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33、エーベ公爵家 2
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「お気に召しましたのなら、毎日お出ししますね。」
完食できた器を見てマリエッテはニコニコと嬉しそうである。ウリートは美味しく食事をし身体を拭いてもらい、ゆっくりとまるで家で寛ぐ様に過ごさせてもらっていた。
「マリエッテ…エーベ公爵様はご在宅かな?」
世話をしてくれているのはアクロース侯爵家で雇っているマリエッテ、だけど何不自由なくこの場を提供してくれているのはエーベ公爵だろう。流石に挨拶もなく過ごさせてもらうのには心苦しい…
「ウリート様。まだお身体が回復していませんから。挨拶は落ち着いてからでいいそうです。それから後で侯爵家の旦那様方とゴーリッシュ騎士団長様がお見えになりますよ。それまで、ゆっくりとお休みしましょう?」
「皆さんお仕事中だよね…?」
「ええ、ですがとても心配されてましたよ?だから良く休んで早く良くなってくださいませ。」
「うん…」
実の所ウリートはまだ身体がだるくて、起きて挨拶に行くには相当の気力を要する状態だ。マリエッテに休む様に促されて少しだけホッとして目を瞑る。
久しぶりに食事をしたからか、体力の落ちているウリートは沼の様な睡魔に捕まり、落ちていく……
「まだ、お眠りになっていますから…」
遠くの方でマリエッテの声がする。マリエッテの他に懐かしい声もして目を開けたいけれど、眠くて眠くて目が開かない…誰かが頭を撫でている?良く知った手の様な気がする………
「………ん………」
頭を撫でる手にまた意識が浮上する。大きな温かい手…少しゴツゴツして節くれ立っているけれど、優しい手…
兄様じゃない………
さっき撫でていたのは多分兄様、じゃこれは?セージュ……?……違う……
「兄様…?」
頭を撫でる人の手の、答えが出せなくてウリートはそう声に出した。
「目が覚めたか?」
低い声…
「ヒュンダルン様…?」
そうだヒュンダルン様の声…低いけど、優しく耳をくすぐる暖かな声。
そっと目を開けると、いつもヒュンダルンは精悍な顔つきをしているのに、今日は泣き笑いの様になっていて、今までに見た事がない顔だ。
「分かるか?」
声をかけながらもヒュンダルンは頭を撫でる手を休めない。
「はい…ご迷惑をお掛けしました。」
「いや、大丈夫ならそれでいい。ウリート、何か食べたい物はあるか?アランドやアクロース家の方々が色々とウリートの好きな物を持って来てくれたぞ?」
「兄様達…?」
どこだろう?まだ頭が覚め切らないウリートは部屋を見渡す。
「僕の好きな物って…?」
何だっけ?
「ああ、まだウリートは寝ていたからな。皆様は顔を見て帰られた様だ。持ってきた物はマリエッテに渡してあるが、果物の様だったか?」
小首を傾げてヒュンダルンはそう告げた。
「はい。果物は好きです。だから…」
持ってきてくれたんだろうな…
「そうか…少し食事も取れたか?」
ホッとした様なヒュンダルンの顔が、ウリートの頭を撫でながら顔を覗き込んでくる。
「はい。フルーツの味がする飲み物が美味しかったです。」
「そうだろう?あれはうちの秘伝の栄養ドリンクだ。美容と健康に良いと聞いたことがある。」
「秘伝の…?そんな大切な物だったのですか?」
遠慮なくゴクゴク飲んでしまってた…
「ふふふ、食いつきが良かったとマリエッテに聞いている。何はともあれ気に入ってもらえて良かった。」
「ご心配をおかけしました。」
いつも会う時には優しい笑顔が絶えないヒュンダルンが今やっといつもの笑顔になった様に思う。それだけ心配をかけてしまったんだと申し訳なく思った。
「心配はした…が、これから元気になって行くんだろう?後はしっかりと食べて寝る事だ。」
「エーベ公爵様にもお礼を申し上げなければ。」
「父上にか?そんな事は後でもいいと言うだろうな。ウリートならばいつまでいてもいいと言っていた。」
実際、ヒュンダルンが助けを求めてここにに人を連れてきたと聞いたエーベ公爵の動きは素早かった。ウリートの身元を改めると共に、ヒュンダルンの様子を観察しつつ、絶対にウリートの状態を回復させる様に、絶対に逃さない様にと屋敷中の使用人達に触れ渡した様だ。エーベ公爵家の人々から非常に協力的で手厚い看病を受けられたのもエーベ公爵のそんな一声があったかららしい。
「そんなご迷惑をお掛けするつもりはありません。」
物凄く恐縮してしまう。ここは何と言っても公爵家だから…家の格自体が違いすぎる。
「迷惑ではないよ、ウリート。友人だろう?倒れた友人の為に何かしてやりたいと思ってもおかしいことではない。」
「でも………」
「ふふふ…」
ヒュンダルンは何故だか少し楽しそうである。
「ヒュンダルン様?」
「ふふ…アランドの事は兄様と言っているのか?」
「あ………」
夢うつつでいつもの様にアランドの事を呼んでいたのを聞かれていた…
「自分のことを僕と?」
「…………………」
聞かれていた………
