[完]腐違い貴婦人会に出席したら、今何故か騎士団長の妻をしてます…

小葉石

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31、決意 2

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 「いやいやそんな…こちらの方がご迷惑をおかけしまして…」

 アクロース侯爵とヒュンダルンの間で頭の下げ合戦が開始してしまってすぐにアランドが止めに入る。

「父上、ここで騒いでいても仕方ありません。母上の事も心配ですし…セージュにも暴れられたら目も当てられません。一度お暇いたしましょう。」

 ここにいる者達の中ではアランドが1番冷静だった。

「明日も、来て良いだろうか?」

 丁寧に伺いを立てるアランド…その顔は酷く憔悴してしまっていた。

「もちろんだ。ウリートをここに置く事は既に両親と兄上にも許可を得た。アクロース侯爵家の方々にはいつでも来られる様にとりはかろう。また何かあったらすぐに知らせる。」

「……助かる…ヒュンダルン…ウリー…また来るから…」

 アランドは優しくウリートの頭を撫でる。じっとりと汗ばんだ額は信じられない程熱かった……

「ウリー……………団長…何かあったら絶対に許しませんから……」

 セージュも何とか落ち着きを取り戻し…それでも騎士団長に向かって声色低く脅しをかける辺りまだ冷静では無い様だが、アクロース侯爵家の人々は名残惜しそうにやっとの事エーベ公爵邸を後にした。

 静かに会話していたにも拘らず、アクロース侯爵家の面々が退室するとウリートが寝かされている部屋の何と静かで寂しい事か…ウリートのまだ乱れが残る呼吸を聞きながら、ヒュンダルンは熱い柔らかな手を握る…苦悶を滲ませる表情からは柔らかな笑顔は勿論見られない。
 
 まさか……自分が………

 1番色恋沙汰を嫌厭していると思っていたのに………これではガッツリとはまってしまっている。ウリートの苦しんでいる所など見たくも無いが、どんな姿であれ、一瞬たりともウリートから目をそらしていたく無いとも思う。ウリートの為ならば今すぐ自分の全てを投げ打っても良いとも思えるから不思議だ。

 まだ色の戻らない小さな熱い手に視線を落としヒュンダルンは祈る様に呟いた。

「ウリート……ウリー…頼むから、早く目を開けてくれ…」
 
 ロレール医官によれば、元々体が弱かったことに付け加えての長年の栄養不足、そしてストレスが身体に追い討ちを掛けていたのだろうとの事だった。そう言えばウリートとはお茶の席で会った事があるが食事を共にした事はない。栄養不足との事だったがもしや物凄く少食なのかもしれない。

「そんな事はどうにでもしてやれる…」

 食が細いならば栄養価の高い物を与えればいい。ストレスが原因ならばその心に負担と思う物を全て排除すればいい事。自立を目的としていると聞いたが、職が欲しいなら、家庭教師だったか?にいてもそれ位の事はできるだろう。良家の大人しく従順そうなよく躾られている子息、子女をあてがってやればいい。自分がアクロース侯爵家の負担と思っているのならばの所にくればいいのだ…!

 ここまで考えてヒュンダルンはゆっくりと顔を上げた。

 ウリートはまだ目覚めない。

 本人の意見を聞かないとこればかりはどうにもならないかもしれないが、ヒュンダルンは短く息を吐き出すと意を結した様に立ち上がる。

「父上に面会の申し出と、少しの間、ここを頼む。」

 父であるエーベ公爵に話すことがある。

 まだ目覚めないウリートの世話を侍女に申し付けるとヒュンダルンは迷いなく父の部屋へと赴いた。

「ゴーリッシュ騎士団長!」

 部屋を出た所でロレール医官が声をかけてくる。
 
「世話になった…」

 ヒュンダルンは心からそう思う。ウリートが助かって良かったと…  

「ええ、まだ先は長いでしょうけどね?取り急ぎこちらをお渡ししておきます。」

 ロレール医官の手には数枚分の報告書がある。

「こちらに必要な物を認めておきましたので…」

 普段物腰柔らかな雰囲気のロレール医官だが、今日ばかりは疲労の色が濃い。掛けていた眼鏡を外して眉間を揉みながら淡々と話し続ける。

「とにかく、基本お身体が弱い方なのです。これ以上弱らせない様に食事はしっかりと!そこに書き上げている内容の物は毎日でも食べていただきたいですね。」

 急いで書いた物なのだろう。読めるが綺麗とは言えない字体でビッシリと項目毎に書き連ねてあった。

「感謝する…」

「…身近にお置きになるのですか?」

 エーベ公爵家でウリートを預かる。緊急事態であったとしても、きっと身内以外にはこんな事しないのでは無いだろうか。だからヒュンダルンはその気なのだろうとロレールは確信していた。

「それを可能にする為に父の元に行く。悪かったな…騎士団にも行かなくてはならないだろう?」

「騎士団はいつもの事です。私はエーベ公爵家お抱えのようなものですから、何かあればお呼びください。一度王城に顔を出してからこちらに戻ってきます。」

 柔らかい印象のロレール医官は自分の患者思いの責任感が強い医官であった。




















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