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21、貴婦人の囀り ②
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「アメリア様、ご機嫌よう!お聞きになりまして?」
「ご機嫌よう。レジーネ様。お久しぶりです事!一体何をかしら?」
花々が咲き誇る素晴らしい王城の庭園の一つで本日開かれているのは上位貴族達のみが集まる茶会である。普段から色々な名目でもって貴族達の社交がなされる城内では普段通りの風景であった。
「ま、貴方程の方がお知りにならないはずはないでしょう?」
「ふふふ…書庫の妖精の事かしら?」
本日の名目は城の庭園を自慢したいであろう王妃の顔を立てたものだ。各テーブルについた淑女達は口々に花々の瑞々しさ、色の良さ、香りの良さ、また庭園の造形の良さに至るまで褒め立てている。会場の隅の席に陣取った宰相が令嬢アメリアとエリッジ侯爵令嬢レジーネは扇を片手に花々を鑑賞しながら別の話題に花を咲かせていた。
「ほら、もうご存知なのだわ。」
書庫の妖精ならば既に城内では知らぬ者がいない程周知されている。早朝のみしか姿を現さなかった人物が正午前にもちょくちょく姿を現している所を目撃されているからだ。もう既にこの時にはその正体はアクロース侯爵家の次男ウリートである事は知れ渡っているのだが、何故だか書庫の妖精の二つ名は消えず、時としてこの様に茶会の話題として持ち上がってくるのだ。
「それは噂程度なら…良くご存知と言ったらレジーネ様の方がお詳しいでしょう?」
ウリートの初めての茶会の会場にいたレジーネは運良くメリール・クラーナ伯爵未亡人から当日のお世話役として任命されていたのだから。
「羨ましい事ですわ。私もお近くでアクロース侯爵子息様のお顔を拝見したかったのに…」
「ふふふ…それはお可愛らしくあられましたわ…!」
「そうでしょうとも!ですから未だにこんなに話題に上がるのだわ。」
「ええ、私達の中では特に………」
「あの方……あの時お側におられたゴーリッシュ騎士団長とはその後どうなられたの?」
給仕が本日のお茶の銘柄と色とりどりのスイーツの説明を始めた所でアメリアは扇で口元を覆いそっと声を落としてレジーネに問う。
「ご友人ですって…」
「まぁ、釣れない…!」
キュッとアメリアは扇を握る。
「仕方ありませんわ。ウリート様は婚約者をお探しですけれど、何しろとてつもなく初心でいらっしゃるのですもの…それにゴーリッシュ騎士団長は自他共に認める独身主義者の様な方…」
「初心なのが良いわ!いえ、そうではなくて…アクロース侯爵子息様には婚約者なんて勿体なくてよ?」
「アメリア様……声をお落としになって………ここには淑女の方々がお集まりですのよ?」
ニッコリと柔らかな笑みを周囲のテーブルに送りながらレジーネはアメリアに進言する。
「私とした事が…」
アメリアも負けじと花の様な笑顔を向ける。ここに集まった淑女達は本日満開を迎えた花々を鑑賞しに来ているのだから、その素晴らしさを大いに表現しなければならないのだ。
んん、と一つアメリアは咳払いをして微笑みをレジーネに向けた。
「でも私、日々思いますの。素晴らしい者はこの花々を愛でる様に、皆で愛でて頂くのが1番だろうって…そうすれば争いなんて起こりませんわよ?」
書庫の妖精の噂は既に公のものだ。誰から得たのか書庫に通う者達もちらちらと増えていると聞く。身分の高くない者などは書庫の出入り口で待機しており、守衛にあたる騎士達からは迷惑そうな怪訝な目で見られていると言うのだ。
「アメリア様はやはりアメリア様ですのね?その趣向は変わる事はありませんの?」
「ま!変えるなんて…!そんな無粋なこと仰らないで…!全てに愛され、全てを愛する…これこそ、究極の愛の形ではありませんの…」
「アメリア様ったら…もちろん、その様な形もありますわ。でもジワジワと二人きりで手探りで作り上げて行く愛の美学は捨てられませんの…!」
