早く視線を走らせる。

「まあ、どうなさったの?スザンナ嬢?今日は貴方様のお好きな方々よ?」

 そんな令嬢に桃色の日傘のユーリ・ファーム子爵令嬢が小首を傾げた。

「だって、待ちに待ったこの時ですのよ?意中の方に自己アピールするに、もってこいの場ではありませんか!それなのに……」

 クッとスザンナは唇を噛み締めて今にも泣きそうであった。

「あぁ…書庫の妖精殿のことね?」

 既にウリートが城内で倒れたという事は知れ渡っているし、ここ数日書庫には姿を現さずに療養に励んでいることを知らない者はいなかった。

「ええ、残念ですの…こんなに素晴らしい場所で意中の方を見て、心動かさない方がいて?是非ともウリート様には迸る熱い騎士達の姿を見ていただきたかったのに……」

「…そんな物を見たら、倒れちゃうんじゃなくって…?」

 何しろお茶会で倒れたウリートなのだから…

「それはそれで、お可哀想で見ていられないかもしれませんけれど、逞しやかな騎士に抱き止められるウリート様が見られたかもしれませんわね?」

 水色の日傘はレジーネ・エリッジ侯爵令嬢だ。

「そうなのですわ!ウリート様だって逞しい方に力強く抱き止められる時の安心感は忘れられるものではないと思うのです。」

「ふふふ。スザンナ様は本当に騎士がお好きです事。」
 
 桃色の日傘がクルクルと回る。

「勿論ですわ。命をかけ合う様な戦場でも共にいる事ができる素晴らしさ。お互いに命を預けあって信頼と愛情を築いて行く…あ、ほら、ご覧なさいませ。騎士同士のご夫夫の方もいらっしゃるでしょう?最後の最後まであの逞しい腕に縋り合いながら愛を貫き通すのですわ…素敵………」

「貫き通す…ここは本当に同意しますわね。」

「そう言えばレジーネ様、ウリート様とゴーリッシュ騎士団長様は如何かしら?」

 先日レジーネはヒュンダルンに警告をした。このままではウリートは誰かに襲われ貪られると。それが功を奏したのか定かではないが、今現在ウリートはヒュンダルンの生家エーベ公爵家預かりとなっている。全てにおいてこれが答えなのではないかと、レジーネは水色の日傘の下でほくそ笑んでいた。

「ふふふ…きっと良いようになりますわ。お身体の方も回復に向かっておられると言うことでしたし、エーベ公爵も動いておられるようですし、楽しみですわね?」

「宜しかったこと…安心しましたわ。刺激が強いかもしれませんけれど、回復されたらやはりこの素晴らしい光景を是非ともウリート様には見て頂きたいわ。ほら、ご覧くださいませ!レジーネ様、ユーリ様!あの騎士の筋肉の素晴らしいことと言ったら…」

「あら、本当に逞しいですわね?」  

 司会進行を担う者が騎士団主催模擬戦の開会を宣言した。大訓練場には訓練場の隅に待機していた屈強そうな騎士達がゾロゾロと中央部に集まってくる。

「そうでございましょう?ユーリ様!躍動している筋肉が絡み合いますのよ?考えただけで胸が熱くなりますわ!」

「ふふ、スザンナ様の騎士好きは筋金入りですね?」

「ええ、第1副騎士団長のサラント卿なんて、逞しいのに更に美しいでしょう?こんなに持ち合わせている方を乱す方はどなたかしらって考えただけでも眠れなくなりますわ…」

「まあ、それは私も気になりましてよ?」

「ま、ユーリ様も?」

「ええ、あの方は目を引きますものね?今日もお出になるのでしょう?」

「そうですわ。見逃さないようにしないといけないですわね?もしや、どなたかあの方の事を思う方が颯爽と現れたりはしないかしら?」

「ま!ドラマティックだわ!」

「そして、愛をお受けになるの…どんなお言葉で責められて…どんな姿にされるのでしょう?あぁ!どうして私達ったらその場にいる事ができないのでしょうね?どれだけ乱されて、絆されていくのか…想像を超えるものがあるかもしれないのに……」

「口惜しいですわね……」

「本当ですわ…筋肉がぶつかり合う音…そばで聞いてみたい……」

「んん…ユーリ様、スザンナ様…少し、生々しくてよ?ご覧なさいな、周りにはまだあどけない子女、子息の方々がおりますから少し声を落としましょうね?」

「あら、まぁ…私とした事が…恥ずかしいですわ。」

 若草色の傘をグッと下げてスザンナは恥ずかしさに耐える。

「ふふ、私ったら、つい夢中になってしまって…」

 桃色の日傘が再度クルクルと回った。

 司会は第一試合を宣言する。名を呼ばれた者はここに残り、他の騎士達は二手に分かれて隅に寄って行った。模擬戦が開始される。

「ふふふ。ここにいる可愛らしい子息様方も、きっとその内に目覚めることになるのですわ…」

「ええ、きっと……」

 観客席からの大歓声と、騎士達の気合が入った雄叫びが大訓練場に響き渡るなか、令嬢達の慎ましい笑い声も楽しそうに響いて行く。
 
 


















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