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24、騒ぐ心 3
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名を呼び合う関係はなんと言うのか。友人?家族?恋人?夫婦に愛人?それとも命を預けた相棒だろうか?そんな関係を築き上げている書物はいくつも読んだ。まさか自分にも家族以外で許されるなんて思いもしなかった。
「…生きてて、良かったな…」
就寝前のベッドの中でウリートは今日一日を振り返ってみる。悪かった事はすぐに忘れてしまえばいい。でも良かった事は何度も何度も頭の中で繰り返し思い返す。明日にはどうなるか分からなかったウリートの幼い頃からの日課だ。今日できた事がもしかしたら明日は出来ないかも知れない。そんな事を考えるとその時の幸せな思い出が少しも掠れてしまわないように自分の中に刻みつけておきたいと思うから。
「ふふふ…ふふ……」
光が落とされた部屋の中でウリートの笑い声が漏れるのは不気味かも知れない。けれども、それがわかっていても溢れてくる喜びを抑えるなんて勿体無かった。
「僕にも…できる。できる事が増えている…!」
それが何よりも誇らしく今は幸せだ。
「ウリート様!此方ですわ!」
「お久しぶりです事!いかがお過ごしでした?」
「ま、少しお顔の色が良くなった様に思いますわ。何かいい事がありまして?」
久しぶりにエリザ叔母から誘われたお茶会だ。社交場は沢山あれど慣れた所が落ち着くだろうとまた誘ってくれたのだ。
「お久しぶりです、レジーネ侯爵令嬢、ユーリ子爵令嬢、スザンナ男爵令嬢!」
友人を名前で呼べる。ウリートは誇らしげに満面の笑顔だ。大勢がいる所はまだ緊張してしまうウリートだが知った顔を見るとなんとも言えない安心感に満たされた。
「ま、眩しいくらいですわね…」
「本当に…もう、あの噂が嘘ではないと物語っている様ですわ!」
「落ち着きなさいなお二方。事実はまだ分からないのでしてよ?」
誇らしげに微笑むウリートとは対極に令嬢3名は何かに耐える様に挨拶を交わした。
「あの、皆様、具合でも?」
病弱代表の様なウリートなのだが、令嬢達の唯ならぬ表情から具合が悪いのではないかと推察したのだった。
「違いましてよ、ウリート様。私達は非常に健康ですわ。」
華やかな花の様な笑みを返したレジーネ侯爵令嬢はニッコリと優雅に笑って見せる。
「そうですわ。お久しぶりにウリート様のお顔を拝しましたので少しだけ、興奮してしまったのですわ…」
扇で口元を隠しつつユーリ子爵令嬢は恥ずかしそうにそう理由を話した。
「ええ、そうですわよ…健康ゆえの悩みですわ。」
「……興奮、ですか……?皆様健康で何よりですけれど。あ、私が前にここで倒れたから………」
どうやらウリートは勘違いをしている。ウリートが前回の茶会で倒れたからそれを心配した令嬢が興奮したと思っている様なのだ。その際は迷惑をかけてしまったから…
「ウリート様、どうかご安心を。私達の事は放っておいても大丈夫ですわ!今日は挨拶にも行かなくてよろしいでしょうし、ゆっくりとしましょうね?」
前回は挨拶のために会場内を歩き回り、大勢の人間と言葉を交わした。アクロース侯爵邸にいる時には考えもつかないほどの緊張を強いられていたのだろう。そして気を張りすぎたウリートは倒れたのだ。
「ええ、ありがとうございます。スザンナ男爵令嬢。それと、先程の噂というのは?」
友人である令嬢達の表情を一気に暗くしていたものが何か気になる。
「あら、やっぱり気になりますかしら?」
ほほほ…と令嬢特有の笑い声を上げてユーリ子爵令嬢が少し身を乗り出す。
「ウリート様、ライーズ副書記官殿と仲がよろしいの?」
ウリートが知ってや知らずか書庫の妖精の噂ならばここに出席している夫人、令嬢達に入ってきている。その妖精に親しくしている人物が居るとしたらそれは噂となって然るべき話題であった。
「ライーズ書記官長ですか?」
パチクリ、本日のお茶を頂きながらウリートは目を瞬いて小首を傾げた。
「ええ…!!」
「あの方は博識ですね。」
そう言うとニッコリとウリートは満足そうに笑う。書庫で偶然あった時にもライーズ副書記官長は古語を流暢に使いこなす程に精通している方だった。家庭教師に発音を教えてもらって以降、あんなに綺麗な古語を聞いた事は無かったのである。
「んま、古語を?」
「古風な方でしたのね?」
仕事に打ち込むその冷たい瞳と姿が素敵と言われて来たライーズ副書記官長である。その彼にそんな得意とする側面があったなんて素晴らしい情報だった。
「でも、分かる気がしますわね…似合いすぎてませんこと?」
我が道を行き人を寄せ付けない様なライーズ副書記官長、誰もが見向きもしなくなった古語……どうやら似通った所があると令嬢達は口を揃える。だからライーズ副書記官長は古語に傾倒するのだろうと。
「孤独……そうですわ、孤独…これがピッタリと来ますわね。」
「えぇ…孤高の存在ですわ。」
「ライーズ副書記官長がですか?」
うんうん、うんうんと頷き合っている令嬢達の前でウリートはしばしポカンとしてしまう。
孤独…?書庫に来られる時のライーズ副書記官長はウリートを見つけると笑顔で挨拶してくれる。大抵ヒュンダルンが来るだろう前くらいの短時間に少し古語のやり取りをして…
楽しそうにしていたけれど……?
