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34、エーベ公爵家 3

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 聞かれていた……もうそろそろ成人する男が、僕や兄様などと子供の様な言葉使いで………恥ずかしくて、つい、掛け物の下に潜ってしまった……

 ヒュンダルンからの反応はない。女々しいだとか子供っぽいだとか、指摘されてもおかしくはないだろうに…

「クク、ククククク……」

「……?」

 笑ってる……?ヒュンダルン様、笑ってる?

 ヒョコッと顔を出してみれば、ヒュンダルンは自分の拳で口元を押さえて必死に笑いに耐えていて…

「ヒュンダルン様…?」

 何故、笑われているんだろう?

 ウリートはやはり幼い言葉遣いが恥ずかしいものなのだと自分自身に言い聞かせる。

「いや、悪い……ウリート、余り可愛い事をしてくれるな…」

「……??」

 どこが可愛いのかウリートにはさっぱりなのであるが、ヒュンダルンはそう言うと最後には楽しそうに笑顔を作ってグシャグシャッとウリートの頭を撫でてきた。

「どんな言葉遣いでも構わんさ。ここには今とウリートしかいないのだからな?まずはリラックスだ。気を張らずに自分の過ごしやすい様にしていてくれ。」

 あ…………ヒュンダルン様は、俺って言う……

「俺もリラックスする。堅苦しいのは無しだ。おあいこだろう?」

「うぅ………はい……。」

 良いのか悪いのか判断なんてつけられないけど、もう恥ずかしいのでこの話題はこのまま流れていってほしい…

「ご歓談中失礼いたします。ヒュンダルン様晩餐のお時間でございます。」

 ウリートの赤くなった頬にヒュンダルンが手を伸ばそうとしていた時にマリエッテが声をかけた。

 晩餐、もうそんな時間なんだ。

「もう時間か?」

「はい、左様です。」

 マリエッテはワゴンにウリート用の晩餐を運んできていた様だ。正直まだ余り食欲はない。が、ワゴンに昼間飲んだ栄養ドリンクが乗っていて少しだけ食欲が出てきた。エーベ公爵家秘伝の栄養ドリンクは本当に飲みやすいのだ。色々な味がするのにどれもくどくなく、ほのかな甘味と酸味が爽やかに香り、トロミがあって喉越しも良く、沢山食べられない時にも腹持ちも良さそうな満足感がある。病人用の食事と比べても格段にこっちの方がいいとウリートは思う。

「すまないがここに運んでもらえるか?」

 マリエッテは少し驚いたみたいに目を開ける。公爵家の晩餐だ。格式も他貴族家より重んじられるだろうに、ヒュンダルンはいともあっさりと蹴り飛ばしている。

「宜しいので?」

「構わん。ウリートが一人で食べなければならないだろう?寂しいじゃないか。」

「……!?……承知、致しました。では、直ぐにご用意いたします!」

 マリエッテには公爵家のマナーは分からないだろう。だからきっと後数人は侍女がこの部屋へヒュンダルンの食事の給仕の為にくる。

「ヒュンダルン様、皆さんの手を煩わせますよ?」

 いつも手を煩わせている筆頭のウリートが申し訳なさそうにいう。

「なに、俺は普段ゴーリッシュ家の方にいるからな。こんな時でなければ侍女達の手を使うこともないんだ。」

 だからいい、とヒュンダルンはキッパリとしたものだ。

 マリエッテがエーベ公爵家側にその旨を伝えに行き、ウリートの食事の配膳をしているとヒュンダルンの晩餐も部屋へと届く。量は食べられないウリートだがヒュンダルンと楽しく話しながら初めて一緒の食事をした。

「僕だけすみません。ベッドの上で…」

 熱は大分下がってきたのだがまだ安静を言いつかっている。ウリートがまだ寝ている時にロレール医官が様子を診に来た時の判断でもうしばらくということだった。

「かまわない。俺が無理を言ったのだろう?」

 ヒュンダルンは流石は騎士で日中の運動量も激しいのだろう。ウリートからしたら山の様に並べられた晩餐の数々があっと言う間に消えて行く。ウリートは気に入った栄養ドリンクを中心に、出された物には少しずつでも手を付けようと頑張ってみたものの完食までには行かなかった。楽しく食事をしながらもヒュンダルンの健啖家ぶりにはウリートの目がまん丸になって、またヒュンダルンに笑われることとなった。

「少し、食べてみるか?」

 もう殆ど食事も終わるのに、ヒュンダルンはウリートにデザートの果物のタルトを一口切り分けてくれた。実の所、ヒュンダルンの食事風景だけで胸が一杯になってしまいそうなウリートとしてはバターをたっぷり使ったタルト生地は物凄く重い…けれど、ヒュンダルンが一口に小さく綺麗にカットしてくれた事が嬉しくて、コクンと頷いた。
 マナー的には人のお皿から物をいただくのはダメだろう。けど、ここにはヒュンダルンとウリート、数名の侍女しかいないほぼプライベートな空間だ。友達だったら分け与えて食べるのもきっと変じゃない。
 思い切って食べた桃のタルトは思いの外瑞々しくて優しい甘酸っぱさが口の中一杯に広がってなんだか飲み込んでしまうのが勿体無いほど印象に残る味だった。














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