「そんな悠長な事を仰るから横から攫われてしまうこともあるんですわ…!それなら愛を分け与えつつ頂けばいいのです…!私だってどうしても捨てきれませんのよ…可愛らしいと思ってしまう者には特に!」
「…ついこの間まではサラント副騎士団長に対してもそんな事を仰っていましたわよ?」
「えぇ、ええ、そうですわ。あの美貌ですもの!なのにあの方ったら……優しく受け入れて下る様に見えるでしょう?けれど、本当はヒョウの様な獰猛な方かもしれませんわ。」
「まぁ、どなたか………犠牲になったお方がいて……?」
一層声のトーンを落としてレジーネはアメリアの方に向き直る。サラント副騎士団長はその美貌から男女問わずに人気を買っている。だからリード・サラントと近づきになりたいと言う者は非常に多いのだった。だがただ彼らの橋渡しをするのでは面白くはないばかりかサラント副騎士団長に返り討ちにされるだろう。だから本人の意志とは別にサラント副騎士団長と気が合いそうな年上の医官を突破口として先ずは送り込んでみたのだが……
「レジーネ様、犠牲だなんて…そこに、愛があれば良いのですわ……!」
アメリアは笑う。これこそが全ての者の正義だと言わんばかりに…愛があれば、にはレジーネも同意する。けれど…
「……その方は、ご愁傷様ですこと…!」
確かに形としたら沢山あるだろう。
「さぁ、それは当人にしかわかないものでしてよ?アクロース侯爵子息様にもそんな世界を体験してほしいですわ!」
さて、それは出来るだろうか?ウリートまで届くには幾つもの壁を突破していかなければならないだろうから。その壁達が常にウリートの側にいるのだから、たった一つの本心を届けるのも難しそうだ。
「壁が沢山ありましてよ?」
「当然ですわ!それこそその壁も含めた皆様で愛せば良いのだわ…!」
「やっぱり…納得行きませんわ…!どんな困難があろうとも一途に一人を愛し抜く…これこそが全ての人の心を掴むのだわ!」
満開の可憐な花々が舞い落ちる中、2人の令嬢の間には違う種の花が散って行く…
「ご機嫌よう。レジーネ様。お久しぶりです事!一体何をかしら?」
花々が咲き誇る素晴らしい王城の庭園の一つで本日開かれているのは上位貴族達のみが集まる茶会である。普段から色々な名目でもって貴族達の社交がなされる城内では普段通りの風景であった。
「ま、貴方程の方がお知りにならないはずはないでしょう?」
「ふふふ…書庫の妖精の事かしら?」
本日の名目は城の庭園を自慢したいであろう王妃の顔を立てたものだ。各テーブルについた淑女達は口々に花々の瑞々しさ、色の良さ、香りの良さ、また庭園の造形の良さに至るまで褒め立てている。会場の隅の席に陣取った宰相が令嬢アメリアとエリッジ侯爵令嬢レジーネは扇を片手に花々を鑑賞しながら別の話題に花を咲かせていた。
「ほら、もうご存知なのだわ。」
書庫の妖精ならば既に城内では知らぬ者がいない程周知されている。早朝のみしか姿を現さなかった人物が正午前にもちょくちょく姿を現している所を目撃されているからだ。もう既にこの時にはその正体はアクロース侯爵家の次男ウリートである事は知れ渡っているのだが、何故だか書庫の妖精の二つ名は消えず、時としてこの様に茶会の話題として持ち上がってくるのだ。
「それは噂程度なら…良くご存知と言ったらレジーネ様の方がお詳しいでしょう?」
ウリートの初めての茶会の会場にいたレジーネは運良くメリール・クラーナ伯爵未亡人から当日のお世話役として任命されていたのだから。
「羨ましい事ですわ。私もお近くでアクロース侯爵子息様のお顔を拝見したかったのに…」
「ふふふ…それはお可愛らしくあられましたわ…!」
「そうでしょうとも!ですから未だにこんなに話題に上がるのだわ。」
「ええ、私達の中では特に………」
「あの方……あの時お側におられたゴーリッシュ騎士団長とはその後どうなられたの?」
