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手を取る喜び
12 希望 2
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「なるほど、この地の魔力に慣れること、ですか?」
公妃シャイリーが生還して初めて生身の身で神官ホートネルと顔を合わせたのではないだろうか。公主トライトスの小さな嫉妬から公主家の出身でありながらも入城を禁止されていたホートネルはシャイリーの手紙を読んだトライトスによって再度入城を許可された。
応接室にはホートネル、シャイリーに公務から抜け出してきているトライトスが揃っている。
「ええ…はっきりそうだとは言えないのですが…私が以前ここに来てから感じていた凍える様な冷気を今はもう感じませんの。」
それはもう不思議な程だった。以前は例え寝具の中に入っていたとしても、暖炉の火が付いている時でさえ足元から冷気が忍び寄ってきてどれほど厚着をしたのしても防ぐことはできなかったのに。今では全くその様なことはない。そればかりか厚着をしなくても部屋の中で日々快適に元気に過ごせている。あれだけしていた厚着なのに今では上にもう一枚羽織ろうとは思わないほどで、却ってトライトスに心配されてわざわざ掛けてもらっているという状況であったりする。
今ならば、あの雪の中で見た騎士達の様に薄い衣類だけで雪の中で遊ぶこともできそうなほど元気になっているとも感じるのだ。
「私にはバルビスでの生活の経験がありませんでしたわ。」
シャイリーはアールスト王国で産まれ、その城からほとんど出たこともなかったのだから。
「ホートネル様。私に相当量な魔力をお注ぎになったとか?」
「ええ…確かに。貴方様のお身体をそのままに保つ事を最優先致しましたから。」
「トライトス様、アールストのルシュルー様の、義姉上のお加減は?」
「あぁ。ルシュならば落ち着いていると聞いている。」
「…よろしかった事……」
ずっと心に引っかかっていたのだ。自分は目覚め、夫となるトライトスの隣に座っている事ができている。しかし、倒れて久しい義姉ルシュルーはどうであろうかと。
両国の絆はもちろん必要。しかし今までの供物姫の一人の女性としての幸せがその絆の為に犠牲になってきた。だから、せめて、その国で少しでも自分らしく生きられる様にと、ルシュルーには健康でいてもらいたかった。
「実のところ、アールストから帰る際にはかなりの量の魔力を使いました。そして妃殿下のお見立て通り、環境に適応する様に身体を慣らすべきだと思っております。妃殿下、ルシュの離宮にはバルビスで採掘した魔力をたっぷりと吸った石を使ってもらおうと思っていましてね。既に手配済みなのです。」
慣れる為には徐々にしなければただ身体に負担がかかるばかり。両国においても婚姻を結ぶまでにゆっくりと時間をとってお互いに逢瀬を重ねてきたわけでは無い。その為急激な環境の変化に多大な負担がかかってしまう。
「まあ!それではホートネル様…!トライトス様!!」
「あぁ。そうだ。ルシュは死なない。世継ぎとは言わんがアールスト国王の子を産んでもらわねばな。」
愛する者同士。子孫を求める事は自然な事。そんな素敵な未来を望める事はなんて素晴らしい事なんだろう。
公妃シャイリーが生還して初めて生身の身で神官ホートネルと顔を合わせたのではないだろうか。公主トライトスの小さな嫉妬から公主家の出身でありながらも入城を禁止されていたホートネルはシャイリーの手紙を読んだトライトスによって再度入城を許可された。
応接室にはホートネル、シャイリーに公務から抜け出してきているトライトスが揃っている。
「ええ…はっきりそうだとは言えないのですが…私が以前ここに来てから感じていた凍える様な冷気を今はもう感じませんの。」
それはもう不思議な程だった。以前は例え寝具の中に入っていたとしても、暖炉の火が付いている時でさえ足元から冷気が忍び寄ってきてどれほど厚着をしたのしても防ぐことはできなかったのに。今では全くその様なことはない。そればかりか厚着をしなくても部屋の中で日々快適に元気に過ごせている。あれだけしていた厚着なのに今では上にもう一枚羽織ろうとは思わないほどで、却ってトライトスに心配されてわざわざ掛けてもらっているという状況であったりする。
今ならば、あの雪の中で見た騎士達の様に薄い衣類だけで雪の中で遊ぶこともできそうなほど元気になっているとも感じるのだ。
「私にはバルビスでの生活の経験がありませんでしたわ。」
シャイリーはアールスト王国で産まれ、その城からほとんど出たこともなかったのだから。
「ホートネル様。私に相当量な魔力をお注ぎになったとか?」
「ええ…確かに。貴方様のお身体をそのままに保つ事を最優先致しましたから。」
「トライトス様、アールストのルシュルー様の、義姉上のお加減は?」
「あぁ。ルシュならば落ち着いていると聞いている。」
「…よろしかった事……」
ずっと心に引っかかっていたのだ。自分は目覚め、夫となるトライトスの隣に座っている事ができている。しかし、倒れて久しい義姉ルシュルーはどうであろうかと。
両国の絆はもちろん必要。しかし今までの供物姫の一人の女性としての幸せがその絆の為に犠牲になってきた。だから、せめて、その国で少しでも自分らしく生きられる様にと、ルシュルーには健康でいてもらいたかった。
「実のところ、アールストから帰る際にはかなりの量の魔力を使いました。そして妃殿下のお見立て通り、環境に適応する様に身体を慣らすべきだと思っております。妃殿下、ルシュの離宮にはバルビスで採掘した魔力をたっぷりと吸った石を使ってもらおうと思っていましてね。既に手配済みなのです。」
慣れる為には徐々にしなければただ身体に負担がかかるばかり。両国においても婚姻を結ぶまでにゆっくりと時間をとってお互いに逢瀬を重ねてきたわけでは無い。その為急激な環境の変化に多大な負担がかかってしまう。
「まあ!それではホートネル様…!トライトス様!!」
「あぁ。そうだ。ルシュは死なない。世継ぎとは言わんがアールスト国王の子を産んでもらわねばな。」
愛する者同士。子孫を求める事は自然な事。そんな素敵な未来を望める事はなんて素晴らしい事なんだろう。
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