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24 なんだか様子が変です
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「もうノスタール領へ入りますね。」
途中休憩にと、町々に寄っては後どれ位かと道を尋ねる。ノスタール領の村や町は長閑だがとても豊かそうに見えた。王都にいると路地に入れば職に付けない家のない者達も見受けられて、治安の悪さや職業の乏しさなどが度々議会の話題に上がるとアランドから聞いた事がある。しかし、ノスタールではそんな雰囲気なんて見受けられない。ゆっくりと時間が過ぎてのんびりとしていて、困窮に喘ぐ人々の顔は見えない。穏やかな笑顔が印象的だった。
ここからさらに村をいくつか抜けて行くと海に面したトワールへと着くはずだ。
「後、数時間でございましょうか?」
アンナも長旅に疲れただろうに、こちらに向かっていくと聞いた時の当初の様な不安そうな表情は無くて見慣れない景色を満更では無く楽しんでいる様で安心した。
「……そうね………」
ちゃんと待っていてね…ナターシャ………
馬車はいよいよ人々の賑わいのある街に差し掛かる。整えられたレンガの路に明るい色の屋根が眼前に広がってきた青い海を背景に鮮やかに映えていてとても印象的な街並みだった。
コツンッ………コトコトコトコト……コツン…
ん?気の所為で無く何か馬車に当たっている音がする?
「?」
コツン….コツ………
「アンナ…何か馬車に当たっていない?」
「何でしょう?小さい物のようですが…?」
気の所為かとも思ったのだが、アンナの耳にも入ったらしい。
…………でてけー……………
子供の声?出てけ?
「アンナ、出てけって?聞こえてる?」
「はい。その様に……私達が誰だか分かっているのでしょうか?」
今日乗っている馬車は、侯爵家の馬車である。しっかりとどの家の者か分かるように家紋が入っている馬車を使用しているのだから。
「では、あの出てけ、は私達のことで良いのよね?」
未だにコツコツと何かが馬車に当たる音がする。小石…?
こんな事が騎士隊に見つかれば子供達はただでは済まされないだろうに……!王都ではこんな事起こりもしなかった………
「何が?私達に何か恨み言でも……?」
全く身に覚えがないのだが………
…………かえれーー!…………
「若奥様……」
「なぁに?アンナ……」
「帰れ、と聞こえますね…?」
「ええ、そうね?」
なんだか少し不穏なものを感じてしまってそっと窓の外を除けば、何やらこちらに向かって叫んでいる子供達を、側にいた親が抱えこんで止めている様だった…
「我がエンギュート家はノスタール家と敵同士だった?」
「いいえ……ついぞ聞いた事がございません…」
そうなのよねぇ….?シャーリンの日記にも敵対しているなんて書かれていなかったし、同じく国内よ?エンギュート家が密かに嫌われていたのなら、わざわざノスタール領に招待はされないだろうし…?王族ではないのだから皆んなで歓迎しろとは言わないが、石を投げられる様な覚えは全くないのだが……
幸いにも石を投げているのは子供達で、大人達は必死になって子供を止めにかかっており、まだ良識はある様だ。
「どうしたのでしょうか…これは…?」
馬車はこれからズンズン街中を走る事になる。このまま中央部でもこの状態が続くのか?もっとひどくなったら?まさかとは思うが暴動?
「若奥様!!」
その時御者から声がかかった。どうやら行く手の道中央に、子供が一人立ち塞がっていると言う。保護者は側にはおらず、周りの大人の静止の声もまるで聞かないと言う。
「止めてくださる?」
「若奥様!?」
何をなさるおつもりです?アンナが不安げに見つめて来る。ゆっくりと馬車が止まった…
「仕方ないわ。その子が退いてくれなければ通れないのでしょう?」
「私が今から事情を聞いて来るから…」
「なりません!私が行って参ります!」
侯爵夫人自らこんな田舎町で市民の相手をする必要は本来ならばないからだ。
「だって、我が家の家紋と知って手を出して来るのでしょう?帰れとまで叫んで。」
「いけません!アランド様が知ったらどれだけ悲しまれるか…!」
うん。分かるわアンナ。
「けど、このまま誤解が解けないままでは何にもならないでしょう?彼らはわたしが誰だか分かってやっているのよ?だから、私が行かなきゃ…」
「シャーリン様!!」
「……アンナ…?」
久しぶりにアンナが私を名前で呼んだわね?気がつけばアンナの手が私の手を掴んでいる。
「お話をするだけよ?一緒に来る?」
「はい!もちろんです!」
御者がドアを開けると、アンナがまず先に出る。安全を確かめたのならば次は私だ。エンギュート邸からも護衛騎士を数名つけてはもらっているが、エンギュート家の騎士達はこちらに危険が差し迫らなければ市民に手出しはしない。主人から離れない様にまた、邪魔にならない距離を保って護衛してくれている。本日も背後に護衛の気配を確認しながらアンナと共にゆっくりと馬車の前に立ちはばかる子供の方へ歩いて行った。
途中休憩にと、町々に寄っては後どれ位かと道を尋ねる。ノスタール領の村や町は長閑だがとても豊かそうに見えた。王都にいると路地に入れば職に付けない家のない者達も見受けられて、治安の悪さや職業の乏しさなどが度々議会の話題に上がるとアランドから聞いた事がある。しかし、ノスタールではそんな雰囲気なんて見受けられない。ゆっくりと時間が過ぎてのんびりとしていて、困窮に喘ぐ人々の顔は見えない。穏やかな笑顔が印象的だった。
ここからさらに村をいくつか抜けて行くと海に面したトワールへと着くはずだ。
「後、数時間でございましょうか?」
アンナも長旅に疲れただろうに、こちらに向かっていくと聞いた時の当初の様な不安そうな表情は無くて見慣れない景色を満更では無く楽しんでいる様で安心した。
「……そうね………」
ちゃんと待っていてね…ナターシャ………
馬車はいよいよ人々の賑わいのある街に差し掛かる。整えられたレンガの路に明るい色の屋根が眼前に広がってきた青い海を背景に鮮やかに映えていてとても印象的な街並みだった。
コツンッ………コトコトコトコト……コツン…
ん?気の所為で無く何か馬車に当たっている音がする?
