[完]腐違い貴婦人会に出席したら、今何故か騎士団長の妻をしてます…

小葉石

文字の大きさ
上 下
3 / 135

3、そこはフワフワの花畑の様でした 1

しおりを挟む
「さ、こちらにいらして…」

 数日後、整えた身だしなみに新調した衣装でめかしこんでエリザ叔母に連れられてきたところは何と王城だ……

「叔母様……」

「あら嫌だわウリート…ここではエリザと呼んでくれなくては…私、これでも未亡人なのよ?」

 そう、エリザ叔母は数年前大恋愛結婚をした夫君を亡くしてしまっている。残念な事に子供には恵まれなかった夫婦だったが、その分ウリート達兄弟を自分の子供の様にも可愛がってくれたものだった。

 兄弟……そう言えばここに来るまでに、準備をしているのか兄弟を説得しているのか…一瞬どちらが目的だったのかと思わされるほど兄弟の干渉を受けてきたっけ……


「疲れたならすぐに帰ってきなさい!」

「いえ、座って話をするだけと聞きました。」

 兄、アランドはウリートが立っていると直ぐに手を引いて椅子に座らせ側に控えているものに温かい飲み物を持ってくる様に言いつけてはエリザ叔母と行こうとしている婦人会について上記の会話を繰り返す。
 弟のセージュときたら座ったウリートの足元に跪いて掛け物をかけながら、

「やっぱり俺もついていこう。」

と言い出すものだから、侍女のマリエッテはその都度淑女の集まりですよ、と嗜めるまで一向に自分の意見を取り下げなかったっけ………


「ウリート?」

「…はっ…!」

 いけない…すっかり兄弟を説き伏せるのが大変で思わず記憶の中の疲労感を再現してしまってた……

「どうかなさったの?」

 心配そうなエリザ叔母。

「すみません。少し、緊張しております。」

「まぁ…初めての所ですものね?初心な反応は返ってお可愛らしくてよ?大丈夫!今日のあなたはとても素敵ですから。安心なさって胸を張りましょうね?」

 母に比べると生き生きとした快活なエリザ叔母だが、根元のところでは母と同じ様に温かく優しいのだ。

 緊張が和らいでいく…

「ありがとうございます。エリザ。」

 お礼を言いつつ、紳士としてエリザ叔母をエスコートする。

「そうよ。お上手だわ。」

 ちょっとした事をしても褒めてくれる家族達。これはウリートが生死の境を何度も超えてやっと命を繋いできた様な危機から少し脱してきたから、家族一同それを喜んで何でも認めて何でも褒めてくれる。ウリートも誉められれば嬉しくなって更には家族達のために役に立とうとここに来る決心もついた。

 ニコニコと見つめあって微笑みあって、周囲から見たらどんな二人に見えるのか…しばらくホンワリとした雰囲気が二人の周囲を暖かくしていた。

「まあ!エリザ!!お久しぶりだわ!」

 そこに聞こえてきたのは華やかなソプラノの声だ。

「まあ、やはり来ていたのね!メリール!」

 旧知の仲なのだろう。二人は名前で呼び合って近づいてハグをする。

「うふふ。エリザがこられると聞いて領地から急いで帰ってきましたのよ?」

「あら、まあ!それはそれは急がせてしまったかしら?ゆっくり出来て?」

「ええ、勿論!向こうは何も変わりなくて……あら?そちらは?」

 花の様な婦人が二人そろえば何と賑やかになるのだろう…今まで家庭内でしか淑女たる女性と関わってこなかったウリートには挨拶するタイミングすら掴めないでいる。

「ふふふ…紹介しなくてはならないわね?こちらは、私の可愛い甥っ子になるの。名はウリート。アクロース侯爵家の次男になるわ。」

「まあ!あなたが…?アクロース侯爵家に関しては今はもう幻の様な噂が立っていてよ?こんなに素敵なご子息がおいでだったとは…ご長男のアランド様には何度かご挨拶だけしたことがありますけれど、少し面影が似てらっしゃるわ。」

「ええ、そうでしょう?私のお姉様の自慢の子ですもの。見目麗しくて鼻が高いですわ。」

「本当に羨ましいわ!さ、皆様にもご紹介しましょう?きっと気に入っていただけるわ!」

 ウリートはペコリと頭を下げて挨拶しただけである。本来ならばしっかりと自分で名乗りを上げるべき所、婦人達の勢いにすっかりと飲まれてしまった様だ。

「まあ、アクロース家の?」

「幻と言われていますわよね?」
 
「あんなに素敵な方なのね?」

 何故か周囲が騒がしいのはきっと女性達特有でおしゃべり好きだからだろう。

「ご紹介いたしますわ。」

 エリザ叔母からメリールと呼ばれていた淑女はエリザと同じく未亡人という。エリザよりも歳は若いが同じ境遇から仲良くなったのだとか。メリール未亡人は非常に顔が広くこの貴婦人会に来ている参加者のテーブルを次々回ってウリートを紹介していく。各テーブルでは反応はそれぞれだが、なぜか皆ソワソワと話し出すところは同じであった。

 今日の集まりは貴婦人会の茶会だ。要は集まってお茶を飲みながらおしゃべりしましょうと言うものらしい。皆年齢も様々、父や主人の職種まではわからないが年齢に関係なく好き好きに発言して会話が活発に花開いている、そんな印象を受ける。女性達の声の華やかさもさることながら、色とりどりのドレスに揺れるレースにリボン、帽子には複雑な飾りや花々が咲き乱れていてまるで座っている貴婦人達その者が花束の様にも見えてくる。




しおりを挟む
感想 95

あなたにおすすめの小説

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】売れ残りのΩですが隠していた××をαの上司に見られてから妙に優しくされててつらい。

天城
BL
ディランは売れ残りのΩだ。貴族のΩは十代には嫁入り先が決まるが、儚さの欠片もない逞しい身体のせいか完全に婚期を逃していた。 しかもディランの身体には秘密がある。陥没乳首なのである。恥ずかしくて大浴場にもいけないディランは、結婚は諦めていた。 しかしαの上司である騎士団長のエリオットに事故で陥没乳首を見られてから、彼はとても優しく接してくれる。始めは気まずかったものの、穏やかで壮年の色気たっぷりのエリオットの声を聞いていると、落ち着かないようなむずがゆいような、不思議な感じがするのだった。 【攻】騎士団長のα・巨体でマッチョの美形(黒髪黒目の40代)×【受】売れ残りΩ副団長・細マッチョ(陥没乳首の30代・銀髪紫目・無自覚美形)色事に慣れない陥没乳首Ωを、あの手この手で囲い込み、執拗な乳首フェラで籠絡させる独占欲つよつよαによる捕獲作戦。全3話+番外2話

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

処理中です...