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8 国王とのお茶会
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「シェラ…シェライン嬢。私の所まで聞こえてきているぞ?」
城へ上がった時には必ず国王の元にも顔を出し挨拶を忘れないシェラインの前には、ルイストールの父、国王アルサートが座っている。それももう我慢できないとばかりに、肩を震わせながら必死に笑いを堪えていると言う様で……
「陛下。お人が悪いですわ。お笑いになるならちゃんと笑って下さいませんか?」
何のことで笑っているのかシェラインはちゃんとわかっている。分かっていて全て行っているのだから。
「シェライン嬢?私はもう少しそなたが大人しい令嬢だと思っていたのだが?」
まだクスクスと笑っている国王の元には一体どんな噂が入ってきているのやら。
「仕方ありませんわ。皆様、揃って礼儀がなっていないんですもの。」
国王アルサートはルイストールの為に登城してきたシェラインを謁見後に時々こうしてお茶にと誘う。国王から言わせれば未来の義理の娘とのコミュニケーションを取る為らしい。が、息抜きのための良い材料としてシェラインが使われている説も浮上している。ほぼ毎日のように登城して国王とも顔を合わせるのだから、わざわざシェラインの為に忙しい国王の時間を割かなくても良いはずだからである。
「そうか、礼儀がなっていなかったか?流石にそのような者達も居たようだな。」
楽しそうな表情を片時も崩さない国王の元には、勿論シェラインが城内で行っている数々の武勇伝が上がってきていることだろう。けれどそれの一つの事に対しても国王アルサートはシェラインを叱ったりはしない。シェラインの事を悪様に言い広めている者達はいるが、良く調べさせてみるとどれも道理が叶っているのだから。しかし、シェライン侯爵令嬢は元々このような気質ではなかったと国王は記憶している。整った外見は一見しっかり者のような、冷たいような印象を与える美人ではあるが、その実王子ルイストールに対してはとことん甘く、ルイストールが何をしてもいつもニコニコと笑って側に控えている、懐の大きな令嬢であると把握していたからだ。城内にいる王子の側仕え達からも皆同じような報告が上がってきている。
一に王子、二に王子、三に王子………登城してきたシェラインは侯爵令嬢として王子の婚約者として傅かれることよりも、まず王子の事を一番に行う。自分の事など全て後回しで王子を中心に行動していたのだ。隙のない身だしなみで王子の起床時間に合わせて毎日のように通ってきている姿は、傲慢な令嬢というより最早忠実な腹心の鏡のような姿であろうと国王を唸らせもした。そんなシェラインの周囲にいる者達が騒がしいのも把握していた国王には、やっと王太子妃となる事がどの様な事かシェラインに自覚が出てきたのであろうと少なからず喜んでいるところがある。が、その対応が些か元気良過ぎたのだろう。それが国王には愉快でたまらないのだった。
「そうですわ!陛下、聞いてくださいまし!」
幼い頃からの気安さからか、又は義理の父というには国王との年齢が近いためか、シェラインに取っては敬愛する国王も時には愚痴をこぼす少し歳が離れた兄の様な相手となる様だ。国王の侍従がチラチラとシェライン侯爵令嬢に視線を投げているが、王子ルイストールを謀ろうとする輩達に本気で腹を立てているシェラインは気がつかない。少しだけ注意しようと動こうものならば、国王が手で制してこれを止めるのである。なんと国王アルサートはシェラインの愚痴を聞くためだけだったとしてもそれを楽しんでいるらしかった。シェラインの気がすむまでニコニコと相対するのだから。
「シェライン嬢?扇で令嬢の手を打つのは少々頂けないが、ルイスを守ってくれていることに関しては感謝する。」
「まぁ、陛下。私は手を撫でただけですわ。そもそもあれくらいで傷などつきませんもの。」
「ふはははは。そうか!ちゃんとわかってやっているのだな?」
「ええ。何度も自分で試しましたもの。」
シェラインだって侯爵令嬢で家族からは可愛がられて育ってきたのだ。いくらルイストールに近寄ってくる相手が礼儀がなっていなくてもいきなり扇で手を打つなどの行為は礼に欠く行為と理解しているし、普段他人の手を打つことに慣れてもおらず、躊躇もあった。だから何度か自分の手を打って力加減を確認していたのだ。
「許可なく王族に触れようとするのだから、そんな遠慮は要らないだろうに。優しい事だ。」
国境警備のやや荒事が多い騎士団で騎士だった頃を過ごしていた国王にとってはシェラインの仕打ちなどまだまだ可愛いものなのだ。厳しい騎士団の中では規律を破った者に対して時に問答無用で拳が飛んできたりする。だからだろうかシェラインの対応が可愛らしくて仕方がないらしく、咎めもしない。
「本当ですわ。皆様何を考えておられるのでしょうね?後から後から虫の様に湧いてきますの。」
幼い頃ならいざ知らず、年を追うごとにその数は増えていく。ルイストールとシェラインの気心の知れた少数の侍女達の協力もあってこそシェラインはルイストールを守れている。
「何を考えている、か…シェライン嬢、それはそなたを貶め、自分と取って代わろうとしているのだ。だから、シェライン嬢も気をつけなければな?」