給仕が本日のお茶の銘柄と色とりどりのスイーツの説明を始めた所でアメリアは扇で口元を覆いそっと声を落としてレジーネに問う。
「ご友人ですって…」
「まぁ、釣れない…!」
キュッとアメリアは扇を握る。
「仕方ありませんわ。ウリート様は婚約者をお探しですけれど、何しろとてつもなく初心でいらっしゃるのですもの…それにゴーリッシュ騎士団長は自他共に認める独身主義者の様な方…」
「初心なのが良いわ!いえ、そうではなくて…アクロース侯爵子息様には婚約者なんて勿体なくてよ?」
「アメリア様……声をお落としになって………ここには淑女の方々がお集まりですのよ?」
ニッコリと柔らかな笑みを周囲のテーブルに送りながらレジーネはアメリアに進言する。
「私とした事が…」
アメリアも負けじと花の様な笑顔を向ける。ここに集まった淑女達は本日満開を迎えた花々を鑑賞しに来ているのだから、その素晴らしさを大いに表現しなければならないのだ。
んん、と一つアメリアは咳払いをして微笑みをレジーネに向けた。
「でも私、日々思いますの。素晴らしい者はこの花々を愛でる様に、皆で愛でて頂くのが1番だろうって…そうすれば争いなんて起こりませんわよ?」
書庫の妖精の噂は既に公のものだ。誰から得たのか書庫に通う者達もちらちらと増えていると聞く。身分の高くない者などは書庫の出入り口で待機しており、守衛にあたる騎士達からは迷惑そうな怪訝な目で見られていると言うのだ。
「アメリア様はやはりアメリア様ですのね?その趣向は変わる事はありませんの?」
「ま!変えるなんて…!そんな無粋なこと仰らないで…!全てに愛され、全てを愛する…これこそ、究極の愛の形ではありませんの…」
「アメリア様ったら…もちろん、その様な形もありますわ。でもジワジワと二人きりで手探りで作り上げて行く愛の美学は捨てられませんの…!」
「そんな悠長な事を仰るから横から攫われてしまうこともあるんですわ…!それなら愛を分け与えつつ頂けばいいのです…!私だってどうしても捨てきれませんのよ…可愛らしいと思ってしまう者には特に!」
「…ついこの間まではサラント副騎士団長に対してもそんな事を仰っていましたわよ?」
「えぇ、ええ、そうですわ。あの美貌ですもの!なのにあの方ったら……優しく受け入れて下る様に見えるでしょう?けれど、本当はヒョウの様な獰猛な方かもしれませんわ。」
「まぁ、どなたか………犠牲になったお方がいて……?」
一層声のトーンを落としてレジーネはアメリアの方に向き直る。サラント副騎士団長はその美貌から男女問わずに人気を買っている。だからリード・サラントと近づきになりたいと言う者は非常に多いのだった。だがただ彼らの橋渡しをするのでは面白くはないばかりかサラント副騎士団長に返り討ちにされるだろう。だから本人の意志とは別にサラント副騎士団長と気が合いそうな年上の医官を突破口として先ずは送り込んでみたのだが……
「レジーネ様、犠牲だなんて…そこに、愛があれば良いのですわ……!」
アメリアは笑う。これこそが全ての者の正義だと言わんばかりに…愛があれば、にはレジーネも同意する。けれど…
「……その方は、ご愁傷様ですこと…!」
確かに形としたら沢山あるだろう。
「さぁ、それは当人にしかわかないものでしてよ?アクロース侯爵子息様にもそんな世界を体験してほしいですわ!」
さて、それは出来るだろうか?ウリートまで届くには幾つもの壁を突破していかなければならないだろうから。その壁達が常にウリートの側にいるのだから、たった一つの本心を届けるのも難しそうだ。
「壁が沢山ありましてよ?」
「当然ですわ!それこそその壁も含めた皆様で愛せば良いのだわ…!」
「やっぱり…納得行きませんわ…!どんな困難があろうとも一途に一人を愛し抜く…これこそが全ての人の心を掴むのだわ!」
満開の可憐な花々が舞い落ちる中、2人の令嬢の間には違う種の花が散って行く…
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