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26 ナターシャ
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「こちらに……いらしてもらえて、とても嬉しいですわ。エンギュート侯爵夫人。」
「…先程、街で男の子に言われたのです。エンギュート侯爵家が嫌いだと。」
「……まぁ…そんな事を…逆ですわ。私達はエンギュート侯爵家に感謝しなければいけません。」
「我が家にですか?」
「その通りです。現エンギュート公爵には感謝してもしきれるものではありませんわ。」
簡素な礼拝堂のその奥に小さな台所があった。堅そうな木の椅子を勧められて着座した所に素焼きのコップに暖かいお茶をサーメは注いでシャーリンに勧めた。
「どこから…お話したものか。ずっと悩んでいましたわ。」
「私に、ついてでしょうか?」
「ええ。シャーリン様の事は良く聞いておりましたから。」
「…あの、どなたにでしょうか?」
「…………後ほど会って頂いた方が早いと思うのです。あの方もそれをお望みでしょうし。」
サーメの笑顔は穏やかで何かを隠していたり、謀っていたりそんなものからは超越したような清らかさを感じる。神に仕える仕事をしているからか、何かあるのではと構えてしまうシャーリン自身の方が恥ずかしくもなる。
どなたに、会わせようとしているんだろう?
「ここにいる子供達はエンギュート家の子供達のようなものですわ……」
「え…?」
エンギュート家の!?まさか!?まさか!
「お父…様の……?」
そんなあの優しいお母様とはどう見ても愛し愛されて一緒にいるようにしか見えないのに………
「あ、いいえ!そう言う意味ではないのです!違います!侯爵様の御落胤ではありませんよ?誓って!!」
びっくりしたわ……急に兄弟がボロボロと名乗りを上げるのかと………
「ある意味、子供みたいなものだ、と言いたかったのです。言葉が足りずにすみません……」
サーメはひどく恐縮してしまった様だけれど、先を促してどういう意味か聞き出すことにする。
「寄付ですわ…それも子供達を丸々育てあげられるほどの多額の御寄付をしてくださっているんです。」
「…お父様が?」
「ええ。勿論、御子息のアランド様のお名前もございましたよ。」
そう言うとサーメは台所横にある、小さな小部屋だか荷物置き場の様な所から綺麗にしまわれたファイルを持ってくる。
「こちらです。」
「拝見しても?」
「勿論です。」
サーメは爽やかだ。笑顔も声も。子供が居た、と言うなんともセンセーショナルな話題をしていたなんて、ポンッと忘れてしまえる位に爽やかで明るい笑顔だった。
「これは….」
本当に寄付に関する書類…遡ると一年前から…………
「ここには10人の子供達が居ますの。皆んな親がおりません。」
サーメは静かに語り出す。
「海がここから見えますでしょう?この港町は漁業や造船業が盛んで…漁から帰ってきた船が上がってきたときなんかは物凄く賑やかになります。」
「漁は良い収入源で漁師になりたいという者も後を断ちません。そして、無理をして親が亡くなってしまう子供達が出来てしまうんです。」
まぁ、ではここの子供達は最初から親が誰か分からなかった訳ではないのね?
「親御さんを…亡くす事は辛いでしょうね…?」
「ええ……とてつもなく……だからその痛みを知っている者が側にいる事がどれだけあの子達の救いになっているのか、思い知らされている所ですわ。」
「……」
「あの子達が、エンギュート気を嫌っているのは理由があるのです。」
「お聞きしても?」
「はい。先程、私はエンギュート家に助けられたと言いましたね?」
ええ……サーメに促され、台所の更に奥にある階段を上りながら話し続ける。
「沢山援助を頂きました。お金も物も…けれど………お迎えがありませんでした…」
「迎え……ですか?」
誰に対する?この地には血縁演者は居ないはず……
「どなたかを養子に、と希望していたのでしょうか?」
「いいえ…迎えに、来て頂けなかったのはここにいる方ですわ。」
サーメが案内してくれたのは階段を登り切った先の奥にある部屋。いくつもある部屋はどれも同じ木のドアで、装飾もなく至って簡素……
そのドアをトントンと軽くノックしながらサーメは続けた。
「ご本人はこれで良いと何度も子供達に言ったのですけどね?でも、皆んな納得してくれなくて…エンギュート家に捨てられたと思い込んでしまって一時期手がつけられない子も居たくらいなんです。」
大きな子供達はもうそろそろ働けるくらいだと言う。ここに残っているのは幼い子ばかりだけど、大人に反発する様な年頃の子供達には納得なんてできなかったと言う事みたいだった………
ノック後に部屋の中から声がした。
「どうぞ。」
と…………
「…先程、街で男の子に言われたのです。エンギュート侯爵家が嫌いだと。」
「……まぁ…そんな事を…逆ですわ。私達はエンギュート侯爵家に感謝しなければいけません。」
「我が家にですか?」
「その通りです。現エンギュート公爵には感謝してもしきれるものではありませんわ。」
簡素な礼拝堂のその奥に小さな台所があった。堅そうな木の椅子を勧められて着座した所に素焼きのコップに暖かいお茶をサーメは注いでシャーリンに勧めた。
「どこから…お話したものか。ずっと悩んでいましたわ。」
「私に、ついてでしょうか?」
「ええ。シャーリン様の事は良く聞いておりましたから。」
「…あの、どなたにでしょうか?」
「…………後ほど会って頂いた方が早いと思うのです。あの方もそれをお望みでしょうし。」
サーメの笑顔は穏やかで何かを隠していたり、謀っていたりそんなものからは超越したような清らかさを感じる。神に仕える仕事をしているからか、何かあるのではと構えてしまうシャーリン自身の方が恥ずかしくもなる。
どなたに、会わせようとしているんだろう?
