上 下
23 / 27

24 なんだか様子が変です

しおりを挟む
「もうノスタール領へ入りますね。」

 途中休憩にと、町々に寄っては後どれ位かと道を尋ねる。ノスタール領の村や町は長閑だがとても豊かそうに見えた。王都にいると路地に入れば職に付けない家のない者達も見受けられて、治安の悪さや職業の乏しさなどが度々議会の話題に上がるとアランドから聞いた事がある。しかし、ノスタールではそんな雰囲気なんて見受けられない。ゆっくりと時間が過ぎてのんびりとしていて、困窮に喘ぐ人々の顔は見えない。穏やかな笑顔が印象的だった。
 ここからさらに村をいくつか抜けて行くと海に面したトワールへと着くはずだ。

「後、数時間でございましょうか?」

 アンナも長旅に疲れただろうに、こちらに向かっていくと聞いた時の当初の様な不安そうな表情は無くて見慣れない景色を満更では無く楽しんでいる様で安心した。

「……そうね………」

 ちゃんと待っていてね…ナターシャ………

 馬車はいよいよ人々の賑わいのある街に差し掛かる。整えられたレンガの路に明るい色の屋根が眼前に広がってきた青い海を背景に鮮やかに映えていてとても印象的な街並みだった。

 コツンッ………コトコトコトコト……コツン…

 ん?気の所為で無く何か馬車に当たっている音がする?

「?」

 コツン….コツ………

「アンナ…何か馬車に当たっていない?」

「何でしょう?小さい物のようですが…?」

 気の所為かとも思ったのだが、アンナの耳にも入ったらしい。

…………でてけー……………

 子供の声?出てけ?

「アンナ、出てけって?聞こえてる?」

「はい。その様に……私達が誰だか分かっているのでしょうか?」

 今日乗っている馬車は、侯爵家の馬車である。しっかりとどの家の者か分かるように家紋が入っている馬車を使用しているのだから。

「では、あの出てけ、は私達のことで良いのよね?」

 未だにコツコツと何かが馬車に当たる音がする。小石…?

 こんな事が騎士隊に見つかれば子供達はただでは済まされないだろうに……!王都ではこんな事起こりもしなかった………

「何が?私達に何か恨み言でも……?」

 全く身に覚えがないのだが………

…………かえれーー!…………

「若奥様……」

「なぁに?アンナ……」

「帰れ、と聞こえますね…?」

「ええ、そうね?」

 なんだか少し不穏なものを感じてしまってそっと窓の外を除けば、何やらこちらに向かって叫んでいる子供達を、側にいた親が抱えこんで止めている様だった…

「我がエンギュート家はノスタール家と敵同士だった?」

「いいえ……ついぞ聞いた事がございません…」

 そうなのよねぇ….?シャーリンの日記にも敵対しているなんて書かれていなかったし、同じく国内よ?エンギュート家が密かに嫌われていたのなら、わざわざノスタール領に招待はされないだろうし…?王族ではないのだから皆んなで歓迎しろとは言わないが、石を投げられる様な覚えは全くないのだが……

 幸いにも石を投げているのは子供達で、大人達は必死になって子供を止めにかかっており、まだ良識はある様だ。

「どうしたのでしょうか…これは…?」

 馬車はこれからズンズン街中を走る事になる。このまま中央部でもこの状態が続くのか?もっとひどくなったら?まさかとは思うが暴動?

「若奥様!!」

 その時御者から声がかかった。どうやら行く手の道中央に、子供が一人立ち塞がっていると言う。保護者は側にはおらず、周りの大人の静止の声もまるで聞かないと言う。

「止めてくださる?」

「若奥様!?」

 何をなさるおつもりです?アンナが不安げに見つめて来る。ゆっくりと馬車が止まった…

「仕方ないわ。その子が退いてくれなければ通れないのでしょう?」

「私が今から事情を聞いて来るから…」

「なりません!私が行って参ります!」

 侯爵夫人自らこんな田舎町で市民の相手をする必要は本来ならばないからだ。

「だって、我が家の家紋と知って手を出して来るのでしょう?帰れとまで叫んで。」

「いけません!アランド様が知ったらどれだけ悲しまれるか…!」

 うん。分かるわアンナ。

「けど、このまま誤解が解けないままでは何にもならないでしょう?彼らはわたしが誰だか分かってやっているのよ?だから、私が行かなきゃ…」

「シャーリン様!!」

「……アンナ…?」

 久しぶりにアンナが私を名前で呼んだわね?気がつけばアンナの手が私の手を掴んでいる。

「お話をするだけよ?一緒に来る?」

「はい!もちろんです!」

 御者がドアを開けると、アンナがまず先に出る。安全を確かめたのならば次は私だ。エンギュート邸からも護衛騎士を数名つけてはもらっているが、エンギュート家の騎士達はこちらに危険が差し迫らなければ市民に手出しはしない。主人から離れない様にまた、邪魔にならない距離を保って護衛してくれている。本日も背後に護衛の気配を確認しながらアンナと共にゆっくりと馬車の前に立ちはばかる子供の方へ歩いて行った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる

佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます 「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」 なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。 彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。 私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。 それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。 そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。 ただ。 婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。 切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。 彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。 「どうか、私と結婚してください」 「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」 私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。 彼のことはよく知っている。 彼もまた、私のことをよく知っている。 でも彼は『それ』が私だとは知らない。 まったくの別人に見えているはずなのだから。 なのに、何故私にプロポーズを? しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。 どういうこと? ============ 番外編は思いついたら追加していく予定です。 <レジーナ公式サイト番外編> 「番外編 相変わらずな日常」 レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。 いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。   ※転載・複写はお断りいたします。

冷酷な王の過剰な純愛

魚谷
恋愛
ハイメイン王国の若き王、ジクムントを想いつつも、 離れた場所で生活をしている貴族の令嬢・マリア。 マリアはかつてジクムントの王子時代に仕えていたのだった。 そこへ王都から使者がやってくる。 使者はマリアに、再びジクムントの傍に仕えて欲しいと告げる。 王であるジクムントの心を癒やすことができるのはマリアしかいないのだと。 マリアは周囲からの薦めもあって、王都へ旅立つ。 ・エブリスタでも掲載中です ・18禁シーンについては「※」をつけます ・作家になろう、エブリスタで連載しております

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

処理中です...