[完]腐違い貴婦人会に出席したら、今何故か騎士団長の妻をしてます…

小葉石

文字の大きさ
上 下
32 / 135

33、エーベ公爵家 2

しおりを挟む
「お気に召しましたのなら、毎日お出ししますね。」

 完食できた器を見てマリエッテはニコニコと嬉しそうである。ウリートは美味しく食事をし身体を拭いてもらい、ゆっくりとまるで家で寛ぐ様に過ごさせてもらっていた。

「マリエッテ…エーベ公爵様はご在宅かな?」
 
 世話をしてくれているのはアクロース侯爵家で雇っているマリエッテ、だけど何不自由なくこの場を提供してくれているのはエーベ公爵だろう。流石に挨拶もなく過ごさせてもらうのには心苦しい…

「ウリート様。まだお身体が回復していませんから。挨拶は落ち着いてからでいいそうです。それから後で侯爵家の旦那様方とゴーリッシュ騎士団長様がお見えになりますよ。それまで、ゆっくりとお休みしましょう?」

「皆さんお仕事中だよね…?」

「ええ、ですがとても心配されてましたよ?だから良く休んで早く良くなってくださいませ。」

「うん…」

 実の所ウリートはまだ身体がだるくて、起きて挨拶に行くには相当の気力を要する状態だ。マリエッテに休む様に促されて少しだけホッとして目を瞑る。
 久しぶりに食事をしたからか、体力の落ちているウリートは沼の様な睡魔に捕まり、落ちていく……





「まだ、お眠りになっていますから…」

 遠くの方でマリエッテの声がする。マリエッテの他に懐かしい声もして目を開けたいけれど、眠くて眠くて目が開かない…誰かが頭を撫でている?良く知った手の様な気がする………




「………ん………」

 頭を撫でる手にまた意識が浮上する。大きな温かい手…少しゴツゴツして節くれ立っているけれど、優しい手…

 兄様じゃない………

 さっき撫でていたのは多分兄様、じゃこれは?セージュ……?……違う……

「兄様…?」
 
 頭を撫でる人の手の、答えが出せなくてウリートはそう声に出した。

「目が覚めたか?」

 低い声…

「ヒュンダルン様…?」

 そうだヒュンダルン様の声…低いけど、優しく耳をくすぐる暖かな声。

 そっと目を開けると、いつもヒュンダルンは精悍な顔つきをしているのに、今日は泣き笑いの様になっていて、今までに見た事がない顔だ。

「分かるか?」

 声をかけながらもヒュンダルンは頭を撫でる手を休めない。

「はい…ご迷惑をお掛けしました。」

「いや、大丈夫ならそれでいい。ウリート、何か食べたい物はあるか?アランドやアクロース家の方々が色々とウリートの好きな物を持って来てくれたぞ?」

「兄様達…?」

 どこだろう?まだ頭が覚め切らないウリートは部屋を見渡す。

「僕の好きな物って…?」

 何だっけ?

