[完]腐違い貴婦人会に出席したら、今何故か騎士団長の妻をしてます…

小葉石

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26、騒ぐ心 4

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 ウリートの友である位置を不動のものとして確立した。相変わらずウリートはヒュンダルンに懐き、姿を見付けるとウリートの方から笑顔で駆け寄ってくれるまでにもなった。体調が心配なので走る事は禁止にしたのだが…
 
 自立したいと言う彼のウリートの目標は一歩一歩進んでいる。ので、側で見守る友としては交友関係が広がる事は喜ぶべきなのだ。

 そうなのだが……



「そこ!!隊列が乱れてる!!何年訓練をしていると思っているのだ!!」

 騎士団の訓練では時折野太い怒号が飛び交う。王家を守り国民を守るために騎士は命を賭けるのだから訓練といえども真剣なのである。

「今注意された者、全員前に出て剣を構えろ!!」

 また団長自らが騎士達の相手になる事も珍しくはない。激しく金属がぶつかり合う音と気合と罵声、本気の喧嘩か争いにでも発展するのかと言う位に時に熾烈を極める事もある。

「ど、どうしたん、ですかね…?団長…」

 肩で息をしているものだから、身を守る鎧が大きく上下する。重い鎧は更に乱れた呼吸をし難くするもので、鎧をつけた時の激しい訓練は騎士達には嫌われている。それなのに、今日は団長が1番元気であった。

「次!!」

 その号令を聞いて腰を下ろしゆっくり休憩などを取っていられる者はいない。団長が良し、と言うか一人二人と騎士達が頽れていくかしないとこの手の訓練は終わらないのだ。
 この手の訓練では指導する側が物凄く動いているはずなのに、今日の団長は気迫が漲り鬼気迫る感が否めない。

「さあて…何があったのだろうな?」

 はぁ…と面倒臭そうに後輩達を見守りつつ団長を見つめているのはリード・サラント副騎士団長だ。ここ最近第1騎士団長ヒュンダルン・ゴーリッシュはすこぶる機嫌が良かったはずなのだが…何故か今日は部下である騎士達にも分かるほどに荒れている…

「ふむ……」

「それと、面会に来ておられたご令嬢が関係しているのでしょうか?」

 訓練開始前に騎士団本部にいたヒュンダルンに来客があったのだ。騎士団が関与する他部署の係官ではない。騎士団に似つかわしくない程の華やかなドレスを身に纏った令嬢だ。それも知らない者が居ない位に有名な方だった。婚約者だとか浮いた話のちっともないヒュンダルンにご令嬢の訪問だ。目撃した騎士達はこれは騎士団長も身を固めるのでは!と一瞬にして騎士団内にその話が回ったほど… 面会はすぐに終わった様だが話の内容などは勿論分からない。その後出てきたヒュンダルンは鬼の如く部下達をシゴキ出しだのだった。

「来てたのは、レジーネ・エリッジ侯爵令嬢だったな?」

「はい、そうです!」

 エリッジ侯爵家ならば社交場で何回か顔を合わせた事はある。騎士団などにいると遠征も含まれるので他家の貴族達よりも社交場へ足を運ぶ回数は減ってくるのだ。だから自分の婚約者でもない限り他家のそれも令嬢との関わりは強くない。ヒュンダルンもそうである。なのにわざわざエリッジ侯爵令嬢はヒュンダルンを訪ねてきたのだ。

「ご婚約者なのですか?」

 事情を知らない若い騎士はワクワクとした顔で聞いてくる。もし婚約者だとしたら面会後あんな顔をするものか?と問いたいのだが、まだ若い彼らには想像もつかないのかも知れない。

「さあ…て……」

 リードも事情を把握していないのだからそう答えるしかないのだが、団長は何かに巻き込まれたな、というのがリードの感想だった。

「今それをあれこれ詮索していても仕方ないだろう?早くこの状況を切り抜けるぞ?」

 そろそろ疲れから騎士達にも怪我人が出るかも知れない。周囲を見ると力加減はしている様だが、どの騎士も折角の戦力なのだから団長の憂さ晴らしの為に潰してしまうわけにはいかないだろう。

 早々に片付けて医療室にでも行くか…重傷者はないにしても軽い切り傷擦り傷、打ち身に捻挫くらいは出ていそうだ。

「全く…」

 面倒だと言う雰囲気だった副騎士団長は愛刀を引き抜き、美貌の顔に笑みまで貼り付けて騎士団長の地獄のシゴキに参加して行った。



「休憩だ!!1時間後に騎馬訓練を行う!」

 休憩、の号令で一気に騎士達は頽れる。相当限界だった様で、お互いに鎧を脱がせ合いしばし外気に身を晒す。

「負傷者がいたら挙手をせよ!!」

 リードの号令にチラホラと手が上がる。

「医療班!怪我人を医療室へ!ロレール医官がいるはずだ。見てもらう様に!」

 ロレール医官は騎士団付きの医師でもある。中年の経験豊富な医師でその治療も極丁寧と騎士達の受けも良い。

「ロレール医官か、助かった…」

 騎士達からも安堵の声が漏れてくるほどだ。

「グズグズするな!休憩は1時間だぞ!」

 ホッと息をついたのも束の間で、今度はリード副騎士団長の檄が飛んだ。















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