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淋しい婚姻の果てに
12 ここにいても 2
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バルビス公爵邸の霊廟…雪と氷に覆われてしまう地だからこそ、温度と湿度の安定した地下に敢えて造られている。その部屋は広く奥までも続き、先祖代々のバルビス公主家の人々が眠っているのだった。
霊廟の最奥がバルビス公主トライトスの目的地だ。
(何度見ても不思議なものだわ。)
自分自身の姿を氷の中に見つめるのは……
トライトスは毎夜ここに来る。来て、ここで何をするまでもないのだが、どんなに忙しかった日であろうともここに来て、シャイリーの氷漬けになった身体の前で、じっとシャイリーを見つめているのであった。
(毎日、毎日…殿下は何をお考えで…?)
今のシャイリーがいくら触ろうとしてもトライトスには触れられない。いくら目の前に出たとしても見てももらえないのに、トライトスはもう動かない氷の中のシャイリーを何日も見つめ続けている。綺麗なドレスを着せられて静かに眠っているかの様な氷の中のシャイリーを…
(きっと、後悔されているのだわ…私と縁を結ばなければこんなに面倒な事など起きなかったでしょうに…こんなにすぐに死んでしまうなんて、私って根性なしだわ。)
キュッと少し眉を寄せて、少しだけ苦しそうに見えるトライトスに向かって何度も謝ってしまうシャイリーであった。
生きている時ならば、そっとここから離れる事もできただろうに…シャイリーがこの姿になってからは自由に出歩く事はできない。いつでも狐の毛皮に自分がいて周りを見ていたのだが、そんなシャイリーが狐の毛皮から移動できる事を知ったのはつい先日の事。
「おや、こちらにおいてになっておられたのですか?」
公主邸から更に高い地に建てれている神殿にシャイリーは来ていた。その原理がどうなっているのかは分からないが、トライトスの側に居たくない、離れたいと思った時にはなぜかここに居るのだ。
(ええ。神官様こんばんは。)
夜の務めのためだろうか。ホートネルは手に灯りを持って祭壇の前に立っていた。
「妃殿下、お変わりはないですか?」
トライトスもシャイリーも。
(えぇ。お変わりない様ですわ。ただ…)
「ただ?」
(殿下は前よりも顔色がお悪い様に見えるのです。)
シャイリーの事があってからまともに休んでさえ居ないのだから当たり前と言えば当たり前だ。
「またお休みにはなっておられないのでしょうか?」
(その様ですわ…)
「仕方のない方ですね…」
ホゥと息を吐くホートネルは闇夜の憂もあってか酷く色気がある様に見えた。
(あの方のお側にはどなたもおりませんの?)
ここ数日じっくりとトライトスしか見ていないシャイリーは酷く不思議だったのだ。アールスト国でもバルビス公国でも持てる妻は一人ではない。シャイリーの護衛騎士であった騎士ナトルでさえも、既に妻を娶っているにも関わらず侍女ローニーと婚約中でもあったのだから。
「本来ならばまだまだ側室を娶られなければなりません。」
バルビス公国は過酷な地なのだ。それは勿論子供達にも言える事であって健康に大人になるまで育つ子供の数は少ない。その為に、家を守る為に子を産んでくれる妻が多く必要なのであった。
(でもそれらしい方をお見かけしません。)
仕事が終われば霊廟へ行く。これがトライトスの1日の流れで、女性の部屋に訪れる事も食事を共にしている所もシャイリーはまだ見ていなかったのだ。
霊廟の最奥がバルビス公主トライトスの目的地だ。
(何度見ても不思議なものだわ。)
自分自身の姿を氷の中に見つめるのは……
トライトスは毎夜ここに来る。来て、ここで何をするまでもないのだが、どんなに忙しかった日であろうともここに来て、シャイリーの氷漬けになった身体の前で、じっとシャイリーを見つめているのであった。
(毎日、毎日…殿下は何をお考えで…?)
今のシャイリーがいくら触ろうとしてもトライトスには触れられない。いくら目の前に出たとしても見てももらえないのに、トライトスはもう動かない氷の中のシャイリーを何日も見つめ続けている。綺麗なドレスを着せられて静かに眠っているかの様な氷の中のシャイリーを…
(きっと、後悔されているのだわ…私と縁を結ばなければこんなに面倒な事など起きなかったでしょうに…こんなにすぐに死んでしまうなんて、私って根性なしだわ。)
キュッと少し眉を寄せて、少しだけ苦しそうに見えるトライトスに向かって何度も謝ってしまうシャイリーであった。
生きている時ならば、そっとここから離れる事もできただろうに…シャイリーがこの姿になってからは自由に出歩く事はできない。いつでも狐の毛皮に自分がいて周りを見ていたのだが、そんなシャイリーが狐の毛皮から移動できる事を知ったのはつい先日の事。
「おや、こちらにおいてになっておられたのですか?」
公主邸から更に高い地に建てれている神殿にシャイリーは来ていた。その原理がどうなっているのかは分からないが、トライトスの側に居たくない、離れたいと思った時にはなぜかここに居るのだ。
(ええ。神官様こんばんは。)
夜の務めのためだろうか。ホートネルは手に灯りを持って祭壇の前に立っていた。
「妃殿下、お変わりはないですか?」
トライトスもシャイリーも。
(えぇ。お変わりない様ですわ。ただ…)
「ただ?」
(殿下は前よりも顔色がお悪い様に見えるのです。)
シャイリーの事があってからまともに休んでさえ居ないのだから当たり前と言えば当たり前だ。
「またお休みにはなっておられないのでしょうか?」
(その様ですわ…)
「仕方のない方ですね…」
ホゥと息を吐くホートネルは闇夜の憂もあってか酷く色気がある様に見えた。
(あの方のお側にはどなたもおりませんの?)
ここ数日じっくりとトライトスしか見ていないシャイリーは酷く不思議だったのだ。アールスト国でもバルビス公国でも持てる妻は一人ではない。シャイリーの護衛騎士であった騎士ナトルでさえも、既に妻を娶っているにも関わらず侍女ローニーと婚約中でもあったのだから。
「本来ならばまだまだ側室を娶られなければなりません。」
バルビス公国は過酷な地なのだ。それは勿論子供達にも言える事であって健康に大人になるまで育つ子供の数は少ない。その為に、家を守る為に子を産んでくれる妻が多く必要なのであった。
(でもそれらしい方をお見かけしません。)
仕事が終われば霊廟へ行く。これがトライトスの1日の流れで、女性の部屋に訪れる事も食事を共にしている所もシャイリーはまだ見ていなかったのだ。
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