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17、書庫の妖精 1
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「団長、王城に亡霊が出るって噂ご存じですか?」
「………亡霊?」
今現在勤務中だと思うのだが、何故か執務室に来た部下の騎士が突飛でもない事を口走った。
「そうです!王家の呪いだとか…怨念だとか…城勤めの下の階級の者達から噂は本当かと問い詰められるんですよ…」
どうやらこの若い騎士は世間の噂に踊らされて世迷言を口走っているわけではなさそうである。城勤めの者達から日に何度も本当はどうなのかと詰め寄られ、いい加減辟易しているのだと言う。城を護る騎士であるから安全の補償はと問われれば無視はできないだろうが、亡霊やら怨霊やらではどれも眉唾物にすぎないお伽噺で終わるものが殆どだろうに…
「どう言う事なんだ?」
いい加減溜まってきている案件をこここにいる間にさっさと片付けてしまいたいのだ。この他にも他部署係官との面談に第一騎士団騎士達の訓練、他騎士団との連携の見直しに…とやらねばならない事は山積みなのに。それに、お互い城にいると言うのに来ているだろう新しい友人の顔を見に行くことさえできないでいる。
約束したのにな…
忙しい部署であるからメリール叔母との約束も手が空いている時とした。だからそんなに焦らなくてもいいのだが、もしウリートが心待ちにして待っていてくれているのならば、約束を未だ果たせていない事で申し訳ない気持ちに襲われるのだ。
「ですから!王城の書庫に出る、と噂になっているのです!」
出るとは亡霊か…頭が痛くなりそうな話題ではある。しかし…
「あそこは王家の私有だろう?」
王城にある車庫は王家の管轄だ。なので一般的な来城者はもちろん閲覧できるはずがないし、城勤めの者達でも一定以上の役職者でなければ入室さえできない事になっている……
「そうなのです。だから皆怯えています。」
ただの噂話を面白おかしく伝聞している分にはただの娯楽と言えるだろう。しかし、城の書庫に入室出来るものは身分も確かな役職者である。城の書庫での出来事が広まっているのだとしたらその者達が、見た、と言う事になるのだ。ただの遊びで流されたものではないのだろう。
「はぁぁぁ…詳しく話せ…」
城の書庫の入室は厳しく管理されているはずだ。国立図書館とは違い貴重な蔵書も多々あるためで、その殆どが王家の私財をかけて長年集められたものだからだ。管理も行き届き専属の司書官は夜間にも常駐している。国を司る役職者達は自らの知識と見聞を深める為にまた主に国政に関わる資料を集めるために利用しているのだ。そこに外部の者が易々と入室出来るものではない。出入り口は一つだし常時騎士達が警備についているからだ。そんな所で何かが起こっているのだとしたら騎士団は見過ごす事はできないだろう。
その書庫に通う文官の一人が見たのだそうだ。今まで見たことも無い者が優雅に本を捲っている姿を。部外者が入れないこの書庫で、利用者という利用者は全て既知であると言うのにその者が誰だか分からなかったと言う。
「それが亡霊か?」
それだけの情報で亡霊と決めつけるのか?
「いいえ、違うのです。やはり怪しく思ったその文官は来た道を戻ってその者を確かめようとしたそうで…」
「で、誰だったのだ?」
「もう、綺麗さっぱりとその場から消え失せていたそうで………」
若い騎士は声のトーンを落として説明した。
「それで、亡霊か…」
正式に何かをせよと言うのならば上層部の方から依頼書が回ってくるものだ。それが無い…ならばまだ噂が一人歩きしている段階なのだろう。
「キルマーその亡霊の情報、目撃証言なんかをだな詳しく拾ってきてくれ。」
キルマーと呼ばれた若い騎士は目を輝かせる。ただの噂話と流されるのでは無いかと思っていた事を上司がしっかりと取り上げてくれたからだ。
「はっ!」
綺麗な礼を取ってキルマーは颯爽と執務室を出て行った。
「さて、リード。第3騎士団は今どこだったかな?」
「本日は郊外で警邏訓練を兼ねた演習をしていると思いますが。因みに騎士団長の動向は掴んではおりません。連絡をとりますか?」
第1騎士団副騎士団長を務めるだけあるリード・サラントは美しいだけじゃ無く非常に優秀でもある。その場で上官の欲しい情報以上の事を挙げられるほどに。
「いや、やめておこう。キルマーの報告を待つ。」
書庫にはきっとウリートも行くのだろうから、本当に不審者であったならば突き止めておきたい。
「顔が怖いですよ、団長。」
机の上の資料の仕分けをしながらグッと寄っているヒュンダルンの眉間を指差す。
「仕方ないだろう…」
