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13 王の判決 1

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 国王の名の下に貴族を裁く裁判を開く。パッセンテージ王国では爵位を持つ貴族達の中から裁判を審議する代表者が数年毎に選ばれるのだ。これらの者達は議会を運営するよりも貴族の為の裁判員。主に王命で捕らえられた貴族を裁く裁判員として召集される。
 城内に備えられている大会議場が満員御礼とばかりに爵位を持つ貴族達で溢れかえる。皆我先にと席を取り、終いには下々の民衆達がする様に立ってまで、今日のこの裁判を見聞しようとする者達で溢れかえった。

 今回の裁判は春先に起こった一大事で、王太子が自分の婚約者であるコールテン侯爵令嬢に対し、婚約破棄と王族不敬罪を突きつけた事が発端だ。その場に居合わせた貴族達の多かった事、普段の二人の関係をよく知っていた者達も多い中での王太子のあの所業だ。事の真相は如何なものかと、それはそれは貴族の集いの中で口に上らぬ日はないというほどに噂になっていたのだ。
 
 あの、気の弱い大人しい王太子があんなに気色ばむくらいなのだから、コールテン侯爵令嬢は余程の悪女に違いないと巡り巡っている悪口を信じる者も多く、社交界での関心を一気にさらっていたのもシェラインだった。
 
 ヒソヒソザワザワと何とも落ち着きのない大会議場に不機嫌そうな表情を隠そうともしない騎士がズカズカと入室してくる。

「あら、コールテン侯爵家の御二男では?」

「そうですわ。ヨートル様に違いありませんわね。」

 コールテン侯爵家の子供達は非常に容姿が似通っている。一人一人整っている顔立ちに印象的な薄紫の髪の色。濃さは違えどキラキラ光る金の瞳もそれは美しいものだと羨望の眼差しで見つめられてきたものだ。が、そのヨートルの表情は貴婦人達がうっとりと見つめる様な華麗なものではなく、ピリッとした緊張感を漂わせる険しいものであった。普段であれば王城外を担当とするヨートルであるが、異例の王室裁判に殺到する貴族達の整備に、それに触発された様に騒ぎ始める城下の警備に、身内であろうと言うことからせめてもの情けとやらで王城内の貴族牢からこの大会議場までのシェラインの護送へと駆り出されたのだ。本来であればゆっくりと面会し話を聞きたいところではあったものの、ヨートルに対しては一切の面会禁止。そして事の発端が、王太子の一言で社交界を掻き回すほど騒がせているのが自分の妹と来ては周囲からの接触も今までの比ではなく……国王側からの謝罪も知らぬヨートルは、ここ最近苛々とした日々を送っていた。

「コールテン侯爵令嬢、シェライン嬢が到着しております。入室の許可を!」


 何が楽しくて自分の妹の裁判で妹を犯罪人として大勢の目の前に晒さなければならないのか…!


 ヨートルが裁判員の更に上座の席に既に涼しい顔で鎮座している国王と、元婚約者が罪人の様に扱われているのに一つも表情を崩さない王太子ルイストールを一瞬睨みつけてしまっても無理はないだろう。妹であるシェラインの罪が冤罪であると、ヨートル自身も必死で証拠を集め回っていたのだから。ただの悪口としか思えないものの他、どの様な所からもシェラインが王太子や国王を侮辱する様な不敬は働いていないと証言を得ている。後はこの二人、国王と王太子がどの様に発言するかでシェラインの行く末が決まってしまうのだ。晴れて無罪となるか、罪を問われて重い罰を受けるか…

 当の本人であるシェラインは護送中も落ち着いたものであった。顔には不安を一つも出さずに、慎ましやかな衣類に身を包んで、それでも凛とした気品を保ち見事なまでの気概を見せた。

「コールテン卿、令嬢には扇など持たせてはおられぬでしょうな?」

 こんな所で、最大の侮辱である。かつてシェラインがルイストールの身体に触れようとした令嬢の手を払った様に、この裁判で裁判員の身体を打たないとは言い切れない、とそう言ったのだから。
 この発言をしたのはコールテン侯爵家と同等の侯爵家の者だ。シェラインが婚約破棄されたのだから同じ位の家柄から次なる王太子妃候補を挙げられる、と虎視眈々とその座を狙う者達は密かに多いのだ。

「ご安心を…!針の一本も持ち合わせてはおらぬと検査官から報告を受けておりますゆえ!」

「それはそれは…何しろお噂の多いご令嬢ですからな。こんな所で一騒ぎ起こされるなど陛下もお望みではありませんでしょう?」

「……!その為に、我ら護衛騎士がいるのです!陛下の御前で不足の事態など起こさせません!」

 一介の騎士であるヨートルにも騎士としての矜持がある。妹を守る為にもこんな所で馬鹿な真似など起こさせるはずはないのだ。

「…入室を許可する!」

 話を中断させる様に、進行役の裁判員が声を上げた。









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