「…生きてて、良かったな…」
就寝前のベッドの中でウリートは今日一日を振り返ってみる。悪かった事はすぐに忘れてしまえばいい。でも良かった事は何度も何度も頭の中で繰り返し思い返す。明日にはどうなるか分からなかったウリートの幼い頃からの日課だ。今日できた事がもしかしたら明日は出来ないかも知れない。そんな事を考えるとその時の幸せな思い出が少しも掠れてしまわないように自分の中に刻みつけておきたいと思うから。
「ふふふ…ふふ……」
光が落とされた部屋の中でウリートの笑い声が漏れるのは不気味かも知れない。けれども、それがわかっていても溢れてくる喜びを抑えるなんて勿体無かった。
「僕にも…できる。できる事が増えている…!」
それが何よりも誇らしく今は幸せだ。
「ウリート様!此方ですわ!」
「お久しぶりです事!いかがお過ごしでした?」
「ま、少しお顔の色が良くなった様に思いますわ。何かいい事がありまして?」
久しぶりにエリザ叔母から誘われたお茶会だ。社交場は沢山あれど慣れた所が落ち着くだろうとまた誘ってくれたのだ。
「お久しぶりです、レジーネ侯爵令嬢、ユーリ子爵令嬢、スザンナ男爵令嬢!」
友人を名前で呼べる。ウリートは誇らしげに満面の笑顔だ。大勢がいる所はまだ緊張してしまうウリートだが知った顔を見るとなんとも言えない安心感に満たされた。
「ま、眩しいくらいですわね…」
「本当に…もう、あの噂が嘘ではないと物語っている様ですわ!」
「落ち着きなさいなお二方。事実はまだ分からないのでしてよ?」
誇らしげに微笑むウリートとは対極に令嬢3名は何かに耐える様に挨拶を交わした。
「あの、皆様、具合でも?」
病弱代表の様なウリートなのだが、令嬢達の唯ならぬ表情から具合が悪いのではないかと推察したのだった。
「違いましてよ、ウリート様。私達は非常に健康ですわ。」
華やかな花の様な笑みを返したレジーネ侯爵令嬢はニッコリと優雅に笑って見せる。
「そうですわ。お久しぶりにウリート様のお顔を拝しましたので少しだけ、興奮してしまったのですわ…」
扇で口元を隠しつつユーリ子爵令嬢は恥ずかしそうにそう理由を話した。
「ええ、そうですわよ…健康ゆえの悩みですわ。」
「……興奮、ですか……?皆様健康で何よりですけれど。あ、私が前にここで倒れたから………」
どうやらウリートは勘違いをしている。ウリートが前回の茶会で倒れたからそれを心配した令嬢が興奮したと思っている様なのだ。その際は迷惑をかけてしまったから…
「ウリート様、どうかご安心を。私達の事は放っておいても大丈夫ですわ!今日は挨拶にも行かなくてよろしいでしょうし、ゆっくりとしましょうね?」
前回は挨拶のために会場内を歩き回り、大勢の人間と言葉を交わした。アクロース侯爵邸にいる時には考えもつかないほどの緊張を強いられていたのだろう。そして気を張りすぎたウリートは倒れたのだ。
「ええ、ありがとうございます。スザンナ男爵令嬢。それと、先程の噂というのは?」
友人である令嬢達の表情を一気に暗くしていたものが何か気になる。
「あら、やっぱり気になりますかしら?」
ほほほ…と令嬢特有の笑い声を上げてユーリ子爵令嬢が少し身を乗り出す。
「ウリート様、ライーズ副書記官殿と仲がよろしいの?」
ウリートが知ってや知らずか書庫の妖精の噂ならばここに出席している夫人、令嬢達に入ってきている。その妖精に親しくしている人物が居るとしたらそれは噂となって然るべき話題であった。
「ライーズ書記官長ですか?」
パチクリ、本日のお茶を頂きながらウリートは目を瞬いて小首を傾げた。
「ええ…!!」
「あの方は博識ですね。」
そう言うとニッコリとウリートは満足そうに笑う。書庫で偶然あった時にもライーズ副書記官長は古語を流暢に使いこなす程に精通している方だった。家庭教師に発音を教えてもらって以降、あんなに綺麗な古語を聞いた事は無かったのである。
「んま、古語を?」
「古風な方でしたのね?」
仕事に打ち込むその冷たい瞳と姿が素敵と言われて来たライーズ副書記官長である。その彼にそんな得意とする側面があったなんて素晴らしい情報だった。
「でも、分かる気がしますわね…似合いすぎてませんこと?」
我が道を行き人を寄せ付けない様なライーズ副書記官長、誰もが見向きもしなくなった古語……どうやら似通った所があると令嬢達は口を揃える。だからライーズ副書記官長は古語に傾倒するのだろうと。
「孤独……そうですわ、孤独…これがピッタリと来ますわね。」
「えぇ…孤高の存在ですわ。」
「ライーズ副書記官長がですか?」
うんうん、うんうんと頷き合っている令嬢達の前でウリートはしばしポカンとしてしまう。
孤独…?書庫に来られる時のライーズ副書記官長はウリートを見つけると笑顔で挨拶してくれる。大抵ヒュンダルンが来るだろう前くらいの短時間に少し古語のやり取りをして…
楽しそうにしていたけれど……?
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