これも仕事の内だ。指摘された眉間を揉みほぐしながら次なる報告書に手を伸ばしていった。
「………亡霊?」
今現在勤務中だと思うのだが、何故か執務室に来た部下の騎士が突飛でもない事を口走った。
「そうです!王家の呪いだとか…怨念だとか…城勤めの下の階級の者達から噂は本当かと問い詰められるんですよ…」
どうやらこの若い騎士は世間の噂に踊らされて世迷言を口走っているわけではなさそうである。城勤めの者達から日に何度も本当はどうなのかと詰め寄られ、いい加減辟易しているのだと言う。城を護る騎士であるから安全の補償はと問われれば無視はできないだろうが、亡霊やら怨霊やらではどれも眉唾物にすぎないお伽噺で終わるものが殆どだろうに…
「どう言う事なんだ?」
いい加減溜まってきている案件をこここにいる間にさっさと片付けてしまいたいのだ。この他にも他部署係官との面談に第一騎士団騎士達の訓練、他騎士団との連携の見直しに…とやらねばならない事は山積みなのに。それに、お互い城にいると言うのに来ているだろう新しい友人の顔を見に行くことさえできないでいる。
約束したのにな…
忙しい部署であるからメリール叔母との約束も手が空いている時とした。だからそんなに焦らなくてもいいのだが、もしウリートが心待ちにして待っていてくれているのならば、約束を未だ果たせていない事で申し訳ない気持ちに襲われるのだ。
「ですから!王城の書庫に出る、と噂になっているのです!」
出るとは亡霊か…頭が痛くなりそうな話題ではある。しかし…
「あそこは王家の私有だろう?」
王城にある車庫は王家の管轄だ。なので一般的な来城者はもちろん閲覧できるはずがないし、城勤めの者達でも一定以上の役職者でなければ入室さえできない事になっている……
「そうなのです。だから皆怯えています。」
ただの噂話を面白おかしく伝聞している分にはただの娯楽と言えるだろう。しかし、城の書庫に入室出来るものは身分も確かな役職者である。城の書庫での出来事が広まっているのだとしたらその者達が、見た、と言う事になるのだ。ただの遊びで流されたものではないのだろう。
「はぁぁぁ…詳しく話せ…」
城の書庫の入室は厳しく管理されているはずだ。国立図書館とは違い貴重な蔵書も多々あるためで、その殆どが王家の私財をかけて長年集められたものだからだ。管理も行き届き専属の司書官は夜間にも常駐している。国を司る役職者達は自らの知識と見聞を深める為にまた主に国政に関わる資料を集めるために利用しているのだ。そこに外部の者が易々と入室出来るものではない。出入り口は一つだし常時騎士達が警備についているからだ。そんな所で何かが起こっているのだとしたら騎士団は見過ごす事はできないだろう。
その書庫に通う文官の一人が見たのだそうだ。今まで見たことも無い者が優雅に本を捲っている姿を。部外者が入れないこの書庫で、利用者という利用者は全て既知であると言うのにその者が誰だか分からなかったと言う。
「それが亡霊か?」
それだけの情報で亡霊と決めつけるのか?
「いいえ、違うのです。やはり怪しく思ったその文官は来た道を戻ってその者を確かめようとしたそうで…」
「で、誰だったのだ?」
「もう、綺麗さっぱりとその場から消え失せていたそうで………」
若い騎士は声のトーンを落として説明した。
「それで、亡霊か…」
正式に何かをせよと言うのならば上層部の方から依頼書が回ってくるものだ。それが無い…ならばまだ噂が一人歩きしている段階なのだろう。
「キルマーその亡霊の情報、目撃証言なんかをだな詳しく拾ってきてくれ。」
キルマーと呼ばれた若い騎士は目を輝かせる。ただの噂話と流されるのでは無いかと思っていた事を上司がしっかりと取り上げてくれたからだ。
「はっ!」
綺麗な礼を取ってキルマーは颯爽と執務室を出て行った。
「さて、リード。第3騎士団は今どこだったかな?」
「本日は郊外で警邏訓練を兼ねた演習をしていると思いますが。因みに騎士団長の動向は掴んではおりません。連絡をとりますか?」
第1騎士団副騎士団長を務めるだけあるリード・サラントは美しいだけじゃ無く非常に優秀でもある。その場で上官の欲しい情報以上の事を挙げられるほどに。
「いや、やめておこう。キルマーの報告を待つ。」
書庫にはきっとウリートも行くのだろうから、本当に不審者であったならば突き止めておきたい。
「顔が怖いですよ、団長。」
机の上の資料の仕分けをしながらグッと寄っているヒュンダルンの眉間を指差す。
「仕方ないだろう…」
これも仕事の内だ。指摘された眉間を揉みほぐしながら次なる報告書に手を伸ばしていった。
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