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6 ルイストールの夢

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「あら、良いのではないですか?」

 それを聞いたシェラインは二つ返事で首を縦に振る。だってルイストールはこれだけの絵を描ける人なのだ。
 内気で、外で遊ぶよりも室内で読書や音楽鑑賞、自らも楽器を爪弾いて過ごす事の多いルイストールの手慰みにと絵画の教師をつけたのは他でもないアルサート国王だというのだから。

「本当に!?本当に??」

 シェラインの返事を聞いたルイストールは飛びつく様にシェラインに詰め寄ってくる。

「え、えぇ…だって、殿下の絵の素晴らしい事と言ったら、私ついつい口が滑って陛下にも話し聞かせてしまいたくなるのを何度も我慢しなくてはいけないのですもの。画家におなりになったら、誰の目も耳も気にしないで殿下の絵を鑑賞できるのでしょう?」


……もう我慢などせず、思う存分に殿下の素晴らしい所を自慢できますもの!……


「で、もシェラ……そうすると、君と結婚できなくなるよ…?」

「え…?」

「僕は王の器ではない…!人と接するのは最小限にしたいし…誰かと話をするよりも周りの人々の観察をしている方が好きだし…学があったとしても、武芸の方は本当に嫌いで……」

「ええ、良く存じてますわ?」

「本当は、本当は……」

 苦しそうに言葉を紡ぐルイストールの瞳からポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちてくる。

「殿下……」

 ルイストールのどんな表情をも逃すまい、とするシェラインではあるが、必死にシェラインに訴えかけながら幼子の様に泣くルイストールの様はこの時初めてシェラインに見たくないと思わせた。
 大きな瞳を歪めながら落ちてくる涙はとても綺麗だと思ったけれど、苦しそうなルイストールの見るとシェラインの心が締め付けられる様に苦しくなるからだ。

「殿下…」
 
 ルイストールが画家になる、それは城を出て行く覚悟をしているという事だ。国王として立ちながら絵を描くのではなくて、まだ幼いながらもルイストールは自分は国王の器ではないと、客観的に自分自身を評価している。

「でも…まだ時間はあるのですよ?学問の様に処世術も学んでいく事ができますでしょう?諦めてしまうのは…早いかと…」

 シェラインはなんと言ったら良いのか分からなくなってくる。幼い時から婚約者として過ごしてきたのに、ルイストールの隠れた才能を発見し、全面的に応援ができると喜んだ矢先にルイストールに結婚はできないなどと言われてしまうのだから。

 では画家になる事を諦めて、国王として立つ事のためだけに生きてもらう?そうすれば幼き頃からの約束は果たせるわけで…けれど、目の前のルイストールはそれは無理だと、できないと苦しみ泣いている。

「…僕が王の器ではないことくらい、周りの者は知っているよ…?今だって父上に妃を娶る様にとしつこいくらいに進言がある。まだまだ父上だってお若いし……」

 まだ若い国王が新たな子供を儲ければルイストールの悩みは解決するのだろうか?

「私は…どうすれば…?」

 ルイストールにはキラキラと妖精の様に光輝いていて欲しいのだ。出来れば好きな道を選んで……

「シェラ……僕は君が好きだよ?」
 

……ああ、殿下。私もですわ。苦しむ姿よりはニコニコとした顔が見たいのです。そう、例え殿下と結婚ができなくても!……

 
 申し訳なさそうに、気遣う様にシェラインを見つめてくる優しいルイストール。初めて自分の思いと大きな決断を口にして、その心はまだまだ緊張と不安で揺れ動いているだろうに、シェラインを慮ろうとしてくれる、優しい王子様……

「私もですわ。殿下。殿下が大好きです。もし、お城から離れる様な事がある時には一緒に連れて行ってくださいますか?」

 結婚できなくても側にいたい。ちゃんと顔が見える様に付き合っていきたいのだとシェラインの心は叫んでいた。

「シェラ…ダメだよ。それこそ、父上を苦しめることになっちゃう。国が大変なことになるよ?僕はシェラが好きでシェラも僕のことを好きだったら、ほら、もう家族と同じだろ?家族は遠く離れて暮らさなきゃいけないとしても、家族なんだよ?」

 また、ホロリと溢れてくるルイストールの涙に釣られ、シェラインの頬にも涙が伝う。

「本当に?本当に、家族と思っていてくださいますか?また、会った時にこうして近くにいても?」

 まだ幼い二人には本当の男女の愛情は分からない。けれど、大切だと思った者を自分自身の様に好きになる事は難しくなかった。
 その情の事を何と言うのか知らないだけで…しっかりと手を握り合って共に泣き、胸の内を語り合ってはまた涙する。

 そんな事を二人で何度も、何日も話し合い、シェラインも覚悟を決めたのである。






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