8 / 135
8、兄の友人 1
しおりを挟む
周囲の雰囲気が一瞬で変わった様な気がした。今までは穏やかな中にフワフワ、キラキラと優しい華やかさが漂っていた様に感じたのに、その穏やかな雰囲気の中に誰が一石投じたのだろうか。それも赤く熱せられた熱い焼石を水面に投じたかのように一瞬で周囲を熱狂に引き摺り込む様な……
「きゃっ!」
「まっ!」
「あの方!」
その者の姿を見つけたテーブルから令嬢達には似つかわしくない声が上がって行く。そして茶会会場が一気にざわつき始めた。
「こんな所に来られるなんて!」
「ま…今日来て良かったですわ!」
「あぁ!こちらに来ないかしら!」
「やはり、いつも一緒なのだわ!」
ソワソワ、ザワザワと場が漣立つ…
「あらまぁ…これは…」
ウリートの座る席まで一瞬でその変化は訪れる。和やかに今後の良き伴侶の選び方なる会話をしていた令嬢達がフッと視線を逸らした直後、レジーネ・エリッジは目を細めて満足そうに微笑んだ。
「まぁ…!」
「お珍しい…」
他の令嬢もそれぞれ溜息をつく様に言葉をこぼす。大勢の人々が集まって一点を見つめる事の異様さたるや…ウリートには初めての経験だ。
「何か、ありましたか?」
王城だから危険はないだろうけれども一体ご令嬢方は何を見つめているのかと、振り向き確かめようとした。
「ごきげんよう、麗しいご令嬢方。」
優しそうなリード・サラントのテノールの声が響く。そして茶会の席には似つかわしくない様な騎士服を着た紳士が2人ゆっくりとこちらに向かって歩いてきていた。
「ごきげんよう。ご無沙汰ですわね?ゴーリッシュ騎士団長殿、サラント副団長殿。」
声をかけてきた者は金髪碧眼の、一見だけでは騎士ともましてや男性にさえも見えないくらいの美貌の持ち主で、リード・サラント副団長と言った。そのリード・サラントの前を歩く者は、赤茶の柔らかそうな髪と深い緑の研ぎ澄まされた様な瞳を持つ大柄で精悍な騎士でゴーリッシュ騎士団長と呼ばれた者だった。
なるほど……
ウリートはほぼアクロース侯爵家からは出ないのだ。だから世間一般で言うところの美男美女がどの様な者達なのかはわからない。けれども近づいてくる者達はウリートから見れば十分魅力的であった。
それだから、きっとこちらに向かって来ているこの2人の騎士がこの騒ぎの原因なのだろうと思う。
この会場にいるご令嬢方もお二方が素晴らしく好ましく見えるのかな?
ウリートとレジーネ達がいるテーブルの前では2人の騎士が恭しく騎士の礼を取る。その一挙手一投足がどうやら令嬢達の心をくすぐる様で歓声には満たないざわめきがあちこちで起こるのだ。
「素晴らしい茶会の様ですね?エリッジ侯爵令嬢。」
低いバリトンの声が心地よく響く。ゴーリッシュ騎士団長はレジーネと顔見知りの様である。
「ええ、本当にそうですわ!本日出席して良かったと思う者で今この会場は溢れておりましてよ?まるでおとぎ話から抜け出た様な美丈夫な方々を目の前にしてお茶を飲めるのですもの。」
レジーネは満面の笑顔である。それに追随するかの如くにユーリ・ファームとスザンナ・イリットが肯いている。
「またその様なご冗談を。」
ニッコリと満面の笑顔を湛えるリードを一目でも見たら、それが冗談ではないことがわかるだろう。光が溢れんばかりの笑顔とはきっと彼の笑顔のことを言うのだ。
「冗談ではなくってよ?ね?皆様?お二方に滅多にお会いになれないのも事実ですもの。今日はどうされましたの?」
「お邪魔でしたか?」
やはり、低く響いてくる柔らかな声は心地いい。父や兄弟のものとも違う余裕のある男らしさを感じるものだ。
「その様なことはありませんわ。歓迎いたします!」
「それはありがたい。けれどまずご挨拶ささてもらっても宜しいでしょうか?」
すっとなぜかゴーリッシュ騎士団長はウリートの前に進み出て来た。
「……!?」
僕…?