ポフ…………
ウリートは掛け物を引っ張り上げて、頭からスッポリと布団の中へ………
完食できた器を見てマリエッテはニコニコと嬉しそうである。ウリートは美味しく食事をし身体を拭いてもらい、ゆっくりとまるで家で寛ぐ様に過ごさせてもらっていた。
「マリエッテ…エーベ公爵様はご在宅かな?」
世話をしてくれているのはアクロース侯爵家で雇っているマリエッテ、だけど何不自由なくこの場を提供してくれているのはエーベ公爵だろう。流石に挨拶もなく過ごさせてもらうのには心苦しい…
「ウリート様。まだお身体が回復していませんから。挨拶は落ち着いてからでいいそうです。それから後で侯爵家の旦那様方とゴーリッシュ騎士団長様がお見えになりますよ。それまで、ゆっくりとお休みしましょう?」
「皆さんお仕事中だよね…?」
「ええ、ですがとても心配されてましたよ?だから良く休んで早く良くなってくださいませ。」
「うん…」
実の所ウリートはまだ身体がだるくて、起きて挨拶に行くには相当の気力を要する状態だ。マリエッテに休む様に促されて少しだけホッとして目を瞑る。
久しぶりに食事をしたからか、体力の落ちているウリートは沼の様な睡魔に捕まり、落ちていく……
「まだ、お眠りになっていますから…」
遠くの方でマリエッテの声がする。マリエッテの他に懐かしい声もして目を開けたいけれど、眠くて眠くて目が開かない…誰かが頭を撫でている?良く知った手の様な気がする………
「………ん………」
頭を撫でる手にまた意識が浮上する。大きな温かい手…少しゴツゴツして節くれ立っているけれど、優しい手…
兄様じゃない………
さっき撫でていたのは多分兄様、じゃこれは?セージュ……?……違う……
「兄様…?」
頭を撫でる人の手の、答えが出せなくてウリートはそう声に出した。
「目が覚めたか?」
低い声…
「ヒュンダルン様…?」
そうだヒュンダルン様の声…低いけど、優しく耳をくすぐる暖かな声。
そっと目を開けると、いつもヒュンダルンは精悍な顔つきをしているのに、今日は泣き笑いの様になっていて、今までに見た事がない顔だ。
「分かるか?」
声をかけながらもヒュンダルンは頭を撫でる手を休めない。
「はい…ご迷惑をお掛けしました。」
「いや、大丈夫ならそれでいい。ウリート、何か食べたい物はあるか?アランドやアクロース家の方々が色々とウリートの好きな物を持って来てくれたぞ?」
「兄様達…?」
どこだろう?まだ頭が覚め切らないウリートは部屋を見渡す。
「僕の好きな物って…?」
何だっけ?
「ああ、まだウリートは寝ていたからな。皆様は顔を見て帰られた様だ。持ってきた物はマリエッテに渡してあるが、果物の様だったか?」
小首を傾げてヒュンダルンはそう告げた。
「はい。果物は好きです。だから…」
持ってきてくれたんだろうな…
「そうか…少し食事も取れたか?」
ホッとした様なヒュンダルンの顔が、ウリートの頭を撫でながら顔を覗き込んでくる。
「はい。フルーツの味がする飲み物が美味しかったです。」
「そうだろう?あれはうちの秘伝の栄養ドリンクだ。美容と健康に良いと聞いたことがある。」
「秘伝の…?そんな大切な物だったのですか?」
遠慮なくゴクゴク飲んでしまってた…
「ふふふ、食いつきが良かったとマリエッテに聞いている。何はともあれ気に入ってもらえて良かった。」
「ご心配をおかけしました。」
いつも会う時には優しい笑顔が絶えないヒュンダルンが今やっといつもの笑顔になった様に思う。それだけ心配をかけてしまったんだと申し訳なく思った。
「心配はした…が、これから元気になって行くんだろう?後はしっかりと食べて寝る事だ。」
「エーベ公爵様にもお礼を申し上げなければ。」
「父上にか?そんな事は後でもいいと言うだろうな。ウリートならばいつまでいてもいいと言っていた。」
実際、ヒュンダルンが助けを求めてここにに人を連れてきたと聞いたエーベ公爵の動きは素早かった。ウリートの身元を改めると共に、ヒュンダルンの様子を観察しつつ、絶対にウリートの状態を回復させる様に、絶対に逃さない様にと屋敷中の使用人達に触れ渡した様だ。エーベ公爵家の人々から非常に協力的で手厚い看病を受けられたのもエーベ公爵のそんな一声があったかららしい。
「そんなご迷惑をお掛けするつもりはありません。」
物凄く恐縮してしまう。ここは何と言っても公爵家だから…家の格自体が違いすぎる。
「迷惑ではないよ、ウリート。友人だろう?倒れた友人の為に何かしてやりたいと思ってもおかしいことではない。」
「でも………」
「ふふふ…」
ヒュンダルンは何故だか少し楽しそうである。
「ヒュンダルン様?」
「ふふ…アランドの事は兄様と言っているのか?」
「あ………」
夢うつつでいつもの様にアランドの事を呼んでいたのを聞かれていた…
「自分のことを僕と?」
「…………………」
聞かれていた………
ポフ…………
ウリートは掛け物を引っ張り上げて、頭からスッポリと布団の中へ………
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