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9 王子の過去 1

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 第三王子スイリーは第一王子ヨシャンテがレディを引き連れて秘湯巡りに行ったのを聞いて、と自分も風呂に入りたいと申し出たそうで……
 
 癇癪の理由を聞いたコークス卿の無表情なこと……余りにも第三王子スイリーがブス~ッとした顔をしているので、覚悟を決めたらしいコークス卿が、第三王子スイリーの首根っこを掴んでエシュルーン侯爵邸の大浴場に消えて行った…そうだ…………

「いや、王子の所望はあなたではないのではないか?」

 と、誰もが思っただろうに、誰もそれには対しては口を開かなかった。






「ほほほ……まぁ、そんな事が?」

 朗らかに談笑するような内容を語ったわけではないのだが、今は湯巡りから帰宅された第一王子ヨシャンテのレディ達をお相手に食後のお茶を嗜み中で……第一王子ヨシャンテが第三王子スイリーの件でコークス卿に呼び出された為、時間潰しにシャラーシャがお茶のお相手をしているのだ。

「大変でしたわね?ご令嬢も…」

 なぜか皆さん同情的な温かい目で見てくださってて、今は亡き母を思い出す……

「改めまして、私はエシュルーン侯爵が娘のシャラーシャと申します。」

 一通りお喋りをした後で自己紹介も未だにしていない事に気がつくシャラーシャだ。

「ご丁寧にありがとうございます。私はキャシューズ・コナーよ。」

「私はステラ・ドナウターよ。」

「私はエイミー・ステファンよ、よろしくね。シャラーシャ嬢。」

 ここにいるレディ達は全て侯爵家以上の御家柄の未亡人達ばかり。ステラに至っては王族の血筋の方だ。

 このご令嬢方は先代の蝶侯爵の代からの事に詳しく今の王家についてもかなりの有識者だ。

「あの子達は寂しい子供だったのよ……」

 遠いあの日を思い出してか、懐かしそうに話し出すレディ達。因みにレディ達が語る第一王子から第三王子までの母君はみんな違うのだ。

 第一王子ヨシャンテが幼かった頃、王妃であった母君は体調を崩されていた。側妃(第二王子ダイルの母)がいたのだが、懐妊中で幼い王子まで手が回らず、乳母たちだけでの世話となってしまっては、王太子と成り得るヨシャンテ王子があまりにも不憫と、その当時まだ健在であった皇后と、その姉君の元へと預けられることとなった。
 母の愛情に夜も眠れなくなるほど飢えていたヨシャンテ王子は、祖母に会えた事で大喜びし、更にもう一人優しい祖母がいる事で更に甘やかされて幼少期を過ごしたという。幼い飢えた愛情を満たしてくれたのは熟年の祖母と、皇后達と同じ位の歳の優しい女官達だった。ヨシャンテ王子は自分を理解し、認めて受け入れてくれるのは彼女達のような者しかいない、そう思い込んでいるところがあると言う……

 第二王子ダイルの母は傭兵上がりという非常に稀な経歴の持ち主だった。騎士達よりも群を抜いて戦闘力に長けた彼女を国王陛下が気に入ったのだとかで異例の側妃となった。生まれの身分が低い為に他者に見下されない様にと、側妃は王子を産んでから徹底的に自らの手で鍛え上げたそうな。母君の身分が低い事が原因で将来追放されたとしても、傭兵として何処ぞででも生きていけるようにと。これも母の愛なのだろうが、今は見事に裏目に出てしまっているようなのだ…

 第三王子スイリーは末っ子という事で国王陛下には可愛がられたそう。しかし、母君の関心が子供や国王のことではなくて、装飾やら調度やらに向いており、王子にはほぼ無関心だったそう。子供ならば自分の事を少しでも構ってくれる父王に懐こうとするのは当然の事だった。決定的に父王オンリーになったのは幼い王子が乗馬の練習を始めた頃だろうか。その頃は兄王子達はもう上手に馬を乗りこなせており、何をするにも置いてきぼりになっていた第三王子スイリーは幼い子供の対抗心で向きになって無理やり馬を走らせようとしたらしい。
その日は丁度公務の合間を縫って国王が三人の王子達の様子を見に馬場に来ていたようだ。
 子供の浅慮で事を行えば、時にそれが大事となる……第三王子スイリーが無理やり走らせた馬は制御を失い、馬場を駆け抜け柵を飛び越え暴走した。場が騒然となり誰もがスイリー王子が無事では済まないと覚悟した時に、まだ若くあった国王が咄嗟にこの暴れ馬に飛び乗った。暴れ馬は国王によって制御され、その腕にはスイリー王子が抱き締められていたという。
 最愛の父に助けられたその安心感たるやいかばかりだったろうか?それから第三王子スイリーはなお一層父王を追い求めるようになったと言う………

「どの王子方も根はみんな良いお方達ばかりよ?」

 まるで孫か親戚の子供達のことを嬉しそうに語るご婦人方のように第一王子ヨシャンテのレディ達はホクホクと語ってくださった。

「なるほど…どなたも大変な幼少期をお過ごしになられたようですのね?」

 そのどなたとも、まだまともに会話さえしたことがないシャラーシャである。ただ周りからの評価だけを鵜呑みにはできないが、自分はどうすべきなのか少しだけ、迷う。



















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