幼い妹を諭す様な国王はルイストールだけではなくシェラインに対しても十分優しい王であった。
城へ上がった時には必ず国王の元にも顔を出し挨拶を忘れないシェラインの前には、ルイストールの父、国王アルサートが座っている。それももう我慢できないとばかりに、肩を震わせながら必死に笑いを堪えていると言う様で……
「陛下。お人が悪いですわ。お笑いになるならちゃんと笑って下さいませんか?」
何のことで笑っているのかシェラインはちゃんとわかっている。分かっていて全て行っているのだから。
「シェライン嬢?私はもう少しそなたが大人しい令嬢だと思っていたのだが?」
まだクスクスと笑っている国王の元には一体どんな噂が入ってきているのやら。
「仕方ありませんわ。皆様、揃って礼儀がなっていないんですもの。」
国王アルサートはルイストールの為に登城してきたシェラインを謁見後に時々こうしてお茶にと誘う。国王から言わせれば未来の義理の娘とのコミュニケーションを取る為らしい。が、息抜きのための良い材料としてシェラインが使われている説も浮上している。ほぼ毎日のように登城して国王とも顔を合わせるのだから、わざわざシェラインの為に忙しい国王の時間を割かなくても良いはずだからである。
「そうか、礼儀がなっていなかったか?流石にそのような者達も居たようだな。」
楽しそうな表情を片時も崩さない国王の元には、勿論シェラインが城内で行っている数々の武勇伝が上がってきていることだろう。けれどそれの一つの事に対しても国王アルサートはシェラインを叱ったりはしない。シェラインの事を悪様に言い広めている者達はいるが、良く調べさせてみるとどれも道理が叶っているのだから。しかし、シェライン侯爵令嬢は元々このような気質ではなかったと国王は記憶している。整った外見は一見しっかり者のような、冷たいような印象を与える美人ではあるが、その実王子ルイストールに対してはとことん甘く、ルイストールが何をしてもいつもニコニコと笑って側に控えている、懐の大きな令嬢であると把握していたからだ。城内にいる王子の側仕え達からも皆同じような報告が上がってきている。
一に王子、二に王子、三に王子………登城してきたシェラインは侯爵令嬢として王子の婚約者として傅かれることよりも、まず王子の事を一番に行う。自分の事など全て後回しで王子を中心に行動していたのだ。隙のない身だしなみで王子の起床時間に合わせて毎日のように通ってきている姿は、傲慢な令嬢というより最早忠実な腹心の鏡のような姿であろうと国王を唸らせもした。そんなシェラインの周囲にいる者達が騒がしいのも把握していた国王には、やっと王太子妃となる事がどの様な事かシェラインに自覚が出てきたのであろうと少なからず喜んでいるところがある。が、その対応が些か元気良過ぎたのだろう。それが国王には愉快でたまらないのだった。
「そうですわ!陛下、聞いてくださいまし!」
幼い頃からの気安さからか、又は義理の父というには国王との年齢が近いためか、シェラインに取っては敬愛する国王も時には愚痴をこぼす少し歳が離れた兄の様な相手となる様だ。国王の侍従がチラチラとシェライン侯爵令嬢に視線を投げているが、王子ルイストールを謀ろうとする輩達に本気で腹を立てているシェラインは気がつかない。少しだけ注意しようと動こうものならば、国王が手で制してこれを止めるのである。なんと国王アルサートはシェラインの愚痴を聞くためだけだったとしてもそれを楽しんでいるらしかった。シェラインの気がすむまでニコニコと相対するのだから。
「シェライン嬢?扇で令嬢の手を打つのは少々頂けないが、ルイスを守ってくれていることに関しては感謝する。」
「まぁ、陛下。私は手を撫でただけですわ。そもそもあれくらいで傷などつきませんもの。」
「ふはははは。そうか!ちゃんとわかってやっているのだな?」
「ええ。何度も自分で試しましたもの。」
シェラインだって侯爵令嬢で家族からは可愛がられて育ってきたのだ。いくらルイストールに近寄ってくる相手が礼儀がなっていなくてもいきなり扇で手を打つなどの行為は礼に欠く行為と理解しているし、普段他人の手を打つことに慣れてもおらず、躊躇もあった。だから何度か自分の手を打って力加減を確認していたのだ。
「許可なく王族に触れようとするのだから、そんな遠慮は要らないだろうに。優しい事だ。」
国境警備のやや荒事が多い騎士団で騎士だった頃を過ごしていた国王にとってはシェラインの仕打ちなどまだまだ可愛いものなのだ。厳しい騎士団の中では規律を破った者に対して時に問答無用で拳が飛んできたりする。だからだろうかシェラインの対応が可愛らしくて仕方がないらしく、咎めもしない。
「本当ですわ。皆様何を考えておられるのでしょうね?後から後から虫の様に湧いてきますの。」
幼い頃ならいざ知らず、年を追うごとにその数は増えていく。ルイストールとシェラインの気心の知れた少数の侍女達の協力もあってこそシェラインはルイストールを守れている。
「何を考えている、か…シェライン嬢、それはそなたを貶め、自分と取って代わろうとしているのだ。だから、シェライン嬢も気をつけなければな?」
幼い妹を諭す様な国王はルイストールだけではなくシェラインに対しても十分優しい王であった。
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