[完]腐違い貴婦人会に出席したら、今何故か騎士団長の妻をしてます…

小葉石

文字の大きさ
上 下
21 / 135

21、貴婦人の囀り ②

しおりを挟む
「アメリア様、ご機嫌よう!お聞きになりまして?」

「ご機嫌よう。レジーネ様。お久しぶりです事!一体何をかしら?」

 花々が咲き誇る素晴らしい王城の庭園の一つで本日開かれているのは上位貴族達のみが集まる茶会である。普段から色々な名目でもって貴族達の社交がなされる城内では普段通りの風景であった。

「ま、貴方程の方がお知りにならないはずはないでしょう?」

「ふふふ…書庫の妖精の事かしら?」

 本日の名目は城の庭園を自慢したいであろう王妃の顔を立てたものだ。各テーブルについた淑女達は口々に花々の瑞々しさ、色の良さ、香りの良さ、また庭園の造形の良さに至るまで褒め立てている。会場の隅の席に陣取った宰相が令嬢アメリアとエリッジ侯爵令嬢レジーネは扇を片手に花々を鑑賞しながら別の話題に花を咲かせていた。

「ほら、もうご存知なのだわ。」

 書庫の妖精ならば既に城内では知らぬ者がいない程周知されている。早朝のみしか姿を現さなかった人物が正午前にもちょくちょく姿を現している所を目撃されているからだ。もう既にこの時にはその正体はアクロース侯爵家の次男ウリートである事は知れ渡っているのだが、何故だか書庫の妖精の二つ名は消えず、時としてこの様に茶会の話題として持ち上がってくるのだ。

「それは噂程度なら…良くご存知と言ったらレジーネ様の方がお詳しいでしょう?」

 ウリートの初めての茶会の会場にいたレジーネは運良くメリール・クラーナ伯爵未亡人から当日のお世話役として任命されていたのだから。

「羨ましい事ですわ。私もお近くでアクロース侯爵子息様のお顔を拝見したかったのに…」

「ふふふ…それはお可愛らしくあられましたわ…!」

「そうでしょうとも!ですから未だにこんなに話題に上がるのだわ。」

「ええ、私達の中では特に………」

「あの方……あの時お側におられたゴーリッシュ騎士団長とはその後どうなられたの?」

 給仕が本日のお茶の銘柄と色とりどりのスイーツの説明を始めた所でアメリアは扇で口元を覆いそっと声を落としてレジーネに問う。

「ご友人ですって…」

「まぁ、釣れない…!」

 キュッとアメリアは扇を握る。

「仕方ありませんわ。ウリート様は婚約者をお探しですけれど、何しろとてつもなく初心でいらっしゃるのですもの…それにゴーリッシュ騎士団長は自他共に認める独身主義者の様な方…」

「初心なのが良いわ!いえ、そうではなくて…アクロース侯爵子息様には婚約者なんて勿体なくてよ?」

「アメリア様……声をお落としになって………ここには淑女の方々がお集まりですのよ?」

 ニッコリと柔らかな笑みを周囲のテーブルに送りながらレジーネはアメリアに進言する。

「私とした事が…」

 アメリアも負けじと花の様な笑顔を向ける。ここに集まった淑女達は本日満開を迎えた花々を鑑賞しに来ているのだから、その素晴らしさを大いに表現しなければならないのだ。

 んん、と一つアメリアは咳払いをして微笑みをレジーネに向けた。

「でも私、日々思いますの。素晴らしい者はこの花々を愛でる様に、皆で愛でて頂くのが1番だろうって…そうすれば争いなんて起こりませんわよ?」

 書庫の妖精の噂は既に公のものだ。誰から得たのか書庫に通う者達もちらちらと増えていると聞く。身分の高くない者などは書庫の出入り口で待機しており、守衛にあたる騎士達からは迷惑そうな怪訝な目で見られていると言うのだ。

「アメリア様はやはりアメリア様ですのね?その趣向は変わる事はありませんの?」

「ま!変えるなんて…!そんな無粋なこと仰らないで…!全てに愛され、全てを愛する…これこそ、究極の愛の形ではありませんの…」

「アメリア様ったら…もちろん、その様な形もありますわ。でもジワジワと二人きりで手探りで作り上げて行く愛の美学は捨てられませんの…!」

「そんな悠長な事を仰るから横から攫われてしまうこともあるんですわ…!それなら愛を分け与えつつ頂けばいいのです…!私だってどうしても捨てきれませんのよ…可愛らしいと思ってしまう者には特に!」

「…ついこの間まではサラント副騎士団長に対してもそんな事を仰っていましたわよ?」

「えぇ、ええ、そうですわ。あの美貌ですもの!なのにあの方ったら……優しく受け入れて下る様に見えるでしょう?けれど、本当はヒョウの様な獰猛な方かもしれませんわ。」

「まぁ、どなたか………犠牲になったお方がいて……?」

 一層声のトーンを落としてレジーネはアメリアの方に向き直る。サラント副騎士団長はその美貌から男女問わずに人気を買っている。だからリード・サラントと近づきになりたいと言う者は非常に多いのだった。だがただ彼らの橋渡しをするのでは面白くはないばかりかサラント副騎士団長に返り討ちにされるだろう。だから本人の意志とは別にサラント副騎士団長と気が合いそうな年上の医官を突破口として先ずは送り込んでみたのだが……

「レジーネ様、犠牲だなんて…そこに、愛があれば良いのですわ……!」

 アメリアは笑う。これこそが全ての者の正義だと言わんばかりに…愛があれば、にはレジーネも同意する。けれど…

「……その方は、ご愁傷様ですこと…!」

 確かに形としたら沢山あるだろう。

「さぁ、それは当人にしかわかないものでしてよ?アクロース侯爵子息様にもそんな世界を体験してほしいですわ!」

 さて、それは出来るだろうか?ウリートまで届くには幾つものを突破していかなければならないだろうから。その壁達が常にウリートの側にいるのだから、たった一つの本心を届けるのも難しそうだ。

「壁が沢山ありましてよ?」

「当然ですわ!それこそその壁も含めた皆様で愛せば良いのだわ…!」

「やっぱり…納得行きませんわ…!どんな困難があろうとも一途に一人を愛し抜く…これこそが全ての人の心を掴むのだわ!」

 満開の可憐な花々が舞い落ちる中、2人の令嬢の間には違う種の花が散って行く…
 



















しおりを挟む
感想 95

あなたにおすすめの小説

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

αからΩになった俺が幸せを掴むまで

なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。 10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。 義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。 アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。 義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が… 義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。 そんな海里が本当の幸せを掴むまで…

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

処理中です...