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バルビス公国への旅立ち

3 供物姫と呼ばれた姫君 3

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 そう、シャイリー王女が兄王から聞かされたこの婚姻話は突然のことだった。

 現アールスト国王であるケイトル・ライアー・アールストとシャイリーは15歳ほど歳が離れている。前国王には王妃の他に五人の側妃がおり、それぞれに子を成した。合計10人になる王子王女の中の末の姫がシャイリーである。
 
 バルビス公国との条約を守る為に王家には沢山の子供が必要であった。嫁いでいく王女達が短命になってしまう歴史からも両国共に子供達は多い方が都合が良かったのだ。だから子供達は王や国民にも祝福され可愛がられてもきた。例えその生涯が短く終わろうとも、産まれて来た事を後悔するより愛される幸せを知っていてほしいという、国王の親心から。それ故末姫であるシャイリーは前王に酷く可愛がられ、他の兄弟よりは自由奔放に育ったのだ。何にでも興味を持ち、自由で明るく愛嬌があり、城の中の誰からも可愛がられる、シャイリーはそんな王女であった。
 
 ところが前王の突然の逝去と共に新国王として即位した兄王は、喪が明けると同時にシャイリーに隣国バルビス公国へと嫁ぐ様に命を下したのである。

「私が、でございますか?」

 執務室に呼び出されたシャイリーは一瞬きょとんとした表情を見せた。

「そうだ。あちらから其方をと名指しで言われてしまえばこちらも断れん…」

 既にアールスト王国にはバルビス公国より兄王の側妃としてルシュルー第3側妃が嫁いできているのにも拘らず、バルビス公国側は現公主の花嫁にとシャイリーを指名して来た。

「ルシュの体調は思わしくは無い…」

 苦しそうに呟く兄王の言葉の意味をシャイリーもよくわかっている。ここ数年、体調不良を理由に第3側妃であるルシュルーは公の場には出て来ていないのだから。それどころかルシュルーの為に特別に作られた部屋から一歩も外へは出ていないらしい。

「はい。存じております。」

 深い黒髪に漆黒の瞳、アールスト国においては珍しい深い色を持つ義姉ルシュルーはそれはそれは優しい義姉上だ。嫁いできた当初はシャイリーも成人したばかりで、慣れぬ社交界のあれこれを二人で共に学んできたのだ。ルシュルーはシャイリーよりも歳が2つ上であり、優しく接してくれていたルシュルーにシャイリーは本当の姉の様に心を寄せている。そんな義姉の近況をシャイリーはしっかりと理解してもいた。







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