「ここにいる子供達はエンギュート家の子供達のようなものですわ……」
「え…?」
エンギュート家の!?まさか!?まさか!
「お父…様の……?」
そんなあの優しいお母様とはどう見ても愛し愛されて一緒にいるようにしか見えないのに………
「あ、いいえ!そう言う意味ではないのです!違います!侯爵様の御落胤ではありませんよ?誓って!!」
びっくりしたわ……急に兄弟がボロボロと名乗りを上げるのかと………
「ある意味、子供みたいなものだ、と言いたかったのです。言葉が足りずにすみません……」
サーメはひどく恐縮してしまった様だけれど、先を促してどういう意味か聞き出すことにする。
「寄付ですわ…それも子供達を丸々育てあげられるほどの多額の御寄付をしてくださっているんです。」
「…お父様が?」
「ええ。勿論、御子息のアランド様のお名前もございましたよ。」
そう言うとサーメは台所横にある、小さな小部屋だか荷物置き場の様な所から綺麗にしまわれたファイルを持ってくる。
「こちらです。」
「拝見しても?」
「勿論です。」
サーメは爽やかだ。笑顔も声も。子供が居た、と言うなんともセンセーショナルな話題をしていたなんて、ポンッと忘れてしまえる位に爽やかで明るい笑顔だった。
「これは….」
本当に寄付に関する書類…遡ると一年前から…………
「ここには10人の子供達が居ますの。皆んな親がおりません。」
サーメは静かに語り出す。
「海がここから見えますでしょう?この港町は漁業や造船業が盛んで…漁から帰ってきた船が上がってきたときなんかは物凄く賑やかになります。」
「漁は良い収入源で漁師になりたいという者も後を断ちません。そして、無理をして親が亡くなってしまう子供達が出来てしまうんです。」
まぁ、ではここの子供達は最初から親が誰か分からなかった訳ではないのね?
「親御さんを…亡くす事は辛いでしょうね…?」
「ええ……とてつもなく……だからその痛みを知っている者が側にいる事がどれだけあの子達の救いになっているのか、思い知らされている所ですわ。」
「……」
「あの子達が、エンギュート気を嫌っているのは理由があるのです。」
「お聞きしても?」
「はい。先程、私はエンギュート家に助けられたと言いましたね?」
ええ……サーメに促され、台所の更に奥にある階段を上りながら話し続ける。
「沢山援助を頂きました。お金も物も…けれど………お迎えがありませんでした…」
「迎え……ですか?」
誰に対する?この地には血縁演者は居ないはず……
「どなたかを養子に、と希望していたのでしょうか?」
「いいえ…迎えに、来て頂けなかったのはここにいる方ですわ。」
サーメが案内してくれたのは階段を登り切った先の奥にある部屋。いくつもある部屋はどれも同じ木のドアで、装飾もなく至って簡素……
そのドアをトントンと軽くノックしながらサーメは続けた。
「ご本人はこれで良いと何度も子供達に言ったのですけどね?でも、皆んな納得してくれなくて…エンギュート家に捨てられたと思い込んでしまって一時期手がつけられない子も居たくらいなんです。」
大きな子供達はもうそろそろ働けるくらいだと言う。ここに残っているのは幼い子ばかりだけど、大人に反発する様な年頃の子供達には納得なんてできなかったと言う事みたいだった………
ノック後に部屋の中から声がした。
「どうぞ。」
と…………
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