ビックリした…それが表情に出なかっただろうか?貴族としてこのくらいで動揺していては恥ずかしいだろうに…
「やはり、兄上に似ておられるな。」
「え…兄?……」
「君は第3騎士団に所属するアランド・アクロースの弟君だろう?」
「兄様……兄上を知っておられるのですか?」
ここは王城である。騎士として出仕している兄なのだからここにいる騎士達は兄の同僚で顔や名前を知っていたとしても少しもおかしくはないのだ。
「ああ、良き同僚として付き合いがある程度だが。私はヒュンダルン・ゴーリッシュと言う。第一騎士団団長を勤めている。弟君は少しアランドに目元が似ているな?」
「本当ですか?初めて言われました!あ!僕、いえ、私はウリート・アクロースです…!アランド兄上のすぐ下の弟になります!」
今日初めて城に上がって兄の友人、知人に会うのだ。家族を知っている他人とこんな事を話すのがこんなにこそばゆいとは知らなかった。
ちゃんと挨拶をしようと礼儀は身につけたつもりなのに、ほんの少しの事で動揺してしまって情けないのと恥ずかしいのとで顔が少し熱くなる…
「アランドには世話になっている。挨拶できて良かったよ。」
「本当に、私はリード・サラント。この騎士団長のすぐ下にいる副団長です。弟君、お見知り置きを…」
「きゃっ!」
「まっ!」
「あの方!」
その者の姿を見つけたテーブルから令嬢達には似つかわしくない声が上がって行く。そして茶会会場が一気にざわつき始めた。
「こんな所に来られるなんて!」
「ま…今日来て良かったですわ!」
「あぁ!こちらに来ないかしら!」
「やはり、いつも一緒なのだわ!」
ソワソワ、ザワザワと場が漣立つ…
「あらまぁ…これは…」
ウリートの座る席まで一瞬でその変化は訪れる。和やかに今後の良き伴侶の選び方なる会話をしていた令嬢達がフッと視線を逸らした直後、レジーネ・エリッジは目を細めて満足そうに微笑んだ。
「まぁ…!」
「お珍しい…」
他の令嬢もそれぞれ溜息をつく様に言葉をこぼす。大勢の人々が集まって一点を見つめる事の異様さたるや…ウリートには初めての経験だ。
「何か、ありましたか?」
王城だから危険はないだろうけれども一体ご令嬢方は何を見つめているのかと、振り向き確かめようとした。
「ごきげんよう、麗しいご令嬢方。」
優しそうなリード・サラントのテノールの声が響く。そして茶会の席には似つかわしくない様な騎士服を着た紳士が2人ゆっくりとこちらに向かって歩いてきていた。
「ごきげんよう。ご無沙汰ですわね?ゴーリッシュ騎士団長殿、サラント副団長殿。」
声をかけてきた者は金髪碧眼の、一見だけでは騎士ともましてや男性にさえも見えないくらいの美貌の持ち主で、リード・サラント副団長と言った。そのリード・サラントの前を歩く者は、赤茶の柔らかそうな髪と深い緑の研ぎ澄まされた様な瞳を持つ大柄で精悍な騎士でゴーリッシュ騎士団長と呼ばれた者だった。
なるほど……
ウリートはほぼアクロース侯爵家からは出ないのだ。だから世間一般で言うところの美男美女がどの様な者達なのかはわからない。けれども近づいてくる者達はウリートから見れば十分魅力的であった。
それだから、きっとこちらに向かって来ているこの2人の騎士がこの騒ぎの原因なのだろうと思う。
この会場にいるご令嬢方もお二方が素晴らしく好ましく見えるのかな?
ウリートとレジーネ達がいるテーブルの前では2人の騎士が恭しく騎士の礼を取る。その一挙手一投足がどうやら令嬢達の心をくすぐる様で歓声には満たないざわめきがあちこちで起こるのだ。
「素晴らしい茶会の様ですね?エリッジ侯爵令嬢。」
低いバリトンの声が心地よく響く。ゴーリッシュ騎士団長はレジーネと顔見知りの様である。
「ええ、本当にそうですわ!本日出席して良かったと思う者で今この会場は溢れておりましてよ?まるでおとぎ話から抜け出た様な美丈夫な方々を目の前にしてお茶を飲めるのですもの。」
レジーネは満面の笑顔である。それに追随するかの如くにユーリ・ファームとスザンナ・イリットが肯いている。
「またその様なご冗談を。」
ニッコリと満面の笑顔を湛えるリードを一目でも見たら、それが冗談ではないことがわかるだろう。光が溢れんばかりの笑顔とはきっと彼の笑顔のことを言うのだ。
「冗談ではなくってよ?ね?皆様?お二方に滅多にお会いになれないのも事実ですもの。今日はどうされましたの?」
「お邪魔でしたか?」
やはり、低く響いてくる柔らかな声は心地いい。父や兄弟のものとも違う余裕のある男らしさを感じるものだ。
「その様なことはありませんわ。歓迎いたします!」
「それはありがたい。けれどまずご挨拶ささてもらっても宜しいでしょうか?」
すっとなぜかゴーリッシュ騎士団長はウリートの前に進み出て来た。
「……!?」
僕…?
