上 下
107 / 109
手を取る喜び

12 希望 2

しおりを挟む
「なるほど、この地の魔力に慣れること、ですか?」

 公妃シャイリーが生還して初めて生身の身で神官ホートネルと顔を合わせたのではないだろうか。公主トライトスの小さな嫉妬から公主家の出身でありながらも入城を禁止されていたホートネルはシャイリーの手紙を読んだトライトスによって再度入城を許可された。

 応接室にはホートネル、シャイリーに公務から抜け出してきているトライトスが揃っている。

「ええ…はっきりそうだとは言えないのですが…私が以前ここに来てから感じていた凍える様な冷気を今はもう感じませんの。」

 それはもう不思議な程だった。以前は例え寝具の中に入っていたとしても、暖炉の火が付いている時でさえ足元から冷気が忍び寄ってきてどれほど厚着をしたのしても防ぐことはできなかったのに。今では全くその様なことはない。そればかりか厚着をしなくても部屋の中で日々快適に元気に過ごせている。あれだけしていた厚着なのに今では上にもう一枚羽織ろうとは思わないほどで、却ってトライトスに心配されてわざわざ掛けてもらっているという状況であったりする。

 今ならば、あの雪の中で見た騎士達の様に薄い衣類だけで雪の中で遊ぶこともできそうなほど元気になっているとも感じるのだ。 

「私にはバルビスでの生活の経験がありませんでしたわ。」

 シャイリーはアールスト王国で産まれ、その城からほとんど出たこともなかったのだから。

「ホートネル様。私に相当量な魔力をお注ぎになったとか?」

「ええ…確かに。貴方様のお身体をそのままに保つ事を最優先致しましたから。」
 
「トライトス様、アールストのルシュルー様の、義姉上のお加減は?」

「あぁ。ルシュならば落ち着いていると聞いている。」

「…よろしかった事……」

 ずっと心に引っかかっていたのだ。自分は目覚め、夫となるトライトスの隣に座っている事ができている。しかし、倒れて久しい義姉ルシュルーはどうであろうかと。

 両国の絆はもちろん必要。しかし今までの供物姫の一人の女性としての幸せがその絆の為に犠牲になってきた。だから、せめて、その国で少しでも自分らしく生きられる様にと、ルシュルーには健康でいてもらいたかった。

「実のところ、アールストから帰る際にはかなりの量の魔力を使いました。そして妃殿下のお見立て通り、環境に適応する様に身体を慣らすべきだと思っております。妃殿下、ルシュの離宮にはバルビスで採掘した魔力をたっぷりと吸った石を使ってもらおうと思っていましてね。既に手配済みなのです。」

 慣れる為には徐々にしなければただ身体に負担がかかるばかり。両国においても婚姻を結ぶまでにゆっくりと時間をとってお互いに逢瀬を重ねてきたわけでは無い。その為急激な環境の変化に多大な負担がかかってしまう。

「まあ!それではホートネル様…!トライトス様!!」

「あぁ。そうだ。ルシュは死なない。世継ぎとは言わんがアールスト国王の子を産んでもらわねばな。」

 愛する者同士。子孫を求める事は自然な事。そんな素敵な未来を望める事はなんて素晴らしい事なんだろう。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お金目的で王子様に近づいたら、いつの間にか外堀埋められて逃げられなくなっていた……

木野ダック
恋愛
いよいよ食卓が茹でジャガイモ一色で飾られることになった日の朝。貧乏伯爵令嬢ミラ・オーフェルは、決意する。  恋人を作ろう!と。  そして、お金を恵んでもらおう!と。  ターゲットは、おあつらえむきに中庭で読書を楽しむ王子様。  捨て身になった私は、無謀にも無縁の王子様に告白する。勿論、ダメ元。無理だろうなぁって思ったその返事は、まさかの快諾で……?  聞けば、王子にも事情があるみたい!  それならWINWINな関係で丁度良いよね……って思ってたはずなのに!  まさかの狙いは私だった⁉︎  ちょっと浅薄な貧乏令嬢と、狂愛一途な完璧王子の追いかけっこ恋愛譚。  ※王子がストーカー気質なので、苦手な方はご注意いただければ幸いです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

旦那様、離縁の申し出承りますわ

ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」 大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。 領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。 旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。 その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。 離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに! *女性軽視の言葉が一部あります(すみません)

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

不能と噂される皇帝の後宮に放り込まれた姫は恩返しをする

矢野りと
恋愛
不能と噂される隣国の皇帝の後宮に、牛100頭と交換で送り込まれた貧乏小国の姫。 『なんでですか!せめて牛150頭と交換してほしかったですー』と叫んでいる。 『フンガァッ』と鼻息荒く女達の戦いの場に勢い込んで来てみれば、そこはまったりパラダイスだった…。 『なんか悪いですわね~♪』と三食昼寝付き生活を満喫する姫は自分の特技を活かして皇帝に恩返しすることに。 不能?な皇帝と勘違い姫の恋の行方はどうなるのか。 ※設定はゆるいです。 ※たくさん笑ってください♪ ※お気に入り登録、感想有り難うございます♪執筆の励みにしております!

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

処理中です...