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16、まずは通ってみよう
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国立図書館へのウリートの外出はすぐに兄アランドに却下された…建てられている立地が悪く周囲の治安もよろしく無いと言う理由でアランドかセージュが一緒の時のみ、それもすこぶる体調がいい時に限って短時間でならば良いと言う事だった。
お茶会で倒れてしまう前科を作ってしまったので、もはや大丈夫、と言うウリートの言葉は家族には響かない…しかしなぜか王城にある王家の書庫には見学という名目で許可が降りた。そして有難い事続きに、ゴーリッシュ騎士団長から兵法座学の指南役に立候補したい旨を認めた手紙が届いたのである。
手紙……初めて貰った……
家族や親族からもらう誕生日カードや勉学を修了した時に貰うお祝いカードでもない…友人からの本物の手紙だ。
これを部屋に運んできた侍女マリエッテから受け取った時はしばしウリートの時が止まったものだ。
僕にも、友達ができたんだ……
何度も死にそうな時があって、もう色々と諦めやら妥協やらをつけたつもりだったウリートだが、今心の底から嬉しく思う。
「こう言うのを…求めてたんだな……」
思わずポツリと呟いてしまって、マリエッテに何ですか?なんて聞き返されてしまった。
「ふふ…僕にもまだやれる事があるみたい…!」
将来の事はあらゆる自制心を動員してやっとの事で考えていた時期があったけど、これからはもっと気楽に自立に向かって目を向けられるかもしれない。
心の中のワクワクをそのままにウリートはアランドと共に王城へと向かう。
兄アランドの過保護はここでも健在で…王家所有の書庫なので危険は皆無と思いたいのだが、書庫に行く日はアランドが付き添い送り迎えをすると言う。もちろん、人気のない時間にごく短時間でとの制約もつく。それでもウリートは満足だ。今までだったら家から一歩も外に出してももらえなかったのだから。
王家所用の書籍は素早らしいに尽きた。保存状態も申し分なく、所有している書籍の種類も多岐に渡り、館内を回りながら背表紙を見て回るだけで日が暮れそうなほどの蔵書数だった。兵法ばかりでは無く、ウリートが学びを深めたいと持っていた分野の書物まで揃っているとあっては本を選ぶのにも目移りしてしまって目眩を覚えたほどである。
「ウリー、今日はここまでだ。」
いつの間に後ろにいたのだろう。アランドがふらつくウリートを背後から支えている。
「兄様?」
「さ、帰ろう。」
今来たばかりですけど?
帰宅を決めた兄の行動は早いのだ。側にいた司書を呼びウリートが引っ張り出してきた書物のリストを作らせ棚への返却を命じると、ウリートの腰を支える様にしてさっさと出口へとウリートを誘導する。
「兄様!今来たばかりです…!」
まだ中を確認していない書物もあったのに…!
「ああ、そうだな。」
「だからもう少し見たいのです。」
「ウリー焦る事はない。今日はここに書庫があると知るだけでも良かったんだ。ゆっくり通って徐々に滞在時間を伸ばしたらいい。」
不満げなウリートにアランドはこれでもかと言うほどの柔らかな笑顔を向けて優しく諭す。何しろ先日倒れたばかり…緊張と少しの無理が祟ったのだろうがわざわざ同じ轍を踏む事はないのだから。
「ここへ来たいのならば毎日通いなさい。来る時に一緒に来て、良い時間になったら迎えにこよう。」
どこまでもウリート中心のアランドの言動にウリートは余計な心配をしそうだ。
そんな事して仕事…大丈夫でしょうか?
アランドは決してウリートに関する事で不平不満を言わなかった。子供の頃には頻回に体調を崩すウリートに邸の者達の手をいつも煩わせていただろう。そしてウリートは心配する両親に付き添われる事も多かったのだ。その間子供であったアランドは寂しかったのではないだろうか?セージュが産まれてからはアランドが忙しい両親に変わりセージュの相手をしていたのをウリートも知っている。それでもこの兄は何も言わない。いつもいつも、回復して良かった、体を冷やさない様に、好き嫌いはだめだぞと何くれと無くウリートに関わってくれている。
有難いことだと思う。健康な身体はもらえなかったが素晴らしい家族、兄弟をもらったものだといつも思うのだ。
「兄様、ありがとう……」
「ふ…わかればよろしい。体調は?」
「はい、大丈夫です。」
「でも油断はしない事だ。いいね?」
アランドの落ち着いた声は子供の頃とは違う大人の男性のもの。つい最近知り合いになったばかりのヒュンダルンのものとは当然違う。ヒュンダルンの低い声も男らしくて素敵だとは思ったが、アランドの声は今までウリートに関わってきた年季分安心感が違う様だ。
「はい。ごめんなさい。」
「謝らなくて良いからちゃんと帰って休む事だ。」
「はい。」
初めて来た城の書庫、初めてばかりの沢山の本…成程少しばかりウリートは興奮気味でこれ以上は熱が出そうだった。
でも、楽しい……!
