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3 シャーリン
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シャーリン・トレリング。トレリング男爵の一人娘で、両親であるトレリング夫妻は不慮の事故で2人とも亡くなってしまっている。残された幼い彼女を学生時代からの友人であったエンギュート侯爵が養女として受け入れた。元より子供好きのエンギュート侯爵夫人はトレリング夫妻の死を甚く悲しんで、物凄くシャーリンを可愛がった。
突然両親と離れ離れになったのだから幼いシャーリンもパニックを起こしていて一晩中泣いている日が続いていたと幼いナターシャでも覚えているくらいシャーリンの心の傷は深かったと思う。
シャーリンが落ち着くまで、子供部屋の決して広いとは思え無いベッドでエンギュート侯爵夫人とシャーリンとナターシャとでシャーリンを真ん中にして何日も一緒に眠った…夜シャーリンが泣かなくなってからは、何故かナターシャを求めて部屋を渡り歩いていたアランドも加わって、エンギュート侯爵夫妻がもうそれぞれのお部屋で寝ましょう、と改めて言い聞かせるまで、子供達は一緒の部屋で寝起きする事になった。
落ち着いて来てからのシャーリンは良く笑うとても明るくて、素直で、何でも話してくれる可愛らしい子だった。何が好きで、何が嫌い。得意なことも苦手な事もナターシャとアランドがシャーリンについて知らない事が無いくらいに何でも話し合ってたし、相談してた。大きくなってからは、下着の選び方や将来の伴侶の選び方までアランドには聞かせられない女子のあれこれで盛り上がったり…
そして、誰が好きで想いを寄せているとか………
ここまで、シャーリンについて思い出していたら、ふと私は気がついた。記憶は、ある。シャーリンが来てからの子供の頃の記憶は昨日のことの様に鮮明に覚えていて、ある日唐突にアランドの事が好きだと顔を真っ赤にして打ち明けられた時のシャーリンの頬の赤みも今はっきりと思い出せる。
けど?夫婦?って言ったら結婚しているはずで…仮にも侯爵家の婚礼なんて派手以外の何物でもないくらいちょっとした催し物となって領地でもお祝いされるほどのものなのに…全く、知らない……私の記憶に全く、ただの一編も擦りもしていない…
いつ、結婚したの?何で?ここで悶々としていてもしょうがないとは思うのだけど…
そうだ!指輪!!
結婚しているのなら互いに送り合っている誓の指輪があるはず…シャーリンの左手薬指にも、あった……!
そっと、指輪を外してみる。白金製の指輪の内側にはアランドとシャーリンの頭文字。確かに二人の結婚指輪だ…
「アンナ、今は何年だったかしら?」
なんとかボロを出さない様に、身支度を終えて午前のお茶を頂きながらそれとなくアンナに聞く。
「今年でございますか?でしたら、白花の10年目ですよ?」
少し小首を傾げられて、訝しまれたけれど、ニッコリとなんでもない様に笑ってありがとう、とお礼を言った。
花の年号…何故だがこの国は国王が変わるたびに自然の中から年号を取る慣習がある。王が好きな物が国民に周知されるように、だったか理由は定かではないのだけど……では、アランドとシャーリンが結婚してから1年と言うことになる。指輪には花・9と彫ってあった。昔のことは憶えているのにここら辺の記憶なんて何もない…
「お父様と、お母様は?」
そしてこの屋敷ではまだアランドとアンナ以外に家人にも会っていなかった。
「……あの、旦那様と奥様は、領地の見周りに行かれると言う事で3日前に立たれましたよ?」
「まぁ、この時期に?」
何かこの時期に特別なことはあったかしら?刈り入れ期でもないし、特別な催し物はなかったはず……?