「ああ、まだウリートは寝ていたからな。皆様は顔を見て帰られた様だ。持ってきた物はマリエッテに渡してあるが、果物の様だったか?」

 小首を傾げてヒュンダルンはそう告げた。

「はい。果物は好きです。だから…」

 持ってきてくれたんだろうな…

「そうか…少し食事も取れたか?」
 
 ホッとした様なヒュンダルンの顔が、ウリートの頭を撫でながら顔を覗き込んでくる。

「はい。フルーツの味がする飲み物が美味しかったです。」

「そうだろう?あれはうちの秘伝の栄養ドリンクだ。美容と健康に良いと聞いたことがある。」

「秘伝の…?そんな大切な物だったのですか?」

 遠慮なくゴクゴク飲んでしまってた…

「ふふふ、食いつきが良かったとマリエッテに聞いている。何はともあれ気に入ってもらえて良かった。」

「ご心配をおかけしました。」

 いつも会う時には優しい笑顔が絶えないヒュンダルンが今やっといつもの笑顔になった様に思う。それだけ心配をかけてしまったんだと申し訳なく思った。

「心配はした…が、これから元気になって行くんだろう?後はしっかりと食べて寝る事だ。」

「エーベ公爵様にもお礼を申し上げなければ。」

「父上にか?そんな事は後でもいいと言うだろうな。ウリートならばいつまでいてもいいと言っていた。」

 実際、ヒュンダルンが助けを求めてここにエーベ公爵家に人を連れてきたと聞いたエーベ公爵の動きは素早かった。ウリートの身元を改めると共に、ヒュンダルンの様子を観察しつつ、絶対にウリートの状態を回復させる様に、絶対に逃さない様にと屋敷中の使用人達に触れ渡した様だ。エーベ公爵家の人々から非常に協力的で手厚い看病を受けられたのもエーベ公爵のそんな一声があったかららしい。

「そんなご迷惑をお掛けするつもりはありません。」

 物凄く恐縮してしまう。ここは何と言っても公爵家だから…家の格自体が違いすぎる。

「迷惑ではないよ、ウリート。友人だろう?倒れた友人の為に何かしてやりたいと思ってもおかしいことではない。」

「でも………」

「ふふふ…」

 ヒュンダルンは何故だか少し楽しそうである。

「ヒュンダルン様?」

「ふふ…アランドの事は兄様と言っているのか?」

「あ………」

 夢うつつでいつもの様にアランドの事を呼んでいたのを聞かれていた…

「自分のことを僕と?」

「…………………」

 聞かれていた………

 ポフ…………
 
 ウリートは掛け物を引っ張り上げて、頭からスッポリと布団の中へ………
 

















しおりを挟む
感想 95

あなたにおすすめの小説

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

【完結】売れ残りのΩですが隠していた××をαの上司に見られてから妙に優しくされててつらい。

天城
BL
ディランは売れ残りのΩだ。貴族のΩは十代には嫁入り先が決まるが、儚さの欠片もない逞しい身体のせいか完全に婚期を逃していた。 しかもディランの身体には秘密がある。陥没乳首なのである。恥ずかしくて大浴場にもいけないディランは、結婚は諦めていた。 しかしαの上司である騎士団長のエリオットに事故で陥没乳首を見られてから、彼はとても優しく接してくれる。始めは気まずかったものの、穏やかで壮年の色気たっぷりのエリオットの声を聞いていると、落ち着かないようなむずがゆいような、不思議な感じがするのだった。 【攻】騎士団長のα・巨体でマッチョの美形(黒髪黒目の40代)×【受】売れ残りΩ副団長・細マッチョ(陥没乳首の30代・銀髪紫目・無自覚美形)色事に慣れない陥没乳首Ωを、あの手この手で囲い込み、執拗な乳首フェラで籠絡させる独占欲つよつよαによる捕獲作戦。全3話+番外2話

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

不憫王子に転生したら、獣人王太子の番になりました

織緒こん
BL
日本の大学生だった前世の記憶を持つクラフトクリフは異世界の王子に転生したものの、母親の身分が低く、同母の姉と共に継母である王妃に虐げられていた。そんなある日、父王が獣人族の国へ戦争を仕掛け、あっという間に負けてしまう。戦勝国の代表として乗り込んできたのは、なんと獅子獣人の王太子のリカルデロ! 彼は臣下にクラフトクリフを戦利品として側妃にしたらどうかとすすめられるが、王子があまりに痩せて見すぼらしいせいか、きっぱり「いらない」と断る。それでもクラフトクリフの処遇を決めかねた臣下たちは、彼をリカルデロの後宮に入れた。そこで、しばらく世話をされたクラフトクリフはやがて健康を取り戻し、再び、リカルデロと会う。すると、何故か、リカルデロは突然、クラフトクリフを溺愛し始めた。リカルデロの態度に心当たりのないクラフトクリフは情熱的な彼に戸惑うばかりで――!?

処理中です...