[完結]気がつけば侯爵令嬢の私は実弟の嫁でした。あり得ないので本当の自分を探しに家を出ます

小葉石

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2 私は誰?

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 私、ナターシャ・エンギュート…21歳…女で独身……髪はサラサラの金髪ストレートに明るいブルーサファイヤの瞳。中肉中背の色白で…エンギュート侯爵家の長女で弟アランドと下に義理の妹がいる。

 そう!いる、居るはずなのに、何故か私が弟アランドの部屋にいて、アランドのベッドで寝ている……なぜ?

 あの後アランドが仕事のために登城して行ってからしばらく現実逃避として布団の中で過ごしたけれど、いくら寝ててもこの現実は変わっていなくて…布団の中がアランドの爽やかなコロンの匂いで溢れてて、尚更落ち着かなくて仕方なくベッドから出た。

「あ!お目覚めですか?」

 アンナ!!

「アンナ!?アンナなの?」

 幼い頃からこのエンギュート家に仕えてくれていた乳母の娘でとりわけ私と仲が良かった…!

「はい?ここにおりますよ?若奥様が具合が悪そうだと若旦那様からお聞きしました。お具合はいかがです?」

 あぁ!いつも親身になってくれていたわね?優しいアンナ!貴方の顔を見たらやっとほっとできる様な気がするわ…

「えぇ…大丈夫よ?なぜ、私はアランドの部屋に居たのかしら?」 
 
 おかしい事よね?昨日の記憶がないなんて………私、何をしていたんだっけ?

 頭がはっきりしてくれば、昨夜からの記憶が…………無い?え、待って?どういう事?

「若奥様!?どうなさいました?」

 頭を抱えて、ボフッとベッドに蹲ってしまった私の元にアンナが駆け寄ってくる。

「若奥様!シャーリン様!!どうしましょう!?お医者様を…!」

「…待って!!待って…!大丈夫だから……」

「でも…」

 優しいアンナ…心配そうなアンナの顔を見ていたら少し、落ち着いて来た………

「本当に、大丈夫だから、朝の支度をして貰えるかしら?」

 そう、ここで騒いじゃ淑女が泣くわ…一旦お茶でも頂いて、気持ちを落ち着けましょう。身体は至ってどこも悪そうではなかったから…








  
 結果、更に落ち着かなくなった…………
どう見ても、鏡台に映る私の姿はシャーリンの物で…柔らかく波打った輝くハニーブロンドの髪や金の瞳は見紛う事無いほどシャーリンだった…着ていたナイトドレスも、クローゼットに収まっているドレスも全てシャーリンの物……………見たことあるもの……

 甲斐甲斐しくアンナは私の世話をする。幼い時からの癖は抜けきらないみたいで、部屋の中でも小動物みたいにパタパタと小走りになって…

 取り敢えず、鏡台に座ったものの鏡の中の自分なんて見る勇気はもうなくて、目を瞑ってジッとしているか、動き回っているアンナを目で追った。

 なぜ、私がシャーリンなのか?

 この部屋は確かに実弟アランドの物…成人してからというもの、ちょくちょくお邪魔なんてしなかったけれど、部屋の中の雰囲気はドアからでも見れるし、なんと言ってもこの部屋の中にもアランドの匂いがフワッと香ってる。あの子、爽やかな柑橘系が好きなのよね……そんな好みの事は問題じゃなくて、いいチョイスだと思うし…だから、そうではなくて!ここは、紛れも無いアランドの部屋で……
アンナも言ってたじゃ無い?

 若奥様って…………………

 シャーリンと私は2歳の差、アランドとは年子で1歳離れてる。お互いに結婚していても全くおかしくは無い年齢で、若奥様って事は、そうなのよね?全く私には記憶がないけれども私達、じゃなかった、シャーリンとアランドはなる様にして夫婦になったのよね?そういう事なのね?
 ここまでが長い夢でなければ、頭の中で分かった事はシャーリンと弟が結婚して夫婦となって、なぜか姉の私ナターシャがシャーリンとなって今、ここに居る、と。

「ちょっと、納得なんて出来て!?」

 思わず、鏡のシャーリンに向かって声を出してしまっていた…

「も、申し訳ありません。若奥様!こちらのドレスではお気に召しませんでしたか?」

 自分、シャーリンの背後では、若草色のドレスを手に抱えて立っていたアンナがびっくりした様な顔で見つめて来ていた。

 そのドレスはシャーリンのお気に入りで…無駄に締め上げるところがないからとリラックスしたい時によく着ていたっけ…アンナも良く覚えてくれていたみたいだ。調子が悪そうな私の為にと用意してくれていただろうに…

「ごめんなさい、アンナ。夢見が悪かったの、とっても……だからどうしても納得なんていかなくて、そのドレスの事ではないのよ?」

 そう謝ると、不安そうだったアンナの顔がパァッと明るくなる。いつもニコニコと明るいアンナ…貴方はこうでなくっちゃね…

 何が、どうしてこうなっているのか全く理解なんて出来ないけど、でもなんとか今日の日をやり過ごして行かなくてはいけない……
 幸いに、シャーリンの事は知りすぎているほど知り尽くしている。物心つく前から我が家の養女としてこの屋敷で本当の姉妹以上に仲良くして来た。だから、この謎が解けるまで、シャーリンとして振るう事は難しく無いはず…深呼吸一つして、私は覚悟を決めた……



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