「あの、若奥様?」
「なぁに?」
「お身体は本当になんでもありませんか?旦那様達のお見送りには若奥様もお出になっていましたし…それに…今年は…」
しまった!……つい、身近な情報を取り入れようとして聞きたい事だけをペラペラと喋りすぎたかしら?アンナは本当に心配そうに膝をついて覗き込んでくれている。
おかしいと、思われてしまってはいけないわ………
「なんだか…ごめんなさい?体調は何ともないのよ?けど、昨日の疲れなのかしら?少しあたまがボゥッとしてしまってて、ちゃんと考えられなくなってしまっているのかしら?」
ごまかせたかな?とアンナににっこりと笑ってみる。昨日、何があったかも憶えていないのだけど…
「仕方ありませんわ!あんな事がおありになって平静でいられる方が無理というものですわ。アンナは分かっております。若奥様は、シャーリン様は物凄く、お優しい方でいらっしゃいますもの!」
まぁ!誤魔化すことに必死なのに、こんなに褒めて元気付けようとしてもらえるなんて…アンナったらやっぱり心根の優しいいい子だわ…
なんとかこの場をやり過ごせた様でホッと胸を撫で下ろす。私がシャーリンである限り、見苦しい態度は取れないわね。何しろ、侯爵家の次期女主人としてここにいるらしいから………
突然両親と離れ離れになったのだから幼いシャーリンもパニックを起こしていて一晩中泣いている日が続いていたと幼いナターシャでも覚えているくらいシャーリンの心の傷は深かったと思う。
シャーリンが落ち着くまで、子供部屋の決して広いとは思え無いベッドでエンギュート侯爵夫人とシャーリンとナターシャとでシャーリンを真ん中にして何日も一緒に眠った…夜シャーリンが泣かなくなってからは、何故かナターシャを求めて部屋を渡り歩いていたアランドも加わって、エンギュート侯爵夫妻がもうそれぞれのお部屋で寝ましょう、と改めて言い聞かせるまで、子供達は一緒の部屋で寝起きする事になった。
落ち着いて来てからのシャーリンは良く笑うとても明るくて、素直で、何でも話してくれる可愛らしい子だった。何が好きで、何が嫌い。得意なことも苦手な事もナターシャとアランドがシャーリンについて知らない事が無いくらいに何でも話し合ってたし、相談してた。大きくなってからは、下着の選び方や将来の伴侶の選び方までアランドには聞かせられない女子のあれこれで盛り上がったり…
そして、誰が好きで想いを寄せているとか………
ここまで、シャーリンについて思い出していたら、ふと私は気がついた。記憶は、ある。シャーリンが来てからの子供の頃の記憶は昨日のことの様に鮮明に覚えていて、ある日唐突にアランドの事が好きだと顔を真っ赤にして打ち明けられた時のシャーリンの頬の赤みも今はっきりと思い出せる。
けど?夫婦?って言ったら結婚しているはずで…仮にも侯爵家の婚礼なんて派手以外の何物でもないくらいちょっとした催し物となって領地でもお祝いされるほどのものなのに…全く、知らない……私の記憶に全く、ただの一編も擦りもしていない…
いつ、結婚したの?何で?ここで悶々としていてもしょうがないとは思うのだけど…
そうだ!指輪!!
結婚しているのなら互いに送り合っている誓の指輪があるはず…シャーリンの左手薬指にも、あった……!
そっと、指輪を外してみる。白金製の指輪の内側にはアランドとシャーリンの頭文字。確かに二人の結婚指輪だ…
「アンナ、今は何年だったかしら?」
なんとかボロを出さない様に、身支度を終えて午前のお茶を頂きながらそれとなくアンナに聞く。
「今年でございますか?でしたら、白花の10年目ですよ?」
少し小首を傾げられて、訝しまれたけれど、ニッコリとなんでもない様に笑ってありがとう、とお礼を言った。
花の年号…何故だがこの国は国王が変わるたびに自然の中から年号を取る慣習がある。王が好きな物が国民に周知されるように、だったか理由は定かではないのだけど……では、アランドとシャーリンが結婚してから1年と言うことになる。指輪には花・9と彫ってあった。昔のことは憶えているのにここら辺の記憶なんて何もない…
「お父様と、お母様は?」
そしてこの屋敷ではまだアランドとアンナ以外に家人にも会っていなかった。
「……あの、旦那様と奥様は、領地の見周りに行かれると言う事で3日前に立たれましたよ?」
「まぁ、この時期に?」
何かこの時期に特別なことはあったかしら?刈り入れ期でもないし、特別な催し物はなかったはず……?
「あの、若奥様?」
「なぁに?」
「お身体は本当になんでもありませんか?旦那様達のお見送りには若奥様もお出になっていましたし…それに…今年は…」
しまった!……つい、身近な情報を取り入れようとして聞きたい事だけをペラペラと喋りすぎたかしら?アンナは本当に心配そうに膝をついて覗き込んでくれている。
おかしいと、思われてしまってはいけないわ………
「なんだか…ごめんなさい?体調は何ともないのよ?けど、昨日の疲れなのかしら?少しあたまがボゥッとしてしまってて、ちゃんと考えられなくなってしまっているのかしら?」
ごまかせたかな?とアンナににっこりと笑ってみる。昨日、何があったかも憶えていないのだけど…
「仕方ありませんわ!あんな事がおありになって平静でいられる方が無理というものですわ。アンナは分かっております。若奥様は、シャーリン様は物凄く、お優しい方でいらっしゃいますもの!」
まぁ!誤魔化すことに必死なのに、こんなに褒めて元気付けようとしてもらえるなんて…アンナったらやっぱり心根の優しいいい子だわ…
なんとかこの場をやり過ごせた様でホッと胸を撫で下ろす。私がシャーリンである限り、見苦しい態度は取れないわね。何しろ、侯爵家の次期女主人としてここにいるらしいから………
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