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22、再会 1

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 フリージアの腕をとったトラールはそのまま腕を一振りしてマルクスの方へフリージアを投げ渡した。

「!?」

 硬い胸当てが頬に当たり、少し痛みはあったものの、フリージアを優しく抱えてくれるマルクスの匂いも、体温も以前と変わらなくて、更に混乱する。

 いま、ノレッタは落ちなかった…?

 一瞬目を瞑ってしまったから、良く見えなかった…けれども、近くにノレッタは居ない。サッと見回しても見当たらない…

「怪我は?」

 暖かく優しいマルクスの手がフリージアの頬を撫でる。丁度胸当てが当たった所だ。

「いえ、ノレッタは…?」
  
「ん?邪魔者なら蹴落としましたよ?」

 トラールが階段の外側を指差す。

 ここは、高所にある……こんな所から落ちたら……

 フリージアは悲鳴をあげそうになるのを必死に堪えて両手で自分の口を押さえた。そうしなければ、闇雲に叫び散らかし、身体の震えも止められないと思ったのだ。

「トラール。フリージア様は荒事には慣れていない。あまり無茶をするな。」

「はい。申し訳ありません。いや、でも彼女隙がなくて邪魔だったので。」

 なんとも軽い謝罪である。

 そんなにノレッタの命は軽い物なのか?
そんなに人の命を取るのは簡単なことなのか?

「さ、内部を片付けよう。ここは冷える。」

 隠し階段の出口からは既にモウモウと煙が溢れ出て来ていた。

「中には戻れませんね。外から行きますか?そろそろオアシスの将軍の方も片付いている事でしょうから。」

 マルクスの手は優しいのだ。暖かく、柔らかにフリージアに触れる。小さい頃からそれは変わらず、懐かしい安堵さえも覚えてしまう。労わる様に背中を摩ってくれている今ならば余計にマルクスの優しさを思わざるを得なかった。

「…オアシス……陛下が…」

 確かにオアシスに向かったと……

「へぇ?タガードはあっちにいるのか?残念だな…あ~ぁ!将軍に手がらもっていかれたな、こりゃ。」

「タガード様…!!」

 いるか分からない子供だけれども、列記としたお腹の子の父親だ。

「諦めて下さいね?フリージア様。奴は屠られて当然なのです…分かるでしょう?」

 フリージアの肩を抱くマルクスの手は酷く優しい。けれども伝えて来る言葉はなんと残酷な事だろう。
 
「私の国を滅ぼしただけでは飽き足らずゲルテンの者共は帝国に私を売った…」

 滅ぼされたルナヨールの王族の血を引く者が、新たに建てられたゲルテンにてどの様な扱いを受けるのか…フリージアには想像もつかないが、帝国にいた方がまだ生き残れる確率は高かったのではないかとこの国に来て確信はしている。のだが、マルクスのゲルテンに対する恨みは尽きないらしい。

「分かりますか?奴隷として生き残る恥よりも、何が一番私を苦しめたか……」

「マルクス?」

 優しく微笑んでいたその表情の下にはマルクスを追い詰め、酷く打ちのめしている事があったのだ。

 グッとフリージアの肩に置かれたマルクスの手に力がこもる。

「王族として産まれても、自分の意志でもないのに子も残せない…」

 帝国では蛮族の王族の奴隷は強制的に去勢される習わしだからだ。

「それがどれだけ屈辱的なのか、底のない憎しみ、恨みを築き上げるのか分かりますか?」

 蛮族にとって、子供は富と栄えの象徴である。それを持つ事ができない。そんな王族が統べる王家は栄えず滅ぶ。つまり、自分がいる事でルナヨールが滅びた…そう幼い子供の心に刷り込む事くらい、簡単な事であっただろう。長年自責の念を育まされつつ育ったマルクスは、やがて帝国に紛れ込んでいたルナヨールの民の生き残りや、蛮族に連なる者達から真実を聞かされる。子供が産まれないのは、帝国の方針で、そんな残酷な刑に処したのは元を辿れば当時のゲルテン国王の決定であったと。

「…それは…心からお痛み申し上げます。」

 フリージアだとて奴隷だったのだ。待遇が悪くないと言えども自由は一切なかった。マルクスはこれに加えて長年に及び、自国となるべき国を滅ぼしてしまったと言う自責の念に苦しんできたのだ。それはフリージアの想像などが追いつかない様な苦しみだったのだろう…

 だから、心からそう言葉が出た。

 けれど、だけれど…ノレッタが死んでもいいと?オアシスに住む人々は?……前ゲルテン国王の息子であるタガード様がマルクスを処したわけではないのに?

「行こう、トラール。長居は無用だ。」

 フリージアの肩をきつく掴んだままマルクスは階下へと降りようとする。

 グルグルとフリージアの思考は巡る。いっその事、夜風に流れ靡く金の髪の様に、流れ行き着く所がわかっていたのならば、こんなに苦しい思いはしないのかもしれない。
 一緒に行く、一緒に行って、それで?タガードもいないのに、もし本当に受胎していたのならば?

「フリージア様。もし、その腹に子がいたとしても構いません。なぜならゲルテンは滅びるのだ。そうだな。奴の子ならば同じ目に合わせてやってもいいかもしれない。」

 静かに語るマルクスの声は、砂漠の夜の冷気よりもフリージアをゾッとさせた…












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