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6 お茶へのお誘い

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 シャーリンの部屋は快適だった…隣に誰か寝ている不安はもちろん無いし、シャーリンの部屋ならば成人してからも入り浸っていた様なものだったし、アランドの部屋の香りよりもシャーリンの部屋の方が数倍落ち着いた。

 アランドは本当に優しくて、我が弟ながら天晴れ!と言いたくなる程紳士で、自分の部屋の方が悪夢を見ないで良く眠れるから、という理由でシャーリンの部屋で別に眠る事を許してくれていたし。シャーリンになってしまった他は今までの我が家にいる様な心地の良い毎日が続いていくと信じて疑わなかった程、私には問題が見えていなかったと思う。両親はあと数ヶ月、領地の方で過ごすのだそうで、この屋敷にはアランドと私シャーリンしかいない事になり、少し寂しかった…
 が、問題となるのは私だ……ナターシャ…すっかり、というよりは誰も、本当にここにいる人、使用人も含めて誰もナターシャの名前さえ出さない…?シャーリンとなった私は日々シャーリンに恥をかかせない様に、また夜はアランドと離れて眠れる様に、に心を砕いていたので、自分自身がどうなっているのか敢えて聞いてもいなかった。

「若奥様、今日のお手紙でございます。」

 朝食の後、シャーリン、私宛の手紙が届けられた。そう言えばここ暫くこんな手紙をもらった事はなかったわね?

「私宛に?」

「左様で御座います。」

 静かにお茶を飲んでいたアランドもにこりと微笑んでいる。

「この頃シャーリンは調子が良さそうだから、仲の良いご友人の招待を受けてはどうかと思ってね?どう?」

 トレーに乗せられた手紙は2通…イライザとロワンナだ。名前を聞いたことがあるし、何度かお茶会で同席している。シャーリンの友人達の内、特に仲の良かったのがこの二人だと記憶している。
 イライザ・ガート伯爵夫人。歳の離れたガート伯爵と結婚しまだ新婚。ロワンナ・エルエント侯爵令嬢は今確か結婚間近で婚礼準備に忙しいはず、記憶があっていれば、だが……二人の手紙には、ここ数日の体調不良を心配する声と久しぶりに会って話しませんか、とのお茶のお誘いだった。

「ここ最近は仕事の方も落ち着いてきたしね。僕も自由になる時間が作れるよ?散歩ついでに行こうか?」

 この二人ならばナターシャとの交流もあった!何か噂話なりとも聞けるかも知れない!
自分の家にいるのだから家のものに聞けば良いのだが、なんとも聞ける雰囲気では…

 もしかしたらもう、ナターシャはこの世にはいないのでは無いかと思う位にこの家では気配さえしないんだもの………
それが、なんだかとても恐ろしい……






「まぁ!!お久しぶりですわ!!シャーリン様!!」

 明るい茶色の髪を美しくまとめ上げているのはイライザ伯爵夫人…エメラルドグリーンの瞳がキラキラと輝く小柄な可愛らしい女性だ。

「イライザ様!ご機嫌よう!」

「まあ!お変わりない様で安心しましたわ。」

「ロワンナ様もお変わりなく?」

「ええ、勿論ですわ!」

 緩くウェーブのかかった金髪に菫色の瞳のロワンナ侯爵令嬢も親しみを込めて両手を広げて迎えてくれた。この二人は階級や家柄なんて関係なしに損得勘定抜きにして心から笑い合ってお付き合いをしてくれていた友人と記憶している。

「アランド様から何度かお手紙を頂いていましたの。」

 イライザ伯爵夫人は自宅庭園のテーブルへと2人を案内しがてら話してくれる。ここ数日に渡りご機嫌伺いの手紙をシャーリン宛に出していたそうだ。が、当然シャーリンである自分は知らない。アランドが手紙を開封しており、アランドはシャーリンが少々体調を崩している為失礼をお許しくださいと返信をしていた様で、今回のお茶の席への同席が叶った事に対してすっかり快癒されたものと2人は喜んでくれた。

「ふふふ、それに相変わらずお二人とも仲がよろしい様で羨ましいですわ。」

「そうですわね、見まして?イライザ様、シャーリン様が馬車からお降りになる所を?アランド様が一緒にいらっしゃるのも驚きましたけど、まるで宝物を扱うみたいに優しく、そうっとお側に寄り添って……夫婦の鏡というものでしょうかしら?」

「まあ!そんなに素敵でしたの?ロワンナ様、残念!見逃してしまいましたわ!」

 イライザ伯爵夫人が用意してくれた席でお茶を頂きながら、思わず口に含んだお茶をシャーリンは吹き出しそうになってしまった。
 
 ご婦人達が集まる昼の社交に男性や夫君が入る事は珍しい事で、送迎にも夫自ら送って来るとなるとその場の女性陣の話の魚にされてしまう。なるほど、物凄く恥ずかしいし、そんなふうに褒めてもらうのも正直居た堪れない………

「ふふふ…あれ程美しいお方の奥方も大変ですわね?嫌でも注目を浴びてしまいますもの。」

「ええ、そうですわね?それを言うと我が主人は皆様からの注目外にいるので安心ですわ。」

 イライザ伯爵夫人の夫であるガート伯爵は一回りほど歳が離れている。騒がれるほどの若者ではない為安心という事だろうか。

「まあ!ガート伯爵の包容力と言ったら右に出るものは居ないとまで言われてましてよ?」

 ロワンナ侯爵令嬢の言葉に今度はイライザ伯爵夫人が頬を染める。

「嫌だわ、これは恥ずかしいわね……?」

 そうなのです。恥ずかしいのです。先程から私は黙々とおいしいお茶とお菓子をいただいています。話題に上がっているアランドとガート伯爵は丁度仕事の話もあったらしく2人仲良く屋敷内に消えて行きましたからきっとこの話は聞いていないでしょう。

 聞かれていたら私達、きっと恥ずかしさのあまり死んでしまうんじゃないかしら…?
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