ビックリした…それが表情に出なかっただろうか?貴族としてこのくらいで動揺していては恥ずかしいだろうに…
「やはり、兄上に似ておられるな。」
「え…兄?……」
「君は第3騎士団に所属するアランド・アクロースの弟君だろう?」
「兄様……兄上を知っておられるのですか?」
ここは王城である。騎士として出仕している兄なのだからここにいる騎士達は兄の同僚で顔や名前を知っていたとしても少しもおかしくはないのだ。
「ああ、良き同僚として付き合いがある程度だが。私はヒュンダルン・ゴーリッシュと言う。第一騎士団団長を勤めている。弟君は少しアランドに目元が似ているな?」
「本当ですか?初めて言われました!あ!僕、いえ、私はウリート・アクロースです…!アランド兄上のすぐ下の弟になります!」
今日初めて城に上がって兄の友人、知人に会うのだ。家族を知っている他人とこんな事を話すのがこんなにこそばゆいとは知らなかった。
ちゃんと挨拶をしようと礼儀は身につけたつもりなのに、ほんの少しの事で動揺してしまって情けないのと恥ずかしいのとで顔が少し熱くなる…
「アランドには世話になっている。挨拶できて良かったよ。」
「本当に、私はリード・サラント。この騎士団長のすぐ下にいる副団長です。弟君、お見知り置きを…」
1,965
お気に入りに追加
2,559
あなたにおすすめの小説
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。
【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。
N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間
ファンタジーしてます。
攻めが出てくるのは中盤から。
結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。
表紙絵
⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101)
挿絵『0 琥』
⇨からさね 様 X (@karasane03)
挿絵『34 森』
⇨くすなし 様 X(@cuth_masi)
◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
【完結】売れ残りのΩですが隠していた××をαの上司に見られてから妙に優しくされててつらい。
天城
BL
ディランは売れ残りのΩだ。貴族のΩは十代には嫁入り先が決まるが、儚さの欠片もない逞しい身体のせいか完全に婚期を逃していた。
しかもディランの身体には秘密がある。陥没乳首なのである。恥ずかしくて大浴場にもいけないディランは、結婚は諦めていた。
しかしαの上司である騎士団長のエリオットに事故で陥没乳首を見られてから、彼はとても優しく接してくれる。始めは気まずかったものの、穏やかで壮年の色気たっぷりのエリオットの声を聞いていると、落ち着かないようなむずがゆいような、不思議な感じがするのだった。
【攻】騎士団長のα・巨体でマッチョの美形(黒髪黒目の40代)×【受】売れ残りΩ副団長・細マッチョ(陥没乳首の30代・銀髪紫目・無自覚美形)色事に慣れない陥没乳首Ωを、あの手この手で囲い込み、執拗な乳首フェラで籠絡させる独占欲つよつよαによる捕獲作戦。全3話+番外2話
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
不憫王子に転生したら、獣人王太子の番になりました
織緒こん
BL
日本の大学生だった前世の記憶を持つクラフトクリフは異世界の王子に転生したものの、母親の身分が低く、同母の姉と共に継母である王妃に虐げられていた。そんなある日、父王が獣人族の国へ戦争を仕掛け、あっという間に負けてしまう。戦勝国の代表として乗り込んできたのは、なんと獅子獣人の王太子のリカルデロ! 彼は臣下にクラフトクリフを戦利品として側妃にしたらどうかとすすめられるが、王子があまりに痩せて見すぼらしいせいか、きっぱり「いらない」と断る。それでもクラフトクリフの処遇を決めかねた臣下たちは、彼をリカルデロの後宮に入れた。そこで、しばらく世話をされたクラフトクリフはやがて健康を取り戻し、再び、リカルデロと会う。すると、何故か、リカルデロは突然、クラフトクリフを溺愛し始めた。リカルデロの態度に心当たりのないクラフトクリフは情熱的な彼に戸惑うばかりで――!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる