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手を取る喜び

5 雪溶け 5

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 神官ホートネルを中心に公主家の人間は公主トライトスがシャイリーに思いを寄せている事を知っていた。そして今回ホートネルから伝えられた嬉しい知らせは、トライトスの暴走に加速をかけてしまったようだ。

 トライトスの毎日の日課は変わらなかった。公務の終わりには必ず霊廟を訪れ、公妃シャイリーの顔を見て一通り言葉をかけて満足したように帰って行くのだ。それだけならばまだ、耐えられたかもしれない。

 ずっと待ち焦がれていた死んだようだった自分の花嫁が、もう直ぐ目を覚ます。こんなに嬉しい事はトライトの人生に置いて未だかつてなかったかも知れなかった。
 トライトスが来る晩には毎日物が増えていった。最初は小さな生花だった物が、身につける装身具、豪華な食器、目を楽しませる絵画や本、珍しいと言われるバルビス公国の保存食までトライトスは毎夜毎夜持ってくるのだ。

 トライトスにとって目に見えないシャイリーはそれでもいつも一緒にいるという。トライトスは本人が目の前にいるかの様に、シャイリーに語り掛けながらその品々を紹介してくれる。
 とても、とても嬉しそうに…結婚式の時に見た優しい笑顔が嘘ではなかったと、トライトスの気持ちが本気なのだと確信に変わるほどに、見えないシャイリーにいつも語り掛けてくるのだった。

 シャイリーはこの時間がとても好きになる。共に会話はまだかわせないけれど、相槌を打ったり驚いたり笑ったり、シャイリーなりに楽しんでもいたのだった。

(けれど…これは、恥ずかしすぎます!!)

 トライトスの暴走は止まる事を知らず、シャイリーを楽しませようと幾つも並べた豪華なドレスの中に、ナイトドレスまで持ち込まれた時には、流石に言葉が出なくなった……  

(ホートネル様!あれはあんまりではありませんか?いくら何でも……)

 霊廟とは言わば墓である。その墓の中が高級品を取り扱う店舗の様に数々の品で埋め尽くされようとしている。物が置いているだけならばまだ良いのだが、未だに氷の中にいる公妃シャイリーの為に、神殿からは魔力を注ぎに来る神官達がやってくるし、氷の溶け具合を見る為に日に何度も人が入るのだ。

 シャイリーは公妃の私生活をすべて公開されてしまったかの様に恥ずかしさに耐えられなくなって身を捩ってしまう。けれど、周囲の人々が強く注意もできない事も分かっていた。

(…幸せそうなお顔……)

 まだ面と向かって顔を合わせた事はなくとも、こんな時にシャイリーが覗き込むとトラトライトスはなんとも言えない優しい表情をしているから……








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