外に出れる事が、知らない事を知れるチャンスがまだ持てる、そして友達との約束も…楽しみすぎて、楽しくて、馬車の中で強制的に目を閉じなければ本格的に具合が悪くなりそうだった…
お茶会で倒れてしまう前科を作ってしまったので、もはや大丈夫、と言うウリートの言葉は家族には響かない…しかしなぜか王城にある王家の書庫には見学という名目で許可が降りた。そして有難い事続きに、ゴーリッシュ騎士団長から兵法座学の指南役に立候補したい旨を認めた手紙が届いたのである。
手紙……初めて貰った……
家族や親族からもらう誕生日カードや勉学を修了した時に貰うお祝いカードでもない…友人からの本物の手紙だ。
これを部屋に運んできた侍女マリエッテから受け取った時はしばしウリートの時が止まったものだ。
僕にも、友達ができたんだ……
何度も死にそうな時があって、もう色々と諦めやら妥協やらをつけたつもりだったウリートだが、今心の底から嬉しく思う。
「こう言うのを…求めてたんだな……」
思わずポツリと呟いてしまって、マリエッテに何ですか?なんて聞き返されてしまった。
「ふふ…僕にもまだやれる事があるみたい…!」
将来の事はあらゆる自制心を動員してやっとの事で考えていた時期があったけど、これからはもっと気楽に自立に向かって目を向けられるかもしれない。
心の中のワクワクをそのままにウリートはアランドと共に王城へと向かう。
兄アランドの過保護はここでも健在で…王家所有の書庫なので危険は皆無と思いたいのだが、書庫に行く日はアランドが付き添い送り迎えをすると言う。もちろん、人気のない時間にごく短時間でとの制約もつく。それでもウリートは満足だ。今までだったら家から一歩も外に出してももらえなかったのだから。
王家所用の書籍は素早らしいに尽きた。保存状態も申し分なく、所有している書籍の種類も多岐に渡り、館内を回りながら背表紙を見て回るだけで日が暮れそうなほどの蔵書数だった。兵法ばかりでは無く、ウリートが学びを深めたいと持っていた分野の書物まで揃っているとあっては本を選ぶのにも目移りしてしまって目眩を覚えたほどである。
「ウリー、今日はここまでだ。」
いつの間に後ろにいたのだろう。アランドがふらつくウリートを背後から支えている。
「兄様?」
「さ、帰ろう。」
今来たばかりですけど?
帰宅を決めた兄の行動は早いのだ。側にいた司書を呼びウリートが引っ張り出してきた書物のリストを作らせ棚への返却を命じると、ウリートの腰を支える様にしてさっさと出口へとウリートを誘導する。
「兄様!今来たばかりです…!」
まだ中を確認していない書物もあったのに…!
「ああ、そうだな。」
「だからもう少し見たいのです。」
「ウリー焦る事はない。今日はここに書庫があると知るだけでも良かったんだ。ゆっくり通って徐々に滞在時間を伸ばしたらいい。」
不満げなウリートにアランドはこれでもかと言うほどの柔らかな笑顔を向けて優しく諭す。何しろ先日倒れたばかり…緊張と少しの無理が祟ったのだろうがわざわざ同じ轍を踏む事はないのだから。
「ここへ来たいのならば毎日通いなさい。来る時に一緒に来て、良い時間になったら迎えにこよう。」
どこまでもウリート中心のアランドの言動にウリートは余計な心配をしそうだ。
そんな事して仕事…大丈夫でしょうか?
アランドは決してウリートに関する事で不平不満を言わなかった。子供の頃には頻回に体調を崩すウリートに邸の者達の手をいつも煩わせていただろう。そしてウリートは心配する両親に付き添われる事も多かったのだ。その間子供であったアランドは寂しかったのではないだろうか?セージュが産まれてからはアランドが忙しい両親に変わりセージュの相手をしていたのをウリートも知っている。それでもこの兄は何も言わない。いつもいつも、回復して良かった、体を冷やさない様に、好き嫌いはだめだぞと何くれと無くウリートに関わってくれている。
有難いことだと思う。健康な身体はもらえなかったが素晴らしい家族、兄弟をもらったものだといつも思うのだ。
「兄様、ありがとう……」
「ふ…わかればよろしい。体調は?」
「はい、大丈夫です。」
「でも油断はしない事だ。いいね?」
アランドの落ち着いた声は子供の頃とは違う大人の男性のもの。つい最近知り合いになったばかりのヒュンダルンのものとは当然違う。ヒュンダルンの低い声も男らしくて素敵だとは思ったが、アランドの声は今までウリートに関わってきた年季分安心感が違う様だ。
「はい。ごめんなさい。」
「謝らなくて良いからちゃんと帰って休む事だ。」
「はい。」
初めて来た城の書庫、初めてばかりの沢山の本…成程少しばかりウリートは興奮気味でこれ以上は熱が出そうだった。
でも、楽しい……!
外に出れる事が、知らない事を知れるチャンスがまだ持てる、そして友達との約束も…楽しみすぎて、楽しくて、馬車の中で強制的に目を閉じなければ本格的に具合が悪くなりそうだった…
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