「?」
コツン….コツ………
「アンナ…何か馬車に当たっていない?」
「何でしょう?小さい物のようですが…?」
気の所為かとも思ったのだが、アンナの耳にも入ったらしい。
…………でてけー……………
子供の声?出てけ?
「アンナ、出てけって?聞こえてる?」
「はい。その様に……私達が誰だか分かっているのでしょうか?」
今日乗っている馬車は、侯爵家の馬車である。しっかりとどの家の者か分かるように家紋が入っている馬車を使用しているのだから。
「では、あの出てけ、は私達のことで良いのよね?」
未だにコツコツと何かが馬車に当たる音がする。小石…?
こんな事が騎士隊に見つかれば子供達はただでは済まされないだろうに……!王都ではこんな事起こりもしなかった………
「何が?私達に何か恨み言でも……?」
全く身に覚えがないのだが………
…………かえれーー!…………
「若奥様……」
「なぁに?アンナ……」
「帰れ、と聞こえますね…?」
「ええ、そうね?」
なんだか少し不穏なものを感じてしまってそっと窓の外を除けば、何やらこちらに向かって叫んでいる子供達を、側にいた親が抱えこんで止めている様だった…
「我がエンギュート家はノスタール家と敵同士だった?」
「いいえ……ついぞ聞いた事がございません…」
そうなのよねぇ….?シャーリンの日記にも敵対しているなんて書かれていなかったし、同じく国内よ?エンギュート家が密かに嫌われていたのなら、わざわざノスタール領に招待はされないだろうし…?王族ではないのだから皆んなで歓迎しろとは言わないが、石を投げられる様な覚えは全くないのだが……
幸いにも石を投げているのは子供達で、大人達は必死になって子供を止めにかかっており、まだ良識はある様だ。
「どうしたのでしょうか…これは…?」
馬車はこれからズンズン街中を走る事になる。このまま中央部でもこの状態が続くのか?もっとひどくなったら?まさかとは思うが暴動?
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その時御者から声がかかった。どうやら行く手の道中央に、子供が一人立ち塞がっていると言う。保護者は側にはおらず、周りの大人の静止の声もまるで聞かないと言う。
「止めてくださる?」
「若奥様!?」
何をなさるおつもりです?アンナが不安げに見つめて来る。ゆっくりと馬車が止まった…
「仕方ないわ。その子が退いてくれなければ通れないのでしょう?」
「私が今から事情を聞いて来るから…」
「なりません!私が行って参ります!」
侯爵夫人自らこんな田舎町で市民の相手をする必要は本来ならばないからだ。
「だって、我が家の家紋と知って手を出して来るのでしょう?帰れとまで叫んで。」
「いけません!アランド様が知ったらどれだけ悲しまれるか…!」
うん。分かるわアンナ。
「けど、このまま誤解が解けないままでは何にもならないでしょう?彼らはわたしが誰だか分かってやっているのよ?だから、私が行かなきゃ…」
「シャーリン様!!」
「……アンナ…?」
久しぶりにアンナが私を名前で呼んだわね?気がつけばアンナの手が私の手を掴んでいる。
「お話をするだけよ?一緒に来る?」
「はい!もちろんです!」
御者がドアを開けると、アンナがまず先に出る。安全を確かめたのならば次は私だ。エンギュート邸からも護衛騎士を数名つけてはもらっているが、エンギュート家の騎士達はこちらに危険が差し迫らなければ市民に手出しはしない。主人から離れない様にまた、邪魔にならない距離を保って護衛してくれている。本日も背後に護衛の気配を確認しながらアンナと共にゆっくりと馬車の前に立ちはばかる子供の方へ歩いて行った。
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