[完]腐違い貴婦人会に出席したら、今何故か騎士団長の妻をしてます…

小葉石

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8、兄の友人 1

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 周囲の雰囲気が一瞬で変わった様な気がした。今までは穏やかな中にフワフワ、キラキラと優しい華やかさが漂っていた様に感じたのに、その穏やかな雰囲気の中に誰が一石投じたのだろうか。それも赤く熱せられた熱い焼石を水面に投じたかのように一瞬で周囲を熱狂に引き摺り込む様な……

「きゃっ!」

「まっ!」

「あの方!」

 その者の姿を見つけたテーブルから令嬢達には似つかわしくない声が上がって行く。そして茶会会場が一気にざわつき始めた。

「こんな所に来られるなんて!」

「ま…今日来て良かったですわ!」  
 
「あぁ!こちらに来ないかしら!」  

「やはり、いつも一緒なのだわ!」

 ソワソワ、ザワザワと場が漣立つ…

「あらまぁ…これは…」

 ウリートの座る席まで一瞬でその変化は訪れる。和やかに今後の良き伴侶の選び方なる会話をしていた令嬢達がフッと視線を逸らした直後、レジーネ・エリッジは目を細めて満足そうに微笑んだ。

「まぁ…!」

「お珍しい…」

 他の令嬢もそれぞれ溜息をつく様に言葉をこぼす。大勢の人々が集まって一点を見つめる事の異様さたるや…ウリートには初めての経験だ。

「何か、ありましたか?」

 王城だから危険はないだろうけれども一体ご令嬢方は何を見つめているのかと、振り向き確かめようとした。  

「ごきげんよう、麗しいご令嬢方。」

 優しそうなリード・サラントのテノールの声が響く。そして茶会の席には似つかわしくない様な騎士服を着た紳士が2人ゆっくりとこちらに向かって歩いてきていた。

「ごきげんよう。ご無沙汰ですわね?ゴーリッシュ騎士団長殿、サラント副団長殿。」

 声をかけてきた者は金髪碧眼の、一見だけでは騎士ともましてや男性にさえも見えないくらいの美貌の持ち主で、リード・サラント副団長と言った。そのリード・サラントの前を歩く者は、赤茶の柔らかそうな髪と深い緑の研ぎ澄まされた様な瞳を持つ大柄で精悍な騎士でゴーリッシュ騎士団長と呼ばれた者だった。

 なるほど……

 ウリートはほぼアクロース侯爵家からは出ないのだ。だから世間一般で言うところの美男美女がどの様な者達なのかはわからない。けれども近づいてくる者達はウリートから見れば十分魅力的であった。
 それだから、きっとこちらに向かって来ているこの2人の騎士がこの騒ぎの原因なのだろうと思う。

 この会場にいるご令嬢方もお二方が素晴らしく好ましく見えるのかな?

 ウリートとレジーネ達がいるテーブルの前では2人の騎士が恭しく騎士の礼を取る。その一挙手一投足がどうやら令嬢達の心をくすぐる様で歓声には満たないざわめきがあちこちで起こるのだ。

「素晴らしい茶会の様ですね?エリッジ侯爵令嬢。」

 低いバリトンの声が心地よく響く。ゴーリッシュ騎士団長はレジーネと顔見知りの様である。

「ええ、本当にそうですわ!本日出席して良かったと思う者で今この会場は溢れておりましてよ?まるでおとぎ話から抜け出た様な美丈夫な方々を目の前にしてお茶を飲めるのですもの。」

 レジーネは満面の笑顔である。それに追随するかの如くにユーリ・ファームとスザンナ・イリットが肯いている。

「またその様なご冗談を。」

 ニッコリと満面の笑顔を湛えるリードを一目でも見たら、それが冗談ではないことがわかるだろう。光が溢れんばかりの笑顔とはきっと彼の笑顔のことを言うのだ。

「冗談ではなくってよ?ね?皆様?お二方に滅多にお会いになれないのも事実ですもの。今日はどうされましたの?」

「お邪魔でしたか?」

 やはり、低く響いてくる柔らかな声は心地いい。父や兄弟のものとも違う余裕のある男らしさを感じるものだ。

「その様なことはありませんわ。歓迎いたします!」

「それはありがたい。けれどまずご挨拶ささてもらっても宜しいでしょうか?」

 すっとなぜかゴーリッシュ騎士団長はウリートの前に進み出て来た。

「……!?」

 僕…?

 ビックリした…それが表情に出なかっただろうか?貴族としてこのくらいで動揺していては恥ずかしいだろうに…

「やはり、兄上に似ておられるな。」  

「え…兄?……」

「君は第3騎士団に所属するアランド・アクロースの弟君だろう?」

「兄様……兄上を知っておられるのですか?」

 ここは王城である。騎士として出仕している兄なのだからここにいる騎士達は兄の同僚で顔や名前を知っていたとしても少しもおかしくはないのだ。

「ああ、良き同僚として付き合いがある程度だが。私はヒュンダルン・ゴーリッシュと言う。第一騎士団団長を勤めている。弟君は少しアランドに目元が似ているな?」

「本当ですか?初めて言われました!あ!僕、いえ、私はウリート・アクロースです…!アランド兄上のすぐ下の弟になります!」

 今日初めて城に上がって兄の友人、知人に会うのだ。家族を知っている他人とこんな事を話すのがこんなにこそばゆいとは知らなかった。

 ちゃんと挨拶をしようと礼儀は身につけたつもりなのに、ほんの少しの事で動揺してしまって情けないのと恥ずかしいのとで顔が少し熱くなる…

「アランドには世話になっている。挨拶できて良かったよ。」

「本当に、私はリード・サラント。この騎士団長のすぐ下にいる副団長です。弟君、お見知り置きを…」

 













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